《【書籍発売中】【完結】生贄第二皇の困〜敵國に人質として嫁いだら不思議と大歓迎されています〜》61 特級の寶石たち
「さて、では商談に參りましょう。……心の準備はよろしいでしょうか?」
「えぇ、もちろん。私は寶石を収集する趣味はありません。ただ、しいを特別な職人が蕓品として扱う機會はあるべきだと考えています。これは、その為に我が國ができる滅多と無い機會です」
「寶石は人の心を奪います。ただでたく、手元に置いておきたくなるかもしれませんよ?」
ボグワーツ侯爵……いえ、商工會長のランディ様は熱心に注意をしてきた。それだけ、石に魅られた人を見て來たからだろう。
ただ、私は寶石に対して……はしたないので誰にも言った事が無いのだけれど……実は、味しそう、という想を抱いてしまう。飴や琥珀糖のように見えて、なんというか、手元に置いておくというよりは、石そのものが味しそうでその場で口にれてみたいという気持ちになる。
皇としてそれなりに素晴らしい品々は見て來たしに付けてきた。今は王太子妃として恥ずかしくない寶飾品をに纏っている。こうしてアクセサリーになってしまえば味しそうという気持ちもしは失せるのだけれど、石そのものを持ってこられて「どう加工いたしましょう?」と言われると、困ってしまうのだ。
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知識として、そして経験から良いを見る目は持っていると思っているが、がこれなので、特に味しそうだと思ったをイーリャンに相談してイーリャンから想を伝えてもらおうと思っている。
「その心配は、私には無用です。どうぞ、お持ちください」
「わかりました。――運んでくれ」
ランディ様はしっかりと確認を取った上で(それはそうだ、虎の子の寶石が蕓品になるならともかく、ただでられるためだけに出ていくのは産出者として々悲しいがあるだろう)後ろに控えていた従者に申し付けると、ワゴンに載せた5つの箱を持ってきた。
どれも同じ青い天鵞絨張りの箱に、金細工の留めがついている。箱だけでも平民ならひと財産だろう。
私たちの目の前に並べられた箱はどれも同じ大きさと形をしているが、間違っても留めで石に疵をつけないように大き目の箱が用意されているのだろうと思った。
白手袋を付けた従者が一つ一つ箱を開けていく。合間に、ランディ様の解説がった。
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「一つ目。……採掘は20年前、あまりの大きさと不純の無さから『深海』と呼ばれたサファイアです。深い青が晝の室では黒に近い紺を思わせますが、明度故にの量でいかようにも輝きます。カットは最低限に留めておりますが、この大きさですと……とても、普通のには使えないでしょう」
実に味しそうな、私の掌に載せたら半分以上を占めそうな大きな石だった。當然素手でる真似はしない。バラトニア王國に流れなければ、當然フェイトナム帝國にも流れない。
時を待つという言葉があるが、まさに今まで、時を待っていた寶石たちがここに並べられているのだと心した。
私の視線にランディ様は何をじたのか知らないが、怪訝な顔をして二つ目の箱の説明をした。
「二つ目。こちらは、石自の希価値は高いのですが、度が低く、この大きさのはまず出ません。さらに古く30年前の出土となります。加工が難しいので原石ですが、これに挑みたいという職人は多いでしょう。……『永遠の初夏』と呼ばれる、フォスフォフィライトという寶石です」
巖石の中に埋まるようにしながらも、先程のサファイアと大きさは引けを取らない、魚のひれのような、厚手の板のような青緑の石だった。屋であってもその瑞々しい青は、確かに新緑を思わせる。若葉が香るような合いに、こちらもまた清涼のある飴のようだと思って眺めてしまう。
「続きまして、三つ目。寶石と言えばこれ、と言われる定番のですが、その中でも特に希なと大きさを持つです。出土は5年前ですが、以降も以前もこれ程の逸品にはお目に掛かれておりません。を取り込むように既にカットはしてありますが……『春』と短く呼ばれています。ピンクダイヤモンド、と呼ばれる寶石です」
これはし驚いた。ピンクダイヤモンドは何故そのになるのかは知られていない。解明されていない上に、めったに出土せず、フェイトナム帝國にもほとんど流通しなかった。數が希であり、ダイヤモンドの加工は度がすぎて今度は難しい。同じくダイヤモンドの中でもカッティング用の不純の多い鉱石を刃上に鍛えて、刃が負けないようにカットする必要がある。
実を見るのは初めてだが、その沢は金屬のようでありながら、多角にカットされた濃い桃の石は、春の花々を思わせる。相応しい名前だと思う。この寶石、特に甘そうでいいな、などと不純なことを考えているうちに、次の箱が開けられる。
「四つ目。最初の『深海』と同じ時期に兄弟石として採掘されたもので、『火炎』と呼ばれております。あまりの輝きに、まるで熱をもっているかのようだから、というのが名の由來です。ルビーではなく、レッドスピネル、という石にございます」
一瞬ルビーと見分けがつかないが、大きさも最初の『深海』と同じくらいで、本當に燃えるような赤をしている。窓からのを取り込み、中で反して揺らぐ輝きは、赤い水面のようにも、炎の揺らぎのようにも見えた。
味しそう、ではない。けれど、この石には……強く魅かれるものがある。じっと眺めているうちに、アグリア様を表すような味だからだと気付いて、し恥ずかしくなった。私は寶石には味しそうという想を抱くだと思っていたが、アグリア様は私のを超えてこんなところにまでり込んできている。
とても気にったけれど、これはすぐシナプス國の虎の子の蕓品と換するためのだ。そう思うと、今選びたくはなかった。いずれ……私が何か大きな功績を殘した時に、手元に置きたいと思う。
ランディ様の言葉は正しかった。まさか、寶石に対して一種獨特なを持つ私まで魅られるとは。これは今回は選ばないでおこう。
「最後になります。……我が國では神聖な石とされ、採掘された後に加工後、1年間神殿に納めます。我が國は山の神……ひいては、山を創ったとされる太、炎の神を信仰しております。この石はそれだけ神聖な石の中で、さらに大きさと純度が高く、年代は……もう100年は昔のものになるでしょうか。もしこれを求められるのならば、寶石はこれのみでしかお譲りできません。『の』と呼ばれる、インペリアルトパーズでございます」
それは赤とも黃ともつかない、明度も高くての合で明にすら見える石だった。
一番味しそう、とも思った。神聖な石らしく角をつけた雫型にカットされているが、この神的な石ならば、きっといくらでも職人は寄ってくるだろう。
ただ、今回は2つしい。1つで2つの蕓品の価値があるのは、ドラグネイト王國にとってのみだという事を、ドラグネイト王國側も理解しているだろう。これは本當に蔵の、他の商品を擔保するための特級品中の特級品という意味だろう。
新婚旅行のお土産の元にするには、この國にとってあまりに貴重すぎる。
『深海』と『春』にしようか、『永遠の初夏』にしようか……ちらりとイーリャンの方を向くと、彼は真剣な目で寶石を味していた。
もうし、彼が味し終わるまで私も寶石を眺めようと思う。この買いはさっと選ぶではない。
ちゃんと、相談して決める場面だ。
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