《悪役令嬢の中の人【書籍化・コミカライズ】》2

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魔族の生活が落ち著いたら。同盟を締結したら。易が軌道に乗ったら……夜會で、レミリアが、元婚約者と完全に決別できたら。

我ながら臆病がすぎる。レミリアに想いを伝える機會をうかがって、怖気付いて先延ばしを繰り返していたら気が付けばこんな事になっていた。

もちろん、魔族の生活のために奔走するレミリアは自分のを気にかける余裕なんて無さそうに見えるからという理由もある。仕事で顔を合わせることも多いのに負擔をかけたくない。しかし何より、もし俺の想いをれてくれた後に……レミリアが後悔するような事があっても、俺は彼を解放してあげられそうにないから。

夜會ではきっと、あの星の乙とやらの呪縛は解けてレミリアの元婚約者の王太子は正しいを思い出す。當然レミリアに謝罪もするだろう。……レミリアが、そこで謝罪をれて、やり直したいと思ってしまったら。

レミリアは優しく慈悲深い人だから、泣いて謝るかつての婚約者に絆されてしまうかもしれない。いや、その可能はかなり高いのではないかと俺は考えている。……今、俺が想いを伝えればレミリアは頷いてくれるのではと思っている。

レミリアは不実な真似はしないから、そしたらかつての婚約者に會ってもあちらの手を取るような選択は絶対にしないだろう。スフィアなんかは「あっちに付ける隙を與えないようにはやくプロポーズして、魔王陛下の妃としてエスコートして場するべきです!」などと発破をかけてくるが。

自分が臆病なのも認めるが。俺は、レミリアがむ選択をしてしいんだ。彼は今まで十分に傷付いて、頑張ってきた。周りが何を思うことになろうと、レミリアが選んだ相手と幸せになってしい。俺がその前に想いを伝えていたら、彼の枷になるだろう。……幸い、に鈍い彼は俺の好意が慕だとは気付いていない。もし、レミリアが元婚約者を許すのなら、俺は一生何も伝えないつもりでいる。

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クリムトには、真意を伝えずに魔晶石を贈るのは卑怯だと責められた。いや、レミリアを「聖」と呼び慕ってる魔族達が彼に言い寄るのを防ぐ蟲除けになるし、古くはプロポーズの際だけではなく家族や親しい友人の幸せを祈って換し合うものだった。と言い訳のようにしどろもどろする俺を弟が半目で見つめてくる。

渡す時に、クリムトと話していたところに割ってってわざわざ渡しに來たのも指摘された。完全に無意識だった……。

「何も言わずに獨占だけ見せられてもレミリアさんは困ると思いますよ」

俺だって、彼と結ばれたい。ただ、レミリアが自分で選ぶ前に俺の元に先に縛り付ける事はしたくないと吐するとやれやれと言った風にクリムトは俺にお説教を始めた。

「あのですね、兄さん。自分の作った魔晶石も贈って、それで裝飾品を作って夜會に參加するように伝えて、自分の髪ののドレスまで作らせてるんでしょう? これが囲い込み以外の何ですか?」

「……レミリアの耳に雑音がらないよう、蟲除けに……」

「はいはい、言い訳はいいので。ドレスを渡す時にはちゃんと告白してください。返事は夜會が終わったら聞かせてしいって言えばレミリアさんも選べますから。選ばせるって名目でもう逃げるのはやめてください、じゃないと僕がバラしちゃいますよ?」

ぷりぷり怒ったクリムトは俺を置いて執務室を出て行ってしまった。出る間際「兄さんは自分に自信がなさすぎるんですよね、レミリアさんだって自覚してないだけで絶対兄さんの事好きになってくれてるのに」とため息混じりにこぼしているのは、「バラす」と脅されて恐慌狀態に陥っている俺の耳には屆かなかった。

數日後、腹を決めた俺は出來上がったドレスを攜えてレミリアの元を訪れていた。今日のレミリアは地方の畑の瘴気を浄化した帰りのようだ、城の中に與えた客室に戻っていた彼を「し散歩に行かないか」とって庭に出る。

余裕も資も人手もなく掃除さえ行き屆かずに荒れ放題だった城の中は最近やっと形が整ってきた。造園もしずつだが行い、外國の立派な庭園にはまだ遠く及ばないが遊歩道と芝生を整備して、樹木の剪定も行なっている。花はないが、レミリアは「緑のあふれる庭も素敵よ」と言っていた。

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この庭の手れは、レミリアの村で保護していた魔族の民を3人、再度國に呼び寄せて仕事を與えている。レミリアの発案で、他に使用人として働く帰國者は多い。

ロマンチックな花畑や景の良い場所を知っていたら良かったのだが、生憎と復興を始めたばかりの魔界にはそのような心當たりはない。あったとしてもちょっと気が向いたら行けるような距離ではなく、転移が使えない俺には選択肢にれられなかった。それに、荒れ果てた城だったここは俺の家族との大切な思い出もある場所だ。レミリアなら近場で済ませたなんて怒ったりしないだろうと思ったのだ。

庭師の仕事が板についてきた3人に、庭の中で1番見栄えのすると聞いていた場所についた。なるほど、足元には煉瓦が敷かれ、城の敷地に流れる天然の小川を利用してため池も作ってある。華やかではないが楚々とした花も咲いて、控えめだが十分に心安らぐ空間になっていた。

ここなら……

俺は決心して話を切り出した。

「レミリア…………そ、その、ドレスが出來上がったんだ……夜會で君が著るために作らせていたのが……」

「まぁ、わざわざ屆けにきてくれたの? ありがとうアンヘル」

「いや、その……ちょっと話もしたかったしな」

怖気の蟲が出て俺は急に別の話題を持ち出してしまった。いやいや、萬が一気まずい結果に終わってしまったらレミリアがけ取るのを遠慮してしまうかもしれないから先に渡しただけだ。當然これから改めて想いを伝えるぞ。

「話……?」

「ああ……レミリアは……その、今……想っている相手はいないか……? その、まだ忘れられない、そんな存在とか……」

また怖気付いて、心當たりがないか確認に走ってしまった自分をで言葉を盡くして罵倒する。なんでそんなに臆病なんだ俺は。

い、いや、しかし……これで誰もいないと言われれば元婚約者は完全に過去のものという事だ、そうであれば俺は心置きなくレミリアを口説ける。

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「……想ってる相手……ええ、そうね……実は、いるの……このの中に……世間でのと呼ぶものと同じものかはわたくしもよく分からないのだけど……何より大切な相手が」

「そっ、そ……その相手は例の元婚約者か?」

いる、と言われて俺は思ったより心にけたダメージが大きくてよろめきそうになった。それに、レミリアの幸せを願うと言ったくせに相手を追求するような言葉が口から勝手に出てきてしまう。

「まさか……そんな、前にも伝えた通り、洗脳された訳でもないのに、わたくしの言葉を一切信じないという形で裏切ったあの人をするなんて、無理だわ」

「そう、だよな」

安心してしまうなんて、俺はなんて醜い心を持っているのだろう。心當たりはひとつ潰れたが、ならばその幸福な相手は誰だろうと探るような目を向けてしまう俺にレミリアはし困ったように笑った。

「……アンヘルも、ある意味ではよく知ってる人よ」

「え?」

「最初、実は……その人に対して心怒りをじるような出會いをしたのだけれど」

レミリアの言ったことを理解してしばらく、おめでたい俺の頭は「……俺では?」なんて楽天的なことを思いついてしまう。いや、だってあの時の謁見の間での態度は、打算なしに救いに來てくれたレミリアからすれば怒りをじてもおかしくないやり取りだった。溫厚な彼心怒りをじる、とまで言うならそのくらいのよほどの事に違いない。

「それでも、わたくしを守るために悪意に立ち塞がってくれたり……わたくしの事をとても気遣ってくれる姿を見たり……わたくしのために力になりたいとまで言ってくれて。気が付いたらわたくしも相手のことをとても大切に思うようになっていたの」

俺では?

あれだろ……? その、邪神を浄化する前に戦闘を行なったけど、その時の話だろ?

あの時點で……俺は、多分レミリアに惹かれていたけど。そのせいか無意識に庇うようなきをしていたらしい。

邪神を浄化したその後、今でもずっと自分を顧みずに魔族の助けになろうとするレミリアの調を気遣ったりもしたがその時からレミリアも俺を……?

「その人は、わたくしの名譽の事まで気にしてくれて……何より、わたくしに幸せになってしい、と思ってくれているの」

これは間違いなく俺では? 例の星の乙の犯罪行為を明らかにすると積極的に力を貸しているしな。

そして……クリムトか?! た、たしかに俺の想いはバラしてないが俺が吐いた弱音を伝えてしまうとは……。

俺は顔から火が出る思いだった。

「わたくしは、これがと呼ぶものか、まだ分からないけど……その人のためにも、魔族を救うことができて本當に良かったと思っているし、実はほんのし弱いところもあるその人を、わたくしは守ってあげたい、と思ったの」

これは間違いなく俺だな!!

……守る、導く立場で親からも厳しい言葉しかかけられたことのなかった俺は、「守ってあげたい」というその言葉が自分でも想像していなかったくらいにに響いていた。ああ、俺も……大切な存在は守りたいし、ずっとレミリアの幸せだけをんでいる。周りに自分を偽っていたわけではないが……自分の弱さも見抜いた上でれてもらえるのは、心の底から嬉しい。

両思いを確信した俺は、「素敵なドレスをありがとう」としく笑うレミリアを部屋まで送るとふわふわした夢見心地のまま自分の執務室に戻った。

部屋の中で首を長くして待っていたミザリーとクリムトに、「で、兄さんは好きだって伝えたんですか?」と責められた後に呆れた顔をされたのは言うまでもない。

とうとう夜會の當日になってしまった。相変わらず弟妹からは冷たい視線が寄越されている。過去の罪が誰のものだったかを明らかにして、自分を信頼しなかった婚約者や家族まで救おうと今日に向けて気を巡らせているレミリアに負擔をかけたくなかったのだと弁明したが全く聞きれられなかった。

當日になっても告白もしていないのに自分のを纏わせて、兄さんのは重すぎるし卑怯だとさんざん言われた。自分でもそう思うが、夜會で他の男に言い寄られるレミリアは見たくない。レミリアの母國にも、婚約者は互いの髪や瞳のの裝飾品を贈りあったりにつけたりするという話は聞いている。全を俺ので固めた彼を口説こうとする男は出ないだろう、斷罪劇の前に余計なトラブルを退けるためでもある、と自分に言い訳をする。

馬車の中であんなに張していた彼を1人で會場にらせるのはやはり気が進まない。こちらの國の社の場では、エスコートをするのは親族か、親族以外の男なら婚約者とみなされると聞いた。告白もしていない俺がその立場を願うのはわがままだ。「だからはやく想いを伝えれば良かったのに」とミザリーにグチグチ言われても何も反論ができない。

今日の予定では、夜會の最中宴がある程度盛り上がったら臺本通り王から「親睦が深まった記念にこれから易をさらに強めることにする。的には……」と発表がある。さもこの夜會の最中に決まったように話をされるがすべて打ち合わせ通りだ。人の世界の政治はややこしくて面倒であるが、これも滯りなくことを運ぶために必要な手順なのだろう。

スフィア嬢、および話を通してあるクリムトとミザリーと立てた計畫により、この発表の後に「その前に真の罪人を明らかにしてこの國の中樞から膿を出さねばならない」と俺が割ってる事になっている。場をす事になるが、レミリアは冤罪でもっとひどい騒ぎを起こされたし、後で「詫びに」と王家と貴族連中にリリン酒の瓶を送っておけばいいだろうとスフィア嬢から助言をもらっている。人の世界には慢に至った病気を治癒する方法がほぼ無い。こちらが星の乙の正を暴いてやり、詫びとしてこれを差し出せば向こうは何も言えまいどころか謝するに違いないと言っていたがその通りだろうな。

なのにその夜會開始直後の初っ端、乾杯が終わって星の乙のかけた薬の呪いが解けた直後……俺とこの國の王のやり取りから何を勘違いしたのか、その星の乙當人が走り寄って俺に聲をかけてきたのだ。……この國でも、分が下のものから聲をかけるのはマナー違反で場合によっては不敬罪が適用されたと思ったが。それともまさかこのは俺より立場が上のつもりなのだろうか?

夜會の場で口にするにはかなり直接的な「お飾り」という嫌味も通じない。知ってはいたが、この無禮なは何なんだ? とあえて聞けば名を問われたと思ったのか自己紹介までされてしまう。挙句許していないのに俺の名を呼ぶ。……薬を使って、その薬の効果がこのの力で増幅されていた可能があるとは言え……こんな酷いに籠絡されて、その反対にレミリアの言葉を信用しなかったというのか……?

あまりの衝撃に頭が上手く働かない。しかも、このからは……レミリアが助言をしてくれて、取り扱いを制限したはずの薬の匂いがした。

レミリアの言葉を信用した上で、どの程度の危険があるか薬師に調べさせたが、それら全てに神依存の形と軽い向神作用が認められた。資格者が薬に加工した上で管理して投薬するなら問題ないが、例えばこれを長期的に摂取させられたら確かにレミリアの言う通りにる事になるだろう。副作用らしい副作用はなかったが、「意にそわぬ好意を植え付けられる」と言うだけで十分に害がある。しばらく前にその輸出止を命じたリリスの花のと、アスモーディの塊を求めるものがいたのだ。ただじようとも思ったのだが、レミリアがふともらした言葉から閃いて罠をかける事にした。魔界原産で人の世にない、まったく別のものだが検出が容易な特徴的な匂いの香水と、獨特な味の菜をそれと偽って……賄賂に負けたように見せて流させたのだ。途中で仲介人が死んでいたために足取りはそこで途切れたが、このしがったのか。さらに俺の瞳のことも知っている、一応魔族でも民にはわざわざ言っていないような事なのだが。レミリアの話から描いた通りの人像、知らぬはずの知識を持っているがそれを邪悪な事にしか使わない存在、だな。

予定は狂ったが、先にこのがわざわざ絡んできたのだ。俺とスフィア嬢はこっそりアイコンタクトをして予定よりもかなり早いが今からこのの化けの皮を剝ぐ事にした。その出鼻を挫かれる形で「魔族の方と友好のために同盟を結ぶんですよね? その同盟のために、この國を代表する星の乙のあたしと……魔王陛下が結婚するとかとても良いアイデアだと思うんです」などと言い出して心底驚愕する。……このは何を言ってるんだ?

しかし、その言葉に噓がないのが分かるからこそ俺は混する。……本気でこいつ、俺と自分が結婚するのがとても良いアイデアだと心底思っている。レミリアを貶めてまで王太子の隣を奪ったのではなかったのか? 他にも何人も男を侍らせるのが好きだったらしいと話を聞いたが、まさかそこに俺もれるつもりか。やめてくれ。

と怒りが湧いて頭が沸騰しそうになっていた俺の腕にそっとレミリアが寄り添う。それで冷靜さを取り戻した俺は手が出そうになっていたのをなんとか堪えた。さらにレミリアは、非常識なことを言い出して場をしたそこのを気遣って下がらせてやろうという配慮まで見せる。ほんとにどこまで優しいんだ……

まぁそれをあのがありがたくけ取るような格じゃないのは分かっていたが。しタイミングは狂ったが、やりとりは綿に打ち合わせ済みだ。

この俺に、噓を見抜くと分かっている俺の前で何とか偽りを口にせずレミリアを再度貶めようと苦心するのをばっさりと切り捨てつつも……この場面を見てレミリアが、俺があのされるのではと一瞬たりとも心配させるわけにはいかないと気が焦りすぎた俺は気が付いたらレミリアへのんでいた。

……しまった、星の乙の噓を暴き、國自の繋がりは易を介して強固になり、めでたしめでたしとなったラストダンスを終えてムードたっぷりの中バルコニーにでもってそこで告白しようと思ったのに……

勢いで口走った俺に呆れるでもなく、レミリアは涙ぐんで「嬉しい」と答えてくれた。不甲斐なくも、先に探るような真似をして答えを聞いていたがこうして言葉で聞くともひとしおだ。

このまま庭園に連れ去って告白をやり直したい気分だが、あの星の乙の吊し上げがまだ途中だ。本來の目的を忘れかけてレミリアしか目にってなかった俺の耳に、スフィア嬢の介する聲が聞こえた。

茶番だが、打ち合わせ通りにあのの罪を明らかにする「過去の水鏡」の上映會を始める。あのの罪を造をする景に加えて、あのが部屋でに當たりながら自分より高貴な分のしいや、自分になびかなかった男への怨嗟をんでいる場面も挾んでおいた。薬と魅力の香水の効果が無くなり、フラットにものが見られるようになった周りの人間達はその映像を見てあのに嫌悪の目を向けている。偽証が明らかにされた當時の証言者である子息子達は、口々に「だってあの時はピナさんの方が正しいと思って」「いっぱい証拠があったから本當のことだと思って」と言い訳だけを醜く垂れ流す。レミリアに謝罪をしたのは指で數えるほどしかいなかった。……そのような者達に許しを與える必要はないな。犯罪者の自覚も無い人間に國の重要な椅子を與えるのはいかがなものかと後で匂わせておく必要があるな。

最後に、レミリアに罪を著せる上であのの手足となっていた、レミリアの元護衛の映像。侍達は金銭と引き換えにレミリアを裏切ったが、護衛の男達はそれに加えてを褒に差し出されていた。おぞましい報酬に目がくらんで、「レミリア様にご奉仕を強要された」などと噓をつかれて、清らかな彼はどんなにか傷付いただろう。本當にな悪だったのはどちらだったかを白日の元に曬してやる。

決定的な場面を流して、恥もささやかだが罰の付加になるかと思ったが當のレミリアに止められてしまった。……レミリアが嫌がると思って、この場で吊し上げを行うのは黙っていたのだが。思っていたより障壁を解かれるまでが早かったな、失敗だ。

ふと顔を向けるとレミリアを睨みつける、レミリアの実の父母がいた。本來だったら結婚の挨拶をするべきなのだろうが、レミリアを信用せずにトカゲのしっぽ切りとばかりに見捨てたあの者達に禮儀を通す気は無い。聲をかけることすらせずに無視をして話に戻る。

どうやら、とうとう曇った目が覚めて王太子どの達が真実に気付いたようだ。遅すぎるがな。

手も払い除けられて、みっともなく床に這いつくばった星の乙は何事かうめき出した。その狀態の星の乙をレミリアが気に掛けて、手をばしそうな気配を見せる。やめなさいそんな悍(おぞま)しいものに近寄るのは。

案の定、「発狂」という言葉がこれ以上なく似合うほど錯したが、見た限り重そうなドレスを纏っているのにそれをものともしないきで跳躍してレミリアに飛びかかろうとした。思わず手加減せずに叩き落としてしまったが……まぁこのへの「星の乙」としてのわずかな名譽すら今はもう無いから外問題にはならないか。

この場の全員の目が覚めて目標を完遂した俺と裏腹に、汚く喚くそのを前にしてレミリアは「可哀想」と泣き始めた。……恨みも、怒りも、無いのか。レミリアの言葉に噓は無かった。ひたすら、噓をついて……人を犯罪者に仕立て上げ……薬を盛って偽りのに喜んでいたあのを哀れんで泣いている。でも、その姿はとてもレミリアらしくて……ああ、レミリアならこんなにでも同してやるのだろうなと思うと彼の事がさらにおしくじた。

あのが兵士に連れられて退場した後、一応魔族の執政者として仕事をしておく。魔族が狂化して悪魔と呼ばれていたのも、魔族が信仰する創世神が墮ちて邪神となりかけ世界が滅ぶところだったのも、気が狂ったの戯言と思われようが人の耳にれるわけにはいけない。

本當のところは口封じのためにあのを処刑したいのだが、レミリアはあんな奴相手でも心を痛めるだろうから難しいだろう。人にものを伝える聲や文字を書く指などの手段を全て奪った上で固刑が妥當だろうか? この國の王の意思決定にもよるからそこは確定ではないが。殺せないなら……レミリアのそれまでの幸せを奪った罪で死をむほどの罰を與えるのは最低限必要だ。

結局、夜會はあの騒ぎで流れてラストダンスどころかその後全ての予定が消えた。あのが予想以上に騒いだためそれも仕方がないか。

つまり俺もレミリアに対しての告白がまだ出來ていない。最近はクリムトとミザリーだけではなくスフィア嬢にまで「ヘタレ」と謗られ、今日など「想いを伝えるまで魔界の転移門は潛らせませんから」とまで言われている。

今日は……レミリアが王城に呼ばれて、かつての婚約者だったウィリアルドと顔を合わせの場が設けられている。謝罪のためと名目が掲げられていたが、あの男が復縁を願い出るのは明白だった。

を使い盜み聞きをしていた俺は、レミリアが王太子を拒絶した事に安堵のため息をらす。本人の口から聞いていたが、臆病な俺は今日のこの場を目にするまで「もしかしたら」と悪夢に見るほど悪い想像を散々していたのだ。

「レミリア……これは、あの王子とお前がケリをつけたら改めて告げようと思ってたんだ。……俺と結婚してしい」

けりがついてから、最初からそのつもりだったように言い訳をしてしまう。……告白しようとしていたのが怖気付いて延ばし延ばしになっていたなんて、惚れたに格好が悪くて流石に言えない。このくらいはクリムト達も許してくれるだろう。

しかも想いを告げるだけのはずだったのが、気が付いたら俺の口はプロポーズしていた。に忠実すぎて、というか先走りすぎて自分でも呆れる。種族や壽命の違いは関係になってからじっくり向き合って、それから結婚を考えてもらう予定だったのに。

「たった1人で俺の前に現れた……お人好しで傷つきやすいくせに、人を放っておけないレミリアが、好きなんだ。そんなレミリアを守りたいし……出來ることなら俺の手で、レミリアのことを幸せにしたい」

慌てた俺は全部口走った後に今更な事を話し出す。間抜けなプロポーズになってしまったが、レミリアは涙をこぼして喜んでくれた。俺となら幸せになれる気がする、とまだ心の傷が癒えていないことを窺わせて……それがひどく痛ましくて。

絶対に幸せにする。いや、2人で幸せになろう。そう強く誓って、夢みたいにしくて平和な庭園の中でレミリアと初めての口付けをわした。

現存する魔族にとっては初めての慶事、として俺とレミリアの結婚式は盛大に行われた。レミリアの母國の風習に倣った真っ白いウェディングドレス……という花嫁裝にを包んだレミリアは誰にも見せたくなくなるほどにしい。結婚式は本來の王族の伝統、永らく行えていなかった創世神の神殿での宣誓の後、神殿前の広間に民を呼びれての立食パーティー。近しいもの達はこうしてバルコニーに集める。

今日は朝からクリムトもミザリーも泣きながら喜んでくれて、レミリアを守る騎士として介添人を務めるスフィア嬢などは泣きながら「レミリア様を娶れる幸運と幸せに最大限謝してくださいね!」などと俺に言い放ち周囲を笑わせた。

「もちろんだ、レミリアは俺には過ぎただが、彼と出會えて、想いをれてもらえた自分の幸運に謝しつつ……全力でして一緒に幸せになりたいと思う」

臆面なく言い切った俺に、かつて父と母を失った経緯を知っているこの場の全員が心からの「おめでとう」を送ってくれた。今なら、母を自らの手によって失い命を絶った父の絶がわかる。

「ダメよ……アンヘル、口紅が落ちちゃうわ」

「スフィア嬢が化粧直ししてくれるだろう」

抗議の聲を聞きれず、見せ付けるように皆の前でレミリアに口付ける。困った子供を見るような彼の青い瞳に、甘やかされてる実が湧いて幸せがに満ちた。

「レミリア……してるよ」

返事を聞かずに再度口付ける。聞かずとも分かっていたから。

「あら、アンヘル。また結婚式の映像を見てるの?」

「ああ、何でだと思う?」

「懐かしいからかしら?」

「違うよ……! 君が最近あまり構ってくれなくなったからだよ!」

「あら……しょうがないじゃない、子供が2人もいたらパパと2人きりの時間はどうしてもなくなるもの」

「俺はもうちょっとレミリアとイチャイチャしたいんだが……」

長男のアンリが5歳になって、やっと母に任せられる時間が増えて多手が離れたと思ったら2人目だ。いや、嬉しい……嬉しいのだが、もうちょっと俺との時間を作ってくれても良いと思う。

そう思うと1人目だったので大変にじていたがアンリは手がかからない子供だったんだな。育てやすさは本當にその子によると聞いていたが、エミは起きている時はレミリアが抱いてないとすぐ泣くし、母のけ付けないので毎度レミリアが授する必要がある。必然、俺とレミリアの2人きりの時間はほぼ無くなる。レミリアはいいお母さんなので、子供がいるとちょっと強いイチャイチャは許してくれない。教育に悪いのだそうだ。頬や髪へのキス、ハグだけではちょっとスキンシップが足りない。

今も、授中に俺がレミリアにちょっかいをかけていたら部屋から追い出されてしまった。……授のために、平時もふくよかなレミリアのの膨らみがさらにけしからんことになっているので、ついそのらかさがしくなってしまった俺が悪いのはわかっている。分かっているのだが……

うちの奧さんは笑顔のまま怒るから怖いのだ。すっかりに敷かれてしまっている。

それにしてもエミはいつになったらパパに慣れてくれるんだろう。授は俺には出來ないし、王としての執務の合間をって育児に參加しようと思っても泣き止んでくれず、そのうち泣きすぎて疲れ果てて可哀想に、顔を真っ赤にしたエミを風呂などで席を外していたレミリアに代わるとあっという間に泣き止んだりする。とてもショックである。

「とーさん、またかーさんにワガママ言ってるの?」

「……アンリ、俺は困らせてなど……これは家族のすれ違いを解消するための大事な會話で……」

「アンリ、クリムトおじさまがアップルパイ焼いたから、スフィアのとこからニコラス君連れて息抜きに食べにいらっしゃいって言ってたわよ」

「ほんと?! わーい」

戻ってきてすぐに、我が弟の作ったアップルパイにつられて可い息子は廚房に走っていってしまった。アンリは男の子だが、髪のと瞳は俺と同じだけどその他……顔などはそのままレミリアそっくりなのだ。アンリに冷たくされるとレミリアに冷たくされた錯覚が起きてがキュッとしてしまう。

ま、まぁ、あのくらいの歳だと父親より友人か……。俺は自分を必死でめた。

ちなみにクリムトとスフィアは俺達の後に結婚し、俺達より先に子供を授かったためニコラスはアンリの2つ上だ。母親のスフィアは將來はアンリの側近に……と言って騎士として育てているが、今のところただの馴染みである。

いいな……クリムトは現在城の廚房を預かるチーフコックである、晩餐會でもない限り業務終了時間は比較的早い。夜番は専用の人員がいるしな。それと反対に國のトップは家族とゆったり過ごす時間を作るのも一苦労だ。

休憩時間がエミの授と被って、部屋まで追い出されていじけていた俺の橫にレミリアは腰を下ろした。にスヤスヤ眠るエミを抱いたまま……俺の頬に軽く口付けを落とす。

「まったく寂しがりなパパですね」

「レミリア……」

隣に座った俺のことを甘やかすように、自分より上背のある男の頭をでてくれる。授したてのエミからはふわりとミルクの香りがして……今があまりに幸せすぎるとじた。この同じ城の中で母を見殺しにして父の自死を見ているしか出來なかった昔の俺がレミリアのおかげでしずつ癒されていくようだった。

こんな、平穏で幸せな時間があると思っていなかった。自分がこんなに幸せになれると思ってなかった。幸せな家庭も、寶である子供達も、全部、全部レミリアが俺に與えてくれた。……俺だけじゃなくて、魔族全員を救ってくれた。

一緒に幸せになろう、と結婚を誓ったけど。俺がもらった幸せを返す前にレミリアがくれた幸せが増える一方だ。

「レミリア、してるよ」

「なぁに、いきなり。……わたくしもしてるわ、アンヘル。子供達の次に、ね」

いつしか、子供が産まれてからレミリアの1番は取られてしまった。俺は、それも幸せだとじている。

當作品をお読みいただきありがとうございました!

短編から引き続き読んでくださった方も多く嬉しい限りです。この語は一旦ここで完結となります。

そしてお知らせです、そんな読者様のおかげで「悪役令嬢の中の人」の書籍化が決まりました!

本が出る日など、書籍化の続報とともにたまに後日談など更新する予定なので是非ブクマはそのままで。

あと↓の星をぽちして評価してくださると嬉しいです。

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