《悪役令嬢の中の人【書籍化・コミカライズ】》13

「……人の國の王、私達はあのとこの國は別のものとして見ている。狡猾な悪魔に騙された被害者をさらに鞭打つような真似はするつもりはない」

「ま、魔族の王よ……?! 寛大な、言葉……ありがたく……し、しかし悪魔とは……?」

ほうっと安堵のため息を吐いたこの國の王は、アンヘルの言葉に尋常ならぬ単語を拾って慌てて聞き返した。わたくしはその一言で察した。なるほど、アンヘルはたしかに施政者に向いている。あのは始末させる事にしたのね。

わたくしは「何を言い出すの?!」という顔を作ってアンヘルを見る。

「実はレミリアにはこの世界を救う乙の記憶があったそうなのだ。ただその記憶には、あのような悪しき存在は出てこない……そうだな、レミリア?」

「ええ……でも、悪魔だなんて……たしかに、あの方の中にっているのは星の乙の魂ではなく、何か別の……悪い存在だと思っていたけど……」

実際は、エミとおなじ世界に生きていた悪魔でもなんでもないだったのだろうけど。ああ、格だけ特別に悪い……ね。

そう口に出してから気付いたが、本來の星の乙の魂ってどうなっているのかしら、まぁどうでもいい事だわ、と思いかけてとどまった。エミだったらきっと気にかけてるわ、ならこれが片付いたら何か考えておきましょう。

「その神託と現実は乖離している。レミリアは冤罪で追い払われ、本來共に世界を救うはずだった……そちらの『元』婚約者や『元』馴染み達はあの悪魔に籠絡され、レミリアは1人で世界中の跡を回って、街を興して人を救っていた。ご存知か?」

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「……レミリア嬢の治める街の功績と、その運営資金のために頻繁にダンジョンに潛っていたのは報告で知っていましたが、ご令嬢が1人で世界中を回っていたとは……」

「創世神の娘である神達の神殿をめぐり、その清らかな心を認められ數多の加護を授かっているのも知らないのだろう、その聖と呼ぶべき人を冤罪で追い払っておいて」

「恥ずかしながら……」

しょうがないわよ、監視はいたけど脅威度の高いダンジョンの中にまではついてこれないもの。目眩しのために近場のダンジョンから外國まで転移を使っていたのもあるけど。

「そうして浄化の力までを手にれたレミリアは臆することなく魔界に現れた。まだ人間達が魔族への偏見に塗れていた中で、創世神に害をしていた邪神を……レミリアは私と共に力を合わせて滅ぼしてくれた。邪神はたびたび悪魔を生み出しては……魔族にも人族にも酷い被害を出していた……。実際に命を奪うだけではなく、あのような邪悪な存在に力を持たせて人の世界に送り込み、將來自らを浄化する存在であるレミリアを謀略をもって消そうとしたのだろう」

「なんと!」

「王太子どのにはそこだけは同する。悪魔の呪いによって偽りの心を無理矢理植え付けられていたとは……」

「そ、そんな……じゃあ僕はやはりあの悪魔のせいで、レミリアを裏切るような真似を……?」

悲痛を顔に浮かべたウィリアルドから、わたくしは悲しげに目を逸らした。何、今更気付いたの? あなたが愚かだから騙されて利用されたのよ。エミと築いた信頼関係があったのにあのの言い分を信じるからでしょ。

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わたくしは混しているふりをしながらも、実際はアンヘルの考えていることを推測ではあるが大把握できていた。

邪神の話を魔族にした時と同じ、この國でピナを分かりやすい罪の象徴に仕立て上げて全ての罪禍を背負わせて全てを隠滅するつもりだ。

ピナは前世の知識から、魔族の信仰対象である創世神が墮ちて邪神となり世界を滅ぼしかけていたことも、悪魔が魔族の狂化した末の姿ということも知ってしまっている。魔族にとって都合の悪い真実を、ピナの命ごと消し去るつもりなのだろう。

でもダメよ、アンヘル。あのはわたくしの獲だもの。周りに大罪人と知られた狀態で罵倒されつつ慘めに生きながら、自分の行いを後悔して後悔して、そのまま長く生きてうんと苦しんでから死なないといけないの。すぐに殺して死による救済を與えるなんて當分はしてあげない。

「後悔」というのが肝心よね、「贖罪」も「反省」もいらないわ、あの薄汚いのまま、一切改心する事なく「噓をついてレミリアを陥れたりするんじゃなかった」と一生後悔しながら過去の自分を恨んで死んでしいわ。

「命を奪うまではしたくない、彼には生きて償ってしい」と、お人好しぶってアンヘルに言えば助命できるかしら。

ああ、懐かしいわこの四阿。エミとウィリアルド、クロードやデイビッドにステファンもえてここでよくお茶會をしていたのを覚えている。

「レミリア……いや、レミィ、僕は學生の頃、あの時君になんて事を……ピナの……いやあの悪魔の計略に嵌められた僕は君を信じずにあんな真似をするなんて……大切だったはずの君をたくさん傷付けてしまった……」

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「そうね……お互い信頼を築けていると思っていたから、あの時のわたくしはとても悲しかったわ……誰もわたくしの言葉を信じてくれなくて……ピナさんにわされてみんなで寄ってたかって噓をついてわたくしを斷罪して……」

「……本當に申し訳なく思っている」

「アンヘルに聞いたわ……あの呪いは洗脳してったり、理を奪うようなものではなくて、ただピナさんにをさせるように仕向けるだけだったって……ウィル様自で判斷して、わたくしの為人を知っていて、その上でピナさんの言う事を全て信じたのでしょう……?」

「レミィ! 違うんだ、僕は……僕は君のことが眩しくて、僕に出來ない発想や才能を持った君が眩しくて……羨ましくて、僕が君にふさわしい存在だと思えなかった。あの悪魔の噓を信じることで、自分と釣り合いを取ろうと無意識に思ってしまって……っ、しているんだ君の事を……レミィ、お願いだ……!」

「さようなら、ウィリアルド殿下」

「レミィ!!」

夜會を終えてある程度今回の騒が片付いたある日。王城に招聘されたわたくしは殿下と対話をする事になった。わたくしはアンヘルの寵けているが、星の乙が紛いと……向こうは紛いだと思っている今。創世神を救ったという実績を持ち、浄化、穣、癒し、繁栄と様々な神の加護を授かっているわたくしの事が惜しかったのでしょう。エミは側から見てウィリアルドに慕しているのがひと目で分かるほどだったから、非公式の謝罪の場と言いつつあわよくばと思ってこの席を設けたらしい。

わたくしはウィリアルドに、悲しげに見えるような笑みを向けると決別の言葉を告げて席を立った。バカじゃないかしら、廃嫡が噂されてる落ち目のウィリアルドをあてがってわたくしの機嫌を取ろうと思うなんてよく計畫できたわね。

昔エミとウィリアルドがここでよく遊んでいるのを眺めていた、庭園の中の四阿から遊歩道を辿る。姿は見えなかったが近くにいたらしいアンヘルが現れて、わたくしの隣に並び立った。

「……もう、本當に吹っ切れたようだな」

「ええ。信頼を裏切られたあの日……『レミリア』の初は終わったの」

エミにはウィリアルドがあの日を後悔して泣いているのが聞こえているかしら。

「レミィ……レミィ……」

すすり泣きながら救いを求めるようにエミを求めるあの愚か者の慟哭が、エミの心の傷をしでも癒せたのならいいのだけど。

クロードや、デイビッドやステファンと最後に話した時も思い出す。

デイビッドには地べたに頭をこすりつけながらすがられた。レミリアに嫉妬されるのが嬉しすぎて、ピナを利用していたら気付いたら嫌われるのが怖いほどに逆らえないようになっていたんですって。

ステファンは、これでウィリアルドとレミリアの仲がこじれたら、友人として自分が仲裁してエミに頼ってもらえると考えていたようよ。……そんなくだらない自尊心のために裏切られて傷付けられたエミが本當にかわいそうだし、あの男達はなんて愚かだったのだろう。

クロードは、ピナに心が傾き始めているウィリアルドを見て、相手は星の乙だと考えると上手くすれば王家の側から婚約解消に持っていけると企んでいたのだという。その場合王家の都合で傷となった義姉を自分のものに出來るのではとドス黒いを抱えていたそうよ。それで「まだ姉さんと呼んでいいですか」なんてよく言えたわね。

もちろん、グラウプナー公爵家からわたくしは分籍されている事を理由に「グラウプナー公爵令息」と呼んで斷ったけど。そしたら絶した顔をして茫然自失としていて、見捨てられたような悲壯を漂わせていたわ。笑っちゃう、お前が先にエミの信頼を捨てたくせに。

泣くほど後悔するならエミを裏切らなければよかったのに。……ああ、彼らが後悔に流す涙が、エミを失った心をほんのしだけめてくれる。

それにしても思っていたより効き目が高いしまったく気付かれてもいないようで嬉しいばかりだわ。語に出てきたアイテムのフレーバーテキストを參考に、吸引式の自白薬のようなものを作ってみたのだけど……これならもうし効き目を強くすればピナに使って楽しめそうね。

ピナはあれからなんとか助命嘆願が功して命だけは助けることが出來た。わたくしは何も言っていないのだけど……わたくしは何も、ね? 裁判にかけられた結果刑の一環としてを焼いて言葉を奪い、星の乙だった事実も抹消され、囚人が刑罰として労働を行う開拓地の鉱山で彼らに作業効率を上げるバフをかけ続ける仕事が労役として與えられた。

レミリアとして「誰も死んではいないし、わたくしがあの方にされたことはもういいから」とお人好しっぽい事を言っておいたらよほど気を遣われて、「幽閉されて一生表に出てこられない」とだけしか教えてもらえなかったからわざわざ調べたのよ。

そこの囚人を管理している家の寄親の息子はピナに籠絡されて未來を閉ざされた王太子の護衛の1人だった。どんな扱いを命じられているかそれだけで察することが出來るでしょう?

収監先に訪れた、ピナに恨みがある男に顔を焼かれたそうよ。顔は焼け爛れて醜くなっていたけど、役人達が意図的に見て見ぬ振りをするせいで犯罪者の男達に、労役とはまた別の労働を求められて口にするのもおぞましい行為をされていたのを使い魔で探してやっと見つけたの。あの腰の上のホクロがなかったら気づけなかったわ。まともに言葉を話せないで途切れ途切れにレミリアへの怨嗟をずっと唸っていた。あの一件で「レミリア」の斷罪に噓の証言をついたと公開されて息子や娘を廃嫡や勘當せざるを得なかった家も多かったし、ピナを殺したいほど憎んでいる貴族は相當いたという事だろう。アンヘルが、「レミリアが気にするから」と殺さないようにとだけは厳命していて死にそうになるたびに魔族製のポーションまで使われているから生き地獄を何度も味わっているようね。逆に妊娠する機能も奪われて「殺さなければ何をしてもいいオモチャ」と思われてるみたいだけど。

もういいというのは本心よ? 事実何も罰を求めてないもの、だってエミは贖罪はしてしいと言うだろうけど人を傷つけるような罰を求めたりする子じゃなかったから。わたくしの周りのアンヘルや、アンヘルの意を汲み取った王家側が勝手にやってるだけよ。わたくしは別にいいの、わたくしにされたことは。エミを傷つけた事はこれから先も生涯許すつもりはないけど。

自白薬はもう実用レベルにはなってるけど……強い薬品は何度も使うと脳への影響が怖いから、近いうちに心の中を覗く魔法も完させないとね。薬で狂ったら楽しくないもの。あのがどれだけ慘めな思いをして、後悔して、わたくしを恨んでいるのかあのの言葉で詳しく聞きたいわ。

そうだわ、1年に1度は「ピナさんが心から懺悔していたら恩赦を出してあげたいの」って実際に見に行きましょう。わたくしが行くなら絶対アンヘルは心配してついてくるでしょう? あのの前であのが最後まで執著してたアンヘルに庇われて「罪を認めて心から償えば違う道もあるわ」って優しい言葉をかけてさしあげたいわ。いい考え、楽しみね。

公爵領もジワジワ収を減らしている、見栄だけ張って支出を減らせず、借金で生活するようになるのに數年ってところね。投資は功しないように潰して、裏から手を回してバックに政敵のついたタチの悪い金貸しを手配しておかないと。

この國もジワジワわたくしの手が侵食している。ピナの偽証に手を貸した者たちは直接は手を出していないが全員の輝かしい未來を閉ざすことに功した。貴族も、平民出の登用者も出世は無くなり、偽証の大きさによっては閑職に回されているか「犯罪を造するような人は信用がおけない」として懲戒免職をけている。まぁこれは自業自得ね。

乗っ取るのはまだまだ先だが當代の王には早々に退いてもらわないと。……だって、小娘の噓ひとつ見抜けないような無能な王はいらないわよね? エミみたいな悲劇を出さないためにも貴族子息子の教育を本的に変えて、學園や貴族社會の改革が必要だもの。

庭園の歩道の半ば、不自然に立ち止まったアンヘルはぎこちなくわたくしと向かい合うと真剣そうな目を向けた。煮詰めた金のような濃い輝きがとろりとけて輝く。

「レミリア……これは、あの王子とお前がケリをつけたら改めて告げようと思ってたんだ。……俺と結婚してしい」

「っ、アンヘル……!」

「もちろん、種族とか、壽命とか、問題があるのは分かってる……けど、たった1人で俺の前に現れた……お人好しで傷つきやすいくせに、人を放っておけないレミリアが、好きなんだ。そんなレミリアを守りたいし……出來ることなら俺の手で、レミリアのことを幸せにしたい」

その言葉にわたくしは、息を飲むほどの喜びをじた。

お人好しで、傷つきやすいくせに優しすぎて人を放っておけない、エミの「レミリア」をしてくれている。そんな「レミリア」を幸せにしたいと、心から言ってくれている。そう……そうよ、エミだった「レミリア」はお人好しで……悪役として死んでいったレミリアの事に同して涙を流してくれるほど優しくて、すれ違ったウィリアルド達に何度も傷付けられたくせに、でも救える手段があるのに助けないのは見捨てるのと一緒だって、そんな義務なんて何処にも無いのに「何かしたい」って走り出せる素敵なの子なのよ。

わたくしはわたくしの、一番大事なわたくしとしての尊厳をぎゅっと抱きしめられたような気がしてほろりと涙をこぼしていた。

「アンヘル、嬉しい……あなたのお嫁さんになれるなんて……いいのかしら、でも……わたくし、あなたとなら幸せになれる気がするの」

「レミリア、……っああ、幸せにする。絶対に……」

わたくしを抱きしめたアンヘルは、わたくしの言葉に噓が無いのを見たのだろう、惚れたの言葉の真偽も無意識に確かめてしまった自分にしばつの悪そうな顔をしていたが、それでも心ホッとして安堵を顔に浮かべていた。

ああ、嬉しいわ。アンヘルはわたくしのエミの「レミリア」をこんなにしてくれている。わたくしも、エミの「レミリア」をこんなにしてくれるアンヘルならせるわ。

それにアンヘルとハッピーエンドを迎えるのはあのんでいた事だったから。アンヘルが一番好きだったんですって。語の中だけじゃなくて、アンヘルが主人公の外伝的な小説も買って、製作側のトークショーでアンヘルの裏話を聞いたり、ゲームのイベントはセリフも選択肢も全部覚えているし、設定集に載っていない事までアンヘルのことなら全て知っていると豪語していた。

そのアンヘルを、あのが一番慘めになる形で手にれたのだもの。こんなに嬉しい事はないわ。あのが悔しがる姿を想像するとアンヘルとの結婚生活はとても幸せなものになりそう。

花に囲まれた庭園の中、ウィリアルドとの思い出のある場所でわたくしは……視界の端にウィリアルドがいた四阿を見ながらレミリアはファーストキスをアンヘルに捧げた。

ねぇ、エミ。エミの魂はまだわたくしの中にいるかしら。きっといるわよね、分かるの。眠っているだけ、今は何もじることもできていないけどあなたがわたくしの中にいるのは分かるわ。

まずは壽命をなんとかするべきね。不死を手にれた死にたがりの錬金師が攻略対象のキャラにいたはずだから、まずは彼を探して協力を仰がないとだわ。自分の壽命を何とか出來たら、しっかり時間をかけて魂の研究をするつもり。誰かのを使ってそこに魂をうつすのはエミが嫌がるだろうから、人そっくりの人形も並行して開発しないといけないかしら? いえ、人形ではなくホムンクルスが適切? わからないわ、まずエミと意思疎通が出來るようにならないと方向も決められない。もしかしたら前に思っていたみたいに「貓になりたい」って言うかもしれないもの。

やはり同じの閉じた領域で完結する分、わたくしの中に人のを用意するのが一番功しそうだけど……つまりわたくしがアンヘルとわって妊娠して、そこに魂が宿る前にエミを移してしまうのが直的に一番上手くいくとじている。

ああ、それもいいわね。もちろんもう一度エミと名付けて、ウィリアルド達に裏切られた事も一切知らないまっさらなエミをわたくしが育てるの。エミが、エミのお母様にされていたように、わたくしもエミの事をたくさんたくさんして可がって、時に喧嘩する事もあるかもしれないけど、たっぷりの家族になるの。

そうしてね、エミがいわたくしに誓ってくれた通りに、今度はわたくしがエミを世界で一番幸せなの子にするのよ。

短編と同じ時間軸本編はこれで完結です。

短編では沢山の方に評価していただきありがとうございました。是非こちらも↓の評価星☆ぽちよろしくお願いします(ダイレクト訴求)

番外編として

ウィリアルド、クロード、デイビッド、ステファン視點

魔王様視點

後日譚として

エミの生まれ変わり先についての話

あと本來の星の乙の中の人がちゃんと幸せになる様子

などを予定しています。

まだお付き合いいただけると嬉しいです。

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