《悪役令嬢の中の人【書籍化・コミカライズ】》3

ただ、そんな平穏で幸せな時間も壊された。星の乙が學園に學してきたのである。當初はウィリアルドをはじめとして、エミの心配とは裏腹に星の乙はあまり好意的にはれられていなかった。

むしろ、星の乙とは言え高位貴族の子息、特に婚約者のいる男にまで気軽に聲をかけ、その手や腕にれたりする姿に常識を持った者なら男問わず敬遠されるまでであった。エミの中から貴族としての一般常識から教養まで學んだわたくしからすれば、あれは語の中だからこそ々な殿方にをかける話が獨立して存在することが許されていただけで、現実世界で同じ事をしたらこうなるのは當然の結果であると思うのだが。

星の乙の學園での生活を庇護する役目を負ったウィリアルドとその側近、クロードとデイビッドとステファンも最初は星の乙への不満をよく口にしていた。

エミは、ウィリアルドがすぐさま星の乙に惹かれなかった事と、星の乙と出會った自分が語のように勝手にめを行うような事にならずに心底安堵していた。エミは自分が誰かを傷付けることも厭うような心優しいであるのはわたくしが1番良く知っている、そんなエミにとってつらい事が避けられないような世界じゃなくて良かったと心から思ったものだ。

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ただ、星の乙……この現実では「ピナ・ブランシュ」という名の元平民の。このもエミと同じ、この語の記憶を持っていたのだ。まだ星の乙の信者が學園にいない頃……レミリアが1人でいるタイミングを狙ってわざわざ暴言を吐きに來たのだ。

「あんたも転生者でしょ?! ゲームと違ってウィルと仲良いみたいだし、クロードとも仲悪く無いし、デイビッドもステファンもみーんなアンタの味方! サイッテー! 子供の頃から知り合いってだけでゲームの知識使ってズルしてたんだ。悪役のくせにみんなから好かれる逆ハーやっちゃおうとか思ってた訳? ウィルもクロードもデイビッドもステファンも、特にアンヘル様は絶対にアンタなんかに渡さないからね!!」

一方的にそれだけ言って、星の乙……ピナはエミを睨みつけるとその場から走り去った。わたくしからすると、ピナこそが語の知識を使って男達を籠絡せしめようとしているようにしか見えないし、複數人の名前を挙げて全員を「渡さない」と言うお前の方が異を侍らせたがっていると思うのだけれど。

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それからのピナは積極的に語の再現に努めていた。イベントとエミが呼んでいた、男達とのやり取りを再現しようと躍起になっているのが頻繁に噂として聞こえてきていた。

ステファンが音楽室でヴァイオリンを練習しているところに突然やってきて一方的に何事かまくしたてという話を聞いた。弾いていた曲とまったく印象の違う想を言われて気分を害したとだけ言っていたが。

図書室にいたクロードにも、読書中に話しかけて來たそうだ。政治の本を手にしたクロードに「カサンドラ王朝時代の政策について意見を聞きたくて」と言っていたが、手にしていた本は違う國のものだし「ではまず君の意見でも聞いてみようか」と返したら何も言えずに黙り込んだ後無視したら消えていたらしい。

デイビッドも、他の學生と練修場で鍛錬をしていたところ、突然タオルと水筒を手に駆け寄ってこられて面食らったと呆れ混じりに言っていた。

ウィリアルドは一緒に居るとよく転ぶ上に護衛ではなく自分が手をばさないと立ち上がろうともしないのは何を考えてあんな行をするのだろうと溜息をつきつつエミとのお茶の席でこぼしていた。

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聞く限りは全て、正規手段で好度を上げるために必要な通過イベントを再現しようとして失敗しているようだった。語の中ではキラキラした瞳で想を告げた星の乙にステファンは「自分の音楽の才能を分かってくれる」と好意を抱いていたが、すでに魔師と音楽家を両立させるために勵んで小さいながらも音楽會にも招かれているステファンには上っ面だけの褒め言葉は響かなかった。

クロードとのイベントも、最初に話しかける様子は語の中で描寫されていたが……畫面では「政治の話で盛り上がった」と書かれているだけで臺詞は無かった。きちんと語の通りに話を進めたいなら語の中の星の乙と同じように教養を付けておけば良かったのに。クロードと親しくなるには語では主人公のステータスの教養や學問が必要だったのだから。

デイビッドとのイベントも、それまでの會話と選択肢によって好度を上げると「今度良かったら練修場に來てみないか」とわれるもののはずだ。現実世界でってもいないのに押し掛けてこられたら迷だし、語の通りだったとしてそこにたどり著くまでのやり取りが無いのに次に進む訳が無いと言うのを分かっていないらしい。

ウィリアルドの話については……おそらく「怪我をした星の乙がお姫様抱っこで救護室に運ばれる」というものがあったがそれを再現したいのだろう。語の中では、急に王太子のそばに寄ることを許された元平民をやっかんだ生徒が足を引っ掛けたという話だった。酷く捻って立ち上がる事も出來なくなった星の乙を、護衛の制止を退けてウィリアルドが手ずから救護室に運んでいた。「君を取り巻く悪意に気付くことが出來なかった贖罪に、せめて君の手當てをさせてくれ」とまで言って。まぁ語に文句をつけても仕方がないけど、この語の中のウィリアルドは、そんな事をしたらそれを見た周りが余計に嫉妬を募らせて星の乙に危害を加えると想像がつかなかったのかしらね。

語と違って王太子達にべったりでは他の生徒も何かする気も起きないだろう。そもそも國が庇護している星の乙に王太子の前で危害を加えるわけにはいかない。目の前でなくともし考えればリスクの方が大きいのにわざわざそんなバカな事をする者もいなかったのだろう。このままでは嫌がらせが起きないと悟ったピナは無い頭を絞ってわざと目の前で転ぶ事を繰り返したらしい。

そうやって語と同じ出來事を起こそうとしている、とエミは警戒していたようだったが……それでは足りなかったのだ。わたくしの言葉が屆かない、きもできないこの狀況に甘んずることしか出來ないことが何より口惜しい。エミの中からどんなに聲を張り上げても、エミにはわたくしの忠告が聞こえない。

ピナは自分の考える「攻略」が出來ないのを遅まきながら悟ると、語の中に登場した「アイテム」の力を使い始めたのだ。わたくしは中から見ていてすぐ気付いたが……最初から、「現実世界で無理やり人を好きにさせるアイテムなんて使うわけにいかないでしょ」と考えていたエミには、そんな卑怯な手段をすぐ思い付けず、おかしいと思った時にはピナにまとわり付かれて共に過ごす時間が多かったウィリアルドを含め、學園の過半數がそのアイテムの餌食になっていた。ピナの振る舞いを最初から警戒していた生徒の一部はその景に異様なものじつつ、極力関わらないように過ごすだけでエミの味方になったりはしない。

ピナが友達と呼ぶ「取り巻き」を作ってからは早かった。あのはエミがやってもいない様々な「め」を造し始めたのだ。それも周囲に気取られないような狡猾な手段を使って……。

ピナというと関わらないだけでは足りなくて、積極的にあのが広げる噂を打ち消すようにき公の場で否定しなければならなかったのも、ピナが造する言いがかりに反論できるような証拠を用意する事も、王家に忠誠を誓い、常に複數人に互いの監視もさせて……偽りを報告することのできない影を付けるよう自ら申し出るのも、善人のエミには思い付けもしなかった。自分が、一切やってもいない事で悪人に仕立て上げられるとは思ってもいなかったのだろう。

わたくしだってエミの中からどうにか出來ないかと々手を盡くした。の主導権を奪い返すことが出來ないのは分かっていたが、中にいるわたくしに魔法が使えはしないか、聲は屆けられないか、夢で干渉できないか。

でも、ダメだった。わたくしには何も出來なかった。見ていることしか出來なかった。エミが、覚えのない悪意の噂で傷付けられて、友人や信頼していた人たちを失うのを。初めは「あの子はちょっと変わってるね……」と呆れ気味に言っていたウィリアルド達さえもが気付けば「平民だったからしょうがないか、しずつ學んでいけばいい」なんて好意的な言葉を口にしていた。あんなに、常識外れのアピールをされて辟易していたはずなのに「ちょっと間違えて空回っていただけ」「それだけ仲良くなりたかったんだって」と困ったように笑うようになっていて。

その後すぐに「レミィがあんな事をしたなんて信じてないけど、あの子は住んでた世界が違うから僕達と捉え方が異なる、接し方には気を使ってあげた方がいいと思うんだ」「ねぇレミィ、ピナにもうちょっと優しくしてあげることって出來ない?」なんて言う彼らにエミが傷つき始めてからも。

それが「レミリアはこんな事するなんて思いたく無かったのに」「何であんな事を言ったんだ? ピナは泣いてたよ」と、まるで事実のように扱われるようになるまでわたくしは、ただ、見ているしか出來なかった。

エミはその度に否定した。そんな事はしていない、言ってもいない、信じてくれと。それなのにあの男達はエミの信頼を裏切った。

エミの味方はいなかった。表面上は殘っているように見えた友達の顔をした裏切り者は、星の乙通していて「レミリアが星の乙めを行っていた」証拠として後に提出される私を盜んで提供したり、レミリアが1人となる……現場不在証明の出來ない時間帯を調べたりの手駒となっていた。

星の乙は周囲の人間を騙して被害者ぶる手腕にだけは長けていて、この偽裝工作もそうして獲得した取り巻きに「グラウプナー公爵令嬢のご機嫌を損ねないように時間と場所をずらして行しようと思って」「寮の部屋に屆いた脅迫狀に使われていた便箋がどうもグラウプナー公爵令嬢が使っているものに似ていて確かめたい」などと口にしていたらしく、それを何人にも分けてしずつ頼んでいたせいで明るみに出ることは無かった。

レミリアの星の乙への態度を諫めるウィリアルド達、自分の罪を認めないレミリア、そのレミリアを庇って健気に過ごす星の乙、という構図が學園に周知されてすぐ。階段でエミとすれ違おうとした星の乙は小さく悲鳴を上げてを傾けた。お人好しのエミが思わず助けようと手を差しべたその瞬間、大きく悲鳴を上げながらあのは階段を転げ落ちたのだ。

その場には、驚いたまま中途半端な勢で手をばしたままのエミと、階段の下に倒れる星の乙

あっと言う間に人だかりができて、近くにいたウィリアルドと側近達が駆け付ける。わたくしはエミが陥れられた事をすぐ悟った。

わたくしは、あのが、落ちていく瞬間薄く笑っていたのも見ていたのに……見ているだけしか、出來なかった。エミが何もしていないことは、エミの中から全てを見ていたわたくしが1番知っている。知っているだけで、何もできない自分が憎くてけなくて、いっそ狂ってしまいたかった。

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