《草魔法師クロエの二度目の人生》18 ダンジョン②

私は兄にしがみつきながら、闇雲に種をばら撒く!

「クッションになってぇーーーー!!」

ワサワサワサっと、馴染みの生茂る音と匂いがしたと思ったら、ドン! っと地面に落ちた!

私は兄に抱きこまれていたために無傷。

「お、おにいちゃま、大丈夫?」

「いってえ……まあでも、クロエのおかげで痛いだけで済んだようだ。骨も問題ない。ホーク! ニーチェ!」

十メートルほど先で、ポゥっと燈りが燈った。

「いててて、おー! なんとか無事だ〜!」

「わ、私も!」

二人が草の上を、膝で這いながらやってくる。この空間は、想像以上に広い。

「しまった! 道標が途切れた!」

ホークの聲に私も確認する。切れてる……。

「四人揃っているんだ。どうにでもなる」

兄はそう言って、燈りの強さを最大限に強くする。すると一番奧の壁際に、黒く、大きなものが蠢いていた。目なのか? 二箇所だけ金にギラギラとらせて。

「アレに、呼ばれたらしいな」

ホークが剣を抜き、構える。兄もニーチェも同様で、魔力を全開に上げた。

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私は三人の後ろで、足元の草クッションを枯らして、展開中の草盾をにする。

『……まあ、待て、人間』

どこか、のような、らかい、戦意をじさせない聲が聞こえた。

「お、おにいちゃま!」

「……油斷するな」

『警戒するのも無理ないか。しずつ、こちらに來るとよい。ああ、いささか眩しすぎる。源を落とせ』

兄はホークとアイコンタクトをし、宙に浮かせたライトを白からオレンジに変えた。

ゆっくりゆっくり距離を詰める。兄の燈りが屆いたとき、それは巨をグイッと起こした。

「あ……」

の、縦橫十メートルはあろうかという……

「ドラゴン……」

兄が呆然としながら呟いた。

金の目、牙を覗かせる大きな口、私たちを難なく吹き飛ばしそうな、二つの翼。

大好きな絵本の……語の中にしかいないと思っていた生き

しかし、その大きなは……ウロコが剝げ落ちて、傷だらけだ。

私が思わず前に出ようとすると、兄が、手を摑んで止める。

「クロエ!」

「でも、おにいちゃま。ドラゴンです! もし私たちが邪魔ならば、既に殺してます。何かメッセージがあるんじゃないかと?」

『ほう。そのの言う通りだ。今のところ、おまえらに害をなすつもりはない。もっとそばに來い』

「……ジュード、クロエ、私たちの後ろについてください」

ここでめてもしょうがない。私も兄もホークとニーチェの影にる。そして、じわじわとドラゴンに近寄る。あまり意味がないように思える。おそらくこの部屋全て、このドラゴンの程範囲だ。

ホークが足を止めた。そばで検分すれば、その軀はちょっとした丘だった。ヒトの敵う相手じゃないと、瞬時に察した。

まさか、人生でドラゴンの姿を拝める日が來ようとは。

「このダンジョンはあなたが出現させたのか?」

ホークが代表して會話する。

『まあ、そういうことに、なるな』

「なぜと聞いても?」

『お前らを呼び寄せるためじゃ』

「私たちのことをご存知で?」

『まさか。ここにたどり著けるほどの存在を待っていたということじゃ』

「で、なぜ我々が必要だった?」

『我々ではなく、そこのじゃな、しいのは。その魔力量、十分じゃ』

私以外の三人が、一気に臨戦態勢にる。

「うちの姫君を……魔力しさに食らうつもりか」

『いや、生きていてもらわねばならん。お前たちを害するつもりなどない。というか、もう我は壽命が盡きようとしているのじゃ』

そうか……隨分とお年寄りなんだ。この中の傷は、長年に渡って戦ってきた証なのか。もう……死んじゃうんだ。

私はホークのから顔だけひょっこりと出した。

「あの、ドラゴンさま、私にどのようなご用件ですか?」

「「「クロエ(様)!」」」

『ふふふ、このように大人に守られておる存在ならば、なおのこと良い。……ふう。まあ座れ。ちょっと長い話だ』

そう言われても、警戒を解くことなどできない。そのままでいると、ドラゴンは仕方ないというように、肩をすくめ……て見えた。

『ドラゴンは壽命が來ると、卵を生む。その卵に己の叡智を全て注ぎ込んで死ぬのだ』

私たちは注意深く聞いて、うなずく。

『で、その卵は一定期間魔力を注ぎつづけると、孵る。その役目を擔えるヒトを探すため、ダンジョンを開いた』

ドラゴンの金の目が私に注がれる。

『お前はドラゴンの孵化に必要な魔力量を持ち……ふむ、清らかとは違うな。確固たる信念があり、その中味は我にとっては善なり。ゆえにふさわしい。どうじゃ、引きけてくれぬか?』

「……もし引きけぬ場合はどうなる」

ホークが靜かに問う。

『ただ、我が死に、卵は腐る。そうじゃな、しはこの土地にも影響があるかもしれん』

「影響?」

『ドラゴンは積極的ではないが、その土地を守護している。存在だけで、害獣等を寄せ付けぬし、一定の嵐や耳障りな竜巻などは咆哮一つで吹き飛ばす』

「つまり、あなた様がいなくなると、この地の守りが一気に薄くなる、と」

『まあ、我はこの地にざっと100年はおったからな。コレは我の記憶を引き継ぐゆえに、孵化させてもらえれば悪いようにはせんだろう』

四人揃って顔が引きつった。

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