ピナに復讐を仕掛ける事にしたわたくしには勝算があった。

エミがレベリングと呼んでいた行為には最初莫大な資金が必要になる。魔晶石はそこまで安い買いではない。去年まで平民だったあのにはとてもではないが出來ないだろう。語の知識があれば効率の良い資金稼ぎは出來るだろうが、の薬と魅力の香水に使い込んでいたあのの星の乙としてのレベルは間違いなくまだ低い。

エミは、子供の頃はレベリングのために魔晶石を購していたが、錬金を學んで腕を上げてからここ數年は自分で作ってそれを使うようになっていった。魔を討伐し、魔石を回収し、それを加工して魔晶石を作り、作った魔晶石を割って魔力を回復したらまた魔を討伐する。「ヤバイw永久機関できたw」とすごく興していた微笑ましい景が昨日のことのように思い出された。

つまり、星の乙は語の第二章から出てくるいくつものダンジョンをまだ攻略できていない。攻略する力も無く、それは本來パーティーメンバーとなるウィリアルド達も同じ。エミのおかげで語の時よりは強いだろうが、足を引っ張るステータスのあのを連れて行けるはずもない。そもそも今は學園を卒業した王太子とその側近が、語の時のような世界の危機でもないのに気軽にダンジョンに出かけられはしないだろうが。

わたくしは今日も紅茶を飲む片手間に魔石を魔晶石に加工し続ける。魔道の力にもなるため需要は無くならない。作ったら作っただけ売れる上に魔のスキル全般の練値が僅かだが溜まるので資金稼ぎ兼自分の力を高めるには優秀な手段だ。しでも時間があれば魔晶石加工、常人なら日に３つが良いところだがわたくしほど習すればこうしてティーテーブルに軽く山となる量を小一時間で作れる。

これをあの店の店主を経由して半分は売るが、もう半分はわたくし自の「レベリング」に費しつつ最終的な目的のために各地のダンジョンを訪れて使うのがこのところの日常である。公爵令嬢だった時は長くかに垂らしていた髪も多短くして後頭部で結んでいる。ダンジョン探索のために男のような格好をしているのもあってさながら騎士に見えるだろうか。

植した魔族の民は正を隠して數人が廃村に住み始め、わたくしの援助した資材と食料を使って慎ましやかだが平穏な生活を始めた。謝を告げてくる村人達に困っていることはないかと頻繁に尋ね、出來るだけの力を盡くす。もっともっと彼らには恩を売らないと。

「悪役令嬢レミリアは公式チートの存在である」とはエミの記憶の中にあった言葉である。何でも出來る完璧令嬢。學園では主席以外をとったことがない。魔力にも秀でた天才。さらに1人で古代文明の跡と文獻を紐解き辿り著いた悪魔召喚の儀式を獨學で再現し、自分の魔力だけで起してしまう。主人公達に立ちはだからせるために語の開発者は悪役令嬢レミリアに、語に起きる不都合を解消させるさまざまな能力を與えていた。

どこにでも出沒して邪魔をするために非常に稀有な転移魔法の才を、主人公達をわせるために幻や変の魔法を、人々を混に陥れるために魔を先導するようなテイマーに似た能力や、変異させた疫病を流行らせ特効薬になりうる素材をあらかじめ破棄する醫學知識と手腕、その他主人公達に問題を振りかけるために毒や呪にも通していた。

さらに戦闘ではレイピアを使った剣技から攻撃魔法、自己バフ、自分を回復させる治癒魔法まで扱える。ステータスの數値だけでいうと、主人公側で最強に育つ、勇者のを引くウィリアルドさえも軽く凌駕していた。レミリアは魔力が高い魔師型のキャラクターだったが、最終決戦時に叩き出すダメージは理攻撃力でウィリアルドに勝る。

レミリア１人対主人公パーティーだというのに、人數と手數の有利をもってしてもしっかり育を行っていないとあっさり負けるほどレミリアは強い。

そう、エミの大好きだったキャラクター「悪役令嬢レミリア・ローゼ・グラウプナー」はそのくらいのポテンシャルを持っている。

エミが途中までやったレベリングのおかげでわたくしは十分強くなっていたけど、わたくしの目的に必要な、その途中を達するためにはまだ足りない。そのためのレベリングだ。魔法の技もしっかり磨いて、ポーションに魔道も山ほど持ったわたくしはエミの知識の中にあったいくつもの跡に飛んで、必要なものを集めつつ自分の能力をさらに高めた。

最大の効果を最短で。まずは國境沿いにある、もう攻略されたと思われている休止したダンジョンの奧に進む。ここの最後の部屋には隠し要素があって、その奧も踏破するとステータスに恩恵をけられる指を得ることができるのだ。ピナはもちろんここの存在も知っていたはずだが、「ボーナスダンジョン」と呼ばれるほどにたやすく攻略出來るのに反して強い裝備が手にる、ここに手をつけていないと言うことはこの他も何も進めていないだろう。男漁りに夢中になって、本來の星の乙の役割を捨てていたあのらしい。

わたくしは復讐のために盤面をゆっくりと進めていく。この先にあるあのの破滅が待ち遠しいわ。

その次は國境にある寂れた村を救って、その北に生息していた魔を巣ごと討伐を行う。周辺地域の住民の命を何度も危険に曬していたが、領主に訴えてもまともに対応をしてもらっていなかった彼らは「神のお導きがあったの」と告げて無償で危険にを投じたわたくしに酷く謝をしてくれた。

ここは元開拓地、今は年老いた最初の住民は開拓を條件に恩赦をけた軽犯罪者達だった。領主が積極的にこうとしなかったのはそのせいだろう。魔によって元犯罪者とその家族である住民が全滅したら、開墾された土地と住む者がいなくなった住居に移住をけれるつもりだったのを知っている。

彼らに恩を売ったわたくしは「お禮に」と渡されそうになった金銭も辭退した。そんな端金をけ取るより「レミリア」に謝してくれた方がわたくしの利になる。それにエミならこんな時お金をけ取ったりしないで困ってる人を助けるわ。

わたくしのように、「そのに犯罪者のを流す汚れた存在で」と思ったりしない。痩せ細った子供達にこうして貴重な甘味であるドライフルーツを振る舞うような優しいだもの。エミならきっとこうしていたわ。

そうしたらわたくしの事を「聖さま」なんて呼ぶ者が出始めたのよ。あら、見所があるじゃない。そうよ、エミの「レミリア」は優しくて清らかで、その通り聖の名が相応しい素敵なの子ですもの。ついつい良い気分になって施しを與えすぎてしまったわ。

討伐した魔は村に持って帰って資金化させて、返す刀で日照りに悩む隣の國の荒れた水龍を宥めに向かった。もちろん攻略に必要な、手前のオアシスに住む水のの祈りも道中で手にれてから最短で全てが済むように計算済みである。

本來なら周辺に水の恵みを與えるはずの存在であった水龍。かの神の激憤によってもたらされたこの長い乾季。それを宥めるには神殿にる許可を得ねばならず、その砂漠の國の神長に貸しを作る必要があるが、これは彼の故郷の水不足を解消してやればいい。これも通過する途中で解決する予定だ。

語では何度も砂漠の國の中心地と日照りで悩む村やオアシスを行き來して報を集める必要があったが全てを知っているわたくしにはそんな必要はない。何故知っているかと聞かれたら「神からの啓示がありました」とだけ答えて、後は行で示していけば問題ない。

神託をけ取った元貴族のが、無償で人々を救いながら旅をしている。そんな評判が靜かに出回り始めているのを知ったわたくしは「わたくしはただ神が求めるままに行しているだけです」とし困ったように言って見せた。

えぇ、わたくしとエミを引き合わせたのが神のご意志なら、わたくしがエミのために復讐を行うのもきっと神のご意志だわ。

やる事は目白押しだ。無いとは思うが、ピナより先に全てをこなさないと意味がない。それに、長い時間「レミリア」に冤罪による汚名を被せたままでいるわけにはいかないわ。

それを考えると自分に転移魔法の才能があって良かったと心底思う。そうでなければ頻繁に往復して、國での盤面を進めつつ語で出てきたダンジョンを同時に攻略するなんて事は出來なかったから。

語の中ではターン制……というカードゲームのようなお行儀の良いシステムのせいで悪役令嬢レミリアは負けたが、現実世界で今のわたくしが戦うなら攻撃魔法を放ちながら剣技を使ったり回復をしながら防壁を張ったりをしないはずがない。おそらくわたくしが魔王の手先となったとして、一対複數という事を差し置いても星の乙達に勝つ事も出來るだろう。もちろんわたくしはそんな未來を選ばないが。

斥候も索敵も戦闘も１人でこなすのは大変だったが、エミがしていた「悪役令嬢レミリア」も、魔王の配下になった後も手下がいるような描寫はなかったので問題ない。事実々の苦労でわたくしは１人で全てをこなせた。

安全マージンは多めに取って自らの力を磨いていたが、それでも予定より早いペースで語と同じ道を辿れている。語の中よりも早い時點でわたくしが訪れているため、時間経過で悪化していたと考えられる問題が比較的軽い狀態であったのも大きいだろう。何より、語の中の星の乙達よりもわたくしの方が有能だったという単純な話でもあるが。

途中で何度も転移魔法で村に戻り、稼いだ金銭は必要最低限を除いてほぼ全額を村長に預けるとともに簡単な指示を出しておく。先日はし離れた街から寄りのない子供をけれていて、予定よりも人數が多くそのせいで必要な資の再計算に迫られ、預けた分ではし足りずにこの男がし銭を切ってくれたらしい。

謝を告げると「俺達こそレミリア様に謝してるんだ、こうして真っ當に村に住める分になれるなんて思わなかった」と涙ながらに當初の態度を謝罪された。

自分がしたいと思った事をしているだけだから、と謝に対して恥ずかしそうにして見せる。わたくしはエミだったらしている事をしているだけよ、エミのみを葉えるのも、エミが願っていた「悪役令嬢レミリア」の幸せを実現するのも、それを葉えるために些末な問題をこうして解決するのもわたくしの心からのみなのは間違い無いわ。

この次の一手に使う素材は各地のダンジョンを回って無事に集めきった。さすがに々疲れをじたわたくしは領地となっている村でしっかりと１日休みを取った。

次の日わたくしはドワーフの國に転移魔法を使って移すると、この國の辺境で火竜の襲撃に悩まされていた數部族の長の手紙を持って王宮の扉を叩く。一度は追い返されるがこれも語と同じ、この後諦めて城下に戻るとお忍びで街を散策しているお姫様と出會う。彼と親しくなった後に何故この國に來たのかと聞かれるので、その時に「この國を守護する火の神に聖鎧を打ってもらうために」と伝えると彼の姉である姫巫様に直接渡してくれると手紙を預かってくれるのだ。

「良かったの？　姫巫のお姉さまには貴族も謁見待ちの列をしていると聞いたのに……」

「いいの！　レミリアみたいな本當に必要な人にはプシューク姉さんも便宜をはかってるし。ねぇまたダンジョンに潛った時の話聞かせてね！」

「ええ、喜んで。でも姫巫様へのお願いとは別に、サラと友達になれて嬉しい。わたくしの國にはで剣を振るう人はないから、話が合う同の友達が出來たのなんて初めてよ」

「それは私も！」

ドワーフの國の転婆な王様、サラスティリと顔を見合わせてフフフと笑い合う。昨日と今日で友誼を深めてわたくしは稱を呼ぶ事を許されるまでに気安い仲になっていた。

わたくしはエミを意識してこのお転婆なお姫様と接していたのですぐ仲良くなれたが、きっと初対面の同には嫌われるあのじゃ無理だったでしょうね。今はあの香水も手にらないし。

この國を守護する火の神と直接言葉をわすことのできる姫巫様は、妹からの話を聞いて早速わたくしに會ってくださる事になった。例の、助けた部族の長が、姫巫様がかに想いを寄せる男だということも大きいだろう。この後は語の通りに橋渡しを行って、彼と部族の長の仲介人も務めなければ。語では味しいクエストとして描かれていた。仲を取り持つだけでステータスアップの加護のかかった裝備が手にるのだもの。

名を呼ばれて足を踏みれた神殿の聖堂にて、何故聖鎧を求めるのか、姫巫様の口を借りて神からの詰問をけることとなる。わたくしはそれにしも臆さず答えていった。

「わたくしの中には神から授かったとしか思えない啓示がございます。この世のものとは思えない超常の存在から、この世界の滅亡とそれをもたらすものが在る事、それを防ぐためにはどうけばいいのかを教えられてここにおります」

火の神が打つ聖鎧はただの神創ではなく、神の裁きを退ける力を持つ。この鎧を纏った人間には神罰は効かず、つまりは神を討つ力を與える事になる。

だから火の神は見定めているのだろう。かつて夫の男神を人間に奪われた嫉妬から國を滅ぼしかけた神を討つ時に勇者だった青年に與えたのが最後、神話に出てくるおとぎ話としてしか語られていない。その青年がウィリアルドの祖先であるが、まぁ今はその話は関係は無い。

火の神がわたくしに問う。それをもって何を討つつもりかと。わたくしは二柱の神の名を告げた。その理由も、わたくしがエミの記憶の中から知りうる事を全て。

それを聞いて納得してくれた火の神はわたくしのために聖鎧を拵える事を約束してくれた。言われる前に、その場で必要な素材を全て渡すと「そなたに神託があったのは真のようだ」と火の神は今日一番驚いた顔をされていた。

さらにわたくしは言葉を重ねる。

「今告げた神討をし遂げました暁には、必ず火の神様のもとに聖鎧を返しに參ります」

「……人の世に存在する中では二度と手にする事の出來ない価値と力を持った品だが、何ゆえ手放すと、その結論に至った？」

「人のには過ぎた品だからでございます。わたくしの存命の間はともかく、後世に人の間にも神に対しても諍いを生む事になりましょう。神のみもとに返す事こそ相応しく思います。どうか次の世に必要とする方がいましたら火の神ご自がお授けください」

「……よく言った」

エミならこう言うだろう、と語の中では無かった提案をしたら火の神にとても気にられてわたくしは火の神の加護も授かった。予想外だがこれはこれでやりやすくなった。神聖の炎は浄化の力があるもの。

ウィリアルドの祖先から伝わった勇者の鎧は國寶として寶庫に厳重にしまわれているが、この様子ならあれもきっと神界に返した方が良いとエミなら思うでしょうね。復讐が終わったら提案しましょう。

わたくしのために作られた、金地に青い紋章のった優な聖鎧をにつけ危なげなく跡を回る。そこで１つずつ手にる鍵を集めたわたくしは、天界の門を開くとその先にある白亜の城に向かった。その庭の広い池には創世神の末娘が蓮の花となって捕われている。天界の主に見初められ、それを拒否した罰として蓮の花の姿に変えられてしまった哀れな神だ。語の最終章に登場し、主人公に協力を請われて世界の破滅を防ぐために力を貸してくれる。

ここのフィールドはその天界の主に苛烈な妨害をされるために火の神に授けられた聖鎧なしに進むことは出來ない。語の中では人數分の素材を用意する必要があり、それを全て作るには相応の時間もかかった。わたくし１人だけで済む分短期間で済んだのは人數のメリットだろう。

彼を助け出すには、この天界の主をくだす必要があった。語の中では、「浄化の神が私の想いに応えてくれないのはこの世界が汚れているのを悲しんでいるため」「世界が汚れきる前に心のしい者だけを拾い上げ、その他を全て水で洗い流して一度何もない世界にリセットすれば、世界を綺麗に戻した私にきっと彼は謝するとともに想いに応えてくれるはず」という迷な考えのもと文明を滅ぼそうとしていた存在なのでわたくしにも躊躇はない。語の中でも滅びても世界に何も影響は無かったし。

余裕を持って力を高めたわたくしに、天界の主はたった１人を相手にその存在を抹消されることとなった。最後まで浄化の神への慕をんでいた勝手な神はわたくしの手によって滅された。神が滅びると死も殘らないのね。この世から存在が消えてそれで終わり。

わたくしは泉に囚われていた神を優しく揺り起こすと、神が閉じ込められている間に浄化の神の父神である創世神に何が起きて今どのような姿になってしまっているかを語り、協力を取り付けた。神は快くわたくしに力を貸してくれると約束し、自をおろすも授けてくれた。

さて殘すは創世神の浄化だけである。「レミリア」としてやる事はまだあるが、語で星の乙が辿った旅をなぞるのは終わりが見えた。

父である創世神が権能を振るうたびに蓄積していくこの世の淀み、それを払う役目を持っていた末娘が姿を消した事で、かつての創世神はそのに淀みが溢れ邪神へと墮ちている。彼が蓮の花に変えられたのは、エミの世界で蓮の花が浄化と接に関わっていた神の花だったからだろう。

神としての力を取り戻した「レンゲ」の協力を得たわたくしは、これで用は済んだとばかりに天界を後にした。城の裏の試練の窟を踏破すると裝備が手にるのだが、あれは星の乙の専用裝なので興味はない。「レミリア」にそんなをにつけさせる気はさらさら無かった。

そもそもあのとわたくしでは型が違いすぎてると思えないし。が窮屈そうで嫌よ。

さりげなくディスるレミリア様