《[完結しました!] 僕は、お父さんだから(書籍名:伝子コンプレックス)》[3-14]部屋

榊の部屋は、いつもよりも賑やかだった。

孤児院の部屋は四人部屋が一般的で、榊にも三人のルームメイトがいた。彼たちにナナと紅葉を加えて、消燈時間を過ぎた後も祝賀會の後の名殘をおしゃべりと一緒にしてお茶にしていた。

「ナナちゃん、今日はこのままここでお泊まり?」と年長のルームメイトが髪を風呂上がりの髪をドライヤーに通しながら聞く。

「うん、今日はお父さんの部屋には法強さんがいるからね」

は紅葉の膝の上に座りながら、まだしむくれていた。

紅葉は膝の上のナナを後ろから抱きしめて、ナナの髪の上に顎を乗せてご機嫌な様子だった。

「相変わらずの先輩大好きっ子だねぇ、ナナちゃんは」

榊はテーブルのお茶を注ぎ足しながら、ちらりとナナを見る。

紅葉にお人形のように抱かれているナナは、本當に人形のようなしさがある。可いとか綺麗とか、そういったを構する要素をぎゅっと集めて人の形に整形すると、きっとナナちゃんになるのだろう。

それはニィ隊長も、そしてロクも同じだ。昔、ニィ隊長は自分のことを『第七世代の品種改良素』といったことを覚えている。ナナちゃんとロクもそれと同じらしい。

「そう言えば、ナナちゃんとロクは雙子なんだよね」

お茶を注ぎ終えて、榊は座り直す。

「そうだよ」

「そっくりだけど、全然違うね」

榊はそれがし不思議だった。

同じ第七世代の品種改良素であるニィ隊長とロクは、認めたくはないが、よく似ている。容姿だけではない。話していれば二人の共通點をいくつも見つけることができる。思考パターンや行力。何よりも、この人ならやれる、と思わせる信頼がある。

そんなニィ隊長とロクに比べて、ナナちゃんはやはりし違う。

容姿はそっくりだ。白髪で赤目なのもそうだけど、顔の造形も似ている。背の高さを無視すれば、ロクに裝させればナナちゃんと同じ顔になるだろう。……想像したら、なんか気持ち悪いな。

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違うのは雰囲気だろう。ナナちゃんには、他の二人と違って他人を導くような圧倒的な何かがない。ある意味、普通にめちゃくちゃ可い娘だ。それだけだ。

むっ、とナナちゃんが口を尖らせた。

「夜絵ちゃん、もしかして、ナナの事をバカだと思った?」

「えっ、そんなことないよ」

「ナナの事を、落ちこぼれだと思ったでしょ」

「そんな事、ないって」

榊は慌てた。正直、ちょっとだけ、そんなじに考えていた。

ナナちゃんは腕を組む。

「ロクが特別なだけ。ナナは學校では、中の、ちょっとだけ下くらいの績なんだから、別にバカじゃない」

「だから、違うってば。ただ……」

「ただ?」

「ナナちゃんの事が、不思議だなぁってね」

本當に不思議だ。榊は改めて、人形のように紅葉に抱かれているナナを見た。

どうして、學校の績が普通のナナちゃんが、ロクやニィ隊長のように政府の仕事をしているのか?

どうして、あのロクでさえ、ナナちゃんの言う事を重視するのだろうか?

どうして、あの布津野さんがこの二人の父親なんだろうか?

そういえば、ナナちゃんはニィ隊長の事、何か知っているかもしれない。

「確かに、ナナちゃんはミステリアスなだよね」

むぎゅ、とヌイグルミを抱き寄せるようにして、紅葉さんはナナちゃんと頬をり合わせた。互いに、きゃっきゃ、と聲を上げて笑っている。

紅葉さんが、食べちゃうぞ〜、と言う。ナナちゃんが、食べないで〜、と笑う。食べたいぞ〜、食べないで〜、などと言い合ってふざけているのを、榊は頬杖をついて眺める。

「ねぇ、ナナちゃん」

「ん?」とナナは紅葉とのじゃれあいを中斷して榊の方を振り向く。

「ニィ隊長が今、どうしているか知らない?」

周りのルームメイトが、一斉にナナの方に集中した。

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たちもナナに向かって口々に、質問を続ける、ニィ隊長は何をしているの、ニィ隊長は無事なの、と問い重ねる。

ナナはきょとん、として、そしてし顔を曇らせた。

紅葉がそんなナナをちらり、と見て言う。

「ニィ隊長って、あのニィ君?」

「ええ」とルームメイトの一人が答える。

「あのロク君とよく似た、し意地悪そうなじのニィ君?」

「ニィ隊長は意地悪なんかじゃありません」と榊が眉を寄せた。

紅葉は慌てる。

「あっ、ごめんごめん。そんなつもりはなかったんだけどさ。でもほら、あの子ってロク君とよく似ているけど、し影があるじじゃない? 格も結構違うじなのかなぁって思ってさ、」

「ニィ隊長は、誤解されやすい人ですけど、本當は優しい人なんです」

榊の険のある言い方に、ほう、と紅葉は顎をでて、じとり、と榊を見た。

榊はそのねめ回すような視線に慌てる。

「な、なんですか?」

的に?」

紅葉は、疑いのを滲ませて、榊に問い返す。

紅葉の嗅覚が何かの匂いを嗅ぎ當ていた。大好の匂いだ。これはバナの予がする。それもとびっきり甘酸っぱいヤツだ。

的って……」

例がなければ、お姉さんは納得できません。下心いっぱいの男ほどの子に優しさを安売りするものさ。夜絵ちゃんが見込んだ男の優しさとやら、是非、とっても、詳しく、聞きたいです」

紅葉は、さあ言いたまへ、と言い添えながら前のめりになる。彼に抱えられたままのナナも、らんらんと目を輝かせて榊を覗き込んでいる。

榊はを引いた。これはマズイ流れだ。逃げ場を求めて周囲にルームメイトを見る。しかし、彼たちも目を輝かせてこちらを見つめていた。

「そうよ、聞かせてよ」「榊さんはニィ隊長の一番のファンだものね」「言っちゃいなよ、夜絵」とルームメイトが馬乗り一転して、榊を囲んで攻め立てている。

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うう、と榊が聲をこぼす。

「まぁ、落ち著きたまえ、君たち」と紅葉がナナを降ろして立ち上がった。両手で、まるで聴衆を靜める政治家のような仕草をして、ふふん、と鼻を鳴らす。

「夜絵ちゃんも乙なのだよ。もしかしたらする乙なのかもしれない。そうせっつくものじゃない」

その場にいる全員が紅葉を仰ぎ見るようにして、頷いた。

榊は不思議に思った。ここの副隊長は自分だったはずだ。でも、この紅葉という人は初めてここに來たばかりなのに、すっかりとみんなを支配してしまっている。

簒奪者が天罰を下すように、自分に一本指をつきつけてきた。

「まずは、仮定の話から始めよう」

「……仮定、ですか?」

「ああ、もし世界に三人の男しかいないとしよう。その三人は、そうね、ロク君とニィ君、そして布津野先輩だ。たる私たちはこの三人から一人を選ばなければならない。これは子を産む存在として、間違ってはならない重要な選択だ」

さぁ、思い浮かべてごらん。と紅葉はまるで宣教師のような厳かな聲で周りを見渡した。

榊も周りを見渡した。ナナもルームメイトも目を閉じて何か真剣に思案していた。何だこの流れ、意味がわからないけど、逆らいにくい。とっても。

ほら、夜絵ちゃんも考えてごらん。紅葉の聲がいんいんと響く。

勢いに負けて目を閉じてしまう。世界に三人しか男がいなくて、そこから一人を選ばなければならない。ニィ隊長と、ロクと、布津野さん。

んっ、何で布津野さんがっているんだ?

「さあ、みんな考えたかな……。よし、じゃあ、ゆっくりと目を開けて」

みんなが敬虔な信仰をもって目を開けた。

紅葉の福音が、天井から降ってくる。

「まずは私からだ。私は斷然、布津野先輩、一択だった。他の男などイメージにすら浮かばなかった」

キャー、と聲が上がる。

「想像しただけで妊娠余裕でした」

キャー、キャー、

……何だ、これ。

どうどう、と紅葉は馬を鎮めるような聲で聴衆を靜める。彼は完全な統率力を発揮していた。そして、その指がナナちゃんの方にく。

「次、ナナちゃん」

「はい、紅葉先輩。ナナもお父さんでした」

オー、と今度は驚きの聲。

「ほう、しかしナナちゃん。近親はまだ人類には早すぎる。危険な領域だ。それはダメです」

に、年の差なんて関係ないよ。養子だから伝子も問題ないもん」

「うん、年の問題でも伝子の問題でもないよ。法律的な問題だよ。先輩が逮捕されちゃうよ」

「う〜ん、でもそれじゃあ、私にはニィだけしか殘らないじゃない」

紅葉さんは額に手を當てて、あちゃー、と聲をあげた。

「しまった、これはうっかりしていた。じゃあ、ナナちゃんはとりあえずニィ君にしておきなさい」

「ええ〜」

「法律なのです。異論は認めません」

紅葉はナナにそう言いつけて、次に榊の方に指を向けた。

「さあ、次は夜絵ちゃんです!」

「えっ、私、ですか?」

「そうです。さあ、誰を選ぶんだ?」

えっ、選ぶって、ニィ隊長とロクと布津野さん、から? なんでこの三人なの?

「……じゃ、じゃあ、私も布津野さんで、」

布津野さんと私が結婚したとしたら……、あれ、でも布津野さんって結婚してるよね。それって、々と不味いんじゃない? どうなの、どうなるのかな……。

「殘念!」と紅葉さんの聲が思考を遮る。

はっ、と正気に返って紅葉さんを見上げる。

「すでに先輩と私は結婚して、妊娠までしてしまいました。このお腹には子どももいます」

紅葉はお腹をでて見せた。背が高くスタイルの良い彼のお腹は、すっきりとしてよく引き締まっている。どう見ても、妊娠しているお腹ではない。

「えっ、えっ」

「殘るのはロク君かニィ君だ」

ずい、と想像妊娠中の紅葉さんが綺麗に上を折り曲げて、顔を近づけてきた。彼の大きなが、私が貸した小さなパジャマからこぼれ落ちてしまいそうだ。もしかしたら、本當に妊娠しているのかもしれない。

を揺らして紅葉さんが続ける。

「ちなみに、現在の狀況はロク君が寂しい獨狀態で、ニィ君はナナちゃんと結婚中です。しかし、結婚に乗り気でなかったナナちゃんは早くも倦怠期ムード。ニィ君も求不満が溜まって大変な狀況です」

「おおー」と周りから迫真の聲がれる。

のロクを引き取るか、ナナちゃんからニィ隊長を奪うか。そんな狀況になったら私はどうするのだろうか……。

いや、何かおかしい。そういう問題じゃない気がした。

そんな疑問が思い浮かんだ時、紅葉が急に聲を普段に戻して、軽く言った。

「まぁ、気軽に答えなよ。要は、好みの男のタイプはなんなの、って話なんだからさ」

紅葉がそう言ってニカっと笑う。

——好みの男のタイプ……。

なんだか、不思議な気持ちだった。それこそし前までは、夜のこんな時間に友達と男のタイプとか、あり得ない仮定の話だとか、そんなものを笑いあう余裕なんてなかった。とかとかは、よく分からない。ニィ隊長は私たちの命の恩人で、私たちのリーダーだった。

でも、私の中で男と言えば、たった一人だった。それを言ったって、不自然は自分の中にはない。

「……ニィ隊長です」

「うんうん」

「ナナちゃんから、ニィ隊長を奪い取ります」

そう口にして、これがというものなのかもしれない、と思った。大変なだ。何せ、相手は世界一の男で、しかも放浪癖がある。ライバルだってものすごい多いだろう。そう思うと周囲の反応が気になった。周りのルームメイトの方を伺う。

おお〜、よく言った夜絵! いいね、そうでなくっちゃ、と口々に笑いが咲きれていた。

途端に、恥ずかしくなった。

「じゃあ、次だ」

と言って、紅葉さんは他のルームメイトに話を振った。

黒髪のポニーテールのユキは「私もニィ隊長かなぁ」と言う。

「おっ、ニィ君はやっぱり人気だな」と紅葉さんは腕を組む。

「うん、やっぱりカッコイイよね。中國から出する時とか、私たちを守るために最後まで戦ってくれた。素直に謝しているし、尊敬できるよ」

私はユキに向かって、うんうん、と頷く。

「私は、布津野さんかな」と最年のシーちゃんがし照れ臭そうに言う。

「おやおや、先輩ですか?」と紅葉さんが覗き込む。

「やっぱり、何ていうか、當たり前ですけど、大人なところが素敵です」

「ほうほう」と紅葉さんは何度もうなずいたた。

布津野さんが大人? と榊は頭をひねる。シーちゃんは普段から布津野さんと一緒にいないから勘違いしているのかもしれない。あの人はだらしない、子供みたいな人だ。

シーちゃんは、しかしらしい目をキラキラさせて言う。

「布津野さんが私たちを必死に守ってくれたこと、見ていたらから。榊さんも、ユキさんもトモさんも殘留組だったからいなかったけど。GOAと私たちの戦いを、を張って止めてくれたのは布津野さんです。とてもカッコ良かった。私たちがこうして、お茶を飲んでるのも、布津野さんがいてくれたおだから」

有名な話だ。そして、未だに信じられない話でもある。あの半分以上は抜けている布津野さんが、GOAと殘留組との戦闘に介し、素手でGOAを全滅させた、という話だ。

「ふふん。分かっているじゃないか。シーちゃん」

紅葉はほとんど初対面のはずなのに、親しげに人を稱で呼ぶ。

「そんなシーちゃんには、二人目を産む権利をあげよう」

……あれ、私の時と隨分と対応が違う。

「じゃあ、最後はトモちゃん」

そう言って、紅葉は最近になって茶髪のロングヘアーにした。最年長のトモミに話を振る。

トモミは髪を指で弄びながら笑う。

「私は……ロク君かな?」

それは榊にとって、意外な答えだった。

榊だけではない、ルームメイトのユキとシーちゃんもびっくりしてトモミを見た。

その驚愕を、予期していたようにトモミは、くすり、と笑う。

「何よ、意外?」

「意外というか、何というか」とユキは唖然としている。

「どうして、ものすごいイケメンじゃない? 彼」

「そうだけど、さ……」

ユキが途切らせた言葉の続きを、榊は頭で補完した。

——ロクは私たちを殺そうとした。

それを恨む雰囲気は、今では隨分と和らいでいる。だけど、それが完全に消えたわけじゃない。お気にりの服にコーヒーをこぼした汚れ跡のように、何度も洗って汚れは隨分取れたけど、目を凝らせばまだこびりついている。

「まあ、言いたいことは分かるよ」

トモミはからからと笑う。「でもね、それと私がイケメン好きなのは、また別の話なのよ」と。トモミはここ最近でとても大人になった。ロングにして髪を染めたから、そう見えるだけなのかもしれない。最近、彼氏ができたからかもしれない。

「だけど、ロク君も別に殺したかったわけじゃないし……。まあ、布津野さんのけ売りだけどさ」

トモミは両手で自分の髪をかきあげた。はらはら、と綺麗に手れされた髪が舞い落ちる。

「ロク君だって、昔と隨分と変わったよ。私たちみんなの話を全部聞いてさ、最初はロク君を見るのも絶対に嫌、って子もいたじゃない。布津野さんに言われて、ってのもあるんだろうけどさ。彼は々と酷いこと言わても、粘り強く聞いていたじゃない?」

榊は自分が初めてロクと対面したことを思い出した。

孤児院の一室で、布津野さんとロクと自分の三人だけだった。その時の私はロクに対する嫌悪しかなかった。ロクは悪意の塊で出來ていて、彼の行のすべては自分たちを害するものであると、信じて疑わなかった。

——お前は、敵だ。

開口一番、ロクに言ったのはそんな言葉だったはずだ。

憎しみをそのまま言語化してぶつけた。

死ねばいい。

何も話すことはない、お前を殺させろ。

せめて自殺してくれ、今、ここで。

かつて、自分が放った悪意の言葉を思い出し、榊は膝を抱えて背を丸めた。

——ちょっと、ちょっとだけ、後悔している。

今、思えば、それには八つ當たりだった。ニィ隊長に置いていかれたという事実を、私はれられずにいた。もしかしたら、ロクがニィ隊長をかに殺してしまったのではないか、そんな妄想さえ何度も思い浮かべては、憎しみをさらに濃くしていた。

ロクに対してそう言った罵詈雑言をぶつけたのは、私だけではなかった。

何人かの、特にニィに心酔していた男子たちなんかは酷かったらしい。実際にロクを毆った奴もいる。それも公衆の面前でだ。

私もそれを見ていた。毆られたロクは無抵抗だった。男子は無抵抗なままのロクを、そのまま何度か毆った。しかし、ロクが無抵抗なままなので、やがて決まりの悪い顔をして「お前が悪いんだからな」と言い訳を大聲でわめいて、自分の部屋に逃げていった。

——私もあいつと同じだ。

ロクを絶対悪にしたてあげて、不満を手當たり次第にぶつけて溜飲を下げる。それで一時の満足を得て、最後に自己嫌悪した。

ニィ隊長に置き去りにされた私。

不幸な私たち。

悪いのはロクだ。とりあえず、斷定。

これからどうする? ロクをいじめる? よし、いじめよう。

思考停止。罵詈雑言に暴力。繰り返して、不になる。

ニィ隊長が救ってくれたこの命を、そんな事ばかりに浪費していた私たち。そんなだから、置いてかれたのかもしれない。

トモミの聲で、現実に戻る。

「私もさ、隨分イラついてたし、正直なところロク君には々やった。ほら、みんなで布津野さんのところに直談判しに言った事があったじゃない? ロクを孤児院に連れてくるなって」

「あったね」とユキが下を向く。

榊は自分の膝を、より一層、抱いて引き寄せてその時のことを思い出した。自分の醜い記憶は、いつだって鮮明だ。

「ごめんね。みんなに辛い思いをさせちゃったみたいだね」

あの時、布津野さんはそう言って目を伏せた。

ロクについて特に批判的なメンバーで布津野さんのところに押しかけた時だった。

「どうしてロクはここに來るのですか? 全員があいつに會うのを嫌がっています」

先頭に立ったのは榊だった。榊は後ろに並ぶメンバーを指し示した。「全員」と言ってはみたが、そこにいるのは六人だけだった。全員が舊殘留組。

本當は四十八人全員を連れてくるつもりだった。しかし、招集に応じたのはこれだけ。日本に帰ることを選択した帰國組と、ニィと共に居続けることを決意した殘留組にはが出來つつあった。この召集についても、帰國組は態度を曖昧にしていた。ロクのことは許せないけど、そこまでする必要はない。そんな言葉をちらほら聞く。

そういったの原因もロクにあるのだと、私は信じていた。

布津野さんは面を上げて、寂しそうに目に皺を作った。

「それは、僕のわがままさ」

「布津野さんのわがまま?」

「そう」

布津野さんは椅子から立ち上がる。それはこっちが立っているからだろう。布津野さんはいつも、相手と同じ目線の高さで話そうとする。

「君たちから、ロクに教えてしかったんだ。君たちのこと、考えていることとか、悩んでいることとか……。それに、君たちがロクを恨んでいることも、ね」

私は布津野さんの言うことが理解できずに、眉をしかめた。

「僕が無理矢理にロクを連れてきたんだ。それで嫌な思いをした子はいっぱいいるのなら、それは僕のせいだ」

「どうして、ですか?」

榊は布津野に問いかける。

「どうして、そんなことをしたのですか?」

布津野は両手を組んだ。

「難しいね。理由なんてないんだ。ただ……」

布津野は、そのあたりをゆっくりと歩き回る。時折、こちらを見ては、視線をあちこちへと彷徨わせる。まるでこの部屋のどこかに、理由が落ちているみたいに。それを探すように……。

「……僕がロクなら、どうしただろう」

それは布津野さんの自問自答だった。

「あの時のロクは中國との戦爭と、君たちの命について判斷しなければならなかった。僕がロクで、君たちの命と戦爭回避を選べ、と言われたらどうしただろうか?」

「布津野さんは、私たちを助けてくれました」と榊は言い添えた。

布津野は榊を見る。

「それは、違うよ」

「どういうことですか?」

當時の話は聞いていた。布津野さんは帰國組を殺しにきたGOAを一人で打ち倒し。ニィ隊長とロクの戦いを仲裁した。結果として戦爭も回避され、私たちは今を生きている。

「君たちを助けたのは僕じゃない。んな人が最後に納得できたから、だと思う」

「……」

「僕は、君たちを助けたいと思った。でも、それはニィ君も同じ……ロクだって同じだ」

「でも、あいつは実際に、」

私たちを殺す命令を下した。布津野さんなら絶対にしない。それは、事実だ。

「ロクは、あの子は戦爭をする決斷を出來なかっただけだよ」

布津野さんは、言い切った。

「日本と中國に戦爭を起こす決斷が出來なかった。それなのに、君たちを殺す決斷が出來てしまった」

それが僕は嫌だっただろうな、と布津野さんはつぶやいて、私たちの前で足を止めた。

「僕はロクに、そんな事、してしくなかったんだ。だから、君たちのことを知ってもらえれば、変わるんじゃないかって思った。ロクに命を比較したりする事が出來ないことを、知ってしかった」

「……」

「ごめん。それが僕のわがままの理由。それで君たちに嫌な気持ちにさせてしまった」

布津野さんは私たちに向かって頭を下げた。

「ロクにはもう來なくていいと、伝えておくよ」

「……結局、その時は布津野さんに、もうし考えさせてください、って言って結局そのまま。今では結構、馴染んできちゃたじゃない?」

「うん」

トモミは大人だ。それは彼との年齢差によるものか、経験差によるものなのか、多分両方なんだろう。あの時、布津野さんに、もうし考えさせてください、と言い出したのもトモミだった。

「私、今のじ、嫌いじゃないよ」

トモミはイケメンが好きなだけでしょ、とユキが茶々をれる。笑いが広がる。

「イケメンだけじゃないわ。噂によると収もすごいらしいわよ。ロク君」

玉の輿の優良件よ、とみんながはしゃぐ。こうやって笑える時間が増えてきた。笑えなかったのは、ロクが原因ではなかった。

「それはそうと!」

ユキが突然、大聲を出した。ユキは私の方を指差す。

「私見たわよ。榊がね。さっき、ロクと二人きりで外にいたところ」

「なに!」

紅葉さんがを乗り出した。その橫でナナちゃんが、ほうほう、と目を見開いている。

ユキがその反応に気を良くした。

「それも、結構イイ雰囲気かもしてたわ。しっぽりとしたじでね。二人の距離も結構近かったわよ、理的にね。あれはただの関係ではないと見た!」

ユキはそう決め付けた。

「おいおい、夜絵もやるね。ニィ隊長不在の間にストックの用意ですか」とトモミは心している。

「そういうのは、良くないと思う」と最年のシーちゃんは眉を寄せる。

榊は思わず立ち上がった。

「違うから、そんなんじゃ、絶対ないから。私、ロクのこと嫌いだから、大っ嫌いだから!」

そんな(かしま)しい笑い聲が、いつまでも部屋を賑わせていた。

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