《【書籍発売中】【完結】生贄第二皇の困〜敵國に人質として嫁いだら不思議と大歓迎されています〜》48 極冬の船
「お、おきい……!」
「あぁ、あれが攻め込んできたのかもしれないと思うと……ゾッとするね」
相手の船は大きな白い帆の他に、船首に白旗を掲げていた。攻撃の意思無し、という意味だとガーシュが予め教えてくれていたので、恐れもなく港町でアグリア殿下と船を迎えれられた。
とはいえ、今まではフェイトナム帝國の監視の元、シナプス國との裝飾品と木材や食糧の易が許可されていたにすぎない。言ってみれば、遠目からでも小山のように見える船が10隻もれる港ではないのだ。
ただ、今は港町の倉庫からはみ出る程の食糧が用意されている。見遊山の平民も來ているが、今日は港の男衆を雇いあげて荷の運び込みに全員を駆り出した。
10隻の船団だというからこちらも人手も麥も、保存の効く干しや菜まで用意したのはいいのだが、船が余りそうな気がする。3隻もあれば充分にも思うが、足りないと言われても出せるはこれが全てだ。
自國が飢える、もしくは飢饉に備えられないのはもってのほかである。だが、船団のうちの一隻、代表者が降りてきて會話をした時にその不安は消えた。
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「はじめまして。ラ・ムースル王國の大使として參りました、財務の責任者、ル・レイル・グレン侯爵です。グレンとお呼びください」
「遠路はるばる足労をかけた。私はこの國の王太子であるアグリア・バラトニアだ。アグリアで構わない。この度はこちらとしても利のある、長い付き合いになる取引を親書の一つでわさせてしまいすまなかった」
「いえ、こちらこそ、渉をする前に我が國には何もないと決めつけ攻め込もうなどと……淺はかでした。遠洋漁業の提案と許可をいただけたこと、そして、食糧の支援、痛みります。心より……本當にありがとうございます」
グレン侯爵はし頬のこけた神経質そうなの白い男だった。髪は質な銀髪で、それを長くばし綺麗に整えている。一週間の船旅だったはずだが、変な悪臭もしない。一あの船にはどんな技が詰め込まれているのか、私はそちらに気を取られそうになって、ハッとして背を正した。
大使としてきた彼は泣きそうな震えた聲でアグリア殿下と両手で握手をわし、正式な書面……ほとんど陛下が書いた親書と同じ容を、公正な取引の証書として仕上げたものだ……を持ってきていた。今日は大使及びその付き添いの方は城に向って休んでもらう予定だ。港町では船員の人が代で休めるように宿屋は全部空けて貰っている。
「我々が10隻で參ったのは、何も全てに食糧を積み込むためではございません。その足で、遠洋漁業をして帰る事ができればと思っての事です。もちろん、船では自給自足いたしますし、そのように指示を出してあります。食糧は……」
「あぁ、一隻見ればわかる。大3隻もあればいっぱいになるだろう。他の船は沖で漁をしてくれ。それと、この街には商業組合もある。私も顔を出すので、國や商店で多買い取りをさせてもらえればと思う」
「我々は、この港を拠點に遠洋漁業をして、そのうちの三分の1を納める積りです。その間の飲み食いには、今は必要のない外貨を漁師に與えてありますので、それで通常通りにお金を取ってもらえればと思います。お互いトラブルの無いよう、私も暫く滯在させてもらっても……?」
「もちろんです。ここから王都までは1日掛かりません。遠洋漁業にはすぐにも取り掛かって下さって結構。詳しい事は城で細かい取り決めをしましょう。……さすがに、港町の平民に『タダで飲み食いさせて寢所も提供しろ』とは命じられないので、禮節を保ってくれたこと、有難く思います。飢えている時の苦しみは……想像を絶するでしょう」
「えぇ、すぐに食糧を積み込んだ船はトンボ帰りさせます。こちらも人員は運んできました、全面的にそちらの港の人達のいう事を聞くように言い聞かせてあります」
「では、こちらからも役人を監視につかせて荷の運び込みと參りましょう。……港の拡張も考えます。今は一隻ずつしかれず不便をおかけしている」
アグリア殿下とグレン侯爵の話し合いは端的でありながら、しの爭いも起こさないように神経質なものになっている。港の男が荒々しいのは確かだし、極冬の人達の気質も似たようなものかもしれない。海は穏やかなばかりではないから、それもしかたないのかもしれないけれど。
だけれど、小さないさかいで大事になってはせっかくの協定が無駄になる。さっさと協定を結び、お互いがお互いを監視しながらも大きな諍いを起こさずに事が済めばいいと思う。
港に停泊する白旗を掲げた真上を見なければならないような船から続々と降りて來る屈強な男陣を見て、私は、本當に喧嘩しませんように、と思うしかなかった。
……船の中が見たいというのは、もうし、お互いの國が落ち著いてからにしよう、とも。
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