《サモナーさんが行く》1303 蛇足の蛇足16 久住
リスクは高い。
それは承知していた。
九州の南端からホバー機能を全開にして海上を移する。
當初は朝鮮半島に渡ってから陸路で移する予定だった。
でも時間が惜しかった。
ただこの場合、問題があった。
ルート上には故郷がある。
苦い思い出だらけだったが、立ち寄る以外に選択肢は無かった。
出水。
矢筈の山は変わっていなかった。
市街地もそう荒れていなかった。
ただ人影は全く見當たらない。
でもツルの姿ならあった。
・・・そういう季節だったのかと思ったものだ。
それだけだ。
朽ち果てているであろう実家には立ち寄る事もしなかった。
臺灣、フィリピンに渡るまで襲撃は皆無。
カリマンタン島からスラウェシ島へ、そしてそれはあった。
天空へと延びる一本の線。
軌道エレベーターだ!
だがここに至っても襲撃は皆無。
久住の言う通り、運営は手を引いているようだが・・・
間に合わなかったのか?
そうなのかもしれない。
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だが軌道エレベーターの周辺で蠢く。
ロボット達だ!
その數は想像以上にない。
但し格闘戦仕様のロボットが多いようだ。
・・・久住の差し金かな?
いや、ここで高火力の兵を使うのは危険だからだろう。
軌道エレベーターそのものに停滯フィールドは使われている筈。
・・・
當然、破壊してはならない。
上に用事があるからな。
それはこのロボット達も同様だろう。
自は恐らくしない。
多分、しない。
そしてオレが高火力兵の數々を使えない事も承知しているだろう。
ロボット達の數はないが靜岡で久住が寄越した數よりも多い。
三倍って所かな?
そう言えば久住が寄越したロボット達は自しなかったな。
その點だけは褒めてやりたい。
ご褒に鉄拳をプレゼントしてやろう!
さて、と。
格闘戦を楽しみたい所だが今は時間が惜しい。
空間歪曲砲を準備する。
破壊範囲を間違えなければ一気に數を減らせる。
・・・いや、ちょっとだけ格闘戦、やろうかな?
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やっちゃおうかな?
結構、楽しめた記憶がオレをする。
・・・
ダメだ。
そんなんじゃダメだ!
格闘戦を楽しむのであれば徹底すべき。
空間歪曲砲など論外。
高周波ブレードだって使うべきじゃない。
・・・
時間が掛かり過ぎる!
いかん、変な所で葛藤する場合じゃない!
『ッ!』
最初の一発は範囲を極小にして先頭集団に放った。
指定範囲の空間だけが奇妙な風景になる。
數のロボットが音も無く消えた。
地面まで削り取られて後続のロボット達が転んでいるのが見えた。
幾つかの條がオレの脇を通過する。
電子砲、だな。
但し出力が半端なく高いようだ。
オレの後方で結構な範囲の地面が沸騰、蒸発していた!
大型のカニのようなロボットから放たれたようだが・・・
程が短いから使っているのだろう。
いや、電子砲が軌道エレベーターを直撃しても平気なのだろう。
停滯フィールドが展開されているのが確認出來た。
軌道エレベーター近辺の風景が歪んでいる!
・・・
指定範囲をしだけ拡大する。
趣味じゃないけど時間が惜しい。
『ムッ?』
オレの後方で地面が一気に削られた!
これは?
空間歪曲砲、だな。
但し範囲は極小。
ホバー機能を全開にして高機戦でなければ危なかった!
格闘戦仕様のロボット達が使っているのかな?
まあいい。
運営が本気でオレを消しに來ている。
それだけ分かっていたらいい。
喜んで応じさせて貰う!
オレだって趣味に合わない場合でもやるべき時にはやる。
かつて傭兵として戦っていた時期がオレにはあった。
アレと同じだ。
・・・
いや、たまに敵陣に潛して格闘戦とかしてたけどね・・・
おっと、いけない。
集中、集中!
悩む事などない。
逡巡する必要はない。
いや、そんな余裕などない!
今は戦え!
それだけでいいのだ!
『ここか』
軌道エレベーターの停滯フィールドは強固だった。
オレ自の停滯フィールドを使って相殺しつつ突破するのに一時間以上。
だが最上階に至るまでは快適だった。
警護すべきなのにロボット共がいないのは不満だったが・・・
この場合は時間を節約出來たと思っておこう。
それにしても奇妙な既視。
原因はもう分かっている。
見た事がある構造だらけだった。
そう、ゲームでオレはこれを見ていた。
そもそも、ここにこんな代があるのはおかしい。
いや、ロボット共だっておかしい。
使用されている科學技レベルが現代と隔絶しているからだ。
反質だって?
実現が可能とは思えない技。
それにこの軌道エレベーター。
どうやって建築したんだ?
まあ、いい。
その答えは目の前にいる人が答えてくれるかもしれない。
『來たぞ、久住!』
「ようこそ、キース。下じゃ歓迎してたようだけど満足出來たかい?」
『いや、時間が惜しかったからな』
「君らしくないなぁ」
『お前は相変わらずか』
「そう見える? まあ、そうだろうね」
久住がいた。
ソファに座って寛いでいる。
片手にワイングラス、か。
隨分といい分だな!
久住がサングラスを外して視線が窓に向く。
そのフロアには大きな窓があり地球が見えていた。
・・・
どこか久住の様子がいつもと違うような?
気のせいか?
「殘念なお知らせ。運営は撤退を終えたよ」
『そうか』
「ただ君が來たものだから後始末が間に合わなかったよ」
『ほう?』
「消し去るべき機材が殘されているよ。それに報もね」
『で、お前はここで何をしている?』
「何をしているかって?」
久住が笑う。
これまでに見た事がない、乾いた笑い。
いや、おかしいぞ?
頬を伝う、一條の涙。
何故、泣く?
そもそもお前は運営側の人間だった筈。
その人格を運営に委ねてしまったのではないのか?
いや、久住だってゲーム世界に來ている。
あのアルメイダやベノワのように。
「僕はね、最初はしだけ楽していい生活が出來れば良かったんだ」
『ほう?』
「ただ人生を楽しめたらいい。本當にそれだけだったんだよ」
『それが今やこの有様か』
「うん。人間のクズだよねぇ」
沈黙。
久住は靜かに泣いていた。
演技?
そうとは思えないが・・・
そもそもこんな奴だっただろうか?
『ここからアナザーリンク・サーガ・オンラインは繋がるのか?』
「管理者側がそう思わない限り、まあ無理だろうね」
『運営を追う手段はもう無い?』
「もう無いだろうね。君は間に合わなかったよ」
『そうか』
殘念。
そう思うと同時に疑問が殘る。
オレの興味は今や久住に向いていた。
「・・・いつの間にか僕は人類を滅亡寸前にまで追い込んだ」
『そんなつもりじゃなかったとでも?』
「そうだよ。こうなるとはね。しい地球を守れた、と思うようにしたけどね」
『しいか?』
「うん。ここに來て一層そう思うようになった」
『確かにしいな』
「人類はこの地球を汚すだけだ。そう思うようにしてもね、ダメだったよ」
『何がダメなんだ?』
「罪悪が消えない。目の前で人が死んでいないのに、罪の意識は消えないんだよ」
久住は笑っていた。
そして泣いていた。
そうか、罪の意識が久住を自的にしているのか。
本當にそうなのかもしれない。
「しかもこの有様。僕に贖罪なんて出來ると思うかい?」
『まあ無理だろうな』
「だからね・・・僕は・・・逃げる事に・・・したんだ」
久住の口調が急におかしくなる。
何だ?
いや、これはもしかして・・・
『毒か!』
「うん・・・そう・・・」
『愚かな!』
「だから・・・僕に・・・生きる価値は・・・ない・・・」
久住の元に探査ブローブをばす。
振を検知、脈拍數はどうだ?
・・・
脈はまだある。
だがどうも間に合いそうもない。
そもそも解毒する手段が今のオレにはない!
「君に・・・最後の頼みがある・・・これを・・・」
『ッ?』
久住の手に攜帯端末。
け取ると久住は安堵したかのように目を閉じた。
これをどうしろと?
「僕は・・・君が怖かったけど・・・話をするのは・・・楽しかった・・・」
『待て、久住!』
「きっと・・・大丈夫・・・君はまだ・・・戦える・・・」
『おい、まだ敵がいるのか?』
「復興という・・・戦いがある・・・君はきっと・・・勝て・・・る・・・」
『何?』
復興、だって?
何を言う!
オレは戦闘しか出來ないような奴だぞ?
「ゲームと・・・同じさ・・・きっと君にも・・・仲間が・・・い、る、よ・・・」
『久住ッ!』
「僕も・・・仲間が・・・友達が・・・しかった・・・よ・・・」
『・・・そうか』
久住はそれ以上、何も答えなかった。
既に事切れていた。
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