「はぁ……」

揺れる馬車の中で私はため息をついた。もうこの國には二度と帰ってくる事はないだろうし、正直生きていられるかも分からない。

それでも、私は行かなければならない。この國の第二皇だから。

去年、隣國のバラトニア王國と、我がフェイトナム帝國は戦爭になり、バラトニア王國が勝った。

制圧戦爭ではなかったため、和平協定が結ばれ、その中の一つの項目にフェイトナム帝國の皇を嫁によこすようにという項目があったのだ。

私は第二皇で、第一皇の姉と、第三皇の妹がいる。他に、兄が２人。第一皇子と第二皇子だ。

バラトニア王國には王子が２人いるだけで、當然皇子２人は除外。３人の皇の中から選ばれたのが私、クレア・フェイトナムだ。

選ばれた理由は分かっている。

２歳年上の姉、ビアンカは絶世の貌の持ち主と讃えられていて、想もよく、淑教育も完璧だ。……格は、どうかとは思うけど……、高位貴族に降嫁するなら問題ないだろう。

そして１歳年下の妹、リリアは、可らしさとがあり、こちらも淑教育は完璧。格は……まぁ、どうかと思うけど……、これもまた國の高位貴族や屬國に嫁ぐなら問題ない。

私はというと、特段人でも可くも無く、上と下から心がつく頃には見下されていたので格には一番難がある。卑屈で想ももない。淑教育の敗北ともいえる鉄仮面ぶりで、正直姿勢も良くないが、家庭教師に匙を投げられた。

その代わり、勉強にのめり込んでしまった。王宮にある本は方読み盡くし、他國の本にも手を出したので語學は堪能、歴史、経済、政治、蕓はできるが、にそんなは求められていない、というのが父母と兄２人と姉妹の言だ。私もそう思う。

だけど、仕方ないじゃない？

貴はしくないわね、と言われて。

お姉様は笑うのが下手ですね、と言われて。

なぜもっと可らしくいられないのか、しくいられないのか、と親兄弟に責められたって、姉にも妹にも馬鹿にされているように、私は見た目ではとても敵わない。

灰の瞳に白に近いウェーブのかかった髪。このぼやけた顔は、姉や妹のような鮮やかな金髪やルビーの瞳の彩の前では霞んでしまう。顔立ちも、でも可くも無い。不細工とは思わないけど、やはり姉妹の中では一番見目は良くない、と思う。正直醜はあまり分からない。

親にも真っ先に生贄に選ばれるような私が、何にハマろうともういいじゃない、という半ば開き直りから私は勉強に沒頭した、というわけで……。

(將來は僚の誰かとくっついて、私も僚として働きたかったな……)

そんな僅かな夢を葉える事もできないまま、私は敵國に嫁いでいる最中だ。

戦爭の理由は……フェイトナム帝國は屬國をいくつか持っているのだが、バラトニア王國は植民地として充分な広さがあり、穀倉地帯を抱え、ちょうど反対側に海がある國だ。

バラトニア王國は數代前にフェイトナム帝國が植民地として屬國に下したが、土地柄からフェイトナム帝國と違っておおらかな易を行っていたため、力をつけて獨立戦爭を起こし、見事獨立した、というわけだ。

だから元々仲が悪いわけではないけれど……、今まで自分たちを下に見ていた國からの輿れなんて、歓迎されるはずも無い。

仕方ない。私は死ぬかもしれないが、國民の為だと思えば耐えられる。親兄弟のためだと思うと気が萎むけれど。

「はぁ……」

もうすぐ國境だ。

私は、何度目かわからないため息を吐いて祖國を後にした。