《【書籍発売中】【完結】生贄第二皇の困〜敵國に人質として嫁いだら不思議と大歓迎されています〜》51 結婚前夜

様々な支度を終えて、明日はいよいよ結婚式が迫っている。

部屋の片隅にトルソーに著せられたウエディングドレスがある。本當ならば、フェイトナム帝國の使者……いえ、お父様も迎えれて、挙げるはずだった式だ。けれど、お父様はしばらくバラトニア王國には國できない。フェイトナム帝國の人間が王宮に招かれる事はまず無いだろう。

し心細さはある。いい國だし、いい人達ばかりだし、私は幸せで、人との繋がりも増えたし……あげたらきりがない程、毎日が充実していて、楽しい。

毎晩のアグリア殿下との晩餐とお茶の時間も嬉しい。清い関係だけれど、しずつ手を握ったり、頭をでられたりと、お互いに心の距離を詰めてきた。どんなに忙しい時もお互い欠かさずに、晩餐は夜7時、その後は二人でお茶にした。

フェイトナム帝國の王宮では、私は孤獨だった。見下され、こき下ろされ、今では笑ってしまうけれど『淑教育の敗北』と呼ばれていた人間だ。しかし、その敗北のおでつけた知識は、バラトニアの地で大きく役に立っている。

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嬉しい、と思う。無駄じゃなかったと、私はあの時確かに、年若いアグリア殿下に「笑えるくらい強く」と言ったが、本當は自分が笑えるくらい強くなりたくて、自分なりに戦っていたんだと実する。

今の私は、笑える。強くなった。……でも、何故だろう。どうしても寂しいと、思ってしまう。

バラトニア王國は私の國だ。もうそれは揺るがないし、私自、自然とそうけ止めている。

私は生贄として、人質として嫁いできた。この國でさらに生贄としての役割を負った。だけど、ちっとも怖くない。死ぬのが怖いのではなく、そういう役割でありながら、誰も私を死なせようとしないからだ。

むしろ守ってくれてすらいる。私を殺そうとしたのは……実の親だ。

この寂寥は何だろう。むなしさとも違う、ただ、結婚式の前夜に初めてじる、孤獨

今迄「ここが私の國だもの」と言って來たのに、今更私はフェイトナム帝國の人間だとでも思っているのだろうか。……いや、違う。私はただ……おめでとう、と、言ってしかった。

「ふ……ッ!」

自覚したら、もう止まらなかった。ベッドの上に座ってぼんやりドレスを眺めていた私の視界がみるみる歪んでいく。涙で溶けて、ぼやけていく。

結婚おめでとう。幸せになれ。生まれ育った場所の家族に、そう言ってしかった。葉わない夢だ。私は実の親を脅して、開戦をしようとするのを止め、自らを囮にして陥れたのだから。

それでも、とどうしても思ってしまう自分が嫌だった。何もいい思い出などないのに、とはこんなに濃いものだろうか。

「そんなに泣くと、明日は酷い顔になるんじゃないか?」

「……! ガーシュ……!」

「し! 流石に結婚直前のの部屋の前に、夜中に來たことがバレたらアグリア殿下に殺されますって」

「……ふ、そうね。ふふ」

風をれるのにし開けていた窓の外から、暗闇に姿を溶かしているのか、ガーシュの聲だけが聞こえた。

「クレア様はなぁ……、こういう時アグリア殿下に甘えるってのをそのうち覚えたらいいと思いますけどね」

「あら……、でも、アグリア殿下を困らせるだけじゃ……」

「困りませんよ。好きなの悲しい顔を笑顔に変える、そんな誇らしい事ありゃしませんからね」

私の弱気な言葉に、ガーシュの聲が返ってくる。本當に姿も見えなければ気配もしないのに、聲だけが聞こえる。私もあえて窓には近づかなかった。彼は、ベッドに座ったままの私の小聲も聞き取れるようだ。

「俺らネイジアってのは、まぁ、諜報をするわけですからね? そのー、閨事とかも時にはまぁ、するんですわ。実働部隊は。男もも関係なく。で、男が種をまいてできた子供は、攫ってきます。ネイジアのに出ちまいますからね。で、國で育てる。皆、親が誰かってぇのは分かってないんですよ。國の中でくっつく奴ももちろんいるんで、全員ってわけじゃねぇですけど」

「まぁ……じゃあ、もしかしたらガーシュは、どこかの國のご落胤かもしれないのね?」

「あり得ますねぇ。俺らみたいなのを使うのは、どこぞの王侯貴族と決まってますからね。商人程度じゃ、はは、実りもねぇってもんで」

彼のの上話に、いつの間にか私の涙はひっこんでいた。こんな時にも好奇心の方が勝ってしまう。

「ま、すぐアグリア殿下に甘えられるようにならなくてもいいとは思いますけどね。今日は未だ未婚ですから、俺で我慢してもらうって事で。――で、まぁフェイトナム帝國でももちろん、そういう仕事はしたことがあるんですよ」

「まぁ、知らなかったわ……。私はまだまだ、知らない事がいっぱいね」

それは、毎日そう思う。ガーシュがし苦笑するような、そんな空気があった。

「俺の母親も実働部隊でして、まぁ……クレア様にこういう事を言うのは申し訳ないんですが、國王陛下ですしね? ほら、王妃様とだけー、って訳にもいかないでしょう。どこぞの貴族の娘だ、屬國の貴族の娘だ、って送り込まれるわけですよ、毎晩。で、俺の母親もそのうちの1人として、別の國の娘の代わりにお手付きになってネイジアに戻って……俺が生まれたんですが」

呆れた。というか、驚いた。というか。なんと表現していいのか分からないが、これではまるで、ガーシュは……。

「私の……お兄様?」

「まぁ、たぶん。の上ではそうかと」

私は、ガーシュはネイジアの國の民は皆それぞれじゃなく縁で家族だ、というような話をされているのだと思っていた。しかし、飛び出してきた言葉は、何の裏付けも信ぴょうもないのに、妙に納得ができてしまった。

「……だからね、クレア様。たぶん今日、今日だけですけど、俺が言える事があるんですよ」

私は驚きと納得という妙な心境のまま、口元を両手で抑えていた。び出したいような、息すら殺したいような、そんな気持ちでガーシュの言葉に耳を傾けていた。

「クレア様、どうか幸せに。いつでも側で守ります。だけど、新しい家族を一番に。――結婚おめでとう。明日の晴れ姿、ちゃんと見てますから。じゃ、目を冷やして寢てください、おやすみなさい」

「ガーシュ……!」

お禮を言う前に、彼は風のように枝を揺らして窓から離れていったようだ。もう聲は返って來ない。

しかし、こんなところで繋がっていた。私とのつながった家族と、私は新しく出會い、それは公にはできないけれど、絶対に守ってくれると言い。そして、新しい家族を一番に頼れ、大事にしろ、と背中を押してくれた。

先ほどまでの寂寥はもう無い。私は緒の『兄』に言われた通り、タオルを水で濡らして絞り、目を冷やしてからゆっくりと眠った。

さぁ、明日は結婚式だ。何もかも初めての、そして、私が本當にバラトニア王國の一員となる、祭日。

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