《【書籍化決定】ネットの『推し』とリアルの『推し』が隣に引っ越してきた~夢のような生活が始まると思っていたけど、何か思ってたのと違う~》雑談【大人こども/バーチャリアル】
VTuberというとやはりゲーム実況というイメージが一般的だと思うんだが、実は俺はゲームがあまり好きではない。自分でプレイするのもそうだし誰かがやっているのを見るのもそうで、エッテ様の配信も雑談枠を好んで観ていたりする。きっと期からあまりゲームというものにれてこなかったからだと思う。
ただでさえゲームをやらない生活をしていたのに、そこにVTuberになるという新たなイベントが追加されて、俺は益々ゲームをやる気力を失っていた。
大學と家事、手の抜けない蒼馬會の食事、慣れない配信。さらにそこに靜の世話と真冬ちゃんの襲來対応、ひよりんの飲酒対応が加わって、一俺は何足のわらじを履いているんだと數えたくもなる。そうなると當然一番手を抜きがちになるのは『好きにやっていい』と許可を貰っているVTuber活で、俺は雑談配信ばかり行っていた。
今日の枠名も『雑談【大人こども/バーチャリアル】』。
華の無い、要件だけのその枠には、何故か今夜も4萬人の暇人お姉ちゃんズが集結しているのだった。特に話が上手い訳でもなく、為になる話をする訳でもない俺の雑談を聞くためだけに、平日の夜中に4萬人が集まっているというのは…………こう言っては失禮極まりないんだが日本の未來が不安になってくるな。
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「お姉ちゃんズの皆さ、毎回沢山集まってくれるのは嬉しいんだけど…………本當に雑談するだけだからね? 面白い事とか全く無いからね? なんつーか…………正直困してるんだけど」
コメント:『お姉ちゃんにはこどもしかいないの;;』
コメント:『そう思うならもっと配信頻度あげなさい』
コメント:『お姉ちゃんたちは寂しい大人なんだよ? どうしてそんなこと言うの?』
「そうなんだ…………なんかごめんな。俺、がんばるよ」
コメント:『いいよ』
コメント:『弟を見守るのがお姉ちゃんのつとめ』
コメント:『今日は何作ったの?』
このノリにも最近は慣れてきた。割と酷い事を言っても流してくれる空気が出來ているのは、配信初心者の俺としてはとてもありがたい。ポロっと失言してしまう事があるかもしれないからな。
「今日は適當にナスとレンコンのお浸し作った。最近暑いからさっぱりしたいなと思ってさ」
これは…………実は噓だった。ナスとレンコンのお浸しは今度作りたいなーと思っているだけ。
蒼馬會の今晩の獻立は鍋焼きうどんだった。暑い日こそ熱いものを食べて汗を流そう、という趣旨である。
どうして噓をついたのかというと、これは簡単で、靜がツブヤッキーで『エッテご飯』とかいう虛構に塗れた企畫を実施しているからだ。
俺が作った料理の寫真を一言ポエムを添えつつツブヤッキーに載せるだけ、という極めてコスパの高いこの企畫はツブヤッキー上で大人気を博しており、近頃のエッテ様は『清楚系お嬢様、だけど家庭的』という男子の妄想を押し固めたような印象をほしいままにしていた。
最近『レシピ本を出しませんか?』という打診が出版社から來たらしく、靜が慌てていたのが印象に殘っている。流石に購した人が可哀想すぎるので斷らせたが。
本當の事を言ったらものの數日で「大人こどもとアンリエッタ、同棲か!?」というネットニュースが流れることになってしまう。まあ半分くらいは本當なんだが、隠すべきものは隠さないといけない。そんな訳で俺は噓をついている。
コメント:『味しそう』
コメント:『50萬人到達記念グッズで手料理販売しない?』
コメント:『お姉ちゃん家に作りに來て』
「うーん…………手料理グッズは流石に無理じゃないか…………? 衛生的に厳しそうだし、そもそもそんなお金払ってまで食べるレベルじゃないしさ。バーチャリアルでリアルイベントとかあるなら、フードコーナーのキッチン要員でるとか面白いかもしれないけど」
同年代の中ではそこそこ上手な方だと思うが、あくまで自炊レベルだ。販売となると誰も幸せにならない可能が高かった。
コメント:『それ面白そう』
コメント:『リアルイベント楽しみ』
コメント:『大人こどもの調理実習コーナー』
「ステージ立つとか絶対無理だからなあ。參加するならキッチンで働いてた方が気持ちが楽だわ」
俺の雑談、中がないだろ。これを4萬人が聴きに來てるんだぜ?
一どうなってるんだろうな。
コメント:『主役がアルバイトしてどうするのw』
コメント:『ステージであたふたするこどもちゃんが観たい』
コメント:『こども、歌枠しなさい』
「歌枠?」
歌枠…………っていうとあれか、カラオケ配信みたいな。あれって確か許可取らないといけないって靜に聞いたことあるな。著作権的な所で々あるらしい。そもそも俺は別に歌が上手くないし、ボイトレに通っている訳でもないので歌枠をするつもりはないが。
「歌上手くないからなあ。何か恥ずかしいし歌枠は多分やらないな」
特に何も考えずそう言って…………俺はすぐに自らの過ちに気が付いた。お姉ちゃんズに餌を與えてしまったと。
────この4萬人の暇人達は、どういう訳か基本的にドSなのだ。俺をめ、辱める機會を虎視眈々と狙っているのだ。理由は分からない。
コメント:『お姉ちゃん、こどもちゃんの歌が聴きたいな』
コメント:『歌枠熱! バーチャリアルに意見送るね』
アンリエッタ:『歌え』
コメント:『最初は誰だって恥ずかしいんだよ?』
「…………ん?」
今、コメント欄をのついた名前が通ったような…………?
コメント欄でマウスホイールを回して遡ると…………そこには清楚系家庭的お嬢様アンリエッタの名前があった。
…………あいつマジで覚えてろよ。
コメント:『エッテ様おるwww』
コメント:『先輩の圧力』
コメント:『こどもちゃんがめられてる…………』
コメント欄はエッテ登場で盛り上がっていた。いつの間にか俺が歌う流れになっている。
「え、待って、俺歌わなきゃいけないの? 恥ずかしいんだけど」
コメント:『うん』
コメント:『先っちょだけでいいから』
コメント:『こども、歌いなさい』
「いや、確か歌枠って事前に許可取らなきゃいけないって聞いたんだよね。著作権的に多分無理だと思う」
流石に著作権の前にはお姉ちゃんズも屈するしかないだろう。危ない所だった。
────と、思っていたのだが。
アンリエッタ:『アカペラだったら大丈夫』
「…………は?」
エッテ様のコメントに、コメント欄は大盛り上がりを見せる。同時にスマホがルインの著信を告げた。
『蒼馬くんの歌、楽しみにしてるね?』
…………あいつ、明日の晩飯抜きにしてやるからな。泣いて謝っても作ってやらん。
コメント:『決まりだね』
コメント:『何歌ってもらう?』
コメント:『逆に謡とか聴きたい』
コメント欄は既に俺を辱めるあらゆる方法を話し合っていた。どうしてこの人たちはこんなに息ぴったりなんだろう。コメント欄をひとつの場所だと仮定した時に、この人たちはまだ出會って2週間くらいのはずなんだが。
────結局俺はその後見事に恥をかくことになるのだが…………ぶっちゃけて言えば半分くらいは乗り気だった。
折角配信に來てくれているんだから楽しい思いをして貰いたい、という謎のサービス神が働いてしまったのだ。こういう格が俺にたくさんのわらじを履かせるんだろうな、と理解はしているんだが、格はすぐには変えられない。
新作連載開始しました!
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