《悪役令嬢の中の人【書籍化・コミカライズ】》悪役令嬢にされた人
ふわふわ。暖かいものに包まれていたからそっと持ち上げられたような。ぬくぬく冬の布団の中で過ごしていたところから起き上がって、スッキリした朝の空気にれたようなじ。私はほんのしの寒さに意識がだんだんはっきりしてきた。なんだかとても長く眠っていたような気がする。
気が付いたら……私は花畑の中に立っていた。何処だろう、と思う間もなく、目の前にいた神様みたいに綺麗な人に目が釘付けになる。
「初めまして……になるのかしら。顔を合わせるのも、言葉をわすのもこれが初めてですもの」
「えっ……?」
「エミ、わたくしよ。レミリア……あなたがかつて中にいた、悪役令嬢だったレミリアよ」
ふわふわの、金を融かしてつむいだような金髪に、はっきりした濃い青空の瞳。記憶の中では何度も鏡ごしに見た覚えのある顔が、目の前に存在した。いや、私の記憶より大人のになってしさが増している。それに、私がってた時のなんだか抜けた顔より100倍人に見えるし。
「レ……レミリアたん?」
「ええ、あなたが守ってくれていたレミリアよ。エミ、あなたはどこまで覚えている? わたくしの中にいて、レミリアとして生活していた記憶はあるかしら?」
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「あ、あ……そうだ、私、夜會でウィル様に婚約破棄を……何もやってないって誰も信じてくれなくて、クロードも、デイビッドもステファンもみんな……」
「そう……やっぱりそこで意識が途切れているのね。エミ、落ち著いて聞いてね。……あなたがあの夜ショックをけて意識を失って、わたくしが表に出てから……15年経っているの」
「15年?!」
ショックをけて気を失うにしても15年は長すぎではないか、とか。15年経ってるはずなのにレミリアたん若々しいしどう見ても20くらいにしか見えないのだが、とかツッコミどころはいっぱいあるけど今は置いておこう。
……何で今更15年経って、私は目が覚めたんだろう? それも、レミリアたんの中から出て。出られるならもっと早く返してあげたかった、と思わなくもない。……そういえば、私って今どうなってるの? レミリアたんは目の前にいるのに。
「そんな申し訳なさそうな顔しないで……? わたくしはエミが一緒にいてくれて、エミが幸せに生きてるのを見てるだけでとても楽しかったし幸せだったのだから。わたくしはエミに救われたし、エミに救われたから今のわたくしがあるのよ」
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「私が……?」
「ええ。……表に出ているエミの奧で過ごしている間。エミの記憶を見せてもらったし、エミの考えてることもわたくしにはわかったの。エミはわたくしをしてくれたし、幸せを祈ってくれた。だからわたくし、ちっとも寂しくなかったのよ」
ひょええ……! 記憶見られるって、アレでしょ! 前世で「うひょーレミリアたん可いぺろぺろ」とか言ってたのも全部見られてたの?! レミリアたんがしすぎて、なのに原作では悲しい終わり方をするレミリアたんを幸せにしたすぎてレミリアたん総されのちょっぴり大人の同人誌買いあさってたのも全部知られてるよね?!
ひいっ、恥ずか死ぬ……! 誰か私の記憶消してください……! 恥ずかしい記憶が存在した事実を抹消してくださいこんな神に私のアレやこれや人には言えないんなことまで全部知られてるとかマジ勘弁ほんとお願いします許してください何でもしますから!!
「エミが、わたくしを幸せにしたいって……わたくしのの中に転生して來る前から思ってくれていたのも知ってるわ。わたくし、エミのその気持ちがとても嬉しかったのよ……だって、実のお母様にだってそんなにしてもらった事無かったから」
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「レミリアた……レ、レミリアさん」
「そんな、今更よそよそしく呼ばれたら悲しいわ。今まで通りにわたくしの事を呼んでしいの」
「う……わかったよレミリアたん……」
起き抜けに神を見て混しすぎて、つい今まで呼んでたみたいに「レミリアたん」って口にしてたのをこっそり修正しようとしたが葉わなかった。ちょっと恥ずかしいが、レミリアたんがむなら私もやぶさかではない。
確かに私はご覧の通りレミリアたんの事好きだったけど。乙ゲームのライバルポジションのキャラなので出てるグッズはほんとなかったが全部買ったし、集合絵に寫ってるなんて事でもあればの字、ありがたすぎて手にれては五投地してた。実はレミリア様が星の乙に救われるちょっと百合っぽい小説も書いてみたりしたこともある。もしかしてそれも読まれてるのだろうか。ぴええ。
と、とりあえず。……たかだか私のファンとしての「レミリアたん大好き」「レミリアたん幸せにしたい」って気持ちが、実のお母さんからかけてもらったより大きかったなんて。
ファンブックにはレミリアたんの家族間にらしいは無かったとかサラッと書いてあったけど本當に寂しい思いを子供の頃にしてたんだろう。私がレミリアたんになった時はまだ5歳とかそこらだった、それを思うと涙が出そうになる。
「わたくしのの中に何故エミがったのか、エミが意識を失うまでわたくしが出てこれなかったのはどうしてかは分からないけど、きっと運命だったのよ。寂しく過ごして悲しい思いをして、世界を滅ぼそうとする悪役令嬢になるはずだったわたくしに神様がきっとプレゼントをしてくれたのね」
「レミリアたん……私がを奪うことになっちゃって、嫌じゃ無かった?」
「いいえ、ちっとも。あの頃は、わたくしをしてくれたエミが幸せに過ごすのを見ているのがわたくしの幸せだったから。今も幸せよ、エミが一緒にいた頃と同じくらい。幸せをわたくしに教えてくれたエミのおかげね」
心がしすぎでは?
その微笑みには慈があふれすぎている。レミリアたんだと知らなければ神か聖母にしか見えないところだ。
そっか、良かった……レミリアたん、幸せになったんだ。幸せになれたんだ。良かった。私の中にいた……ゲームの畫面越しに何度も幸せを願って、でも何もしてあげられなかったの子は……いつの間にか、ゲームの中の姿でも笑っていた。
やっぱりレミリアたんは寂しかっただけだったんだよね。ゲームの中じゃ間違えちゃってたけど、きっと本來のレミリアたんはこんな風に深くて優しい人だったんだ。私が思ってた通り。
「そ、うだ! あの……レミリアたん、この世界って……どうなったの? 世界に溢れ始めてた瘴気とか、邪神とか……」
「ふふ、自分の事じゃなくて、真っ先にこの世界の心配をするのがエミらしいわ」
いや、だって正直あのピナって子に世界の命運たくすのちょっと……ちょーっと無理じゃないかなって……冤罪であんなことされたからという私怨がってるのは否定しないけど。
「安心して。エミの知識が全部教えてくれたから、魔族も狂化から救われたし……浄化の神も天界から助け出して、邪神も本來の姿に戻したわ。瘴気で苦しむ人はもういないのよ」
「よ、良かった……」
「それに、ピナさんって方も噓が暴かれて罪に問われることとなったわ」
「罪……」
「噓をついて犯罪を造して、王家に噓をついて當時の王太子の婚約者を貶めたわけだから……何もなし、と言うわけにはいかなかったの」
そうだよね、全的に……前世よりもこっちの方が罰則は厳しかった。この國ではを盜むと罰として棒で叩かれたりするんだよ……。封建制度ぽいこの國では、王家を騙したりするなんて本來なら死刑でもおかしくない。前の覚が抜けてない私はその辺はちょっといつまでも慣れなかった。
ただ、詳しく聞くと、幽閉されて外にも出られないってだけで酷い事をされてたり死刑にされるような予定もないようで安心した。星の乙の代わりにこの世界を救ったレミリアたんが、その立場を利用して減刑をんでくれたらしい。マジで神だ。自分が傷つけられたようなものなのに……私の推しの心が綺麗すぎてヤバイ。
そしてウィル様達も、當時真実を見抜けなかったと陛下に叱責されて王太子とその側近の立場を失ったらしい。
「良かった……」
「エミ?」
「良かった、私が嫌いで、邪魔になったからやったんじゃないんだ……騙されてただけなんだ……良かった……」
ポロポロ泣き出した私をレミリアたんがギュッと抱きしめて頭をでてくれる。「つらかったわね」って優しく囁かれながらナデナデされて、そんなに優しくされたせいで私の涙腺は崩壊したみたいに涙が止まらない。
正直、ウィルの事は一緒に過ごすうちにすごく好きになってたし……ほんとの弟みたいに思ってたクロードや、馴染みの彼らが私を信じてくれなかったのも悲しいしつらいけど……しだけ、ピナさんと結ばれるのに私が邪魔で、ウィル達が畫策してやったんじゃって思ったから怖かった。そうじゃなくて……そうじゃ無かっただけで、良かった。
私がやっと回復した頃、レミリアたんは自分の事も話してくれた。1人で世界中のダンジョン攻略してストーリーに必要なアイテムを集めて、最後に一緒に邪神の浄化をしたアンヘルとその後だんだん距離が近付いて、なんと結婚したのだそうだ。恥じらいながらその過程について話すレミリアたんが神すぎて、つい拳を握りしめて「それで?! それで?!」と続きを促しながら聞いてしまった。今は5歳になる男の子もいるんだって。髪と目のは魔王のものだが見た目はレミリアたんそっくりだそう。何それ絶対ショタだし將來妖艶な青年に育つやつじゃん……はぁ……推しの伝子を後世に殘してくれてありがとうございます!!
レミリアたんの見た目が全然実年齢とあってないのもそのせいなんだって。大切な人と同じ時間を過ごすために不老不死に似た狀態になってるそうだ。大切な人って魔王様のことだよね? 言い方恥じらいすぎて可いさがヤバイのだが?
レミリアたんが今幸せになっているのを確認できた私は一気に安心してから力が抜けた。多分私が本の幽霊だったら今ので仏してたと思う。
「エミは……どうしたいかしら?」
「え?」
「それを聞くために、今日は霊王様にこの場をお借りして、わたくしの中で閉じこもっていたエミの魂を呼び起こしてもらったのよ」
聞くとここは霊界という場所らしい。周りに見えるの球は、ひとつひとつが霊なんだそう。それによく見ると、ゲームでよく見る幽霊っぽく青白い半明の私のからは骨のあたりから白い紐がびて、反対側はレミリアたんのの谷間に埋もれている。……たぶん骨同士……心臓のあたりで繋がってるんだと思う。レミリアたん側はおっぱいで見えないだけで。10代のころよりけしからん長を遂げている……
見下ろすと、起きた當初はぼんやりってるとしか認識できなかった自分に、生きてた頃みたいなと手足がついていた。レミリアたんのではなく、もちろん私の。私が私と認識している「恵」だったときの、多分死んだ姿と同じ、なんの変哲もない普段著だ。……もう、意識がなかった時を含めなくても10年以上経っているからあやふやな記憶だけど。
「エミは、生まれ変わりたい? それとも、このまま霊のような存在になって過ごしていきたい?」
それは、レミリアたんが私を心配して用意してくれた選択肢だった。このまま、と言うのは記憶なんかを全て保持したまま……私が私のまま、存在だけ変わるというもの。
生まれ変わる場合は記憶は全部なくなるんだって。私がレミリアたんのにった時みたいに、ある程度育って脳が発達済みのではないとどうしても記憶は失われるそうだ。でも……私も、故意に誰かのを乗っ取りたいなんて思えないので記憶持ちのままもう一度転生するなんてそれを聞いた時からやるつもりは起きなかったけど。レミリアたんも私が選ぶなんて思ってなさそうで、ただの説明として挙げただけみたい。
他には、私が元いた世界に帰れないか頑張って研究してみるとも言ってくれたけど、同じ時間が流れてたとしても25年……もう私の居場所はないだろう。それは辭退した。
霊みたいな存在じゃなくて、がしいなら人形みたいなゴーレムに宿ったりも出來るようだがそれも記憶は失われないと聞いたら私は選びたくなくて、どうしたらいいのか分からない。だから私は自分の本心を話して相談することにした。
「私、このまま消えて無くなるのは嫌。レミリアたんとまだ一緒にいたい。でも……ウィル様やクロード達に信じてもらえなかった事も、あんな風に寄ってたかって噓付きって責められたのも……みんなと過ごした幸せだった時の事も覚えてるのすごいつらいし……忘れたい。レミリアたん、私どうしたら良いんだろう……」
「そう……じゃあエミは、嫌だった事は忘れて、でもわたくしとこのまま一緒に居たいって思ってくれるのね」
「蟲がいいよね……」
「いいえ。嬉しいわ……わたくしもね、もしかしたらそうなるかもとなんとなくじていて。そうなったら素敵だなって思っていたのよ」
「ねぇ、エミ。わたくしの子供にならない?」
「レ、レミリアたんの……?」
「ええ。最初からエミが宿っておけば、を奪うことにはならないし。宿る時の未発達な赤ちゃんのでは魂からほとんどの記憶が無くなるからエミの辛い記憶も忘れられるわ」
「いいの? そんな……」
「わたくしは、エミがこれを選んでくれたらいいなって思ってるの。……子供が1人いるって言ったでしょう? その子は本來星の乙だった子の生まれ変わりなのよ」
「えっ?!」
「今のピナさんにを奪われて、この霊界で保護されてたの。彼も嫌な思いをたくさんして、忘れたいけど生まれ変わるのは怖いって言っててね。……迎えに來た時に、わたくしの子供にならなってもいいって言ってくれて、星の乙だった記憶は全部忘れて今は普通の男の子として過ごしてるわ。好が林檎なのは変わらないけど」
そっか……星の乙は設定集に、生まれも育ちも幸せじゃなかったって書いてあった。ゲームの主人公にはありがちな話だから、前世ではあんまり気にした事なかったけど……。いつから変わったのか、でもその後私の中にいたレミリアたんみたいに……ピナのの中から全部見る羽目になってたなら相當ストレスだよね。私よりもつらかったと思う。
その彼もレミリアたんの子供になってるなら幸せ確定だし良かった。當然、主人公は自分の分みたいなじで移して楽しんでたから……星の乙も好きだったし。
レミリアたん、星の乙の本來の魂のことまで考えて救ってくれるとかマジ神じゃん……私まったく思いつかなかったよ……たしかに今は「レミリアたんが気付いてくれて良かった超ファインプレー! さすがレミリアたん!」とか思うけど。
「い頃のわたくしの心を救ってくれたエミとまた家族に戻れるなんて夢みたい。エミにわたくしは救われたから、今度は一緒に幸せになりたいの……ダメ?」
そんな……そんな! しく長した推しに「ダメ?」なんて聞かれたら斷れるわけないじゃないですか!!
嫌なこと全部忘れて、私っていう存在は消えずに來世はこのメチャメチャ人で優しいママの子供に生まれ変わるとか勝ち組確定すぎて怖い。幸福が約束されてるやつじゃん……
幸せすぎてなんだか申し訳なくなってしまう。
「エミは次もの子になりたい? それとも男の子がいい?」
「私は……またの子になりたい、かな」
「そうなのね。じゃあわたくしエミのお母様のように、エミと一緒に料理を作ったりしたいわ」
その言葉に、ああそっかお母さんやお父さんやお姉ちゃんのことも忘れちゃうのか。そう気付いて切なくなってしまう。私の不安そうな顔に気付いたのか、何故か心が読めるようにレミリアたんが「エミの前のご家族のことは、なるべく覚えていられるようにお願いしてみるわね」って微笑んでくれた。
「いいの……?」
「いいのよ、エミがこの世界でわたくしをして、わたくしのために頑張ってくれた事はわたくしが全部覚えているから」
だから安心してお眠りなさい、しい子
抱きしめられて、甘い聲がそう囁く。
私が心からけれたのが彼らにも分かったのだろう、周りを飛ぶ霊が祝福するように私の頬や肩にれて、その度私のはシュルシュルと小さくなっていって繋がっていた紐の本に溶けるように飲まれていく。
ああ、そうだ。ずっと包まれていた溫かい。私が眠っている間守ってくれていたのはこの中だった。私は安心して全てを委ねる。きっとこの、のから溢れるような、を與えてもらった嬉しさは忘れない。
私を包む暖かいの向こうから……おしさを込めて誰かがでた。
「嬉しい……嬉しい、嬉しいっ、やっとエミともう一度過ごせるのね。今度は……ずっと一緒よ」
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