《[完結しました!] 僕は、お父さんだから(書籍名:伝子コンプレックス)》[1-11]は強いな

「いやぁ、申し訳ないねぇ。わざわざ乗せてもらってさ」

紅葉はそう言って、車の後部座席に一緒にのった布津野の腕を摑んでをすり寄せた。

三人は今、宮本が運転する車の中に同乗していた。

道場を辭して、間もない頃合いである。丁度、帰る道中に紅葉の用事がある場所があるとのことで、途中まで乗せていくことになったのだ。

「かまわんぜ。良い経験をさせてもらったお禮だ。しかし、紅葉ちゃんとやらは隨分、旦那のことが気にっているみたいだな」と宮本が運転しながら言う。

「分かります? あたいは布津野先輩が大好きでたまらないんだよ。布津野先輩、萌え~ってやつ」

「萌え~、ってか、旦那も隅に置けねぇな」

そんな二人のやり取りを聞き流しながら、布津野はどっと疲れをじていた。

二人とも比較的明るい格をして、人懐っこい格をしているせいか……二人が一緒にいると正直ウザい。

「宮本さんとやら、どう? 布津野先輩は強かったでしょ?」

「ああ、強かったぜ。これでもしは腕に覚えがあったんだが、未調整にここまでやられると立つ瀬がねぇな」

「それそれ、布津野先輩の魅力。未調整なのに強い、それでいて謙虛。もう萌えだよ萌え。宮本さんは分かってるわ」

「ちょっと、二人とも……それくらいにしなよ」

布津野がどうにも我がのことながら、いたたまれなくなってそう遮ると、紅葉はを近づけて布津野を見た。

「大、先輩は謙虛を通り越して、自己卑下ですよ。もっと偉そうにしていいんです。今の道場の師範とかは、年齢ばかり上で実力も伴ってない人多いんだから。先輩みたいな人がもっと評価されないとダメ」

十五歳になって、ちゃんと可くなったの子が、三十のおじさんに接するのはもっとダメだろう。そう布津野は思い、紅葉から離れようと窓際にを寄せたが、すぐさま距離をつめられて窮地に追い込まれた。

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「紅葉ちゃん、落ち著いて」

「ふーん、なにを焦ってるのかしら先輩?」

紅葉に捕まれた腕に當たるらかなが、つまり大きくなったが、妙に熱くじた。

――長したなぁ

などという慨にふける余裕はない。

自分も一応、男なので年頃の娘さんにこう無防備に接せられると、どうにもこうにも張して良く分からなくなる。

「そういえば、紅葉ちゃんの用事ってなんなの……かな?」

しどろもどろに布津野がそう話題をそらそうとすると、紅葉はそれまでの茶化した雰囲気を止め、急に真剣な様子になった。

「うん、実はね。友達の佐伯さんのお父さんが亡くなったの」

紅葉は布津野にもたれ掛って頭を預けた。

「ねぇ、先輩、知ってる? 今、ニュースにもなっている、クリスマス・イブの拐事件。警察が純人會の拐事件に関與していたってやつ、聞いたことがあるよね」

見上げる紅葉の目を見た。

「……ああ」

布津野は適當に相槌をうった。知っているも何も、布津野はその事件の當事者の一人だった。

失業したてのクリスマス・イブ。そこで出會った二人のしい子供たち。ロクとナナ、宮本と冴子との出會い。純人會と結びついて拐事件に関與していた警たち、そこで僕はある刑事に殺されそうになって……

――友達の佐伯さんのお父さんが亡くなったの

布津野の思考が停止した。

「佐伯さんのお父さんはね。刑事だったのだけど、あの事件でお亡くなりになったの。それでね、しばらく學校にも來なくなってね……」

紅葉の聲が、遠くなり、斷片的にしか聞き取れなくなっていく。

あの夜のことがフラッシュバックする。

恐ろしい事に、自分はそのイメージを意識の彼方に埋めて、隠しこんでいた。

刑事のニヤついた顔、

煙草の匂い、

ナナの悲鳴、ロクのび聲。

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銃口をあの男に向け、引き金を引いた。

パンッ

乾いた音を立てて、銃口がはねた。

飛び散る片。

自分はただ、臭いなと思った。

「……それでね。……様子を見に……ほら……あの子のお父さん……容疑者……肩が狹くて………」

キーワードが斷片的にしか聞こえなかった。ひどくが寒く、冷たい。

「……せん……せんぱい……先輩!?」

正気が戻ったのは、どのくらい後だったのだろう。目の前には心配そうに覗き込む紅葉の顔があった。

「どうしたの? ぼぅ、としちゃってさ?」

「ああ、ごめん……」と呟き返すのにいっぱいだった。

「もう、人がせっかく真剣な話をしてるのに、不謹慎だよ」

紅葉はそう言って笑った。こころの底が冷えて固まっている。彼から伝わってくる人の溫もりが無に有り難たい。無意識に、布津野は紅葉の肩を強く抱き寄せた。

「おっ、先輩、積極的だねぇ。宮本さんが見てるよ」

「その子……佐伯さんは、どんな様子だい」

「ん、まぁ、なんていうかな? 事件以來、メールでしかやりとりしてないけど、案外、平気だったよ」

「そう……なのかい?」

それは布津野にとって意外な答えだった。

「うん、なんでも佐伯さんのお父さんは隨分と、難儀な人だったらしくてね。家庭でも酒ばかり飲んで暴力も結構あったみたいだよ。佐伯さんも、正直お父さんが死んでしまってホッとしてるって言ってた。弟さんなんかは特にひどく當たられてみたいで、いつも悩んでたもん」

「へぇ、それは……なんというか」

「そうなんだよ。家庭も々だよねぇ。そう思うとあたいなんかは恵まれてるねぇと噛みしめるわけですよ。どちらかというと、拐事件に関與していた刑事ということでマスコミからの取材とかが大変でみたい。そのせいで學校にも來れなくなってね。佐伯さん言っていたよ、私も被害者ってね」

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「それは、また、何というか。気の毒にね」

「それは間違いないね」

カラカラと笑う紅葉を見て、布津野は先ほどまで冷え固まっていたが妙にほだされていくのをじた。

あの刑事は、自分が殺してしまった人間は、何か問題のある人だったのだろうか。彼が死んで悲しむべき人が悲しんでいないという現実に、どこか拍子抜けしたような覚を持て余した。

ふと、自分が紅葉の肩を抱き寄せている事に気が付き慌てて手を放す。ごめん、とつぶやいたが紅葉は気にする様子もない。

「ま、そんなわけで、ようやくマスコミも落ち著いてきたみたいでね。學校の宿題とかは私が預かってたし、佐伯さんも、ちょっと気分転換したいらしいから、新年のご挨拶もかねて押しかけてみようってわけ」

「そう……なんだ」

ふと窓から外をみると、車窓の景が住宅街に変わっていることに気が付いた。正月ということもあり、閑靜な雰囲気だった。

そこのある一軒家の玄関前に人だかりが出來ている。數名がカメラを攜えていることからマスコミだと分かる。おそらく、あそこが故佐伯刑事の家なのだろう。

「宮本さん、ここだよ……。マスコミがまだいるね。ごめんだけど、裏口に回ってもらってもいいかな?」

「ああ、お安い用だ」

車は人だかりの傍を通り過ぎた。

窓からすれ違いざまに見えた記者たちの表からは、疲れと苛立ちが見て取れた。彼らにしても、正月だというのに寒空の下で故人の家の前で張りこむことは本意ではないのだろう。

佐伯宅の裏側に回り込むと、そこは佐伯宅のベランダに面していた。取材対策だろう、窓という窓が雨戸やカーテンで閉め切られている。

「送ってくれて、ありがとう。じゃあ、先輩。また稽古してね」

紅葉がそう言って車から外に出て、パタンと座席のドアを閉めた。

布津野は、紅葉の背中を車から目で追った。電話をかけている、どうやら佐伯さんを呼び出しているようだ。

すぐに、ベランダの雨戸が開いて、そこから茶髪のスウェット姿のの子が顔を出した。佐伯さんのようだ。

その子は紅葉を見て、明るく笑った。

――は強いな

布津野は自分の手の平を見つめた。この手があの子の親を殺したのだ。

うゎぁ~~!

泣きぶ聲が、窓の外から突き抜けて耳をついた。

驚いて外を見た。

明るく笑っていたはずのの子が、顔をゆがめて泣きんでいた。

は紅葉に抱きついて、その場に崩れ落ちて聲を張り上げて、顔をぐしゃぐしゃにして、

――僕は馬鹿だ。

の子の泣き聲を聞きつけたのが、こちらに報道陣が回り込んで向かって駆けつけてくる。

「旦那、出すぜ」

宮本がそう言って、報道陣にむかってクラクションを鳴らすと暴に車を発進させた。途中に、車の頭を振って記者たちを蹴散らす。

布津野は、車の中からずっと、二人のの様子を見ていた。紅葉が彼を支えて家の中に消えていく。

しかし、布津野の耳ではの子の泣き聲がいつまでも反響していた。

の泣き顔も消えなかった。

慌ただしかった正月からさらに二週間が経過した。

世間は正月ボケが抜けきらない、曖昧な雰囲気のまま徐々に活を開始しているころ。布津野は相変わらず変化のない自分の狀況について危機を募らせていた。

覚石先生から有難い申し出もあったことであるし、本來であれば求職活を行い、自分の今後のキャリアについて見定めていかねばならない。しかし、研究所で半監狀態では、なかなか思うようにいくわけもなく。ただ無為に正月は過ぎ去っていた。

黒條組との渉の後、布津野に何かやることが生じたわけでもなく、彼はただよく遊びにくるナナや、息抜きにやってくるロクと遊んだり會話を楽しんでいた。

出來ることといったら、せいぜい転職活のノウハウ本を読むくらいである。

第一印象で8割が決まる! だとか、採用擔當は志機で90パーセント判斷する! だとかを読んでいくと、どうやら採用面接とは第一印象と志機で合計170パーセント決まるものであることが分かる。

余ってしまった70パーセントは何に影響するのか、非常に興味があるのだが、それは本には書いてなかった。

「布津野、今いそがしい?」

ナナがロクを連れて部屋にって來きた。

「いや、暇だよ」

「やった。すこし、落ち著いてきたね」ナナが駆け寄った。

「ん、なんのことだい?」布津野はナナを抱き上げ、首をかしげる。

「布津野の、最近はすごいゆらゆらだったから……かなしい事あったの?」

「ああ……そうだね」

布津野はナナの背中をぽんぽんと叩きながら、正月に見た泣き崩れるの姿が思い浮かんだ。彼は今どうしてるのだろう、泣いてるのか、それとも無理矢理に笑っているのか。

……どうやら、ナナにしか見えないにあの時のことが影響しているらしい。

子供に心配かけるなんて、本當にどうしようもないな。

「転職の本ですか」

ロクは布津野が読んでいた本を見つけた。

「ああ、本當なら転職活しないといけないんだけどね。この狀態では出來ることが限られているから」

「……この本、書かれている容が支離滅裂ですね。表現が過剰すぎて容も不明瞭ですよ」

パラパラとページをめくりながら、ロクは眉をひそめた。そのスピードで容が把握できるのだから、あらためてスゴイなと心させられる。

「そういえば、僕はいつまでここにいないといけないんだい?」

「あと一週間くらいしたらお伝えできると思います。すみません、諸々が立て込んでいて布津野さんについての対応が後回しになってしまっていますね」

「はあ、僕についてどこらへんに時間がかかっているのかな? やっぱり、ロク君やナナちゃんのを知ってしまっているからかな」

「もちろん、それもありますが。狀況はもうし複雑になってきています。布津野さんは今、僕らと黒條組の関係を取り持った渉人でもあります。こちらとしてはより慎重な判斷をしたい、というのが正直なところです」

「そんな、大仰な事になっているなんてね」

これも全て、宮本さんのせいだ。

布津野はベットに腰かけ、ナナを橫に座らせた。ナナはずっとこちらを見ていた。この子は不思議なところは、頻繁に部屋に來て何をするわけでもなく、ただずっと自分をみていることだ。

布津野の、すごく好き――ナナにそう言われたことがある。どうやら、彼は僕のを眺めに來ているらしい。

隨分と自分は面白いをしているのだろうな、と思い、自分のは何なのかと聞いたことがある。ナナは抹茶と言った。我ながら地味なで納得したが、面白いなのだろうか。

「黒條組とは上手くやっていけてるのかい? 確か、工事委託とか失業者の対策とかも協力していくんだろ」

布津野はそうロクに言いながら、ふと、名案を思いついた。黒條組から日雇いの土木工事の仕事を貰い、空いた時間で道場の指導員としてやっていけないだろうか?

これは現狀で考えるかぎり、かなり良いプランのような気がする。そうなれば、黒條組の組長と顔見知りになったこともプラスに働くだろう。

「ええ、予想以上に上手くいってます。いくつかの地域で公共事業の発注を行ったのですが、ほぼ理想的な注です。失業した未調整を効率的に集めて仕事を割り振ってもらいました。他の組や企業ではこうはいきませんよ」

ロクが心したように言った。彼がそう言うのであれば、相當なことなのだろう。

「今までは上手くいってなかったのかい」

「ええ、工事を発注しても、業者は利益を最大化するために雇用費の安い出稼ぎの外國人を使うのが普通です。未調整の失業対策のために捻出した公共事業ですが、その実態は一部企業の利益にしかならず、未調整の失業に対する効果は限定的でした。ところが黒條組を通して発注すると未調整に仕事が回り、しかも注額の割に仕事のスピードが速く、結果的に割安で済んでいるみたいですね。どうやら現場作業のオペレーションがかなり整備されているみたいです」

あの嬢さん組長――百合華さんは隨分とやり手だったということらしい。やっぱり今度、雇ってくれないかお願いしてみよう。

「これで、失業問題も良くなっていくかな」

「それは、現在の完全失業者は全國で一千萬人もいますから、本的な解決になるわけではありません。黒條組がいかに優れた組織でも、まだ東京の一部にしか影響を及ぼせませんから。しかし、彼らの組織力を利用して未調整の雇用については計畫経済的に進めていくことが出來るかもしれません。こうなって來ると、黒條組の影響圏が限定的であることが殘念ですね。せめて関東全域を支配してもらいたいのですが……」

それからロクは考え込むように獨り言のように話した。

どうやら、かなり難しいことを考えているらしい。聞いたことのない単語が次々と出てくる、農業分野に限定した計畫経済の改正と雇用確保、生活保障制度の見直し、治安の悪化、ブロークンウィンドウ理論、民間共同による治安管理……。

ロクの話は失業問題から社會保障、治安対策に話がスムーズに移していく。一この子の頭の中はどういった構造になっているのだろうか。

どうせ自分には理解出來ないので、布津野は七割以上その話を聞き流しながら、適當に相槌をうっていた。

ロクの思考を邪魔するのはひどく勿ない事なのだろう。ロクもどうして、わざわざここに來て自分にそんな話を聞かせるのだろうか。僕が理解できていないことくらい、この子は十分に承知しているはずなのに。

「……つまり、治安悪化の懸念から未調整に対して生活保障を手厚くしてきましたが、これは、働かなくても生活が可能という狀況を生み出し、結果的に未調整の失業率を助長している側面もあります。黒條組や警察組織などの治安システムが整備されれば、十分な雇用を與えて、生活保護レベルを段階的に下げていく必要があります。ただ、市場自由経済では未調整の雇用枠を確保できない事は明白である以上、インフラや低次産業を中心とした計畫経済の導は有力な仮説になるということです」

ロクはそう言い切るとし頬を緩めた。笑うと年相応の可らしさがある。

どうやらロクの中では考えが整理されたらしい、多分、ものすごい貴重な話だったに違いない。自分ではなくもっと頭の良い人が聞けば……ではあるけれど。

「上手くいきそうかい」

布津野が出來る一杯の応答はそれだけだった。

「ええ、布津野さんのお蔭です」

「ん? 何のことだい」

「いいえ、やはり黒條組との話をまとめることが出來たのは大きいです」

「僕は何もしてないよ」

正月に黒條組の渉に立ち會った時のことを思い出した。自分のした事と言ったら、自分の恥ずかしい昔話をちょっとだけ披しただけに過ぎない。

「でも、宮本さんは布津野さんがいなければまとまらなかった、と言っていました」

「宮本さん一人でも問題なかったかもしれないだろ」

「そうかもしれません。しかし、この渉は一度きりのものでした。宮本さんだけで臨んだ場合にどうなるかは誰にも分かりません。そして、その宮本さんの判斷で布津野さんを連れて行き、宮本さんが功の要因は布津野さんにあると言っています」

「まぁ、そう言われると、そんな気にもなるけれども……」

悪い気はもちろんしないが、良いものであるはずもない。

不相応な過大な評価を與えられて手放しに喜べる人はそう多くないはずだ。ましてや、今の話は完全に自分の分を超えたレベルのものだ。

自分としてはどちらかというと公共事業のバイトを紹介してしいのだけども……

ブーブー

バイブ音がしした。布津野はそれがベッドの脇に置いた自分の攜帯であると気付く。

無造作にとって、「もしもし、布津野です」と出て、凍りついた。

「布津野さん、お久しぶりですわね。黒條百合華です」

しとやかな聲だった。

布津野は目を見開いて、ロクを見た。パクパクと口を何度か空振りさせた後、なんとか「黒條組長から、電話」とひそめた聲でロクに伝えた。

眉をひそめたロクは、ベッドの橫にある機の上に放置していた紙に、何か書きつけると布津野に突きつけた。紙には『スピーカーモード、続けて』と書いてある。

「布津野さん? どうしたのかしら? 布津野さーん」

攜帯からもれる百合華の聲を聞き流しながら布津野は攜帯端末を慌てて作する。

スピーカーモードってつまり、周りにも會話が聞こえるようにする機能だったはずで……、あれボタンはどれ? これかな? これっぽいよな。

「布津野さん? 聞こえてますか? 回線が悪いのかしら」

百合華の電話越しの聲が部屋中に響き渡った。どうやら押したボタンは間違いではなかったらしい。

「あ、はい。布津野でございます」

「ああ、よかった。なかなかお返事いただけないから、間違ってしまったかとおもいました」

「すみません、えーと、からの電話はあまりなくて、張してしまってですね」

――自分は、一、十五の娘に何を言っているのだろう。

「ふふ、そうなの? 布津野さんは獨でいらっしゃいましたか? よろしければ、毎日お電話を差し上げましょうか?」

勘弁してください。

「いいえ、電話代が勿ないので……」

「あら、艶のないお返事ですこと」

「申し訳ありません」

布津野はそう思いながら、そう言えば百合華から電話してくる分にはコチラの電話代はかからないことを思い出した。そして、すぐさま、そういう問題でもないことも思い出した。

「あの、ご用件をお伺いしても、よろしいですか?」

「あら、用事がなければ、私は布津野さんにお電話することも出來ませんか」

「いえ、そんなことはありませんが、用事があれば、その、何かとですね……。はぁ、なんといいますか」

クスクスと、聲を殺した笑いが布津野の攜帯からこぼれた。どうやら、からかわれているらしい。本當に勘弁してしい。

「ふふ、申し訳ありません。実は用事がありました。今よろしいでしょうか?」

「ええ、えーと……」

ちらりとロクを見ると、紙に書きつけた文字を見せつけられた。『続けてください』と書いてある。

「はい、問題ありませんよ。どうぞ、仰って下さい」

「ありがとうございます。実は助けて頂きたいことがありまして……」

「ええ、どのような?」

そう答えながら布津野は思った。

なんで僕になんだろうか、と。

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