《草魔法師クロエの二度目の人生》142 連行

エメルが苦しげに転げまわり、置やら東屋などをミシミシと破壊した。

「エメルーーーー!!」

『これは古代の隷屬の……おのれ人間、許すまじ……』

エメルが聞いたことのない苦しげな鳴き聲を上げる!

「なんなの? 止めてっ! 止めてー!!」

私はハコの中からエメルに向かってんだ。

「クロエ様! いかが……え、エメル様っ!」

ベルンが駆けつけ、狀況に愕然とし、一瞬で見極め、両手を振り上げ敵の二人に攻撃を仕掛ける! ベルンお願い!

しかし、ヒゲ男はベルンにニタリと笑い、エメルを見據えた。

「黙れ、暴れるな。靜かにしろ」

エメルは目をギラギラとらせながら、口をつぐみ、かなくなった。

「まさか……エメル様はこのようなものたちの言いなりに?」

無理矢理言うことを聞かせられているの?

従わない場合は苦痛を與えられている?

私もベルンも、きが取れなくなった。

「はははっ、面白いように筋書き通り。さあ、辺境伯令嬢クロエ嬢、ドラゴンのが心配ならば、私たちと共に、お茶會に來てもらいましょうか?」

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「……わかりました」

従わない選択などなかった。

「素直ですね。結構です。ではしばらくそのままで。ジャック!」

ジャックはチラリと私を見たがすぐにエメルに視線を移し、両手を天に向かって広げた。すると三階建てのこの屋敷と同じ高さの虛無の空間……ジャックの巨大なマジックルームが口をぽっかり開け、じわじわとエメルに向かいそのがエメルを喰らうように被さった。

「エメル!!」

私の悲鳴はどこにも屆かず、エメルは吸い上げられるように、その中に消えた。

そして、ジャックがパチンと指を弾くと、私を覆っていたが消え、私は思わず膝をついた。

一気に肺に足りていなかった酸素がまわり、脳がグラグラと揺すぶられる。

「クロエ様っ!」

ベルンの聲が、遠くに聞こえる。

「さあ、立ってください。參りましょう」

私は両足を叱咤して、ふらふらと立ち上がる。

「私のドラゴンは……無事なんでしょうね?」

「それはクロエ様次第ですねえ」

……この非道な奴らに捕まったエメルが、無事である保証なんてない。

でも、一縷のみがあるのなら、従うしか道はない。

「……行き先が王宮ならば、せめて著替えさせてくれないかしら? 寢巻きなんだけど」

「おや、あなたはまだ自分の立場がわかっていない? あなたの口答えが、ドラゴンにどのような影響を與えることか……」

「ならばいいわ、このままで。そのかわり、この格好でお茶會に臨むこと、あなたから王妃様に説明して」

「そのくらいお安い用です。まあ、貴族のお嬢様にはこんな汚い姿、耐えられないでしょうけどねえ」

この寢巻きが汚い? そんな言葉で私のプライドを折ることができるとでも思っているの?

一度目の人生では、寢巻きなど用途別の服など與えられなかった。今回の人生も、ローゼンバルクに行くまでは、小さくり切れたものしか著ていない。

これは、私のまみれになったとはいえ、するマリアが私に似合うと笑って選んでくれたもの。堂々と歩ける。

「クロエ様!」

「あとはよろしく……ベルン……いつもありがとう」

「クロエ様……っ!」

大事なことは、口にしておいた方がいいと思った。機會があるうちに。

◇◇◇

私は何の変哲もない馬車に押し込まれ、護送された。両脇をジャックとヒゲ男に挾まれたけれど、特に拘束されたり検査されたりということはなかった。

エメルを人質にされている以上、私が歯向かうはずがない。それを彼らはわかっている。

令嬢、ずいぶんおとなしいな」

エメルを苦しめたことに関してだけ、この男たちにグラグラとした怒りをじるが、今、彼らを罵倒しようとは思わない。

「私の疑問に答えてくれるのならば、おしゃべりしますけど?」

「あー悪いな、全くその期待には応えられんわ」

それはおそらく真実だ。彼らは所詮駒でしかなく、私とエメルを捕らえた機を私に説明できないだろう。命令されたから、それだけだ。私は靜かに目を閉じた。

エメル……今頃どうしているのだろう。マジックルームの中がどうなっているのか? そこで生は生きていられるのかもわからない。もっと〈空間魔法〉を學んでおくべきだった。

私のに、魔力が余っているのがわかる。六歳から10年間、卵時代も合わせて日々エメルに注いできた分だ。

ジャックのマジックルームの中、私の魔力の補給なしで、エメルは一どうゆう狀況なのだろう。

私はエメルに頼りすぎていた。エメルならば何があってもはねつけられると思い込んでいた。私は〈魔親〉なのに……。

エメル……エメル……エメル……。

涙がせり上がってくるのを気合で止める。こいつらの前でなど泣くものか!

この行き場を失い、私ので迷子になっているエメルあての魔力、絶対無駄にしたくない! どうすれば……。

ふと、視線を落とすと、憎っくきジャックの左手が目にった。この手があの壯大な〈空間魔法〉を編み出した……。なるほど。

私は自分の右肩……いつものエメルの定位置にマジックルームを作ってみた。そしてその中に周回中の私の魔力を導し、閉じ込めたらパタンとドアを閉じるイメージをした。

うまくいったかどうか? なので確かめることはできないが、ひとまず魔力は落ち著いた。功か否かはエメルが帰ってきたときにわかるだろう。

エメルが戻ってくると信じて、自分に出來ることを探すのだ。

「……クロエ様、何をしたの?」

私よりも〈空間魔法〉ではるか高みにいるジャックが何か察したらしい。でも、自分すら功したかどうかわからない行為で、他人に説明できるものでもない。

「……お片づけでしょうか?」

返事をせずに、怒らせるのも得策と言えず、私は素直に口にした。一緒にダンジョンを攻略していたときにように。

「……なるほど」

思ったとおり、馬車はまっすぐ王宮に向かい、絢爛たる門をノーチェックでくぐった。

さらに馬車は走り続け、政務を行う宮殿の裏に回った。そこは普段は臣下が立ちることを許されない……立ちりたくもない……王族のプライベートスペースだ。

玄関前で馬車から下ろされ、二人に挾まれた狀況で屋った。そのまままっすぐ歩くとまた扉をくぐり建の裏側の外へ出た。

ここは一言で言えば裏庭、だろうか? 王宮の一角というのに華やかな草木で彩られることもなく、土壌が悪いのか植も昆蟲も気配がなく、僅かながらの匂いがした。大層なお茶會會場だ。

力押しで草を芽吹かせ攻撃できなくもないが、この場所について理解していない以上、今は余計なことをしない方がいいだろう。王家は、私たちが想像もつかない隠し球を持っていると、をもって知ったばかりだ。

宮の衛士に囲まれながら、私とヒゲ男とジャックは無言で立ち盡くしていた。一時間ほど経ったところで、屋への扉が開かれた。

「伏せろ」

ヒゲ男にそう言われると同時に頭を押さえつけられる。抵抗せずに膝をつくと両脇の二人も片膝をついて首を垂れた。

數人の足音が聞こえ、ドアがパタンと音を立てて閉じられた。

「っ!」

この息を飲む聲は……私の覚え違いでないならば……。

「面をあげよ」

そして遠い昔、一度だけ話した聲で命令される。従わせることに慣れた、ハリのある傲慢な聲。

両脇の男とタイミングを合わせ、ゆっくりと顔を上げると……王族が勢揃いしていた。

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