《【書籍化決定】ネットの『推し』とリアルの『推し』が隣に引っ越してきた~夢のような生活が始まると思っていたけど、何か思ってたのと違う~》乙心 林城靜
その日の目覚めは、いつもよりしだけお日様の匂いがした。
意識が覚醒して、瞳を開くより前に、額を何かにくっつけている事に気が付く。
枕じゃない。
溫かくて、らかいんだけどしい。
ゆっくりと目を開ける。
十字模様で編み込まれているTシャツの繊維が目の前に広がって、目の筋が急いで収を始める。
カーテンからは淡いが差し込んでいて、私たちを薄っすらと照らしていた。
…………どうやら私は蒼馬くんに抱き著いている。
私が顔をくっつけていたのは、蒼馬くんの大きな背中だった。びだしそうになるのを必死で堪える。
起きたら、もうここには戻れない。
「んん…………」
わざとらしく寢ぼけた聲をあげて、私はを著させた。
は小さいけど、そのおかげで全をくっつけることが出來る。蒼馬くんへの接地面積は私が一番広いんだ。
今がチャンスとばかりに顔を背中に埋め込んで、視界を蒼馬くんで満たした。呼吸をすると蒼馬くんの匂いがした。好きな匂いだ。
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の芯から溫まるような、心の深い所が癒されるような、そんな覚。出來るなら、一生こうしていたい。
私がをくっつけると、蒼馬くんはビクッとを震わせた。起きちゃったのかな。お願いだから、もうしだけ夢から覚めないで。
思えば、一人暮らしを始めてから目覚めはいつもし寂しかった。私は寂しがり屋だったんだなと親元を離れてから思い知った。もう20歳なのに、子供だなと自分でも思う。でもどうしようも無かった。蒼馬くんが居なかったら、私はどうなっていたんだろう。
いつの間にか私の片手は、蒼馬くんを抱き締めるようにお腹側に回されていた。とんでもないことだ。私はその手に力を込めて、ぎゅっと蒼馬くんに抱き著いた。さっきまでとは比べにならない安心が私を満たす。ずっとこうしたかった。背中からなのは殘念だったけど、今はこれがいっぱいでもあった。
結局私は、蒼馬くんのスマホがアラームを鳴らすまで寢ぼけたフリをし続けた。
その日の目覚めは、いつもよりしだけお日様の匂いがした。
◆
結局一睡も出來ないまま、俺はスマホのアラーム時間を迎える羽目になった。
「……………………ねっむ…………」
地獄から響く地鳴りかと思ったが、どうやらそれは俺のから発せられているようだった。
上半を起こすと、背中側から回されていた靜の手がずるっとタオルケットの上に落ちた。俺が眠れなかった元兇でもある。手に力が込められてない所を見ると、靜は今のアラームで起きなかったらしい。
睡出來て大変ようござんすね。あなたのおで私は一睡も出來ませんでしてよ?
…………寢不足過ぎて頭がバグってるな。お嬢様が出てきてしまった。
背中にいるであろう存在を極力意識しないようにベッドから這い出て、洗面所に移する。鏡を眺めると、それはもう酷い顔をしていた。徹夜だけならまだしも神まですり減らしたのが骨に効いていた。
…………だってよ、靜のやつ、俺を抱き枕だと勘違いしたのか途中から思いっきり抱き著いてきたんだよ。とかめちゃくちゃ當たってたんだよ。それらしいはあんまり無かったけど、勢的に當たってたのは間違いないんだ。
もうそうなったら、が小さいとかデカいとか関係ない。ゴミ屋敷製造機だろうが関係ない。
の子が著してんだぜ、當然興するだろうが。俺は20歳の男だぞ。ふざけるなよ。誰か俺にノーベル我慢賞を授賞してくれよ。つーか超ねみいよ。今日大學休んでいいかな。ダメだよな、分かってる。
「うーん、スッキリ爽快!」
洗った顔をタオルで拭いていると、寢室の方から艶々した聲が聞こえてきた。どうやら靜が目を覚ましたらしい。タイミング的には洗顔した直後の俺が言いそうなセリフだったが、こっちは洗顔くらいじゃ全くさっぱりしなかった。
寂しそうにしていた昨晩の靜を思い出す。それが睡出來たというのなら、徹夜した甲斐くらいはあったのかもしれないな。
「おはよう、靜」
リビングに戻ると靜はテーブルに座っていた。よほどいい睡眠が摂れたんだろう、寢起きだというのに顔がつやっつやだった。
「おはよう蒼馬くん。よく眠れた?」
「ぼちぼち。そっちは寂しくなかったみたいだな」
「ふふふ、おかげさまでねー♪」
そう言って靜は笑った。
…………その太みたいな笑顔を見ていると、多の睡魔は許せてしまうんだからズルい。
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