《草魔法師クロエの二度目の人生》30 王都 リールド

ドーマ様が一緒なので、ゆっくりの移予定だったのだが、ドーマ様の乗馬はとても鮮やかで、休憩を挾む必要なしと言い、前回私が王都を出たときと同じペースで旅は進んだ。

エメルはマリアの作ってくれた、抱っこ紐を使い、私のの前に収まり、人気がない荒野では、外に出て、楽しそうに飛んでいた。

そして、約三年ぶりの王都に著いた。

初めて訪れた王都のローゼンバルク邸はなんの裝飾もなく、四角い実用的な三階建ての建だった。

「お前の祖母が死んでから……屋敷まわりに気をつけるものがいなくなってな……客も呼ばんし……」

祖父が歯切れ悪く弁解する。

「おじい様がいるお家なら、どこでもいいです!」

そっと祖父の手に手をり込ませ、繋いだ。祖父はほんのし目を下げた。

「……まあ、これからクロエが飾り付けるといい」

この家を次に切り盛りするのは兄の妻だろう、と思ってが軋んだけれど、にっこり笑ってやり過ごした。

すぐさま大神殿に遣いをやり、我々が王都に到著し、明日午前、神言を攜え訪問することを連絡する。

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皆で夕食中に、「お待ちしている」という返事が來た。

祖父とドーマ様はニヤリと悪い笑みを浮かべ、明日の最終打ち合わせをした。私とエメル、その他の皆も、ふんふんとしっかり聞いて、自分の役割を確認した。

「おそらく王家の者もこっそり覗きにくるだろうよ」

祖父がグラスを手の中で回しながら、冷めた口調で行った。

「え? 王家と神殿って仲良いのですか?」

大きな権力同士は対立するものだ。前世では私は神殿からもザコ扱いだったので、関わることはなかったけれど。

「得の知れない相手がやってきたら、とりあえず巻き込みたくなるものだ」

「これもリスクの分散ってわけです」

祖父とホークが教えてくれる。

「それに、クロエ様ご出のモルガン家はかつて神を買収したと聞きました。つまり神殿と淺からぬつながりがあるのです。侯爵も覗き部屋から見ているかも知れませんね」

ドーマ様が心配そうに私に教えてくれる。

「覗き部屋なんてあるの?」

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「救いを求めてやってくる信者への、神のたまに當たるアドバイスは、単純に覗き見覗き聞きした結果の産なんですよ」

「ええ……?」

ホークの裏報を聞いて、ちょっとがっかりだ。神ゼロじゃないのよ……。

「では、見た目以上の聴衆がいると思って、ドーマ様もエメルも演技しなくちゃですね! エメル、責任重大だね!」

『ふふふ〜! 今代の大神長、どんなやつだろうな? 200年前の奴よりもふざけたやつだったら凍らせよう』

「エメル様、大神殿にいる神、ぜーんぶ腐ってますので凍らせていいですわよ!」

『りょーかーい』

ああ、一つの社會のトップと明日対峙するというのに、こののなさ。

私の大好きな大人たちは、本のツワモノ揃いなのだ。

……トムじいも、その一人だった。

私は一重模様となった、寂しい手首をそっとでた。

◇◇◇

翌日、大神殿に向かった。さすがに今日は馬車だ。

祖父は私と初対面のときの軍服を著ている。衰えを知らない引き締まったつきだから、とても粋だ。

ホークにはちょっと驚いた。今日は紺のスーツをビシッと著て、金髪に綺麗に櫛を通している。

「ホークって、本當に貴族なんだね」

「クロエ様、惚れちゃいましたか? まあ貴族って言っても伯爵の三男坊です。親父の爵位を一つもらってはいますが、追い出された先の軍でお館様に出會って以來、ずーっとローゼンバルクの一兵隊ですよ」

「すっごく素敵!」

前世の私は、高位貴族として、第二王子の婚約者として、あらゆる社の場に行き……壁の花だった。ゆえに目はえているつもり。ホークの正裝はとてもに馴染んでいて、風格がありカッコいい。前世のホークもローゼンバルクにこもりっきりだったのだろうか? 前世、こんな強さの滲み出た本の男であるホークを見かけていたら、私の濁った目も覚めたかもしれない。

さらに驚いたのは、ドーマ神長。すっかり黃ばんだ……元は真っ白だったと思われるボロボロの神服だった。

「長いこと神服も新調させてくれなかったことに対する……まあはっきり言えば當て付けですわ」

ドーマ様と中央の大神殿にはどうやら深い確執があるようだ。

私の格好は、子どもサイズの白い神服に頭をすっぽり覆う神帽。髪のを全部その中に詰め込んで、男裝している。ドーマ神長の見習いのだ。この姿で、明エメルとともに、神長の後ろに控え、いつでもエメルに魔力を渡せるように。

「エメル様、もしなんらかの危険が迫った時は、クロエを連れて逃げてくださいますか?」

祖父がエメルに尋ねる。あらゆることの対処を講じるおじい様。

「おじい様、大神殿とは神託を授かった神に害をなすほどなんでもありなのですか? もしそうならば、一番狙われるのはエメルでは? エメルを奪おうとするかも? エメル、そうなったら、一人で逃げるんだよ?」

『オレを捕まえ、従わせることができるとでも? そんなそぶりを見せたら、大神殿ごと破壊してやる』

「「「どうぞどうぞ!」」」

……大人たちは、揃いも揃って大神殿にいい印象がないらしい。

「エメル……まあ、そんなこともあり得るって、思ってて?」

『わかってら〜』

私とエメルはコツンと頭をひっつけた。冷たいっ!

◇◇◇

半時ほど走ると馬車はゆっくりと止まった。

私は帽子を深くかぶりなおし、エメルは姿を消して私の肩に止まった。

者が扉を開けると、ホーク、祖父、神長、私の順で下りる。

前世以來の大神殿は、大理石で白々とり、無意味な威厳を醸し出していた。すぐさま、ドミニク王子とここで祈ったときの不愉快な思い出がよみがえり、はあとため息をつく。

「ふふふ、この神殿を見て呑まれないなんて、さすがクロエ様」

ドーマ様が小聲でそう言って笑った。

ホークがさりげなく私の後ろに下がってくれて、守ってくれながら、皆で幅広の階段を上り、り口に到著する。

私達をバカにするように上の方から我々を見下ろす若い神。祖父の連絡は行き渡っていないのだろうか? それとも敢えてのこの軽んじた出迎え?

ドーマ様が一歩前に出て、名乗る。

「はじめまして、お若いかた。ローゼンバルクから參りました。大神長にお取り次ぎを」

「これはこれは、あのような僻地からお出ましとは。一どのような用件でしょう?」

「それは、大神様にしか、お伝えできませんわ」

「困りましたねえ。大神様はあなたごときのお相手をする暇などないのです」

そう來るの? まさか、門前払いとは?

『なんだこの茶番?』

エメルがピリッと痛い覇気を出す。

「試しているつもりなんですよ」

ホークが私とエメルにだけ屆く聲で教えてくれる。

「なるほど、では大神に伝えておけ。ローゼンバルクは一応筋を通すためにわざわざ先れを出して貴様のいう辺鄙な辺境からやってきたが會う時間がないという。……つまり會うほどでもない、時間は大事に使え、わしに任せるという、寛大な計らいであると解釈した。大神殿からは、これからの件の承認を得ていると、國王にはわしから話は通しておく。ではな」

おー! おじい様ってば案外強引だな〜。まあでも仕掛けてきたのはあちらだし……と思っていたら、祖父はヒラリとマントを翻し、馬車に戻る。ドーマ様もそれに続いたので私も慌てて階段を降りる。ホークも私の歩調に合わせて橫を歩く。

『リチャードは相手にしないのか。まあ無難だな』

「お、お待ちください!」

慌てて、別の、し落ち著いた神がやってきた。

「ローゼンバルク辺境伯! 大神様の準備が整いました。どうぞ、中へ」

「……話が違うのでは?」

しんがりに位置していたホークが、底冷えするような眼差しで言い放つ。

「……ホーク子爵? あなたまで同行を? ちょっと、行き違いがあったようです、ささ、中へ」

ホーク……子爵なんだ。

「まさかと思うが、建國以來300年、北の國境を守ってきたローゼンバルク辺境伯を、試したのではあるまいな?」

ホークが地を這うような低い聲で問う。私に一度も聞かせたことのない、よそ行きの聲。

「……なぜ、たかだか僻地の下級神が、このような大たちを引き連れて……せいぜい領主の遣いと一緒にやってきたとばかり……」

ホークに睨まれた神たちがざわめく。

「私はローゼンバルク辺境伯ほど寛大ではない。リチャード様、帰りましょう。お館様の時間は安くない。幸い、話のわかる大神には許可はもらえたも同然ですし、こやつらのいう僻地を長く開けるわけにはまいりません」

ホークが、右手をに當て、祖父に進言する。

「ですから、お、お待ちください!」

力の抜けた戸い聲を背にして、私たちはあっという間に馬車に戻った。者がドアを開け、祖父はドーマ様をしいエスコートで先に乗せようとした。

「辺境伯殿!」

意思を持って祖父を呼び止める聲に一堂ゆっくり振り向くと、大柄の、金の意匠が他より多い神服を著た年配の男が階段の上に立っていた。

「お館様……おそらくここの副神長ですわ」

ドーマ様が囁く。服の模様でわかるようだ。

「手違いで、大変なご無禮を致しました。お詫び申し上げます。私は副神長カダールと申します。是非我々にこのたびのお話をお聞かせください」

「……お館様、大変苛立っているとは察しますが、どうか、副神長の顔を立ててくださいませ」

ドーマ様が、困ったように笑う。祖父は大きなため息をついた。

「我らの神長がそう言うのならば、仕方ない」

ドーマ様が……副神長と祖父のあいだを取り持った。すかさず貸しを作った。

「大人って怖いね」

『時は金なり。20分のロスだ』

エメルがどんどん不機嫌になる。

私たちは、再びスタートラインに戻り、神殿に招きれられた。

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