馬で20分ほど走ると、森の中の素樸なローゼンバルク神殿に著いた。

ホークは休みをとり、代わりにベルンが付いてきた。神殿の儀禮などはベルンに任せた方が楽らしい。

祖父は私を抱き、兄が卵(私の魔力で満タン)を抱いて、ベルンを従え中にると、一般の參拝客から「お館様こんにちは〜！」「ジュード様〜」と気軽に聲がかかり、若い神が慌ただしくやってきた。

「お館様、ようこそおいでくださいました。本日はどのような用件で」

「弔いの祈禱だ。神長を呼べ」

「はい！」

勝手知ったる場所らしく、祖父はドンドン奧に歩き、応接室らしき部屋を開けて、どかっと座った。

その両脇に兄とベルン。私は祖父の膝の上。

トントンとノックされ、ドアが開くと、麥わら帽子を被り、痩せたに生りのシャツにカーキのフレアスカート姿のおばあさんがってきた。

「お館様、突然のお出まし、弔いとのこと、何がありましたの？」

「神長、農作業、が出るな。ジュード、結界を張れ」

このおばあさんが神長なんだ。目を見張る。モルガンや王家のお抱えのツンとした神とあまりに違いすぎる。

ふっと周りが冷気に包まれた。兄の結界の仕様はどうなっているんだろう？

最低でも、ここでの會話が外に出ることはないはずだ。

「ジュード」

祖父が聲をかけると、兄は慎重に運んできた卵を靜かにテーブルに置いた。

「これが何がわかるか？」

神長はスッと目を細め、卵を観察し、

「もしや……ドラゴンですか？」

「さすがですね」

ベルンが心する。

「何故わかった？」

「魔力を纏った卵など、なかなかありますまい。若い頃、大神殿の書で読みました。ドラゴンは代替わりのさい、ヒトの手を借りる。ドラゴンはそのヒトが生涯を終えるまで、その人生に付き従う、と」

「生涯？」

兄が口を挾む。

「ドラゴンは長壽ゆえ、一人の人間の一生など、たいした月日ではないのです。若き日のほんの一瞬ヒトに従い、その後は自由に飛び去る……とまあ、こう言った話もお伽話かと思っておりましたが、いやはや驚きました。で、お館様、どなたが親に選ばれたのですか？」

「クロエだ」

「は、はじめまして、クロエです」

祖父の膝の上からちょこんとお辭儀した。

神長は頭の麥わら帽子をとって、真っ白な髪を襟足で結った頭を下げた。

「ああ、エリー様の……はじめまして。ドーマと申します。いつも孤児院の子らと遊んでくれてありがとうございます。ふむ……これは人とちょっとばかり違う魔力……親ドラゴンの加護のようなものをクロエ様は纏っております。隨分と気にられたようじゃのう……」

ガイア様、前世の私に同してくださって、加護？　をくださったのだろうか。

「親ドラゴンは何じゃった？」

「砂です」

兄が私に代わって答える。

ドーマ神長は戸棚から、ひと抱えある楕円形の白っぽい石を取り出した。これは……。

「クロエ様、ちょっと手を乗せてごらん？」

鑑定石だ。祖父を振り返ると、頷いた。ここにいるのはを守れる人間ということだ。

私は一年半ぶりに手を乗せた。

プッと音をたてて、數値が浮かぶ。

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適:〈草魔法〉レベル１０５

適:〈土魔法〉レベル３０

その他:〈火魔法〉レベル７

その他:〈水魔法〉レベル７３

その他:〈風魔法〉レベル４３

その他:〈空間魔法〉レベル２７

その他:〈木魔法〉レベル１５

その他:〈紙魔法〉レベル１０

その他〈氷魔法〉レベル２

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「っ！」

祖父の後ろのベルンが息を呑む！

「適が……二つだと？」

祖父が眉間にシワを寄せた。

「……どうやら、親ドラゴンが己の分を守らせるために、クロエ様に力を與えたようですね。そんな心配いらなかったような、習得魔法の行列ですが」

ドーマ神長が苦笑した。

「クロエ、〈土魔法〉はそもそも持っていたのか？」

「はい。でもレベルはここまで高くはなかったと……」

どの魔法もしずつレベルアップしている。この地で遠慮なく魔法を使っているおかげだろう。あ、祖父と兄に手ほどきをけた〈木魔法〉と〈氷魔法〉も載ってきた。

「……ジュード。お前も久しぶりに測るがいい」

私とれ替わった兄が、石に手を載せる。

數値を見て……全員のきが止まる。

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適〈氷魔法〉レベル７７

適〈土魔法〉レベル２

その他〈木魔法〉レベル５

その他〈水魔法〉レベル３３

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「俺も土の適が付いた……」

神長が兄に問いかける。

「ドラゴンとの対面のとき、ジュード様はクロエ様とご一緒でしたか？」

「もちろん」

「では、卵を守るクロエ様を守るジュード様にも加護を與えられたのか？　ただ、クロエ様のそばにいたために一緒にに當たったのか？　まあ何にせよ、適二つ持つものが二人など前代未聞。ローゼンバルクは安泰でございますね」

神長はコロコロと笑うも、祖父は厳しい顔をした。

「ドーマ。このことを中央に報告するというならば、今ここで殺すぞ？」

神長はゆるゆると首を振った。

「誰にも話しませんよ。のでこの地に赴任し、何度となく飢饉や敵の侵攻に遭い大神殿に助けを求めましたが、一度たりとも手を差しべられたことなどなかった。ここローゼンバルク神殿の忠誠はお館様にあります。それに……」

チラリと私と兄に視線を送る。

「このようなことがバレれば、我々の未來を擔うお二人がモルモットにされてしまうでしょう」

私は思わず、祖父にしがみついた。そんな私を祖父は包み込み、背中をさする。安心しろと言うように。

「わしの目の黒いうちはお前たちに何者からも手出しはさせん。だが、わしはお前らよりも先に死ぬ。二人ともわしが死ぬより前にわし以上の力をつけろ」

「……はい」

兄は返事をしたけれど、祖父が死ぬ、やっと見つけた穏やかな日々の終わりのことなど考えたくなくて、私は祖父のに顔を埋め、ブルブルと震え続けた。

「これはこれは……お館様、厳つい顔をしているくせに、よくもこうも懐かれましたな」

神長がふふふと笑った。

「わしも……常々不思議に思っている。では、ドーマ、このローゼンバルクの地に１００年あまり逗留してくれた、ガイアという名のドラゴンへの謝と、この卵の孵化、そして、この子ら含む我がローゼンバルクの子どもたち全ての健やかな長を祈禱してくれ」

「かしこまりました」

人払いされた神殿で、私たちは跪き、神長による祈禱をけた。両手を合わせて祈りながら、私の健康を祈ってもらえる幸せを噛みしめた。すると、目の前に置いていた卵がキラリとった。

のちに私たちから姿を聞き取った地元の畫家が、ガイア様の絵を描き、神殿にローゼンバルクの守護神として祀られた。