《[完結しました!] 僕は、お父さんだから(書籍名:伝子コンプレックス)》[3-26]作戦

宇津々首相は手を上げて布津野を迎えた。

「久しぶりじゃの」

「ええ、いつもロクとナナがお世話になっております」

「いや、こちらこそじゃ。ながめは元気でやってるか?」

「ええ、助けられてばかりですよ」

首相の孫である宇津々ながめは、孤児院の教師として赴任している。

は、布津野をよく補佐して孤児院の運営を切り盛りしていた。本來の職務である授業だけではなく、政府からの補助金の申請やそれに伴う財務諸表の作申告、職員の採用まで、彼の仕事は広範囲に及んでいた。

「彼のほうが責任者に向いていますよ。代わってもらったほうがいいんじゃないですか」

と、布津野が曖昧に笑うのを、首相は一瞥する。

「まあ、そうはいくまいよ」

「はぁ」

「今のところ、上手くいっているようじゃ。儂が思っている以上にな。ならば、代える必要はあるまい」

「そんなものですか……」

「ながめが上手く働いておるのは、お前がいるからかもしれんしな」

首相は椅子に腰掛けると、布津野に向かいに座るように促す。そのまま、顎をなでながら思いに耽る。

「あれほど、過酷な目にあった子供たちが、平穏に暮らしていると聞く。それも実質的に監視下に置かれた生活で一年間もじゃ。子どもには辛かろうに……」

「みんな、良い子ですから」

布津野も椅子に腰掛けた。

「そうかの……」

じっ、と首相は布津野を見つめる。

し沈黙が降りた。

布津野はその間を不思議に思ったが、首相が何やら考え事をしている様子なので、大人しく黙って待つ。十數秒ほど無言が続いていると、

トントン、と扉を叩く音が沈黙を破った。

控えめに開いた扉の隙間に、白髪のが顔を覗かせる。

「お父さん!」

扉を押し開けて、ナナは布津野のほうに駆け寄ってきた。

やぁ、と布津野は応じる。

「今日は、ナナとお仕事だね」

「うん、わくわくだね」とナナは顔をほころばせた。

「あまり、わくわくするような事は起きてしくないなぁ……」

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ふむ、と首相は顔をあげる。

「そういえば、會議の護衛は布津野だったな」

「皆さんのお邪魔にならないよう、気をつけます」

「何でも、ロクの依頼だとか」

「そうなんですよ」

布津野はそう言って、嬉しそうに笑う。

「ロクからの頼み事なんて、初めてじゃないかな。頑張らないと」

「何やら狀況は騒みたいじゃの。この會議の場所も直前で変更することになった。北陸は流石に寒いの。雪景は風流だが、老にはちとつらい」

首相は椅子から立ち上がって、窓の景をのぞき込む。

そこには雪原が広がっていた。晴天ではあるが、それだかにが雪に反してまぶしい。周辺には建はほとんどなく、まばらな木々が遠くに點在している。小高い丘の上にあるこの會場が開催場所に選ばれたのは、ここが景勝地であるからだけではない。周辺が開けたこの場所は、襲撃を監視し対処するには都合がよいそうだ。

首相は窓に白い息を吹きかけた。

「あのロクが、布津野に頼るか……。それほどに困難な狀況か、」

いや、と呟いた首相は振り返って布津野を見た。

「もしや、ロクが変わったのか」

「なんですか?」

首を傾げる布津野を見て、首相はゆっくりと頭を振った。

「なんでもあるまいよ。さて、そろそろ時間じゃな。布津野よ、何かあればナナだけは守ってしい」

「ええ、首相もお守りしますよ」

「この老とナナを選ぶ瞬間があれば、ナナを選べ。順序を違えるではない」

「はぁ」

「迷って仕損じてはならぬぞ。ナナは人の寶じゃ」

そう言い置いて、首相は左右に布津野とナナを引き連れて部屋の扉を押し開けた。

「シャンマオは近くまで來ています」

ロクは周りの人間にそう報告しながら、手元のコンソールを指で叩いた。

そこは首脳會議の會場の一室で、數名が詰め込まれていた。黒い戦闘服にを包んだ宮本や千葉といったGOAの幹部たち。彼らは直立不でロクの言葉に耳を傾けていた。

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そこに迷い込んだように一人の小さながいた。彼も似合わぬ戦闘服をにまとい、片袖を垂れて立っていた。

ロクの指がいて、會場周辺の地図らしき映像がスクリーンに出力される。

「見ての通り、周辺は視界の開けた雪原です。そして、これが熱源センサーのスキャニング結果」

寫し出された地図の上に、赤やオレンジが表示される。それは會場の周囲に點在していた。

「この、敵と思われるのは十二。いくつかの熱源は形狀から獣だと思われます。敵の數はそれほど多くはありませんが、相手は伝子強化をけた特殊兵であることが予測されます。さらに、南二キロには三名からなる分隊がいます。ここにはシャンマオがいるようです」

「噂によるとらしいじゃねぇか」

と、宮本が口を挾んだ。

なくとも、見た目はでした」とロクは応じた。

「しかも、ナナと同じ能力を持っている」

「ええ、彼は弾丸を避けましたよ」

ひゅう、と宮本が口笛を鳴らす。

「まるで、旦那だな」と言って「そういえば、今回は旦那が首相の護衛についているそうじゃねぇか」と両腕を組んだ。

「首相が狙われる可能もありますので」

「いいねぇ。なくとも今回はあの旦那を敵にまわさなくて済む」

その宮本の軽口に、周囲のGOA幹部が忍び笑いをこぼした。宮本は口をへの字に曲げながら、そういえば、とロクに問いかける。

「敵の本命はどこにいる?」

「法強さんですか。この施設に來ているはずです。総書記に隨伴しているのを確認しました」

「暗殺の危険があるのによくウロウロ出來るな」

「この會議での総書記の言は、中國政府の存亡に関わるでしょう。彼としても黙って側を離れる訳にはいかないのでしょう。公(おおやけ)には亡命者と見なされているので、表立った場所には出て來ていませんが」

「俺たちの味方になってくれるか」

さあ、とロクは目を閉じたのを、宮本は興味深そうに眺める。

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「流石の最適解にも予測出來ないか?」

「法強の判斷に委ねる、と決定したのは僕じゃありませんから」

「反対はしなかったそうだが」

「賛もしていませんよ」

宮本は肩をすくめて、追求を止めて腕を組む。

彼には他にも気になることがあった。今回の作戦は、ロクのいつもの進め方とは違う気がした。ロクの作戦には回路のような綿さと手堅さがあった。悪く言えば、イレギュラーを許さないような狹量さがあったのだ。しかし、今回の作戦は違う気がする。適當な余裕がある。どうしてだろうか?

「そういえば、今回はやけに報が多いな。暗殺計畫はもっと隠に仕掛けてくるもんだと思っていたが」

「ええ、諜報が上手くいきました。協力者も多くいましたから、」

「協力者、ね」

それが原因かもしれない、と宮本は疑う。昔のロクなら協力者をあてにはしない。逆に申し出された協力を疑って対処法を計畫に組み込むくらいはやってのける。

宮本は片目を閉じて、部屋の隅に立っていた片腕のに視線を移した。その、榊は視線に気がつくと、小さく頭を下げた。

「対中國強化兵のスペシャリスト、てか」

榊は目を閉じて、宮本に応じる。

「不満か?」

「いや。お前たちの強さは知っているが……」と宮本は言葉に迷っていたが、やがてニヤリと笑う。「見た目は可いお嬢さんに、お守りをして貰うのは抵抗がある」

「……諦めるがいい。部下の損耗を減らしたいならな」

「まっ、実戦で経験済みの奴がいると段違いだわな。噂によると、相手はかなり特殊らしい」

「その通りです」とロクが口を挾む。

「ロクも、実戦済みだったな」

宮本はロクのほうに向き直る。

「ええ、シャンマオもそうですが、他の驩兜兵と呼ばれる者もかなりの能力です。三階程度の建であれば壁面を駆け上ることが出來ます。そのポテンシャルは未だに未知數です」

宮本の目が細くなり、聲が低くなる。

「俺たちよりも強いのか」

なくとも、GOAには壽命をめるほどの特化調整は施していません。彼ら強化兵の平均壽命は三十年程度のようです。これは戦死を計算から除外した數値です。おそらく、限界までに負荷をかけているせいでしょう」

ふむ、と宮本は頷く。

「確かに、鬼子に助けて貰ったほうが良さそうだな」

「ええ、榊たちは中國で四罪と戦い続けた経験があります。GOAの各小隊には孤児院の生徒たちを一名ずつ配置しています。指揮権こそGOAにありますが、各々は彼らの助言に耳を傾けるよう、徹底してください」

「分かった」

宮本は両手を組んで榊のほうを向く。そのまま「よろしく頼む」と頭を下げた。

榊はし戸ったように頷いた。

「さて、作戦ですが、」

ロクがそう仕切り直すと、全員が前を向き直った。

「今回は敵の狀況を正確に摑めているので、自最適化戦闘(オートキリング)を採用します。最適化可能な狀況を構築するために作戦が複雑になりますが、GOAは訓練通りに対応してください」

ロクはモニタの地図上に青の點を表示させた。その數は多く、施設を取り囲むように広く分布していた。

「その青い點は?」

「あらかじめ雪の中に仕込んでいた戦ドローンの位置です。し過剰ですが二百機ほど展開しています。この展開エリアに敵を引き込んで包囲してください。シミュレーションでは問題なく対処できました」

ロクはコンソールを叩くと、モニタ上で敵を示す赤い點と、ドローンの示す青い點がき回る。青が赤を取り囲んで消していく。

「こちらの平均被害予測はドローン三十二機です。人員の損耗は0.13人」

「しかし、シミュレーションはシミュレーションだ。予測にない狀況になればどうする? 例えば、敵の増援が百人來たとか、どこかの國の間抜けな首相が外で雪だるまを作って遊んでいたら敵に捕まったとか」

「ドローンのAIでは不測の事態に対応出來ませんので、GOA隊員がそれに対処するしかありません。予測可能な戦闘の効率化はAIに任せ、GOAは予測不可能な戦場の単純化に注力する。この戦原則(タクティクスドクトリン)についてはすでに合意したはずですが」

「そうだったな」と宮本は応じ「戦闘も変わったな」と呟いた。

そんな宮本の慨深い言葉を無視して、ロクは手元のコンピュータを眺める。

そこは、予測された変數にランダム要素を加えて一萬回試行したシミュレーション結果が表示されていた。文明の発達は、分業による作業の単純化とそれの自化の繰り返しだ。高度に発達した文明は、戦爭という殺人行為すら機械化し、その効率を數値化する。手元の予測関數は、殺人に必要なコストをコンマ數秒でアウトプットしている。

ロクはその一萬回のシミュレーションで最も悪い結果のパターンを確認した。ドローンの故障率が70%だった場合のパターンだ。しかし、それも雪原を踏破中の敵をGOAが熱源センサーと連した遠距離狙撃を実施して、最終的には功している。こちらの損失は隊員が4人死亡、ドローン百八十機。敵は全滅。

「おそらく、不測の事態が起きる可能は低いです」

「自信たっぷりじゃねぇか」

「黒條會と連攜し、敵が潛伏していたアジトと通信ルーターを徹底的に監視盜聴しました。相手の連絡履歴から追加の人員も判明しています。敵の総數はシャンマオを指揮とする十一人の驩兜兵で全てです。加えて、直前の會場移での敵の混も盜聴出來ました。東京の會場に備えていた襲撃準備は無駄になり、準備不足での実施を強いられています」

「つまり?」

「雪原での裝備を十分に手配出來ていない、ということです。敵の映像を衛星撮影しましたが、雪原用の迷彩服すら用意出來ずに、白のペンキを裝備に塗って間に合わせていました」

それに、とロクは付け加える。

「ここ一帯は除雪もせず積雪量が凄まじい。裝備なしで踏破しようとすれば、腰まで雪に埋もれます。驩兜兵の能力もかなり制限されると思います」

宮本は唸った。

「地の利は我々にある、ってわけだ」

「寒い、と首相にはなじられましたが、ここに會場移した甲斐がありました」

「全てお見通し、か」

「さぁ、どうでしょうね。予測通りにいく作戦のほうが、確率的にはないですから」

ロクは顎に手を當てて、ゆっくりと目を閉じる。

「他に質問は? ……無いようですね。では、展開してください」

「「了解」」

GOAの幹部たちは一斉に立ち上がった。

「順調、みたいだな」

榊はロクに語りかけた。

先ほどまで作戦概要説明(ブリーフィング)に參加していたGOAの幹部たちは誰もいない。彼らはそれぞれの持ち場に戻り、これから起こる襲撃に備えている。部屋にはロクと榊の二人だけだった。

ロクは自分のノートPCを作しながら、榊に問う。

「そう思えるか?」

「違うのか」

「いや、四罪と戦闘経験があるお前が、問題をじないのであれば大丈夫だろう」

「慎重なやつだな、」

榊は肩をすくめて見せた。ロクは手元を止めずに橫目で榊を見る。

「ニィとは違って、か?」

「……の子の考えを見かすな」

の子、ね。とロクは口の端を歪めて榊を見る。

黒條百合華いわく、自分はの子にモテないらしい。父さんを見習え、とも言っていた。しかし、自分には黒條百合華や榊のような人間を、の子と言うには違和がある。まあ、それこそが、モテない理由とやらなのかもしれない。

「なんだ?」

「ニィなら、」と口をついて、ロクは逡巡したが「あいつならどう対応したと思う」と聞いた。

「さあ、どうだろうな」

榊は首を傾げる。

「ニィ隊長の考えは私には想像もつかん。しかし、お前とは違った作戦になるだろうな。ニィ隊長は……そうだ。もっと積極的だ」

ロクの脳裏に、死闘を繰り広げたニィの形相が思い浮かぶ。

どこまでも攻撃的な技だった。自分のを打たせて、こちらの骨を砕くような。目的を達するために、何かを犠牲にすることを厭わない果敢さが、あいつにはある。

「積極的、か」

「まあ、実際のところは分からんな。我々は追われる立場にあった故かもしれん。今回のように事前に諜報を徹底し、相手を待ちける立場にあるのなら、ニィ隊長だって同じ作戦を立てるかもしれん」

そうかもしれないな、とロクは榊を見た。

最適化された彼の、しいというより可じが強いその顔の造形は、よく見ればの子のように見えなくもない。

「まあ、なんだ」と榊は言いにくそうに口を開いた。「悪くないとは思うぞ」

「何がだ」

「安心はあるぞ。……ニィ隊長と同じじがする」

ロクは不意を打たれて黙った。

「さて、狀況はどうだ」と、榊は仕切り直して紛らわせた。「いかに作戦が完璧でもその運用がお末では仕方ないだろう」

「ああ」

ロクは正気を取り戻して、榊の顔から手元のモニタに視線を落とした。

「予定ではもうすぐ、首相の開催宣言があるだろう」

ロクはモニタを會議場の中継映像に切り替えた。

「そこで、首相は無化計畫の発表を行う」

「そうなのか?」

榊は驚いて、ロクの手元のモニタをのぞき込んだ。

急に近づいた榊に、ロクは戸ってを避ける。その空いた隙間を、榊はさらにを寄せて埋めた。

「その無化計畫とやらは、最終日あたりに発表するのかと思っていた」

ぴったりとれる彼は、やわらかくて、ロクは戸う。

「どうした?」

「いや、」

ロクは頭を左右に振って、答えた。

「最終日だと會議の意味がないからな」

「どういうことだ。難しい話か?」

榊はロクのほうを振り向いた。顔が近い、とロクは思う。

「主要國首脳會議と言っても、日本と他國とでは國力に大きな格差がある。実として、會議の目的はこの格差のバランス調整だ」

「つまり、難しい話だな」

「……的に言うと、日本との貿易関稅や日本企業の海外進出における規制を調整するのが主な目的だ。例えば、これらの協定から農業分野における日本企業の海外進出には大きな規制が課せられている」

「日本に不利な條約ということか」と榊は慎重に言葉を選んだ。

「そうだ。現在、日本企業の力は圧倒的で、海外企業はこれに対抗することが出來ない。完全に自由化されたグローバル市場では、発展途上國だけではなく先進國でさえも自國企業の存続ができなくなる。そうなると、安定的な雇用の確保が出來ずに治安が悪化するだろう。そのため、日本企業が海外進出する際には國籍の取締役を數名組みれ、従業員の八割を現地人にするなどの規制がるのが一般的だ。現地政府に支払う法人稅なども日本企業だけ差別的に高い」

「それは、不公平だな」

「その通りだが、國家間の関係が公平になるのは力が均衡している場合だけだ。日本が圧倒的な今、自由競爭では相手國が崩壊する。それはそれでこちらにとっても不都合なことも多い。今だって、世界的に連合して日本と戦爭をしよう、という機運は衰えているわけではないからな」

榊は拳を口の前に當てて握り込む。

「弱者に配慮するのは良いが、なんだか甘やかしているみたいで気にくわないな」

榊らしいな、とロクは思う。

「大切なのはバランスだ。統制された計畫的戦爭(ゲーミング・ウォー)構想では、全世界と同時に敵対するべきではないと結論が出ている。こういった會議を通して、日本に好意的な國には経済優遇処置を、そうではない國には自由競爭の名の下に経済的に支配する。何も銃で撃ち合うだけが戦爭ではない。國家間の競爭は経済、外、軍事を織りぜて統制されるべきだ」

ふふっ、と榊は笑う。

「統制されるべきだ、と言われてもね。難しすぎて私にはよく分からんよ」

「つまり、我々は無化計畫への賛同を條件に、各國に経済的優遇処置を提案するつもりだ、と言うことだ。そのためにも、計畫の発表は會議の初日でなければならない」

「つまり、援助がしければ計畫に賛同しろ、と脅すのか」

「あくまでも渉だ。今回の會議の目的は、そこにある」

榊は頭を振った。髪が揺らいで、榊の匂いがロクの鼻孔に広がる。

「ロク、命令は何だ」

「命令?」

「そう、私への命令」

ロクは榊を見た。

「ニィ隊長がそうしたように、シンプルな命令で教えてくれ。私たちは何をすればいい?」

ロクは眉を寄せた。狀況とは、シンプルにするべきものであって、シンプルなものではない。それなのにシンプルな命令なんて、実在しないものを要求されることに困する。

昔からそうだ。確率的に生起する観測された現実から未來を予測し、期待値の高い組織的行を命令として翻訳する。そんな作業をずっと前から求められ続けてきた。

どんなに追求しても、確実な命令などない。それなのに人は命令を要求する。最適解ならば間違えない。そんな幻想を疑いはしない。

「それで、死んでも構わないから」

榊のその言葉に、ロクは驚いた。

「それで死んでも、私たちはお前を恨まないから」

榊はその失った左腕をでながら、ロクの顔を見據える。

「だから、そんな不安そうな顔をするな」

「榊、」

「ニィ隊長みたいに、私たちを導いてくれ」

榊はその小さな拳で、ロクのを打った。

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