《【書籍発売中】【完結】生贄第二皇の困〜敵國に人質として嫁いだら不思議と大歓迎されています〜》89 ハリボテの國

ウェグレイン王國には、予想通り翌々日には到著した。

最初は長閑な牧草地帯や穀倉地帯の合間に街や集落が見えていたが、首都は堅牢な石の壁で囲われていて、私は窓からその風景を見てしだけ息を呑んだ。

フェイトナム帝國は國全がこんな雰囲気で、長閑さのかけらもない。その代わり技の発展と識字率の高さ、そして貧富の差は大きい。

食糧を作っている土地なんてほんのわずかで、堅牢で背の高い建の中に、いくつもの家族が暮らしているような街だ。

高い壁の中に伝令の案ですんなりとると、やはり予想通り、フェイトナム帝國に似た雰囲気の街並みが広がっていた。

堅牢で、暗くて、革新的で、そして細い路地には人が倒れていたりもする。

王城は首都のり口から一番遠い所にあるらしく、石畳が敷かれた道に、街燈が立ち並ぶ大通りをゆっくり通り過ぎながら、市井の街を抜け、二枚目の壁を潛り、そこから先は貴族街……というのも一緒だ。

ただ、し違うのは、街中にあった教會がそこまで豪奢ではなく、貴族街にある教會も控えめで、広い庭付きの屋敷が立ち並ぶ中に荘厳な建が混ざっているといった所だろうか。

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フェイトナム帝國の貴族街の教會は酷いもので、白塗りの壁に青い屋、金に塗られた柱、飴に磨かれた巨大な扉という、どこの王城だろうという造りだった。

私の格が悪いのもあるのだろうけれど、二枚舌でお父様にこびへつらい、お布施のない市井の民に施しはなく、形だけ泊める場所も……酷いものだ。雑魚寢ならまだしも、ロープを張った部屋にぶら下がるようにして寢かせる部屋があるだけで。

それでも、利用者が絶えなかったのは、雨風を凌ぐ壁と屋があるだけマシだったからなのかもしれない。

炊き出しは塩味がほんのりするような粥や、酷い時には野菜くずを煮たものだけ。

そういう所を、私は王宮の中から見てきた。時には視察という名目で連れていかれて、皇室の仕事として見て回った。その時の、貧しい人たちの姿を見て、私は何を思っていただろう。

……フェイトナム帝國に居た時の私は、それを考える余裕も、権利もなかったのだと改めて思い知る。

考えても何も採用されない。として価値のない私には、何も発言権などない。

「クレア?」

そんなことをぼうっと窓の外を見ながら思い出していたが、アグリア様に聲を掛けられてはっとした。

馬車の中にいるのは、ウェグレイン王國で何が起こっているのか、何が起ころうとしているのかをアグリア様が説明した私の味方ばかりだ。

イーリャンも、メリッサもグェンナも、アグリア様同様、私を心配そうに見つめている。

(なんて頼もしいのかしら……)

私はなんだかが苦しくなって、外出著のドレスの元に手を當ててぎゅっと握り締めた。

握り締めた服の下には、今目の前で微笑みながらもこちらを気遣う夕の瞳と同じの石が提げられている。

「ありがとうございます。し……フェイトナム帝國に似ていたので、考え込んでいました」

「そう? そんなに似てるかな」

懐疑的な聲を上げたアグリア様に、私は首を傾げた。

「私の目には、無理矢理堅牢な町を造って見せているように映るよ。フェイトナム帝國は、技に國土が追い付かないから……屬國を常に求めて移民させたりしているんだろうけれど」

屬國、という言葉にイーリャンがしだけ表を強張らせるが、嘆息して言い添えた。

「そうですね……、ここは、なんというか。ハリボテの國、というように私の目にも映ります」

「安心してください、クレア様のお側からは私もグェンナも離れません」

「そうですよ! 何があっても私とメリッサがお側にいますからね」

メリッサとグェンナも力強く言い添えてくれる。

なんだか強張ってしまっていた心が、優しく解れていくような覚だった。こみあげてくる熱いものは、今は涙として流さないでおきたい。

その分、私はへたくそに笑ってみせた。きっとバラトニア王國にきてから、しは上手になっただろうけれど、今はこの溫かさに笑顔で応えたい。

「ありがとう、皆。アグリア様……、私、強くあります。どんな時でも笑っていられるように」

「うん。君の笑顔を守るために、私も、皆も頑張るからね。笑えなくなりそうだったら、こうやって隠してあげよう」

そう言って、隣に座っているのをいいことに、アグリア様は私を元に抱き込んでしまった。慌てて肩を押して離れたが、顔が真っ赤になっているのは隠しようがない。

王室にいればそういうれ合いの兆しがあるまで侍の目があるのは當たり前にしても、真晝間の、馬車の中でこんな大膽なことをされたら心臓が別の意味で痛くなってしまう。

「ア、アグリア様!」

「ふふ、ごめんごめん」

すぐに解放してくれたけれど、イーリャンの呆れたような溜息、メリッサの咳払いと、グェンナの仕方ないですねぇという聲に、私の張はすっかり解けてしまった。

それでも、今から踏みれる王宮は『敵地』である。

予想では……まだ確証はつかめていないとガーシュからは聞いているけれど……ここに、ビアンカがいる。王妃として。

どんな歓待をけることになるのか分からない。けれど、私は絶対に死んでなんてあげる気はない。もう、仕方ない、と諦めるのはやめた。

私が私自の命が惜しくなったのもあるけれど、今は心からする自分の國と、周りの人たちのために。

『淑教育の敗北』で『完された淑』に勝つのは難しいけれど、私に與えられていたもう一つの名前……『生ける知識の人』をに、私は抗ってみせる。

もう、あの冷たく広い孤獨な王宮で貶められていた私ではないのだから。

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