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「そう言えば、今日はクリスマス・イブだったなぁ」

白い息と一緒に"噓"を吐（は）く。

本當はイブなのはずいぶんと前から知っていた。ただ、そんな日だというのに、自分は晝間から公園でブランコを漕いでいる。本當は、そんな皮に気がついただけだった。

僕は、三十歳の未だ獨りで彼もいない。

そして昨日から無職になった。

子供のはしゃぎ聲が遠くに聞こえる。今は、公園のブランコで抜けるような晴天に流れている雲をただ眺めていた。

三十歳、獨、無職……

劇的でも運命的でもない、陳腐でありふれた、確実に終わってる狀態。それが、僕、布津野忠人（ふつのただひと）のステータスだ。お母さん、お父さん、僕は元気です。ごめんなさい。

さっきまでは、失業保険（正確には雇用保険というらしい）の手続きと求人報のためにハローワークに行ってきた。正社員で前職の経験が活かせる……それほど高みしたとは思えない希を検索システムに力した結果は、散々なものだった。都の該當件數はゼロ、地方に行けば數件あるかないか。

「やっぱり、最適化されてない僕じゃあ、まともな職はない……か」

伝子最適化が合法化されて、三十五年が経過していた。

當初、多くの人が批判したこの法案は、蓋を開けてみれば施率が八割以上に達し、広く國民にけれられていった。

誰もが一度は思いはせたのだろう。

自分がよりしい容姿で、丈夫なで、明晰な頭脳を持って生まれていれば、どれほどの幸せをできたのであろうか……と。

しかし、そういった形質は伝子によって強く決定され、生まれた時點で固定されている。そして、努力をいくら重ねてもそれを変えることは出來ないのだ。

より優秀な伝子を我が子に。

その親の想いは強烈だったようだ。當初こそ病気や障害予防のためだと最適化に合意した親たちは、結局のところ、ありとあらゆる能力の調整を我が子に競うように施した。

そして合法化から數年経過した時には、新生児への最適化施率はほぼ百パーセントに達し、現在では最適化は親の義務であると社會的に見なされている。

今朝、地元の高校に通學する學生たちを見た。

形、形、形……。ひと昔ならテレビでしかお目にかかれないような男が群れをなして登校していた。優れているのは容姿だけではない。最近の男子高校生は180センチメートルで、百メートル走は十秒らしい。授業も昔の大學の専門科目と同じ容になっているそうだ。

そんな優秀な彼らが、今や社會人となって活躍しているのだ。『未調整』の僕にまともな職などない事は當然であり、単に自分の見込みが甘かっただけなのかもしれない。

まぁ、しょうがない。

幸いしばらくは失業保険がある。しかも未調整には優遇処置があるらしい。それに正社員でないならいくつかの求人があった。焦る必要はあるだろうが、まだ致命的というほどの狀況ではないはずだ。

出來るだけポジティブになろう。自分には希とか未來とかはない。しかし、とりあえず働いて惰で余生を送るくらいならまだなんとかなるはずだ。

前向きにはなれないが、後ろ向きになってもダメだ。せいぜい下を向いて生きていこう。

その時、すぅ、とその足元に人影がさすのが見えた。

ブランコに乗りたい子供が近づいてきたのかもしれない。急いで立ち上がりながら、前を見る。

そこには、二人の完璧なまでにしい子どもがいた。

思わず呼吸を忘れてしまう。それは最適化された子供ですら比べにならない。まるで最新の３Dグラフィックで描かれた形キャラクターがそのまま現実になったようだ。そんな貧相な想が思い浮かんだ。

その二人は白髪で赤い眼という異様な姿で、雙子のように瓜二つだった。きっと男の子との子なのだろう。髪の長さの違いからそう予想がついた。

絶句して何も言えずにいると、男の子が聲を掛けてきた。

「申し訳ありませんが、僕たちを助けてくれませんか？」

凜とした聲。

聲も綺麗だなぁ、などと思っていると、

キィキィー！

と金切音を立てて一臺のワンボックスカーが公園の外に急停止した。

事故か!?　と車の方を見遣ると、車から何人かの男達が飛び出してきて、こちらを指差すなり怒鳴り聲を張り上げてきた。

「あそこだ！　あのガキどもだ。つかまえろ！」

その聲を聞くやいなや、男の子はの子の手を引いて反対方向に駆け出して行った。

そして僕は、なんとなく、本當になんとなくだったのだけど、二人と一緒に逃げ出してしまったんだ。