《サモナーさんが行く》1293 蛇足の蛇足6 鞍馬難
拙者の名は鞍馬。
仏法を守護する神將。
そして主殿であるキース様の下僕。
主殿の薫陶を最もけている、その自負ならある。
なくとも格闘戦ではそうだ。
間違いなく、そうだ。
ところで拙者の名の由來は霊山であるらしい。
で、その霊山はどこに?
拙者は知らない。
うむ。
主殿が言う事であるから確かな筈。
おっと、瞑想瞑想。
雑念は追い払わねばならぬ。
闘技場で激戦を繰り広げたばかりだ。
しかも拙者、最後に剣豪の英霊と対戦したのである!
そう、最近になって拙者も主殿と同様、英霊の方々と対戦している。
まるで敵わないがそれも道理。
主殿も勝てていない。
一度として勝てていないのである!
今回、拙者の相手は関口心様。
主殿よりも更に小柄な相手。
油斷はしていない筈だった。
互いに得無し、拙者は防をぎ捨てての格闘戦であった。
正直、いいようにされた。
接近戦でありながら捕捉出來ずに終わった。
組んだ次の瞬間には投げられるかいなされていた。
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反省點が多い。
それが瞑想の邪魔をする!
拙者と対座するのは護鬼殿。
主殿に仕える同じ仲間であり拙者とは相反する存在。
年ともとも言える小さな姿だ。
だが、その正は羅。
一応、仏法に帰依した形であるが本來の姿は異なる。
拙者に匹敵する格を持つ三面六臂の悪鬼。
不敵な笑みを浮かべつつ魔を葬る様は冷酷そのもの。
まあそこが主殿には好ましいようである。
その護鬼殿もまた、拙者と同様に英霊の方々と対戦している。
無論、三面六臂の姿でだ。
確か相手は男谷信友様。
視界の端で僅かに見た程度だがやはりいいようにされていた。
しだけ安堵した。
同時に驚愕する。
剣豪の英霊の方々はいずれも恐るべき力量の持ち主だ。
分かる。
分かるが疑問は盡きない。
護鬼殿は六本の手に各々、得を持って対峙していた。
六本の木刀と木剣で間斷なく繰り出される攻撃は捌くのは至難。
一、どうやって?
拙者も対戦中で終始見ていられなかったのが殘念だ。
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その護鬼殿の瞑想する姿は見事だ。
微だにしない結跏趺坐。
ただ右手に捧げ持つ羅刀が異彩を放つ。
印は左手だけで結ぶ。
魔相手に激戦を繰り広げたばかりだ。
続けて剣豪の英霊とも対戦している。
それでいてこの自然か。
見習うべきなのだろう。
・・・
いかん。
雑念が邪魔をする。
瞑想を続けて回復しておかねばならない。
まだ対戦は終わっていない。
最近、主殿のお仲間を相手するのが通例になっている。
いつ頃からそうなったのか?
自然な流れでそうなった、としか言えない。
拙者を対戦相手に指名する方は多い。
與作様、東雲様、各務様は特に多い。
中でも與作様に関しては問題がある。
拙者に憤怒相を使うよう希されるからだ!
困る。
いや、使うのは構わない。
主殿も認めている。
困るのは主殿までも希するようになったのだ!
しかもご自には武技も呪文も使わず強化せずに!
・・・
拙者は軽く見られているのか?
いや、そんな訳ではあるまい。
その狙いは分かっているのだ。
ギリギリまで自らを追い込む。
単にそれだけなのだ。
「キース、そろそろいいかな?」
「もうちょっと待った方がいいだろうな」
「あ、待って! 次は私の番でしょ!」
「そうだったか?」
後ろがやけに騒がしい。
聲のじだけで與作様と各務様だと分かる。
正直、瞑想の邪魔なのだが。
対座する護鬼殿を薄目で見る。
口元に笑みが浮かんでいた。
うむ。
何故か安心した!
「じゃ、よろしく! 憤怒相も使ってね!」
拙者の目の前には各務様。
審判役の主殿を橫目に見る。
気の毒そうな目をしておられる。
使って良いのだろうか?
魔相手であればどれだけ人であっても躊躇はしない。
だが、各務様はであり主殿の仲間だ。
「鞍馬。使え」
拙者の迷いを斷つ主殿の言葉。
ならば、よし。
勝敗は問わない。
各務様にとって為になる戦いであればいい。
観客席を見る。
ヴォルフ団長、それに護鬼殿、戦鬼殿がいる。
恥ずかしい戦いは見せられないのである!
・・・あ、戦鬼殿がお手玉して遊び始めたぞ?
団長の雰囲気が々、剣呑になっておられる。
護鬼殿は苦笑しているようだが。
・・・
闘技場の外にいる酒船、いざとなったら頼む。
本當に、頼むぞ!
「キャッ!」
「!」
今のは、何だ?
繰り出した張り手は僅かに逸れて何かにれた。
らかい、何かだ。
反的に摑んでしまった。
もしかして、アレか?
「隙ありッ!」
「?」
手首を摑まれた。
そのまま手繰られる。
いや、拙者の右腕に飛びついた?
だが倒れるような事はない。
片腕だけで各務様を楽々と持ち上げた。
今は憤怒相を使っている。
使っていなくとも可能だろう。
「!」
側頭部に衝撃!
どうやら踵蹴り?
だが効かない。
いや、何か変だ!
拙者の掌にまたあのらかい。
腕から僅かに力が抜けてしまった!
「試合中止!」
「えッ? ここからが本番なのに!」
「ダメ。今のは審議だな」
主殿が試合中止を宣言。
各務様が文句を言い始めている。
拙者は呆然と立ち盡くしてしまう。
各務様は何をしたのか?
分かっている。
自らに拙者の手がれるように導していたのだ!
その狙いは?
揺をう為に、だろう。
実際、拙者には迷いが生じていた。
・・・
護鬼殿が苦笑しておられる。
役得だったろうって?
まさか!
拙者、修練が足りないのかも?
魔の中にはだっているのだ。
各務殿と同様にされていたら?
分からない。
分からないが、隙を生じていた可能は高い。
それを思えば戦慄するしかない!
・・・
いずれにしても鍛錬あるのみ、ですか?
確かにヴォルフ団長の仰る通り。
ですがどうやって?
・・・
慣れとけって?
ナイアス殿やテロメア殿を相手に?
護鬼殿も無茶な事を!
拙者に死ねと?
え?
まずは折威から?
確かに彼のはあってないようなものだし・・・
・・・
え?
上を見ろって?
あ・・・
折威、上空にいたんだ。
で、今の念話は聞こえていたのか。
そうか。
・・・
待て、話せば分かる。
分かる筈だ。
待て!
レーヴァテインは灑落にならん!
墮天まで使うな!
護鬼殿、笑ってないで何か言ってやって!
ヴォルフ団長も寢たフリしないで!
あ、主殿!
助けて!
今、貴方様の忠実なる下僕が窮地に陥ってます!
審議どころじゃないですよーッ!
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