極々客観的に、目に映る報だけを描寫するのであれば…………林城靜というはちんちくりんである。

はない。かといってがあるわけでもない。腰は細いが、そもそも全が細い。きっと偏った食生活…………いや、生活習慣のせいだろう。

「いくら食べても太らないんだよねー」ある日靜は言っていた。確か蒼馬會で、靜がお茶碗を突き出して白飯のおかわりを要求した時だったか。靜は自分でご飯をよそう事も出來ない。蒼馬會の陣は皆細いから心配なかったが、特定の層に聞かれては末代まで恨まれそうなセリフだなと思った。

いや、そう言えばひよりんはダイエット中ではなかったか。もしかしたら靜はひよりんに恨まれているかもしれない。夜中にスナック菓子をバリボリと貪り、日中は惰眠を貪り、基本的に家から出ない。そんな奴にウエストの細さで負けているのは、にとっては年々上昇していく稅金額よりも許しがたいことではなかろうか。

林城靜はちんちくりんである。俺は脳で繰り返した。

林城靜はちんちくりん。

する要素など、ありはしないのだ。

◆

「…………蒼馬くん、寢ちゃった？」

シン、と靜まった部屋に靜の聲が響いた。寢れる訳がない。五が研ぎ澄まされていた俺は、甘い匂いが部屋中に広がった錯覚をけた。

…………靜の聲って、こんなに可かったか。

思い返せば、そういえばそもそも俺はエッテ様の聲が好きだった。全く同じという訳ではないが、同じから発されている靜の聲も好みなのは當然の帰結と言えるのかもしれない。今この瞬間に自覚したくはなかったが。

「…………起きてるぞ」

早く寢てくれ、俺は心の中でそう強く念じた。何なら今からでも自分の部屋に戻ってくれていいぞ。はっきり言ってこのままじゃ俺は徹夜確定だ。ギンギンに目が冴えて寢れる気配が１ミリもない。エアコンを點けているはずなのに、にはじっとりと汗をかいていた。際限なく大きくなる心臓の音は、果たして靜に聞こえてはいまいか。

「良かった。ねえ、しお話しない？」

聲の聞こえ方から、靜はどうも仰向けになって天井を見上げているのだという事が分かった。俺は橫向きになって靜に背を向けていたから、聲からしか靜をじることは出來ない。

俺のベッドはその長辺の片方を壁につけていて、１つのベッドで一緒に寢ることを命令された俺は、せめて壁の方を向いて寢たいと思った。それが一番心を無に出來るとじたからだ。だが、靜は壁際を所した。俺は逆らえず、今晩の安息を失った。

當然橫目に靜の存在をじてしまう仰向けになどなれるはずもなく、俺は橫を向いて必死に目を閉じていた。そんな所に聲がかけられたのだ。

「…………話？」

こうして寢る間際にぽつぽつと途切れがちな會話をすると、修學旅行の夜を思い出す。クラスの気になる子の話題になった時、俺は何と言ったんだったか。今となっては遠い記憶の彼方だ。

「うん。私たちさ、あんまりこうやって落ち著いて話すことないじゃない」

それはお前が騒がしいからだ。

元まで出かかったその言葉を、俺は何とか押しとどめた。

「まあそうかもな」

そういう話で言えば、別に真冬ちゃんともひよりんとも落ち著いて話す機會なんてほとんどない。々おかしな事になってはいるが、そもそも俺たちは只の隣人であり、夜飯を一緒に食べるだけの仲なんだ。

「蒼馬くんってさ、今、楽しい？」

まるであらかじめ質問を用意していたかのように、靜が聞いてきた。

「どういうことだ？」

表が見えないからイマイチ靜のが摑めなかった。

「ほら、私無理やりバーチャリアルにっちゃったじゃない。迷じゃなかったかなって」

「…………ああ」

新人VTuber『大人こども』は絶賛活中だ。チャンネル登録者數は先日なんと５０萬人を超えた。配信頻度もないのに何故だか人気なのだった。ゲーム配信より雑談配信の方が人気があるのは珍しいな、とこの前麻耶さんに言われたが、VTuberについてそこまで詳しくないので「そうなんですか」と相槌を打つことしか出來なかった。まあ、割と楽しんではいる。

「迷じゃないぞ。結構気分転換になってるしな」

顔も知らない不特定多數の人にの回りの事を話すのは、なんというかこれまでの人生で経験したことのない覚で、それなりに心地よかった。基本的にコメントがあったかいからかもしれない。々過激なお姉ちゃんズもいるにはいるんだが。

「それならいいんだけど。大學に料理に、配信も。大変じゃないかなあって心配してたんだ」

「…………お前ん家の家事もな」

「うぐっ…………ごめん」

「冗談だよ。別に、お前の世話をするのは嫌いじゃない」

「そうなのっ？」

聲だけでも、靜がぱあっと笑顔になったのが分かった。

「ゴミ屋敷が出來上がっていくのをただ黙って見てる方が苦痛だからな」

「なるほど、そういう…………」

あ、しょげ顔になったな。が分かりやすい奴だ。

「…………まあ、靜が隣に住んでたおで『推し』のピンチに駆けつけられた訳だからな。良かったよ」

「…………ほぁ」

今日の風邪は深刻なじでもなかったけど病は気からという言葉もある。ウサギは寂しさでは死なないが、靜は死んじゃうかもしれないからな。誰かがそばについていたから早く治ったという事は多分にあるだろう。

「…………っ」

背中に溫かいがれ、俺は聲を出してしまう。この狀態であたるものと言えばひとつしかない。靜のだ。

…………俺の背中の覚を信じるならば…………靜、俺の方を向いてないか。手やら頭やらが當たっている気がする。

「…………靜…………？」

「お休み、蒼馬くん」

靜の手が、背中を乗り越えお腹に回される。

靜はそのまま、後ろから俺に抱き著くようにして眠りについてしまった。

勿論、俺は一睡もできなかった。