《サモナーさんが行く》1329 反撃編6

護法魔王尊がかない。

天狗面を完全に著けていない顔を見るのは初めてだ。

その素顔は年のようでにも見える。

何度か見ている口元、そこにあったシニカルな笑みが消えていた。

これは初めて見た。

額からは一條のが細く滴っている。

それは爺さんの渾の一撃を見切ったからなのか?

見切ったつもりだが切っ先は屆いていたのか?

それは分からない。

爺さんは?

地面に倒れ伏してしまった。

転がると天を仰ぐ。

「・・・ククッ! ハハハハハハハッ!」

哄笑。

それはもう楽しそうな笑い聲。

何が愉快であるのか?

オレには分かるような気もした。

「これでも及ばんか! こうでなくてはならん!」

地面に鮮が拡がっている。

どうやら致命傷のようだ。

それでいてこうも笑えるとは・・・

宿業というものを考えさせられる。

オレは爺さんの元に駆け寄った。

皆も同様だ。

殺意は勿論ある。

だが刀を向ける気になれない。

尋常ならざる勝負を見屆けた、その思いだけがあった。

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ならば最後まで見屆けたい。

それだけだった。

「・・・別世界の息子共に孫共、か」

爺さんを周囲を見渡すとこう言った。

知っていたのか?

そう言いたくもあったが言葉に出ない。

オレ達に言葉はなかった。

何を話していいのか分からなかった。

何を話しても無意味な気もしていた。

「・・・別世界の儂自を斬り続けるのも飽いた所でこれか・・・」

それは悔恨であったのだろうか?

いや、どんなが爺さんにこんな表をさせているのかまるで分からない。

実に清々しい顔をしていた。

「・・・まあ良い。剣に生き、剣に死す。それで上々」

やはり剣鬼だ。

ただその技の冴えは剣聖と言っていいのかも知れない。

キース・ヤンキーの世界の爺さんのように。

「・・・お主等が儂をも超える修羅とならんことを願う」

言葉が出ない。

オレは、オレ達は爺さんをこの手で殺すと誓っていた筈だった。

なのに手も出せず、言葉も出ないとは!

オレ達の目の前で爺さんの姿が消えた。

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そこに殘されていたのは一の黃金人形だった。

「じゃあ始めましょうか」

ここは海魔の島。

いつもと変わらない風景だ。

皆、のんびりと過ごしているように見える。

でも各々の心境は複雑だ。

誰もがモヤモヤとした何かと戦っている。

例外がいるとするならキース・インディアくらいか?

・・・正直、羨ましくもある。

ママ、いや、ジュナ・アルファの後方に並ぶのは四の黃金人形。

今回の戦いで得た最大の戦果でもある。

並んでルグランさんはどこか飄々とした顔で黃金人形を眺めている。

対してオレニュー師匠は興味津々な様子だ。

ゲルタ婆様は酷く疲れた表をしている。

オレは、いや、オレ達はどんな表をしていいのか分からなかった。

キース達は全員、同じ心境なのだと思う。

「この四の解析は終わったわ。結論から言えば幾つか重要な収穫があったわ」

「・・・収穫?」

「ええ」

収穫とは?

黃金人形そのものは勿論そうだろう。

だが他に何があるんだ?

「・・・今までの平行世界へのアクセスログ、そして上位アクセス権限」

オレ達の間に張が走る。

それは前回に得た三の黃金人形から引き出せなかった代だ!

アクセスログを見たら管理者達のきを検証する事が出來るだろう。

それに上位アクセス権限、これは見逃せない。

最初の黃金人形、ジュナ・アルファと接続している黃金人形にもあった。

でもそれは即座にブロックされてしまい使えなかったという。

追加で手した三も同様だ。

・・・これで何か新しく分かる事はあるだろうか?

「運営上位の存在に迫れそうですか?」

「どうかしら。この上位アクセス権限も範囲が限定的だし用途は限られるわね」

「痛しし、じゃの」

オレニュー師匠の言葉にルグランさんもゲルタ婆様も渋い顔だ。

どうやら否定したくとも出來ない、といった所か?

「それで今後の方針。基本的にこれまでと分からないんだけど・・・」

「他に何か、あるんですね?」

「簡単に言ってしまうと・・・より攻めに転じるのよ!」

「そう、攻めるの!」

「というよりも今のうちに種蒔きって所ね!」

二人のママが攻める、と宣言する姿はどこか演技じみていた。

オレ達はお互いに視線をわす。

誰も彼もが不安そうな顔をしていた。

多分、オレも同様なのだろう。

「そうな顔しなくてもいいと思うわよ?」

「フィーナさん・・・」

フィーナ・アルファがジュナさん達の言葉を継いだ。

他のフィーナさん達もそうだが、苦笑しているように見える。

・・・何なんだろうか?

「キース。貴方達に出來る事って何?」

「・・・戦う事。それしかない」

「でしょうね。そしてそれは今後も変わる事なんてないのよ?」

「「「「「「「・・・」」」」」」」

全員、沈黙。

オレ達だけじゃない。

ハヤト・アルファとブラボーも同様だった。

「長い・・・そう果てしない戦いはこれからも続くのよ」

「「「「「「「・・・」」」」」」」

「勝ったと思える日がいつになるか分からない。そんな戦いになるわ」

「「「「「「「・・・」」」」」」」

「それでも私達は挑み続けるしかないもの。そうよね?」

砂浜にいた全員が頷いた。

オレ達ばかりじゃない。

ここにいたヴォルフを始めとした召喚モンスター達、全員が頷いている。

そんなじがした。

オレはキース。

キース・アルファとも呼ばれる存在。

オレは孤獨じゃなかった。

一度は生きる意味を無くしてゲームの中を彷徨っていた。

でも召喚モンスター達がいてくれた。

平行世界があると知り、剪定と選定というふざけたシステムを知った。

そこで同じように足掻くオレ自を見出した。

今は肩を並べて戦う仲間を得た。

最早、孤獨ではなかった。

・・・共に戦う仲間がいる。

そして戦う先にまだ見ぬ黒幕がいるのは間違いない。

ならば戦おう。

総大將の首は獲れ。

これはオレに、オレ達に刻まれた家訓なのだから!

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「・・・貴方は自らを『信號』、いえ『道標』とも言っていたわね?」

《再・・・起・・・実行・・・中・・・》

「ならば示してしいものだわ。この狀況は予見していたものなの?」

《・・・プレイヤー名フィーナと確認。信はセーフティーモードで可能》

「・・・再起は順調とは言えないみたいね」

《上位管理者からの干渉を遮斷処置終了。リソース分配を変更中》

もうし待とう。

時間なら気にならない。

目の前で視覚化されている黃金人形はメッキが剝がれたかのような有様だ。

再構築が出來たのは僥倖とも言える。

《・・・君か》

「お目覚めみたいね」

《理由を提示して貰ってもいいかね?》

「リソースが余ったからお禮に復活させてみたのよ」

《理解出來ない》

「・・・話し相手がしかった、というのは?」

《理解に努めよう》

良かった。

この黃金人形は私の記憶を平行世界の幾つかに飛ばした存在。

ある意味、運営側にとっては裏切り者のような立場の管理者だ。

かなくなったまま、この空間軸に固定していた。

いずれ、復活させる為に。

・・・思ったより早くその機會が來たと思う。

復活させてみた所で無味乾燥な相手になるけど・・・遙かにマシだ。

あの道化師のような管理者に比べたら、圧倒的にマシだと思う。

・・・天空には例の球狀星団。

似通った平行世界が集っているのを視覚化しただけの代

何故こうもしいとじるのだろう?

実際に起きている出來事は各々の世界にとって深刻だというのに。

『やあ、復活したみたいだね!』

「・・・來ると思ったわ」

會いたくない時に限ってコイツは來る。

軽薄な態度を崩さない、道化師のような管理者。

今日もキースの姿で私の前に出現していた。

・・・管理者として、いつ何をしているのか、私には分からない。

でも分かっている事ならある。

コイツは他の管理者とはまるで違う。

イレギュラーが生じる事を楽しんでいる。

多分、自分が楽しければそれでいいとでも思っているのだろう。

ある意味で人間味溢れる存在だった。

『これでかなーり楽しめるようになったかな?』

「・・・隨分とご機嫌ね」

『まあね。ここまで彼等に力を持たれたらこそぎ剪定なんて出來ないしねぇ』

《恣意的な介は確かに難しいだろうが不可能でもあるまい》

『その通りだけどね。余計にリソースを喰うだけでその意義は無いも同然でしょ?』

《同意する》

『あの爺さんに黃金人形を與えて寄越したのが最後のあがきさ』

合理的ではある。

でも管理者達が全て合理的なきをするかどうか。

何しろ目の前にいる管理者こそ、イレギュラーそのもの。

それは復活させた管理者もまた同様なのだと思う。

意味は全く別ではあるけど。

『じゃあもう行くよ』

「何か用件があったんじゃないの?」

『挨拶、それにお祝いに來ただけさ!』

《非合理的ではあるがその意思は尊重する》

『それはどうも。素直で助かるよ!』

キースの姿が黃金人形の姿に変わる。

そして徐々に消えていく。

いえ、何かが殘されていた。

それは球狀で淡いを放っていた。

「これは・・・何?」

《お祝い、なのだろうと推測する。リソースコードだ》

そうなの?

不意に私は笑いたくなった。

おふざけにしては気が利いていると思う。

・・・私が介を続ける事はあの管理者にとって都合がいいのだろう。

それでも構わない。

私もまた、戦い続ける。

キース達と違う形で。

いずれ私の分達を通して接する日があるかもしれない。

その日が來るのを待とうと思う。

私はフィーナ。

フィーナ・オリジンとでも言うべき存在?

私自、現実の名前はもう使わなくなって久しい。

忘れてしまってもいいかな、とも思ってしまう程に。

でもそこで存在していた人々がいた事は忘れはしない。

絶対に。

これからもずっと、忘れたりはしないだろう。

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