《悪役令嬢の中の人【書籍化・コミカライズ】》騎士は誓いを失う

4話いっぺんに投稿してます。2話目

婚約者の事は最初から気にらなかった。自分には既に守りたいと思うがいるのに、と。ただそのは既に……出會った時から親友でもある王太子の婚約者と決まっていて、王命を覆す事など出來ず、彼への想いが芽生えた瞬間からめたまま墓まで持っていくと決めていた。

思えばずいぶんスフィアには失禮な態度をとっていたと思う。ただ彼の方が3つばかり年上なおかげもあっただろうが、とても出來ただったため「無理やり結ばれた政略の縁だ」と反発していた俺に付き合ってくれていただけだった。今なら分かる。

も騎士を志す人間だったため、婚約者と言うよりかは友人のように過ごすことが多かった。年下のからは同じであるのにスフィアの方が人気が高く、練習試合のたびにファンに押し寄せられて黃い聲援を向けられているのを見て……ほんのしだけ羨ましいと思っていたがこれは誰にも言っていない。

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婚約者として過ごした記憶はほとんどない。狩りや遠駆け、手合わせをしていた思い出しか。の頃は歳の差もあって負けを喫していたが、男差は大きくそのうちすぐに俺の勝ち星の方が多くなる。ただ、技巧派であり騎士の中では隨一の実力を誇るスフィアに俺は敬意を払っていた。

その婚約者相手に、俺はずいぶんレミリアの話をしていたと思う。めた思いにすると言いつつ……今思うと我が事ながら呆れる行いだ。

しかしスフィアはレミリアの話を楽しそうに聞いてくれていた。誰も思いつかない目から鱗のアイデアで作られた魔道に、レミリアの開発した非殺傷の生活に役立つ魔法や、投資した福祉事業が軌道に乗ってパトロンなしに雇用と利益を生む事に功している話。

將來の國母にふさわしい方だと、レミリア嬢が王妃になり、自分がそれに仕える騎士になるのが楽しみだと目を輝かせていた。俺が「婚約者に悪いか」と遠慮して話題に出さないでいると「レミリア嬢の新しい話はないのか」と催促されるほどだった。

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だから、自分より知った顔をする彼を疎ましく思ってしまったのだ。「レミリア嬢はそのような事をする人間とは思えないのだが」と言われて。

……王命により星の乙の面倒をウィリアルド殿下達と共に見るようになって……気が付いたら彼はいつも俺達と一緒にいるようになっていた。最初は社の場でびを売りながらまとわりついてくる輩達と同じ……いやそれより積極的であからさまな態度に嫌悪しかなかったはずなのに。

當時の話はスフィアにもしていた。「參るよ」という愚癡として、姉のような兄のような気やすさの彼はそれに対して「剣の世界で地道に築いた力なら、持ち主は謙虛であることが多いが……天から授かった才能というのは運であるから持ち主の資質とは関係ないという奴なのか」と呆れたように言っていた。

ただ……その時。俺達にびを売りれてくる星の乙を見て、不安そうにするレミリアの様子にの奧に熱いものをじてしまったのは黙っていた。

そのうちピナに近くに寄られるとイライラするのに、何故か突き放すことが出來なくなっていた。嫌いなタイプのだったはずなのに拒絶することに罪悪を覚えるようになる。いや、ピナが俺達の周りにいると悲しそうに、不安そうにしているレミリアの瞳が悪かったのだろう。あんなに中毒があるなんて。

騎士として既にを立てているスフィアと、婚約者との時間を持つとしてこれまで通りのように會っていたある日彼から言われた。

「デイビッド、君ちょっとおかしいんじゃないのか?」

「何を……」

「何故そんな、ピナ嬢……星の乙の味方をする? 傾倒しているようにしか見えないが」

「だって、彼はレミリア嬢にげられていて……」

「それもおかしいんだよなぁ。君は最初の頃ピナ嬢のはしたない振る舞いに怒りをじていたはず。聞いている限り、それと同じことを今もしているじゃないか。何故今はピナ嬢の行いをれてるんだ?」

指摘されてグッと詰まる。彼をそばに置いていればレミリアが嫉妬してくれるから。あの悲しそうな瞳で自分を見てくれるから。だなんて言えない。ピナから伝えられるレミリアの言葉にも夢中になっていた。「あなたみたいなはデイビッドに相応しくない」だなんて、政略結婚で縛られたながらかに俺のことを気にかけてくれているみたいで。

「……実際一緒に過ごしてみるとピナ嬢も悪い子じゃなかったし……それに、レミリア嬢から守ってやらないと……」

「そこ、一番違和があるんだ。レミリア嬢はそんなイジメなんかをする仁だったかな? 淑として評判が高く、福祉も率先して行う。たしかに最初は可い嫌がらせから始まっていたが、今は怪我をしてもおかしくないものばかり。私にはレミリア嬢がそんな事をするとは思えないのだが」

その言葉に。レミリアがピナの頬を打って泣きながら「デイビッドは私の馴染みなのに! 今まで一緒に過ごしてきたの、ポッと出のあなたが奪わないでよ!」と怒りをぶつけた話を名指しで否定された気になった。……そのくらいレミリアに、かに思われていると思って優越はたしかに抱いていた。「彼がそんなにお前を想ってる訳が無いじゃないか」と聞こえた俺は、一瞬で火がついて「目撃者がいる」「証拠も」「何より頬を打たれておいて泣きながら俺に謝罪するピナを疑うのか」と激昂していた。

やれやれと言った顔のスフィアはその日の顔合わせを辭して……次のまともな面會は無いまま、それを疑問にも思わずに時間は過ぎていった。あのレミリアを斷罪した夜もその中にあった。最後まで「私はそんな事やっていない」と否定されて、俺に嫉妬した事実も認めない彼に……思い出すだけで怒りをじてしまう。

ピナと過ごす時間がさらに増えた俺は、今日も「レミリア様にこんな事をされたこともあったわ、よほどあたしがデビーのそばに居るのが気に食わなかったのね」と麻薬のような言葉を聞いて悅に浸っているうちに、貴族籍から抜ける事で強引にスフィアから婚約解消をされたと実家から報告で聞いた。この時だって、レミリアがウィリアルドから婚約破棄された今、俺がフリーになるのは都合がいいなとしかじなかった。

だが特に何も行を起こせないまま……ピナからそうして離れられずにズルズル低い方に流れてきてしまった。鍛錬は欠かしたことがなかったのに、ピナに「一緒にいて」と言われるとその願いを何を置いてでも葉えなくてはと思ってしまう。

和解したと思えた兄とも疎遠になった。いや俺が避けているのだ。軽蔑されているのが分かってて、それを突きつけられるのが怖くて。

魔界との國開始1年を記念した夜會でも、どうしても出たいと言うピナのワガママを俺達は抑えきれずに「絶対に問題を起こさせるな、お前達の責任になるぞ」と陛下から厳命された上、また周りからの評価を落とす羽目になってしまった。

マナーの出來ていない彼を國賓の前に出すのは無理だ。なのに拒絶できない。俺だってピナの振る舞いは度々「無い」と嫌悪を未だに強くじる……なのに、何故かピナ本人を嫌いになれないし、一緒に居るのをやめられない。離れないと、このままではもっとダメになると分かっているのにピナに「嫌われたくない」と思うときができなくなる。

夜會の場ではクロードとステファンと一緒に、監視を兼ねていつもこうしてピナを囲んでいる。王太子であるウィリアルドは、さすがに公式の場では正式な婚約者でないピナと一緒に居るわけにはいかないから。

なんで彼を突き放せないのか。何故こんなに自分は好意を抱いてしまったのか……きっかけなんて無かった。レミリアにをした日ははっきり覚えているのに、ピナにはいつの間にか毒を注がれるように慕が芽生えていたから。

乾杯にと配られた、魔族からの貢だと言うリリン酒が手元に來る。それを飲み干した途端、ピナと過ごすうちに俺のに巣食っていた「呪い」は消えていた。

どうして。

俺が信じてすがっていたものはガラクタだった。何も拠の無い幻。レミリアは誰かを悪意や嫉妬で傷つけるようなじゃない……知っていた、知っていたはずなのに……

あの時1人で抱えて1人で悲しんで傷付くような優しい人で……そんな彼を將來支える騎士になりたいと誓ったのに。心の中で誓ったのに……

魔王の橫で腰を抱かれるレミリアは直視が躊躇われるほどにしい。彼は俺の知っていた、俺を心配して森に迎えにきてくれたと何一つ変わっていなかった。

変わったのは……俺だ。変わっていてしいと願って、めて……それだけで彼を支えていけると思っていたのに。そうであってしい、とピナの言葉を信じてしまったのは俺だった。

レミリアを最後まで信じていれば。

魔王の橫に立つ彼の傍に、騎士として控えていたのは俺だったはずなのに。

聞いた話だけでわされずに正解に辿り著いたスフィアが心底妬ましい。あのが……あのが俺に呪いなんてかけなければ。

呪いが解けた俺の中には、そこそこの長い時間を一緒に過ごしたあのへのも殘らなかった。自殺を止された上で鉱山で一生労働を課されると聞いても「自業自得だ」としか思えない。「もっと重い罰でもいい」そう思う自分すら居た。

後悔をしてももう遅すぎる。俺は騎士として誓いを立てたのだから、最後まで……この目で見るまでレミリアを信じる、それくらいの覚悟が必要だった、なのに……

子供の頃に自分が立てた騎士の誓いは自分自が汚して、気がついたときには壊れていた。壊したのは、自分だった。

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