《[完結しました!] 僕は、お父さんだから(書籍名:伝子コンプレックス)》[3-13]無実のビニール袋

布津野が居酒屋から孤児院に戻った時には、祝賀會がひと通りの盛り上がりを終えて、落ち著きだした頃だった。

「お父さん!」

その布津野の姿を見つけるなり、ナナは一目散に駆け寄って飛びついた。慌てて抱きとめる布津野は、曖昧な表をしながら周りの様子をうかがった。

これはナナのい頃からの挨拶なのが、もう十五歳になるの子の行としては一般的ではないだろう。ナナは人前でも平気で飛びついてくるが、こちらはそうはいかない。それに、ナナは長し大人のになりつつある。一方で、自分はもう35歳のおじさんだ。的な懸念もそうだが……そろそろ、ナナの重をけ止めきれるかどうか怪しくなってきた。

周囲の子供たちは、やはり、こちらを見て微妙に笑っていた。ナナはよく孤児院に遊びに來る。布津野が當直の日には一緒に泊まることも多かった。それで、ナナのお父さんっ子ぶりは孤児院でもすっかり有名になってしまっていた。

周りの様子を気にする布津野の視界を、抱きついたままのナナが顔を覗かせてふさぐ。

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「あれ、お父さん」

「ん?」

布津野は、引き剝がすようにしてナナを降ろした。

「宮本さんと覚石先生は?」

「ああ、タクシーで帰ったよ」

「ふ〜ん、でも法強さんとはまだ一緒なのね」

「ああ、これから二人で二次會さ」

むぅ、とナナは口を尖らせて布津野の後ろに立っていた法強を睨みつけた。布津野と法強の手にはビニール袋がある。中はお酒だろうと、検討をつけてナナは布津野を睨む。

「お酒、飲むの?」

「……ダメかい?」

「え〜、」

ナナは頬を膨らませて、し考えて言った。

「……ここ、孤児院だよ」

そうだった、と布津野はハッとした。未年の生活環境であるここで、酒を持ち込むのは確かに不味い。困った。しかし、お酒は飲みたい。法強さんから中國拳法のことや、ロクやナナが政府での様子を聞きたい。無理してったばかりなのに……。

「……そうだ」

布津野は名案を思いついた。

「今日は、消燈時間を無しにするから、お酒のことは黙っておいてくれない?」

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「お〜、」とナナが聲を上げる。「いいの?」

「ああ、その代わり、コレはにね」とビニール袋を掲げ上げて見せる。

「う〜ん」

「だから、今日は榊さんの部屋に泊めてもらって」

「むむ、」

ナナは腕を組む。

泊まり込みの時、ナナは布津野の部屋で寢ることもあれば、榊の部屋で寢ることもあった。ナナは貓のように気分屋なところがある。どうやら、今日は布津野の部屋で寢るつもりだったらしい。

「何を勝手に換條件にしているんですか?」

問い詰める聲に、布津野はビクッとして背後を振り返る。

そこには榊が立っていた。

「榊さん……」

布津野は慌てた。榊さんは、まるでロクみたいに規則にうるさいところがある。前にロクみたいだ、と抗議したら凄く怒られた。

その榊さんが、ロクみたいに目を細めて手元のビニール袋を見る。

この中には、缶ビールが何本もっている。発泡酒じゃないビールだ。楽しみにしていたのだ。

「……」

榊の非難がこもった視線がビニール袋に刺さっている。缶にが開いて中がこぼれてしまいそうだ。布津野はビニール袋を両手で守った。

「布津野さん、」

ピクリ、と榊の片眉が弓なりに引きしぼられる。

布津野は理不盡にじた。ビニール袋はもう一つある。法強さんが持っているやつだ。なのに、非難されるのは僕のビニール袋ばかり。同じビニール袋のはずだ。ビニール袋は悪くない。

榊は頭を左右に振った。

「……今日は、見逃してあげましょう」

布津野は驚いた。まさか、ビニール袋の無実が伝わったのだろうか。

「その代わり、今日の消燈時間はなしですか?」

「あ、ああ。もちろんだよ。ついでに起床時間も無しにしてもいい。たくさん夜更かしして、ぐっすり寢て、晝ごはんを食べよう。どうせ明日は休みだしね」

どうせ僕は二日酔いになるだろうし、と布津野は心の中で添えた。

「……分かりました」

「あの、ナナを泊めてやってくれないかい?」

「ええ、構いませんよ。ナナちゃん?」

「むぅ、」

ナナはまだしむくれていた。難しい年頃だ。

その時、やけに大きな元気な聲が飛び込んできた。

「なんだ、なんだい。ナナちゃんと夜絵ちゃんがお泊まりだって⁉」

紅葉が現れた。

紅葉はそのまま、ナナと榊夜絵をひとまとめにして抱きすくめてしまう。ナナも榊もどちらかというと小柄で、紅葉は背の高い。その両手で二人をひょい、と抱きすくめてしまう。

「お姉さんも一緒に、お泊まりしたいです」

抱きすくめられたナナは、急にご機嫌になって、紅葉先輩だ、紅葉先輩だ、と言ってはしゃぎだした。本當に貓のように機嫌がコロコロと変わる。布津野はその様子を見て、ホッとをなでおろした。

三人はそのままワイワイ言いながら、孤児院のの子グループのところに戻っていく。が三人揃って(かしま)しい、とは良く言ったものだが、どちらかというと紅葉が一人で三人分騒がしいだけだろう。

「隨分としかったですね」と、同じ事を言う聲が橫から聞こえた。

その聲の方を見ると、ロクが姿を現した。

「ロク、」布津野はさっとビニール袋を背中に匿った。

「お帰りなさい」

ロクはそう言って目を細めた。あの目は、ビニール袋の存在に気がついている。ロクならビニール袋に冤罪を被せることだって簡単に出來るだろう。

「法強さんもご一緒ですか?」

先ほどの窮地では一言も喋らなかった法強が答えた。

「ああ、意気投合してな。布津野さんともうしばらく飲み明かしたいと思ってな」

「なるほど」

ロクは肩をすくめた。

「困りましたね。僕も父さんの部屋に泊めてもらおうと思ったのですが」

「ああ、別に一緒でも……」構いませんよね? と布津野は法強の方を振り返る。法強は布津野に向かって頷いた。

布津野は再びロクに向き直る。

「大丈夫だよ、一緒で……」と言う途中に、

「ロク!」と呼びかける聲がした。

聲の方を見ると、背の高い男子がロクの背後に立っている。

ロクが驚いて振り返ると、そこには數名の男子グループが手を挙げて笑っている。彼らは今日の試合に出場した男子たちだ。その真ん中に立っている最年長らしき短髪の男がロクに近づいてきた。

「今日は、俺たちの部屋で飲もうぜ」

布津野はその男が、対抗戦で副將を務めた瀬ノ原君だと気がついた。彼は男子陣のリーダー格の子だ。とはいえ、孤児院は副隊長が榊であるせいか、どことなく優位な風がある。

「僕と?」

ロクはきょとん、として言葉を忘れてそこに立ち盡くした。

「今日の勝利はお前のおだ。いろいろと話を聞かせてくれよ」

「えっ、と僕は……」

「いいだろ」と瀬ノ原はニカッと笑った。

それを見ていた布津野は、無に嬉しくなった。いてもたってもいられないくらいに、とても嬉しくなったのだ。

「瀬ノ原くん、」

布津野はそう呼びかけて、近づいていく。スキップになっているかもしれない。

「あ、布津野さん」

「部屋で飲むだって、まさか酒とかあるんじゃないのか?」

「あ、ありませんよ。ジュースのことです」と服部が言葉を濁す。

「おいおい、ダメじゃないか」

瀬ノ原の表が歪んでいく。

布津野は笑って、手に持ったビニール袋を服部に突き出して押し付けた。

いきなり、押しつけられた瀬ノ原は呆然とした。彼に向かって布津野は笑いかける。

「榊さんには緒だぞ。男には酒が必要だ。ジュースじゃダメだ」

「布津野さん、」

「いいか、絶対に榊さんにはバレるなよ。絶対だぞ。飲んだらバレるな。殘念だけど、見つかっても僕には君たちを助けることは出來ない。そこは自己責任だ」

「……はい」

布津野は大きく頷く。

「よし! だったらロクを連れて行け」

「はい!」

服部とその仲間達は、罪のないビニール袋を擔ぎ、ロクを引きずるように廊下の奧に向かっていく。ロクがこっちに向かって何かんでいる。

「父さん、ちょっと!」

「はいはい、親父さんの許可は取ったから。さっさと行くぞ、このファザコン野郎」

「な! ちがう」

「言い訳は部屋で飲みながら聞こう」

「未年の飲酒は絶対にダメだ。脳萎や男の場合はEDになる危険があるんだ」

「まあまあ、難しいことは部屋で聞いてやる」

そんなやり取りをしながら、ロクを囲んだ彼らは階段を上がって視界から消えていった。

——ああ、ロクがみんなと仲良くなっている。

気持ちが軽くなって、くるり、と法強のほうを振り向く。

そして、布津野は法強に向かって頭を掻いた。

「すみません。ビールを買いに、もう一度コンビニに行きませんか?」

『お酒は二十歳になってから』です。

布津野のように、自分の息子に友だちが出來て嬉しくなっても、お酒を飲ませてはいけません。

長期の子どもの飲酒は、脳萎の危険もあります。また二次長期の生機能の発達を阻害し、男の場合はインポテンツに、の場合は無月経になる可能が増大します。またアルコール依存癥になる可能が高くなり、集中力や神安定を失います。

長い人生です。大人になれば低リスクでお酒を楽しめます。若いときはお酒よりも楽しいことがいっぱいあります。

お酒は20歳になってから。

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