《【書籍発売中】【完結】生贄第二皇の困〜敵國に人質として嫁いだら不思議と大歓迎されています〜》52 バラトニア王國の『約束の祭日』と結婚式

報告にも書きましたが【書籍化】が決定しました!ありがとうございます!

ガーシュに言われた通り目を冷やして眠ったからか、私の目は昨日ぼろぼろと泣いた後だというのに腫れたりはしていなかった。これで腫れていたのなら侍たちの大ブーイングを喰らっていたことだろう。

グェンナたちが來る前に一人で目覚めた私は洗面の水で顔を洗い、鏡の中の妙にスッキリとした顔を見て、よし、と笑った。

式典は晝から始まる。さっそく侍たちがおしかけて、軽い朝食の後に徹底的に磨き上げられた。

もう2週間は磨いているのだから磨く所など無いだろう、と思っていたのだが、まだ磨くらしい。というか、毎日本當は磨きたいと言われてぞっとした。これだけでどれだけ執務が進むか、と思うような時間を自分の為だけに使っている。

本當に特別な時だけで充分だ。普段から、祖國に居た時よりもずっと手を掛けられているというのに。

とはいえ、結婚式は特別だ。特に、今日の私とアグリア殿下の結婚式は、特別な日になる。

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責正爵を広める、とまではいかないが、結婚契約書に署名して國に納め、その契約を誓い合う姿を大勢の來賓の前に示し、そのおれを……あらかじめ各地の役所には配布してある、祭日用の飲食の手配もだ……出し、今日という日を『約束の祭日』と定めて、新たな祭日にする。

國民にとって王族の結婚自は大して記憶に殘ることではないだろう。しかし、お祭りとなれば別だ。

祭日は平民にとっても嬉しい出來事であるし、それと同時に最初は結婚契約書から広めればいい。そうすることで國民にしずつでも付いていく。

今迄口頭の申請で夫婦となった人間は、今後2年間の期間を設けて、役所の人間から順に責正爵の試験をけて貰い、役所にて手続きを行って改めて契約書を納めてもらう。

はい、私がこういう事を考えている間に香油による全のマッサージと湯浴みが終わりました。ここから先は私もぼうっとはしていられないので、覚悟を決めて鏡の前に座る。

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『淑教育の敗北』と言われていた私の貓背は大分矯正され、座り姿もそこそこ見られるようになった……と、思う。ダンスもこんなに真剣に取り組んだことはなかったし、テーブルマナーは別に悪くなかった。會話もバラトニアでは私なりに過ごしてよかったし、今日は著飾って契約書にサインして誓って微笑んでアグリア殿下の隣に居ればいい。

王都の平民は今日だけは王宮の庭が開放され、そこに押し寄せる。そこにはごちそうと酒が用意され、私の仕上げや披宴で忙しくする侍や使用人以外は王城の庭でのお祭りとなる。もちろん、市街で出店を出してのお祭りに興じる人もいるが、王城に來れば飲食無料である、たぶん、大勢の人が押し掛けるだろう。

今日ばかりは廚房もフル回転、近くの飲食店の調理人もフル回転で料理を作っては運んでもらう事になるだろう。酒の買い付けで商人もだいぶ潤っている。

っと、また思考が飛んでいたが、気付けば鏡の中には、私のぼんやり顔がくっきりはっきりとする化粧が施され、別人のようになっている。

「え……、何の魔法を使ったのかしら?」

「お化粧ですよ。……毎回毎回ぼんやりぼんやりと自分の事を仰るので、今日までさんざん研究させていただきました。どうです? まだぼんやりといいますか?」

メリッサが後ろから肩に手を置いて隣から顔を覗き込み、勝ち誇ったように言う。

後ろにいる侍たちもにやりとしている。いつの間に私、実験臺にされていたの……?!

しかし、驚きの仕上がりだ。ケバい、ということはない。眉にもし濃いめの金を乗せ、目元は白いドレスに合わせてか濃い青の染料でくっきりとした線を引かれている。も下手に赤などは使わず、私のぼんやり……を引き立てるようなを出すような化粧だ。瞼に乗った銀を散らしたアイスブルーのシャドウに、頬はし紫っぽい頬紅が乗せられているが、見えない程薄い訳でも無く、かといって濃すぎる事もない。がよく見えるくらいだ。

に載せられたのも赤っぽい紫だが、桃と言った方がいい程可らしく薄いで艶を出してある。

長い薄いのプラチナブロンドは綺麗に結い上げられ、真珠と銀の髪飾りで天然の冠のようだった。

コルセットを締めてドレスを著せられ、背中を留める為に直立したままわれていると、グェンナが臺座に載ったティアラを持ってきた。

銀の繊細な飾り細工のティアラには、明度の無い青い石……ラピスラズリが散りばめられていた。カットによって沢を放つそれは、質でありながら、今日の化粧にもよくあっている。

「これは、陛下と王妃様、ジュリアス殿下からの贈りです。本來ならダイヤモンドを、という所でしたが、寶石商と相談してこの石で作られました、クレア様だけのティアラです。ラピスラズリの石に籠められた意味はご存知ですか?」

背中の一番上までドレスを留められた私は、髪が解けない程度に首を橫に振った。

「永遠の誓い、というらしいです。産出國と直に取引している寶石商によれば、産地ではよく結婚指というものに使われるらしいですよ」

「まぁ、結婚指に……。あぁ、そうね、フェイトナム帝國では結婚指や婚約指は普及しているけれど、バラトニア王國ではそういう慣習が無いわね。書類の方ばかり気にしていたわ……いえ、そうではなくて……とっても、素敵だわ」

「このティアラでヴェールを押えますね。ドレスの裾を踏んづけないように、私たちが會場までご案しますので」

「クレア様、くれぐれも慌てたり好奇心に負けて走ったりしないように」

「私は何だと思われているのかしら?」

一番付き合いの長いグェンナとメリッサと軽口でやりあうと、部屋の中にいた侍たちとひとしきり笑った。

繊細なレースのヴェールを被せられ、しかがんでティアラでヴェールを押えるようにティアラの先を結い上げた髪に差し込んでもらい、花嫁の完だ。

思えばこの國に嫁いできて、本當にいろんなことがあった。毎日新鮮で、楽しくて、……昨日はとっても心強い味方の存在も、その存在から新しい家族を一番にするようにとも言われた。

新しいバラトニア王國が始まる日。新しい、クレア・バラトニアとしての人生が始まる日だ。

たちに連れられて式典の會場につく。王城の屋上が広場になっていて、緑まで植えられている。全く知らなかった。長い階段は、背中を支えられ、腕をひかれ、ドレスの裾も持ってもらってという大仕事で上ったが、私も忙しくいている間に力がついたようだ。息を切らさずに登りきることができた。

バラトニア王國の貴族の他に、上座には陛下と王妃様、ジュリアス殿下、そして、陛下の前に置かれた契約書の前にアグリア殿下が正裝して微笑んで待っている。

飾られた椅子に座っていたバラトニア王國の貴族が一斉に立ち上がる。中にはバルク卿もいる、目が合うと、なんだかしだけ寂しそうに微笑まれた。

全員の視線をけながら、貴族たちの間を侍にドレスの裾を持たれて進む。アグリア殿下の喜満面な微笑みが、迎えてくれている。

手が屆く距離に辿り著いた時、最初に馬車に招かれた時のように、そっと手を引かれた。

「笑えるようになって、そして、君と居ればどんな狀況からでも笑顔になれると確信できた。嫁に來てくれるかな、クレア」

そんなのは、私も一緒だ。アグリア殿下は、私がどんなことをしようとしても、頭から否定しようとしなかった。時には悩ましい時に、休む事を教えてくれた。笑えるように強くなって、迎えに來てくれた。

「もちろんです、アグリア殿下。私は、あなたの妻になりにきました」

そうして二人で並ぶと、陛下が結婚契約書の容を読み上げる。

「この3つの契約をここに誓うのならば、署名を」

「はい」

私とアグリア殿下は、順に署名した。

アグリア・バラトニア。クレア・フェイトナム。二つの署名が並んだ下に、この契約の保証人として陛下がサインをする。

「ここに、アグリア・バラトニアの妻として、クレア・フェイトナムを迎え、クレア・バラトニア王太子妃として結婚が立したことを宣言する!」

陛下の言葉に、全てのり行きを見守っていたバラトニアの主たる貴族たちが大きな拍手で祝福を送ってくれた。

私は、クレア・バラトニアとなった。

その様子を屋上庭園の影からガーシュが見ていたような気がしたが、一瞬で見えなくなる。約束通り、どうやら見守ってくれたようだ。

が詰まっていっぱいになった私が泣きそうな顔で笑うのを、アグリア殿下の笑顔がけ止めてくれる。二人で王城の下に集まった人々の前に、花とリボンで飾られた見臺に立って、笑顔で手を振って、大歓聲で祝われた。

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