《【書籍化決定】ネットの『推し』とリアルの『推し』が隣に引っ越してきた~夢のような生活が始まると思っていたけど、何か思ってたのと違う~》お泊りする気の林城靜

今月末くらいを目安に異世界ファンタジー長編を本作と同時連載予定なので、そちらも楽しみにして頂けると嬉しいです!

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「じゃあ────」

「…………」

布に顔を埋めた靜の、その先の言葉を俺は待った。荷持ち、雑用、パシリ────あらゆる想像をする。果たしてどんな無理難題を言い付けられるのか。かぐや姫に求婚をする5人の気持ちがたった今分かった気がした。

「…………か…………か……か、かの…………」

「か…………?」

言葉なのうめき聲なのか判斷に困るような聲が布玉から聞こえてくる。

…………か、ってなんだろう。蚊の駆除、買い…………カルビを奢れってのもあるか。とにかくそう難しいことでもなさそうだな。

「はあ…………はあ…………」

「…………?」

靜は布の中で大きく深呼吸をする。熱は引いたっぽいから調が悪化したってことはないだろうが、し心配だな。

「靜、大丈夫か?」

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「…………言え、言うのよ私…………ここで勇気を出さないでどうするの…………!」

「あん?」

不審な様子の布玉に耳を近づけると、靜は早口で何やらもごもごと呟いている。とりあえず元気そうで安心はしたが、熱の影響でおかしくなってしまったのだろうか。それはまた別の心配事が生まれてくるが。

「…………ふうー…………蒼馬くん」

「なんだ?」

「…………言います」

「おう」

何だ急に改まって。まさか告白でもされるんじゃないだろうな…………って流石にそれは有り得ないか。いくら病み上がりとはいえ、そこまで脳みそがバグってるということはないだろう。

俺は靜の言葉を待った。しの間だけ部屋に靜寂が訪れる。何故か、ドクンと鼓が大きく跳ねた。

「あの、あのね…………付き合ってほしいの!」

「はあ。いいけどいつ? どこに?」

「ふえ…………?」

隨分と溜めるから何かと思ったが、靜のお願いはありきたりなものだった。なんだか構えて損したな。俺は背筋を楽にしてほっと一息ついた。

「買いだろ? 休日ならとりあえず付き合えるから、日程決まったら連絡してくれよ」

「え…………?」

俺の言葉に、靜は驚いたような反応を見せた。布から顔をあげると、悲しそうな表で俺を見てくる。何なんだその子犬のような瞳は。

「? なんだ、違うのか?」

「ぁいや…………あの…………違くない…………」

「そうか。というか靜、お腹空いてないか? 一応靜の分も夜飯作ってあるけど食べるなら用意するぞ」

靜の調が治った以上、ここにいる必要もない。俺は椅子から立って大きくびをした。

「…………食べる…………」

「おっけー。じゃあ行こうぜ。歩けるか?」

「大丈夫だと思う…………」

とはいえ一応病み上がりなので、ふらっといくこともあるかもしれない。そう思った俺は念のため靜の手を引いて自分の家に帰ってきた。おでこをっても熱くなかったし足取りもしっかりしていたから、本當に大丈夫そうだな。

靜をテーブルに座らせて夜飯の準備を始める。とはいってもメニューはそうめんだからさほど時間はかからない。用意していたトマトとツナをそうめんに和えて、仕上げに刻んだ大葉を載せて出來上がりだ。これなら病み上がりの靜でもつるっと食べられるだろう。

「ほれ、創作そうめんだ。さっぱりしてるから食べやすいと思うぞ」

「わ、味しそう! いただきまーす!」

さっきまで微妙に暗かった靜だったが、ご飯を見るなり元気を取り戻した。暗かったのはお腹が空いていたからかもな。空腹が態度にでてしまうのは靜らしくて微笑ましく思う。味しそうにご飯を食べるというのは、それだけで魅力的だと思うんだ。

靜は凄い速度でそうめんを啜り、あっという間に完食した。とても病み上がりのとは思えないスピードだ。

「ごちそうさまでしたー!」

「お末様でした」

「これめっちゃ味しかった! リピート希!」

「お、マジか。簡単だから俺もこれだと有難いな」

空になった食を下げてそのまま洗いに移行する。靜に付いていた事もあって皆の食もまだ洗っていなかった。明日に持ち越すのも気持ち悪いのでちゃっちゃとやってしまおう。

「…………?」

洗いをしながらリビングをチラ見すると、何故か靜が自分の家に帰らずに俺を眺めていた。何してるんだあいつ。さっさとシャワーとか浴びた方がいいんじゃないか、汗もかいているだろうし。

洗いを終わらせ、エプロンを外しながらリビングに戻ると、相変わらず靜はにんまりと笑顔を張り付けて俺を眺めているのだった。

「靜、帰らないのか?」

「うん。私、帰らない」

「はあ…………?」

まあまだ21時過ぎだからいいけどさ…………靜の意図が分からず俺は首を傾げた。

「シャワー浴びなくていいのか? 汗かいてると思うけど」

「あ、そっか。じゃあ蒼馬くんシャワー貸して?」

「…………なんで?」

自分の家でれよ。

…………もしかしてカビ生えたのか!?

「靜、お前…………!?」

「? あ、違うよ!? お風呂は綺麗だってば! この前蒼馬くんに掃除して貰ったばかりだし!」

「それもそうか…………」

因みに靜の家の風呂場掃除は洗濯以上に神をすり減らした。理由は…………分かるよな。生々しいんだよ、々と。そう考えたら今更を見られたくらいで騒ぐのもおかしいと思うんだが、加害者は喋る口を持てないのだった。

「…………じゃあ何で?」

「いやー…………それはほら。蒼馬くんの使ってるシャンプーとかチェックしたいし」

「なら風呂場見るか?」

「いいの! るから! 著替え持ってくるから蒼馬くんは楽にしてて!」

そう言うと靜はダッシュで家から出て行った。どうせすぐに帰ってくるんだろうが、俺はその僅かな時間で首を傾げた。

「…………どうして家主の俺が『楽にしてて』なんて言われないといけないんだ…………?」

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