《サモナーさんが行く》1306 蛇足の蛇足19 平和って何だ?
「平和ねー」
「・・・ジュナ様、放置してええんですかの?」
「離れ離れだった雙子の兄弟がじゃれてるように見えない?」
「本気で殺し合いをしてるように見えますぞ!」
「ルグランちゃんってば鈍ー!」
うむ。
改めて思う。
この家族はおかしい。
徹頭徹尾、おかしい。
頭が痛くなってきた。
オレニューはどうしてる?
・・・ダメじゃこいつ。
キース同士の対戦に目を輝かせておるわ!
まあそうじゃろうな。
最初から期待していない。
橫にいるゲルタ姉に視線を向ける。
呆れ顔になっとる。
まあこれも當然の反応じゃな・・・
「姉上、頼みますぞ」
「・・・仕方ないのう・・・」
「あ、ちょっと! ゲルタちゃん、痛いって!」
・・・あ、それは酷い。
杖で頬を小突いておるのじゃが・・・
尖ってる所でやっておる!
ゲルタ姉も容赦ないのう・・・
「師匠、キッチリ収拾してくれますかの?」
「あん、もう! 分かったから止めて!」
ジュナ様は涙目になっとる。
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うむ。
我が姉ながら怖い。
改めてそう思う。
・・・しがない弟の、この先逆らう事もあるまい・・・
「ハヤトちゃん、片方を頼むわ!」
「承知!」
魔神が靜かにく。
それでいて速い!
目が追いつかん!
そしてジュナ様の姿も消えた。
・・・共に呪文を使っていないのにこれじゃ!
この調子でジュナ様相手に格闘戦へと持ち込まれたら?
儂なら勝ち目など全く無い。
まあ、魔法戦でも儂に勝ち目は無いのじゃがな・・・
「そこまで!」
「クッ! 放せ!」
「我はもうし見ていたかったがな。仕方あるまい」
魔神ハヤトがキースを抱え上げていた。
このキースは裝備があるからこちら側か。
・・・あ、キースが首を極めに行っておる!
でもダメみたいじゃな。
ロック出來ておらん。
・・・儂も格闘戦を見る目がえてきたようじゃ。
最近、よく観戦しておるしの。
「はーい、おとなしくしてね!」
「・・・ッ」
もう一方のキースは?
ジュナ様に抑え込まれておる。
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・・・また、袈裟固めじゃな。
こっちのキースは息苦しそうじゃ。
顔面にを押しつけられておるから當然か。
言葉にならない聲を出しておるが全く聞き取れない。
それにしてもジュナ様、楽しそうじゃな・・・
いい笑顔をしておられる!
「なんじゃ、もう終いか」
儂とゲルタ姉の杖が同時にく。
共にオレニューの後頭部を叩く!
うむ。
やはり儂等はどこまでも姉弟。
タイミングも完璧じゃった!
「じゃあ本題! 々と話さないといけないわよね!」
「・・・フガッ!」
「ジュナ様、その前にキースを放しませんと」
「いいじゃない! こっちのキースちゃんともスキンシップよ!」
あの、ジュナ様?
言ってる事とやってる事が違っとりますが・・・
それに肝心のキースがさっきからタップしとります!
このままでは落ちますぞ?
視線をゲルタ姉に投げかける。
あ、もういてた。
ゲルタ姉の杖がジュナ様の頬に押しつけられる。
それは先刻より強くなっていたようじゃな・・・
ジュナ様は即座に袈裟固めを解いて跳ね起きてしまっておるわい!
「まあ大、こんなじ?」
「ジュナ様、もうし噛み砕いて説明しませんと」
「今日の所はこれでいいのよ」
「何故です?」
「こっちのキースちゃんはいつでもこの世界に來る事が出來るから」
「「本當に?」」
「ええ。時間ならこれから幾らでもあるから!」
ジュナさんの話は本當だろうか?
々、出來過ぎなじもするが・・・
今は信じるしかあるまい。
目の前にいるキースもまたオレ自に間違いない、らしい。
正確にはオレの人格のオリジナル。
これまでずっと現実世界にいたのだから、多分オリジナル。
いや、どちらがオリジナルかなんて些末な事だ。
それは先刻の対戦で分かった。
分かってしまった。
あの殺意。
それに狂気。
間違いなくオレ自のもの。
爺さんと同じく獣が放つもの。
否定したくとも認めるしかない。
ならば互いがオレの分であるのだと思うより他にない。
オレが普段、ログアウトしていた世界は?
全てが運営に見せられていた幻であったようだ。
あれが?
そうも思うが納得するしかない。
運営は現実としか思えないバーチャルリアリティの世界を実現していた。
騙されていたと気付くのは至難であっただろう。
何故、という疑問はある。
そこまで面倒な事をする必要があるのだろうか?
「我々の人格はこのままですか?」
「その方がいいわ。人格が分割されて時間が経過し過ぎたもの」
「無理ですか」
「リスクが高いわ。各々が持つ別々の記憶が過大で統合しきれないと思うけど」
互いの視線がぶつかる。
困の目をしている。
多分、オレも同じだろう。
「仮に統合出來た場合、どちらが人格のメインになるので?」
「どっちもメインじゃなくなるわよ? だって統合だし」
「「はあ」」
「僅かな時間の記憶の齟齬、それを整理するだけでも大変なのよねー」
確かに。
オレも記憶の改竄をけ、一部が乖離していた事があった。
爺さんとの戦いの記憶。
あの僅かな時間を取り戻すのにどれ程の時間を掛けた事か!
もう一人のオレには分からないかもしれないが・・・
「どうする? 統合してみる?」
「・・・このままで」
オレはしだけ考え、そう答える。
現実の世界に本來、未練はない。
もう一人のオレはどうなんだろう?
「私もこのままでいいです。ただお願いが」
「何?」
「私は本當に、いつでもこの世界に來る事が出來るのですよね?」
「ええ」
「ならばどんな形でもいいですからこいつと決著を!」
もう一人のオレはそう言うとオレを指さした。
ああ、そうか。
実はオレも同じ事を考えていた。
やはりオレ自。
気が合うじゃないか!
「それにそこにいる筋バカとも」
「おい、それは譲れないぞ?」
「何? そもそもお前は何故、アイツを放置している?」
「・・・いや、これには事があってだな」
「どんな事があると? オレがやっても構わんだろ?」
「待て。後で説明する」
「知らん。こっちは最近、戦い足りていないんだぞ?」
ああ、もう!
我ながら厄介な相手だ!
どう説得したらいいんだ?
「・・・あの魔神が実は父親でジュナさんが実は母親だ」
「はあ? 何を言ってる?」
「お前、あの筋バカを父と呼べるか? ジュナさんを母と呼べるか?」
「・・・気は確かか?」
「真面目な話だぞ?」
オレが相手の立場だったら?
まず信じないな。
自分自であるだけに間違いない。
無駄と分かっていてもこう言うしかなかった。
「キースちゃん、私の事はママって呼んでって!」
「な?」
「・・・どうなってる?」
「ですからジュナ様、もっと噛み砕いて説明しないと混しますぞ!」
「時間が掛かるから要點だけ説明したんだけど・・・ダメ?」
「その要點が奇抜にしか思えないのが問題なのですぞ!」
「えー」
訳が分からない。
一、何が起きている?
もう一人のオレはそんな表をしていた。
・・・何故、こっちを気の毒そうに見ている?
オレからしたらお前の方こそ気の毒だ。
戦い足りない、だって?
それはこちら側とまた違った地獄に思える事だろうに。
「覚悟しておけ。オレと同じくお前も苦悶する事になるだろう」
「何の事を言っている?」
「一種の地獄だ。多分、お前もそう思うようになる」
「・・・本當に?」
「だがお前は再びこの世界に來る。現実で戦い足りていないなら尚更、な」
「・・・そうか」
まだ訳が分からない表だが・・・
どうにか伝わっている、と思う。
相手はオレ自なのだ。
そうだと信じていたい。
「運営に一矢報いる事は出來そうですか?」
「どうかしらね? 出來るかもしれないし、出來ないかもしれない」
「・・・そうなんですか」
「私達だって運営、いえ、更にその上に迫ろうとしているけど果たせてないもの」
「「え?」」
「ずっとよ。私なんか數百年、追い掛けているようなものねー」
ジュナさんが?
しかも數百年?
途方もない話だな!
「では、このまま何も出來ないと?」
「キースちゃんの現実世界はこのまま維持されるわ。世界を復興して見返したら?」
「・・・」
「ゲームのキースちゃんは私達と行を共にするといいわ!」
「・・・他のプレイヤーはどうなります?」
「殘念だけど現実の世界に戻れるとは思えない。本が無いもの」
「「・・・他の選択肢は?」」
互いに同じ事を考えていたようだ。
選択肢が無い、というのは我慢ならない。
何か手はないのか?
「他の平行世界を剪定されないよう導く。私達はこれまでそうしてきたの」
「「・・・」」
「でも、そうね。もっと積極的な手を使っていいのかも?」
「「それは一?」」
「今は止めておくわ。こっちのキースちゃんも気持ちの整理に時間がしいでしょ?」
「・・・ええ」
それもそうだ。
いや、オレだって今も気持ちの整理など出來ていない。
単に困すると向き合えるようになっているだけだ。
納得などしていない。
ジュナさんはまだいいとして、あの筋バカの魔神が父親だと?
無理だ。
でも何故か最近、魔神相手の対戦にがらない。
そんな自分に腹が立つ日々なのだ!
・・・きっともう一人のオレもまた、無理だと思う。
「じゃあ今日はここまでにしておきましょ?」
「ジュナさ・・・いえ、母さん。その前にしいいですか?」
「・・・いいわよ?」
ジュナさんは嬉しさ半分の笑顔だった。
オレがジュナさんを母さんと呼んだのはこれが初めて。
本當はママと呼ばれたかったに違いない。
呪文を選択して実行。
周囲に五つの影が浮かび実化した。
大神のヴォルフ。
フォレストアイの黒曜。
白狐のナインテイル。
オーケアニスのナイアス。
バンパイアダッチェスのテロメア。
続けて幾つもの影が浮かぶ。
レインフォースメンツ・オブ・モンスター、エクストラ・サモニングも使ったからな!
ストランド、逢魔、モジュラス、清姫、言祝、蒼月、スパッタ、折威、イグニス・・・
そしてアイソトープとパンタナールが召喚される。
オレは確信していた。
もう一人のオレは間違いなく、召喚モンスター達に逢いたかった筈なのだ!
「おお!」
「ポータルガードもいるし制限もあるからな。今日はこれだけだ」
「だろうな。それでも十分!」
ヴォルフ達の様子はどうか?
同じ姿のオレが二人、し困しているようだが・・・
いや、オレの指示を待っている。
よし!
「そら、行け!」
「ウォン!」
オレの指示に応えてヴォルフが一聲吠え、もう一人のオレに駆け寄る。
他の召喚モンスター達もこれに続いた。
うん。
今はこれでいい。
大いに甘えるがいい!
続きはまた、召魔の森でも海魔の島でもいいだろう。
悩みならあるけど今はいい。
例えばフィーナさん達、他のプレイヤーにどう説明したらいいのか?
・・・まあどうにかなる、かな?
伏せたままでもいいだろう。
その場合はもう一人のオレをどうするかが問題になるけど、今はいい。
「・・・もうし、時間はありますか?」
「いいけど?」
「そこの筋バカと対戦を!」
「キースよ、我の事はお父さんと呼べ!」
もう一人のオレが魔神との対戦をんでいる!
全く贅沢な奴め。
そして魔神の言葉に困する。
・・・何故、オレも見るんだ?
いや、言いたい事なら分かる。
・・・
うん、今は無理。
無理だから!
説明したいが上手く出來ない。
オレだって納得していないんだぞ?
「もう一人のキースよ、対戦ならばけて立つ!」
「そうか・・・では早速!」
「二人纏めて相手をしてやってもいい。しは楽しめるだろう」
・・・安い挑発だ。
オレ達の視線が絡み合う。
多分、同じ事を考えている。
剣呑な雰囲気が周囲を覆う。
分かっている。
激発していい場合じゃない。
それでもこのは制出來る代じゃなかった!
「・・・ここは先にやらせて貰おうか」
「さっきも言ったぞ? 譲る気はない」
「・・・先にお前とやったっていいんだぞ!」
「むところだ!」
「いいからお前達、同時に來い!」
どうやら三つの戦いになるようだ。
それでも構わない。
オレ達三人は突進した。
三者同時に戦端を開く。
それぞれが同じ笑みを浮かべている!
それが家族の絆であるのは認めたくなかった。
・・・いや、認めるべきなのかもしれないな・・・
どこか意識の遠くで、そんな事を考えていた。
「平和ねー」
「・・・ジュナ様・・・」
「師匠。これって毎回、繰り返されるのでは?」
「いいじゃない。仲が良くて」
「「・・・」」
儂等は呆れるより他、なかった。
いや、オレニューの奴だけは目を輝かせておる!
全く、こ奴は・・・
これ、誰が止めたらええんじゃろか?
頼みの綱はゲルタ姉なのじゃが・・・
み薄のようじゃな。
匙を投げておる・・・
いや、既に杖を投げ出している!
儂はどうしたらええんじゃろ?
・・・周囲にいる召喚モンスター達を見習うとしよう。
素直に観戦でもしておこうかの。
魔神とキース二人、三つの戦いか。
展開が全く読めんわい。
それにしても思いの外、泥仕合になるんじゃな・・・
オレニュー、これはやはり魔神が有利なのか?
・・・
ダメじゃ、こ奴め!
全く聞いておらんわい!
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【12/15にコミックス第1巻が発売。詳細は活動報告にて】 聖女モモを虐めたとして、婚約者の公爵令嬢クロエ=セレナイトを追放した王子レッドリオ。 だが陰濕なクロエが大人しく諦めるとは思えず、愛するモモへの復讐を警戒してスパイを付け監視する事に。 ところが王都を出た途端、本性を表す『悪役令嬢』に、監視者たちは戸惑いの嵐。 ※本編完結しました。現在、不定期で番外編を連載。 ※ツギクルブックス様より書籍版、電子書籍版が発売中。 ※「がうがうモンスター」「マンガがうがう」でコミカライズ版が読めます。 ※世界観はファンタジーですが戀愛メイン。よく見かける話の別視點と言った感じ。 ※いつも誤字報告ありがとうございます。
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