《【書籍発売中】【完結】生贄第二皇の困〜敵國に人質として嫁いだら不思議と大歓迎されています〜》72 ウェグレイン派

「……待って。それは……王室の子供を殺して奉げているの?」

「そういう事です。といっても、私生児ですよ。フェイトナム帝國のが一滴くらい流れている國王の私生児を、毎年生贄として儀式で捧げている訳です」

「なんてこと……」

「ウェグレイン王國自は平和でいい國ですよ。それを知っていてやってるのは、ウェグレイン派の教皇と王室、一部の高位貴族です。なんなら、國王の私生児を産むのはその高位貴族の奧方だったりしますしね。神に捧げる子を産めて嬉しいです、って合に」

立ち上がって話を聞いていた私は、とても立っていられずにふらふらと後ろに下がると、ぽす、と大きな革製の椅子に座った。

見開いたままの瞳は床を見詰めたままけないでいる。アグリア様は知らないだろうし、ガーシュも教える気は無いようだった。各國の宗教は……尊重されるべきだ。それが、いくら、相容れない価値観の上にあったとしても。

フェイトナム帝國はそこを徹底した。自國の為に働くのならば、宗教には一切関わらなかった。ただ、関わらないこと、関心のないこと、それは尊重することではない。

Advertisement

無関心である事、それを、労働と両立させる。つまり、労働を優先しなければいけない。宗教上の儀式で一ヶ月の斷食(といっても、日が落ちた後に量の食事を摂る)をする國であろうと、日中に過酷な労働を命じればそれで命を落とす事もある。

教義を破るか、教義に殉じるかは好きにしていい。無関心な人が宗教を認めつつ治めるというのは、つまりは、教義を守るか破るかの自由を與えるだけのことなのだ。

イーリャンがフェイトナム帝國皇室のを憎むのも無理もない。

私にとっては宗教は知るものであっても、殉じるものでもなければ、今後何かの宗教に信する気もない。

『貴殿らの神を否定はしない。認めもしない。些事にすぎない。ただ、わが國のために仕えれば心はどこにおいても構わない』……今思えば、イーリャンがこれを聞いた時の絶はどれ程のものだったろう。

否定はしない、認めもしない、些事に過ぎない。フェイトナム帝國の命じることを第一にし、宗教にまつわる事は後回しにするか、フェイトナム帝國を裏切って宗教に殉じるのか、神を裏切ってフェイトナム帝國に頭を垂れるのか。

ウェグレイン派の生贄の儀式を私は否定をしたくない。同時に、吐き気を催すほど気持ちが悪い。嫌悪すらしている。でどう思おうと、何をしているのかをこちらに向けてくるだろう笑顔の下に見てしまったとしても、私はそれを口に出さず、態度にも出さず、やり過ごさなければいけない。

「知らない方がよかったでしょう? で、まぁ、何で俺らが護衛につくかと言えば……」

「……ねぇ、もしかして、ウェグレイン王國はより『濃い』リーナ神のを求めている、とか……」

「まぁ、そういうことです。表向きは歓待されますよ、確実にね。ただ、24時間俺らが見てるんでそんなに馬鹿な真似はしないと思いますしさせないつもりですけれど……ウェグレイン王國では、ご自もどうか気を付けて」

これをアグリア様に言う気はない。こんなは、共有しない方がいいに決まっている。どれだけアグリア様が腹蕓が得意だとしても、宗教に口を出す真似をさせるわけにはいかない。下手をしたら戦爭になる。

「お勧めは、ポレイニア王國に先に行って、ウェグレイン王國の滯在期間を短くすることです。幸いどちらの國もバラトニア王國と隣接している。ポレイニア王國に行ったあと、バラトニア王國を通ってウェグレイン王國に向かい、王都に戻ってくる。たしか旅程もそうなっていましたよね。俺らの方でバラトニア王國の道中で適當に馬車に仕掛けをしますから、滯在時間を短くする予定ではあったんですよ」

護衛対象に黙って何を企んでいるのよ、とはとても言えない。

「……ありがとう、ガーシュ。できるだけ……ウェグレイン王國の滯在時間を短くしてちょうだい。アグリア様には、言わないで」

「もとより、クレア様にも言わないつもりでしたけどね。新婚旅行に水を差すのもなんですし。ま、背中は俺ら影のネイジアが守るんで、今日の話は忘れて、ぱぁっと楽しんできてください」

わざと茶化したようなガーシュの言葉にしだけ笑うけれど、私はまだ椅子から立ち上がれなかった。

ガーシュはこれ以上ここにいても駄目だろう、と木を降りていった。

いつの間にか赤く染まった夕が部屋の中に差し込んでいる。

私は気持ちを落ち著けるために、テーブルのベルを鳴らしてミルクティーとお菓子をしだけお願いした。

    人が読んでいる<【書籍発売中】【完結】生贄第二皇女の困惑〜敵國に人質として嫁いだら不思議と大歓迎されています〜>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください