《[完結しました!] 僕は、お父さんだから(書籍名:伝子コンプレックス)》[1-08]正月と雑煮とコタツと
◇
布津野がロクとナナと出會って一週間ほどが経過した。
カレンダー上ではお正月であり、例年ではいつもより落ち著いた、あるいは浮ついた雰囲気が世間に広がる時季のはずだった。しかし、今年は例年とは違い世間には張が張りつめていた。
テレビとかネットとか、あらゆるメディアを賑わせたのは、正月特番のコメディショーとか、伝統的な歌番組とか、そう言った鉄板コンテンツではなく、報道ニュース番組だった。
「警察と純人會の癒著! 連続拐事件に関與」「警視総監の柄を拘束」ディスプレイに踴るテロップは、特にやることもない正月の一般人の注目を集めるには十分に刺激的であり、被害者がみな十代前半の年であっただけに凄まじい非難が警察に集中した。
政府の対応は、大衆の不安を払しょくし興味を満たすには十分なほどに、迅速でかつ的であった。渦中の組織トップであった警視総監の柄の拘束、臨時公安執行組織の制定、拐以外の警察が関與した余罪の開示……
「まるで、事前に用意したみたいな手際の良さだなぁ」
Advertisement
そう布津野がつぶやくと、
「事前に用意していましたからね」
ロクが平然と答えた。
「あっ、あの警察の偉い人。捕まっちゃったんだ」
ナナがテレビに映る連行される警視総監らしい男の映像を見て聲をあげる。
「ナナちゃん、警視総監のこと知っているのかい?」
布津野は目を見開いた。
「うん、前にロクに言われて、あのおじさんのを見たの。あまり良いしてなかったから、嫌い」
ナナは雑煮の餅を食べるのに手間取っている。
「しかし、信じられないな。ロク君が全部、計畫したんだって?」
布津野は雑煮の餅を箸で割る。
……餡子がってない。ここの雑煮はってないタイプのものなのか。
「全部ではありません。実際は、グランマや宮本さん、他の人たちも関わった計畫です」
「いいえ、これはロクの計畫です。このタイミングで、自分自の命にかかわるリスクを選択し、これほどの果を獲得したのは、ロクゆえと考えるべきでしょう」
そう言ったのは、冴子さん――ロクとナナはグランマと呼ぶ――だった。こちらは淀みない箸さばきで雑煮の餅を効率良く口に運んでいる。効率の良い食べ方というのも奇妙な表現だが、彼の食べ方はそう言いたくなるほどにテキパキとしていた。
Advertisement
「誰がやったか、誰のおかげだとか、どうでもいいだろう。とりあえず、功したんだ。だから雑煮が味い」
宮本もいる。こちらはガツガツ雑煮を食べている。見ているだけで、気持ち良くなるくらいの食べっぷりだ。
五人は、コタツにってテレビをつけながら新年の雑煮を食べていた。
ここは研究所の小さな和室だ。部屋の中央にはコタツが據えられており、五人はコタツに一緒に足をつっこんで、食堂の人が特別に用意してくれた雑煮をすすっていた。
布津野は自分の置かれた狀況の奇妙さをじざるを得なかった。
何が奇妙かというと、わされる會話の重大さがとてもコタツの上で飛びうレベルものではないものだとか、自分以外の人間の容姿のしさが凄まじくて自分が浮いているとか、ここにミカンがないことが非常に悔やまれることだとか……。多分、そういうんな疑問が合わさって、自分は混しているのだろう。
あのクリスマス・イブの夜の後、布津野は研究所に連れて行かれた。そこで待機するように、表面的には依頼され、実質的には強制されて、盲目的にそれに従っていた。
Advertisement
自分が経験した事とか聞かされたことは、重要な機であり、自分を野放しにするわけにはいかない事は容易に想像出來た。ゆえに、ここに拘束されることは納得していたし、幸いというか殘念なことに、自分はニートなので特に不都合もなかった。
結局、それから一週間、惰と勢いにまかせて監されるがままになり、研究所の住民みたいになってしまっている。
それにしてもコタツは至福である。
「みんな、今まで、お忙しかったみたいですね」
悲しいかな、そう言う布津野はまったくをもって暇だった。
ニートという致命的立場にあるはずの自分は、何一つやることが無かった。せいぜい、あてがわれた自室で大人しくして、時折、訪ねてくるナナとか、ロクの相手をして遊んでいたくらいだ。インターネットも止されていたので、就職活も出來ない。
それに引き替え、政治とか社會とか治安とか、まったく想像にすらできない規模の責任をもって仕事している目の前の四人は、この年末に非常に慌ただしく、四六時中駆けまわっていた。
ロクと冴子は、どうやら政府のお偉いさんとの會議とか調整とかがギッシリだった。宮本も警察部の捜査や重要人の拘束に追われていた。ナナさえ、々なところに引っ張りだこだ。ナナが持つ超能力のような読心は非常に役に立つらしい。この數日は政府要人や重要參考人の神鑑定のためにいつも呼び出されていた。
こうやって談話室で一緒になってコタツで雑煮を食べているのは、多忙の隙間をぬった偶然の産でしかない。ナナは暇をみつけては布津野のところに遊びにきていたので、比較的よく會う。そのナナに用事がある場合、他のメンバーは自然と布津野を探すことになる。そうやって偶然、全員が一同に會することになり、ついでに近況の報共有ミーティングもかねて、雑煮も食べることになった。
布津野以外の四人は流石に疲労の様子を隠しきれず、コタツのまどろみに取りこまれそうになっていた。
「でも、これで一件落著なんだよね」
布津野がうかがうように聞くと、
「いえ、全然。むしろこれからが大切です。汚職事件として警視総監を逮捕、罷免しましたが、警視総監は東京の地方警察のトップに過ぎません。警察の中央組織のトップは警察庁長で、さらにその上は國家公安委員會があります。純人會の人脈がどの程度、政府深層までり込んでいるのかを洗い出す必要があります。場合によっては國家公安委員會とは別の司法執行組織を設立して、國家重大犯罪の対処にあてるようにする必要があるかもしれません」
ロクが、こちらも効率よく雑煮を食べながら、なんだが難しそうな事を言う。
「いやぁ、ロク君はすごいね。まだ子供なのに、政治の偉い人たちと仕事するなんて」
「すごいかどうかは僕には実があまりないです。これは、グランマが決めたことですし、品種改良素の存在意義みたいなものです」
品種改良素の存在意義……いったいどういう事なんだろうか。
「ロク、あなたは布津野さんの前では口が軽くなる傾向があるようですね。それも機報の一部であること、知らないわけではないでしょう」
「……すみません。今のは淺慮でした」とロクが複雑に顔を曇らせて謝った。
ロクが謝るのは非常に珍しい事だ。何だか自分のせいでロクがしかられているような気がして、居心地がわるい。
品種改良素――優秀な伝子をもつ人間同士を意図的に生させ、その子供に伝子作を行う。それを世代ごとに繰り返して生まれた人類の理想形……らしい。ロクとナナは第七世代。冴子さんは第五世代の品種改良素らしい。
第七世代である二人はまだ十歳で、第五世代である冴子さんも二十歳でしかない。それなのに、政府の重要な意思決定が彼らの判斷に任されているようだ。僕が十歳とか二十歳のころなんて……比べるのも馬鹿らしいか。
「いえ、上位の第七世代の判斷に基づいてのことなのかもしれません。そうであれば、先程の私の指摘については、忘れてください。出過ぎた真似でした」
「グランマ……伝的には確かに僕が上位でしょうが、しかし、後天的要素ではグランマが優れている事は間違いありません。十年という経験差は伝だけではくつがえるものではないと思います」
「それはあらゆる検査によって、あなたの判斷が私よりも度が高いことが証明されています。そして、あなたが布津野さんに対して特別な扱いをしていることは明白であり、それはあなたの判斷なのでしょう。やはり、私が口を挾むことではありません」
ロクは雑煮の椀を置いて、ジッと冴子を見た。
まるで、すねるように見えた。
「グランマには、そう見えますか」
「ええ。しかし、これには私なりの確証があります。ロクだけではありません、ナナも布津野さんを特別視しているようです」
冴子はナナに視線をすべらせた。ナナは自分が見られている事に気が付いて、にこりと笑う。
「ん……、布津野のこと? うん、特別だよ。布津野のは特別なの」
「第七世代の最適解と奇跡がともに特別視するのです。おそらく布津野さんには何か、信用にたる何かが備わっていると考えるべきなのかもしれない」
冴子は、かわらず効率的に雑煮を食べていた。早いわけではなく、遅くもない。消化に最適なペースなのかもしれない。
「ナナはそのようですが、僕にはよく分かりません」
ロクが箸も置いた。椀の中の雑煮はまだ殘っていた。
カン
椀を叩きつける音が狹い部屋に鳴り響いた。
全員が音の方に視線を向けると、そこには両手を合わせて「ごちそう様でした」と言う宮本の姿があった。大男の彼が禮儀正しく食後の挨拶をするその姿がどこか、妙なかわいげがある。
「ロクよ、その特別な布津野の旦那なんだが、借りていいか?」
宮本がそう問いかけると、ロクは怪訝な顔をした。
「布津野さんを借りる……どういう事ですか?」
「ほら、旦那と一緒に解決した事件の時に、拐された他の子供たちも保護しただろう。その中にいた黒條組のお嬢様の件だ。あれについて進めようと思うんだが、旦那の協力がしいんだ。構わないか?」
「……構いませんが。何をお考えですか?」
「何も考えてねぇよ。ただ、黒條組との件については布津野の旦那が役に立つかもしれないと思ってるだけだ。旦那はどうだ?」
と、いきなり話を振られた布津野は驚いた。黒條組……? なにやら危険なじがする。おもに暴力団的な。
「えっと、何をすればいいのかな?」
「なに、拐された娘さんが、黒條組の娘さんで、それを返しに行くだけだ。頼む旦那、奴らはあんまり俺らみたいな最適化した人間のこと気にってないんだ。旦那がいると何かと助かるんだ」
やっぱりヤクザさんじゃないですか!
布津野は息を呑んだ。どうして、この人たちは自分とはスケールの違う話ばかりなのだろう。政府や警察汚職の次は、暴力団……僕は正月のコタツ上で真剣にわす議論というのは、親戚の子供達のお年玉をいくらに統一するかというようなテーマだと思っていた。
「いや、僕にはとても、ヤクザさんとの渉なんて……」
「そうか、殘念だ。金は出すんだがね」
宮本がチラリとこちらを見る。
「お金……」
やばい、思わずつられてしまった。
「ああ、無職の旦那のために、割にいいバイトを紹介するつもりだったんだが……」
「いくら……ですか?」
「一日で、三萬……いや、五萬だ」
「五萬!」
親戚のお年玉の何回分になるだろうか!?
「是非、やらせてください!」
反的にそう答えてしまっていた。
【書籍化】天才錬金術師は気ままに旅する~世界最高の元宮廷錬金術師はポーション技術の衰退した未來に目覚め、無自覚に人助けをしていたら、いつの間にか聖女さま扱いされていた件
※書籍化が決まりました! ありがとうございます! 宮廷錬金術師として働く少女セイ・ファート。 彼女は最年少で宮廷入りした期待の新人。 世界最高の錬金術師を師匠に持ち、若くして最高峰の技術と知識を持った彼女の將來は、明るいはずだった。 しかし5年経った現在、彼女は激務に追われ、上司からいびられ、殘業の日々を送っていた。 そんなある日、王都をモンスターの群れが襲う。 セイは自分の隠し工房に逃げ込むが、なかなかモンスターは去って行かない。 食糧も盡きようとしていたので、セイは薬で仮死狀態となる。 そして次に目覚めると、セイは500年後の未來に転生していた。王都はすでに滅んでおり、自分を知るものは誰もいない狀態。 「これでもう殘業とはおさらばよ! あたしは自由に旅をする!」 自由を手に入れたセイはのんびりと、未來の世界を観光することになる。 だが彼女は知らない。この世界ではポーション技術が衰退していることを。自分の作る下級ポーションですら、超希少であることを。 セイは旅をしていくうちに、【聖女様】として噂になっていくのだが、彼女は全く気づかないのだった。
8 172ヤメロ【完】
他人との不必要な関わりや人混みが苦手ということもあり、俺はアウトドア全般が昔から好きではなかった。 そんな俺の唯一の趣味といえば、自宅でのんびりとホラー映畫を鑑賞すること。 いくら趣味だとはいえ、やはり人が密集する映畫館には行きたくはない。それぐらい、外に出るのが好きではなかったりする。 だが、ある映畫と偶然出會ったことでそんな日常にも変化が訪れた。 その映畫の魅力にすっかりとハマッてしまった俺は、今では新作が出る度に映畫館へと足繁く通っている。 その名も『スナッフフィルム』 一部では、【本當の殺人映像】だなんて噂もある。 そんな噂をされる程に上手く出來たPOV方式のこの映畫は、これまで観てきたホラー映畫の中でも一番臨場感があり、俺に最高の刺激とエンタメを與えてくれるのだ。 そして今日も俺は、『スナッフフィルム』を観る為に映畫館の扉を開くーー。 ↓YouTubeにて、朗読中 https://m.youtube.com/channel/UCWypoBYNIICXZdBmfZHNe6Q/playlists ※ 表紙はフリーアイコンを使用しています 2020年4月27日 執筆完結作品
8 97銀狼転生記~助けた幼女と異世界放浪~
狼に転生した青年は魔神を目指す。 クラスメイト達、魔王、百年前の転移者、不遇な少女達…。 數々の出逢いと別れを繰り返しながら…。 彼は邪神の導きに従って異世界を放浪する。 これは、青年が幼女と共に歩む銀狼転生記──その軌跡である。 :楽勝展開ばかりではありません。
8 193幼女に転生した俺の保護者が女神な件。
何気ない退屈で平和な日常を過ごしていた主人公。しかしそんな日常もほんの一瞬で絶望へ変わってしまった。 大きな2度の地震で不幸にも死んでしまった主人公は、女神の元で異世界へ転生する事となった。自分の人生を決める重要なカードを引いた主人公は幼い女の子の姿に。その姿に惚れた女神は自分の仕事を忘れて主人公の保護者として一緒に異世界に転移してしまう。 幼女に転生した俺の保護者が女神な件。始まります。 /初心者作者による作品の為過度な期待はNG /誤字・構成ミス多め /16萬アクセス達成 /30000ユニーク達成 /毎日晝12:00更新!(多分) Twitter @Novel_croquis
8 82シスコン&ブラコンの天才兄妹は異世界でもその天賦の才を振るいます
───とある兄妹は世界に絶望していた。 天才であるが故に誰にも理解されえない。 他者より秀でるだけで乖離される、そんな世界は一類の希望すらも皆無に等しい夢幻泡影であった。 天才の思考は凡人には理解されえない。 故に天才の思想は同列の天才にしか紐解くことは不可能である。 新人類に最も近き存在の思想は現在の人間にはその深淵の欠片すらも把握出來ない、共鳴に至るには程遠いものであった。 異なる次元が重なり合う事は決して葉わない夢物語である。 比類なき存在だと心が、本能が、魂が理解してしまうのだ。 天才と稱される人間は人々の象徴、羨望に包まれ──次第にその感情は畏怖へと変貌する。 才無き存在は自身の力不足を天才を化け物──理外の存在だと自己暗示させる事で保身へと逃げ、精神の安定化を図る。 人の理の範疇を凌駕し、人間でありながら人の領域を超越し才能に、生物としての本能が萎縮するのだ。 才能という名の個性を、有象無象らは數の暴力で正當化しようとするのだ。 何と愚かで身勝手なのだろうか。 故に我らは世界に求めよう。 ───Welt kniet vor mir nieder…
8 80神籤世界の冒険記。~ギルドリーダーはじめました~
ガチャに勤しむ會社員郡上立太は、コンビニで魔法のカードを手に入れた帰りに異世界へと送り込まれてしまった。それは彼がプレイしていたゲームの世界なのか、それともよく似た別世界なのか。世界を統治する『虹の女神』と、彼女に瓜二つの少女の正體。彼がこの世界にやってきた理由。これはいずれ世界を震撼させることになる男、『塔』の冒険者たちを統べるギルドマスターリッタ・グジョーの物語である
8 162