翌朝、私たちは再び崖の上にやってきた。

真っ青な顔をした、マルコが數人の手下とともに待ち構えている。

「次期様！　ホーク卿！　本當に、ダンジョンにられるのですか？」

「おう、るぞ？　昨夜あれこれ聞いて回ったが、有益な報は何にも摑めなかったからな」

私と兄が部屋に下がってから、聞き込みをしてくれていたんだ。

「次期様がるなど……もし何かあったら……」

「お前の責任問題になんぞしねえよ。お館様の命令だ」

「な、ならば……まあ」

マルコがをで下ろす様を見て、ホークが肩をすくめる。

「せっかくここに來てくれたんだ。俺たちが潛っているあいだ、誰も立ちらせないようにすることくらいできるよな？」

「は、はい！　それはもちろん！」

「ほんとかよ……」

兄が小さなため息を吐く。

「よし、じゃあ、行くか」

ホークが兄と手を繋いでいる私に視線を流す。なんとか説得して、おんぶは阻止できた。

「長」

昨日よりますます繁っていた々な植が、あっという間に枯れた。

さらに、ポケットからタネを出し、魔力を充填させ、地面に押し込むように植える。

「発芽」

こうすることにより地下數十メートルまでをはり、草魔法使い以外では抜くことができなくなる。そして部分はコブを作りながらびていき、崖下に垂れ下がり、海に到達した。

ニーチェが崖下を覗き込みながら、がダンジョンの口を通るように調整する。

「ＯＫです」

位置が決まると、から蔓やをわしゃわしゃと出してダンジョンの下部に固定した。これで上下固定され、びくともしないロープの完だ。

「じゃあ、ニーチェ、クロエと俺、ジュードの順で降りるぞ」

「ホーク！　クロエは俺が！」

「ハイハイ、兄妹はしいけれど、俺の重はジュードの二倍だ。クロエにとってどっちが安全か考えろ」

「……わかった」

私はホークにヒョイっと抱かれた。

「ホーク、後ろと前、どっちがきやすい？」

「……前はロープ摑むから、後ろだな」

ホークは私をヒョイっと後ろに回した。私はすかさずヒュルヒュルと蔓を出してをホークの背中におんぶ紐縛りする。

「どう？」

「おう。バッチリだ。じゃ、行ってくる」

「お、お気をつけて」

マルコは何故小さな子どもである私を連れて行くのか？　納得していないようだったが、賢明にも口には出さなかった。

ニーチェが手袋をはめて、慎重にコブに足をかけて降りていく。

「だいじょうぶか〜！」

「問題ありません。いざという時は、海にジャンプします」

そうか、ニーチェは〈水魔法〉だ。これは一安心。

「ホーク、私も〈水魔法〉マスターだから、困ったら海に飛び込んでいいよ」

「マジかよ？　クロエ、かっこいいな！　じゃ、遠慮なく降りるぜ！」

私を荷のように背負ったホークは、ニーチェに続いてリズム良く降りていく。

「到著でーす！」

ニーチェがダンジョンのり口に降り立ったのを見屆けて、兄も上からスルスルと降りてきた。

四人全員が、ダンジョンにたどり著くのに五分とかからなかった。

「クロエ様のおかげで、めっちゃ楽でした」

ニーチェがニコニコと笑ってくれた。私はしゅるんと蔓を解いて、ホークの背中からりおり、ニーチェの元に駆け寄った。

「そう思う？　よかった！」

ニーチェが躊躇いながらも頭をよしよししてくれる。嬉しい。

と、思ってたら、ヒョイっと兄に抱き上げられた。

「おにいちゃま？」

「ほら、お前も早く道標の登録しろ！」

「はい」

私は種を十粒ほど蒔いて、魔力を注ぐ。種は固い巖盤に吸い込まれていった。

これから私がく方向に地下をばす。私の魔力を辿って。

「ジュード、クロエ様が可いのはわかるが両手は空けておけ！　昨夜聞いた話ではハグレの狼に襲われたと言ってるやつもいる。クロエ様が疲れた時や、足場が悪いときに手を貸せばいいんだ」

「ならばなおさら下せない。クロエの〈草魔法〉は素晴らしいが、はこの通り小さい」

だめだ！　私、みんなのお荷になりかけてる！　働けること、邪魔にならないことを示さないと！

「ホーク、もし敵がいたら、一撃目は私が躱すから！　その時にみんなの後ろに隠れるから。とりあえずこのままで」

「どうやって躱す？」

「……草盾！」

私たちの四方に最大縦橫二メートルカバーする、草の葉脈をゆるく編んだ移式の盾を展開する。

「……若干視界が悪いですね」

「まあ、どちらにしろ暗闇だ」

「クロエ、どのくらいの力に耐えられる？」

「牛が全速力で二回衝突しても大丈夫だった。三回目で破れたよ」

「……はあ。もういいや。好きなように抱っこしていけ。敵がきたら仲良し兄妹は下がって後方支援だ」

道は曲がりくねっているものの、幅は１メートルほどの一本道で、ホーク、私たち、ニーチェと縦に並んで通り抜ける。天井は低く、大人は前屈みで歩く。ライトの魔法は適魔法がおよそ２０レベルあれば、誰でも発できる。

ニーチェのライトが煌々と頭上を照らし、兄のライトが前方、ホークが後方の闇を消す。

「クネクネと、１００メートルほど進んだな」

「クロエ、息苦しくないか？」

「はい。どこかに橫が空いているのかな」

「今のところ価値のありそうな落としはないな」

「淺い場所は、すでに取られているのでは？」

「シッ！」

前方より、私たちのものではない足音がする。

私は兄から降りて、邪魔にならぬよう巖に隠れ、前方に草の罠を仕掛ける。

「ウウウッ！　ワオーッ！」

狼？　が十匹くらい襲いかかってきた。三匹私の罠に引っかかって転び、バタバタともがいている。そいつらを踏み臺にして、飛びかかってきた狼に、ホークが風の刃を、そして兄が鋭利な氷の礫を五月雨式に飛ばす。ニーチェは勢を低くして、剣を構えていたが、ニーチェまでたどり著く狼はいなかった。

「ふう。やっぱり、何事もないまま最奧には行けないか」

兄はちょいちょいと私を呼び寄せ抱っこした。

「クロエ、良い罠だった。よくやった」

「はいっ！」

「お、おわっ！」

ニーチェの聲に前方に視線を移すと、今倒した狼たちが、蜃気樓のようにゆらゆら原型を揺らめかせ……消えた。

「マジか……」

「幻だったってことですか？」

「このダンジョンに立ちらせないため？」

この世のものではない景を見て、私の背筋にも冷たい汗が伝う。

「気を引き締めて行こう」

ホークが真面目な聲で言った。

それから、５０メートルほど進むと、幻影の狼？　に襲われる、ということを繰り返しながら、進む。

「隨分と深いですよね。気持ち的に、地面の下で町まで戻った覚です」

ニーチェの言葉に頷く。本當に地下で実距離進んでいるのか？　空間魔法の中のようなところでグルグル回っているだけなのか？

道標に意識をやる。うん、きちんとり口にひっついている。

「ふむ……ジュード。私はあと一時間ほど進んで、同じ狀況ならば、引き返すことを提案する」

「……うん。異存ない。正直不気味だ。思っていたのと違う」

兄とホークの言葉に不安がよぎる。これまでのダンジョンとは別のようだ。

兄は腕から私を下さなくなった。私はますます、草盾を強固にする。

そこからまた進み、二度の幻影の襲撃をいなすと、突然、ズン！　という音とともに足元が陥沒した！

「うわっ！」

「おわっ！」

「クロエ！」

「おにいちゃまっ！」

私と兄はギュッと抱きしめあったまま、漆黒に落ちていった。