《【書籍発売中】【完結】生贄第二皇の困〜敵國に人質として嫁いだら不思議と大歓迎されています〜》37 お忍びスタイル

今日は仕事を休むことを、昨日の晩餐の時にアグリア殿下に伝えてある。

結婚すれば私の顔は広く知れ渡る。その前に、お忍びで城下町を歩いてみたいと言ったら、快く了承してくれた。

ずっと働き詰めのアグリア殿下には申し訳ないが、結婚式が落ち著いたら長めのお休みを取るそうだ。私と一緒に旅行に行きたいと言ってくれた。

その日の晩餐はその話と、お茶の時間もどこに行きたいかで埋まってしまった。

「明日出かけるならもう寢ないと。あぁ、クレア?」

「はい、なんでしょうか?」

「ナンパされても付いていってはいけないからね」

「されません!」

なぜこうも心配なのだろう。まだバルク卿やジュリアス殿下なら分かる。ひとたび仕事を始めれば一緒にいる時間も長くなるからだ。

しかし、市井の民にナンパされて付いていくなんて、そこまで軽に見えるだろうか。

私はなんとなく腹が立ったので、眉を吊り上げて殿下の手を両手で握ると顔を近づけた。怒ってる間逃がさないようにだ。

「あのですね、私は殿下が初で生涯の伴も殿下だけなんです。信用がないとへこみます」

「わ、わかった、わかったから、離れて……」

「もう、浮気だとか言いませんか?」

赤い顔でたじろぐ殿下に、さらに詰め寄る。殿下の腰が引けているが、鍛えているので特に倒れたりはしなさそうだった。

「もう言わないから! ごめんって!」

「分かればいいんです、分かれば」

私は怒気をおさめてにっこり笑うと、ようやく元の位置に座り直して手を離した。

そういえば、婚約していてもあまりこうしてれ合ったりはしたことがなかった気がする。

「殿下」

「な、なんだい?」

私は今度は心からの笑顔でアグリア殿下に向き直った。

「旅行の時は、いっぱい手を繋ぎましょうね」

この後、生殺しだ……、と呟いた殿下とおやすみなさいと挨拶をして別れた。メリッサとグェンナがおかしそうに笑っているのが気になる。何か変なこと言ったかしら?

と、いうわけで、今の私は街の商家の娘のような格好をしている。よくあつらえてあったものだ。

長い髪を太い三つ編みに編んでリボンで結び、膝丈の淡いのワンピースに白いつばの短い帽子、白いポシェットという出立ちだ。

メリッサとグェンナもそれぞれ私服姿で、お金はグェンナが預かってくれている。グェンナは金髪を結いあげて白いフリルブラウスにハイウエストのロングスカート、メリッサはパフスリーブのワンピースだが膝下までの上品なスタイルだった。

友達と出かけるのはこんな気分なのかしら? と思って二人を褒めちぎっていると、ほら行きますよ、と苦笑いされてしまった。

街の近くまでは馬車で向かうらしい。帰りの時間には同じ場所で馬車と待ち合わせることにして、私たちはリュート探しに街に出た。

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