「嫌いだ」と、法強は言った。

その翻訳を、布津野はすぐには理解できなかった。

法強が持っている端末からは、ロクの中國語が聞こえる。さっきまではシャンマオさんが、日本に協力するとかなんとか……。んな事を言っていた。驚きすぎて、理解が追いついていない。

四罪を作ったのが日本人であることや、法強さんが四罪のスパイだったとか、そう言った事まで法強さんは隠さずに全て翻訳してくれた。

端末の向こうのロクが、同じ中國語をもう一度言う。

「嫌いだ」

と、同じ翻訳を法強さんが繰り返す。

もう一度、ロクが斷言する。

「絶対に、嫌いだ」

翻訳も當然、同じだった。

布津野はこみ上げてくるものを抑えることが出來なかった。よく分からないけれど、とても、うれしい。ロクがしゃべっている。

法強さんの翻訳は続いている。

「我々は連絡を希する。宇津々首相に伝えろ」

「そのつもりはない。不要だ」

「それは貴方の意見だ」

「論外だ」

ロクの力強い言葉が聞こえてくる。その中國語の意味は分からなかったけれど、翻訳を聞く前から何となく意味が分かる。

「彼らをげたお前達とは、論外だ」

布津野は深く呼吸した。

味がする。味わっている。お酒みたいに、まどろむ幸せ。なんて子だろう。國家の命運とか、人類の未來とか、あの子はんなものを背負わせれた。それでもしっかりと立っている。立ち向かっている。

——ロクは、本當に強くて、とても優しい子なんだ。

法強はゆっくりと端末を下げる。そのまま宇津々首相に問いかける。

「宇津々首相、ロクのこの言葉、どのようにお考えか？」

そう問われた首相は、ほっ、と笑った。

顔面のしわが寄せ集まって愉快を表現していた。彼は極上の料理の香りを味わうかのように大きく鼻で息を吸い、ゆっくりと吐く。

「完したの」

「完？」

首相は、とん、と杖をついて笑う。

「布津野が完させた」と宇津々は言って布津野を見て、「ありがとう」と頭を下げた。

布津野は何のこと分からず、思わず首相にならって頭を下げた。

首相は顔を上げると、法強と総書記に向き直る。

「ロク、いや……布津野ロクは、閣代行役じゃ」

首相のその聲は力強い。一つ一つの言葉を刻み込むように言う。

「奴の下した判斷は、儂の決斷じゃ。日本政府が、四罪と協力することは、絶対に、あり得ぬ」

総書記は息をのんだ。その言葉の意味するところをじっくりと噛みしめる。強大な隣國が敵対する國派閥との決別を斷言した。その重大さを理解するのに時間がかかった。

はっ、と我に返るなり総書記は慌てて口を開く。

「我が中國政府は、」

「あの」と、総書記の発言を布津野が遮る。

全員が布津野のほうを見た。

「すみません、僕は早くロクのところに行きたいのですけど」

布津野はそう言って、法強の攜帯を指差す。そこからは、機械やが激しくぶつかる音がこぼれていた。それは明らかに戦闘の音だった。

「ふむ、そうじゃの」と宇津々首相は腰を上げる。「すまんが、この會談はここまでじゃ。後日、別の機會を設けよう。続きはそこで。布津野、儂とナナも連れて行け」

「あっ、はい。急ぎましょう。ほら、行きますよ」と布津野はドアに向かう。

「せかすな」

そう言って、三人は挨拶もそこそこに慌ただしく部屋を出て行く。

そして、バタン、と音を立てて扉が閉じた。

部屋に殘されたのは法強と総書記の二人だけだった。総書記は、深く息を吐きながらソファに重をまかせて沈み込む。

「一、何だったのだ」

と、隣に座る法強に問う。

「布津野忠人です」

「それは……あの男のことか？」

「ええ、説明いたしましょう。彼こそが布津野忠人です」

「……法強よ」

総書記は法強をねめつけた。

「そういう事は、初めに報告してしかったぞ」

◇

シャンマオは年の黒を見極めようとしていた。

生まれたばかりの殺意は燃えている。悪意のは白黒（モノクロ）の単で人によって変わることはない。しかし、その形狀は千差萬別だ。例えば、あのニィの悪意は研ぎ澄まされた結晶だった。

それに引き替え、この年の悪意は形をしていなかったはずだ。ぬるく、ゆるく、ぼやけた悪意。まるで幸せを形にしたような汚い塊。それが、この年の底だったはずだ。

しかし、今の彼は黒い炎だ。

その黒がく。

空気を突き破って打撃がとんでくる。

鋭い突きだ。

それを捌（さば）いてカウンターを差し込む。大、四回に一回は年に當たる。すでに何発も反撃を放った。普通なら一撃で沈むでもおかしくないダメージがあるはずだ。

しかし、年の黒がかすむ事はない。

目の前の黒がまた燃える。

すぐに打撃がとぶ。

それはシャンマオが経験したことがないほどに、最も速く、鋭く、重い打撃だった。の予兆に目を凝らさねばやられていただろう、と値踏みをする。

捌かずに腕でけ止めた。防の上からはね飛ばされ、ごと崩される。

ズン、と骨がきしみ、が持ち上がる。

無理矢理にでも距離を取るために、ごろごろと地面を転がって逃げ、すぐに立ち上がって距離を取り直す。

年の打撃は一流だ。その鍛錬の深さは、底を知らぬ。

あの黒炎は伊達ではない。けては、こちらがやられる。

ロクの鋭い打撃を、シャンマオは後ろに一歩下がってやり過ごす。同時に、ふわり、と右足で弧を描いて橫蹴りをはさむ。

その弧は、年の首筋から心臓にかけてを袈裟斬りするはずだった。

しかし、年の姿が消えた。

——またか。

年の黒が視界の端でちらつく。確認せずに逆方向に転がって逃げる。肩に打撃らしき衝撃がかすめた。確かな恐怖を認識する。あれの直撃は、タダでは済まない。

シャンマオはすぐさま立ち上がって、再び対峙した。

その年の名は、ロクという。

ニィと同じ、日本の最高能の強化個。

第七世代品種改良素だという。特化型ではなく汎用強化型らしい。ゆえに能力だけならこちらに分があるだろう。しかし、時々、戦いの途中で姿を消すことがある。厄介な現象だ。あれは何かの能力なのか。

「……よく、やる」

素直に驚いている。ついこの前に、どこぞでやり合った時よりも、明らかに厄介な存在になっている。あの時のぬるいは、もうない。小さいが確かな炎がちらついている。

その黒には見覚えがあった。

それはもっと巨大な何かだった。目の前のそれは蝋燭の燈火くらいだが、あれは全てを飲み込む業炎だった。あののない男が発した殺意と、この年がまとい出したはよく似ていた。

「怒っているのか？　坊や」

年の黒はきらめいている。

男前が上がったな、とシャンマオは思う。年の黒は、純粋にしい。あののない男と違って、炎が小さいだけあって鑑賞する余裕がある。

「むしろ私は優しかっただろ。殺さずの腕一本だ」

構えを整える。黒の発火に備える。

年との間合いは五歩先。この遠い間合いなら、を見てからの対応は容易だ。どんな攻撃にも、カウンターを合わせてみせる。

「もしかして……あの鬼子が好きだった？」

安い挑発。

黒がパッとる。

來る。

年は……

馬鹿な！

消えていた。

五歩もある遠間で、消えることができるのか！

次の瞬間、視界の右端を黒が焼く。

やみくもに両腕で全を守る。

真っ直ぐ水平に貫いてくる拳の衝撃にが浮きあがる。わざと踏ん張らずに真橫に吹き飛ばされる。け、起き上がって備える。

追撃の前蹴りが、迫る。

それを震腳で合わせて踏みつぶす。

そのまま肘打ちを下からかち上げて、年の顎を跳ね上げる。自分でも惚れ惚れするような完璧なカウンター。

しかし、黒は燃えている。

頭を跳ね上げられながら、年は構わずその長い手で橫撃を繰り出した。

今度は、肩をれてそれをける。衝撃が全に叩き、が回る。宙でバランスを取って、辛うじて著地した。

「無茶苦茶をやる」と悪態が出てくる。

年はよろめきながらも立っている。

そのしかった顔はすでにでぐちゃぐちゃだ。鼻を垂れ流して、呼吸の合間に覗く口の中も赤い。毆打を重ねられた目の周辺は紫にむくみ出している。

明らかにこちらよりもダメージは大きい。年の攻撃のほとんどが、こちらの攻撃をけながらの捨てだ。防を度外視したねじ込むような毆打。

顔に似合わず、強引なやつだ。しかし、このまま続ければ、勝つのは確実にこちらのはずだ。

それでも年は立っている。

——もしかしたら、

本當にこの年は、あの鬼子のが好きなのかも知れない。

年の黒は徐々に大きくなっている。シャンマオは、しだけ申し訳ない気持ちにもなった。狀況を打破するために、あのをしなぶりすぎた。結局、年を怒らせすぎて、事態をより悪化させてしまった。

「そろそろ、終わらせるか」

一歩を前に置く。

さすがに時間をかけすぎた。の子の前で必死になる年が、提案を嫌がるのであればしょうがない。さっさと片づけて、館のどこかにいる総書記を暗殺し、日本の首相に接しなければならない。

加減はもう止めだ。

殺してしまうかもしれない。このしい黒が消えてしまうのは、しだけ惜しい気がする。でも、まだ自分の奧義を見せていない。

膝をゆるめ、重心を前に傾ける。

その時、

「ロク！」と聲がして、扉が開いた。

シャンマオはそちらを見て、恐怖した。

あの男がそこにいた。

のない男。

男は部屋の中に視線を走らせた。

壁に叩きつけられたテーブル。壊れたドローン。部屋には顔面をだらけにした年。ぐちゃぐちゃになった腕を垂らした鬼子の。

そして……私を見る。

圧、をじた。

が反して、壁の際まで飛びのいた。

男から業火があふれて部屋を埋め盡くす。すでに四方を炎に囲まれている。逃げ場なんてない。限界まで背中を壁につけて、炎から距離をとる。この黒炎にれた時、私は死ぬ。失敗した。私は失敗していた。大馬鹿だ。この男がここにいるなんて……。

「君か？」

その優しげな聲とは正反対に、殺意が周囲を狹める。もう後ろはない。逃げ道もない。目が焼ける。足が震えて床がる。殺される。私は、この男を怒らせたのだ。

その黒の範囲は制空圏だ。部屋中に広がるほどに広い。小柄なこの男は全てをつつみこむ。私の場所は、ここには……。

「父さん！」

男の歩みが止まった。

「ロク、」

男が年のほうを振り返る。背を向けてなお、そのには微塵の隙もない。

「僕が……やります」

「ロク、大丈夫だよ。すぐに終わらせるから」

年は男のほうに、ふらふらと歩いて近づく。男を見下ろしながら、年は日本語で何か言っている。

「僕じゃ、不安ですか？」

「ロク、」

「僕では、勝てませんか？」

「でも、」と男がうめいた。「だって、怪我しているじゃないか。榊さんだって、」

「僕では、父さんの足下にも及びませんか」

周囲で燃えさかっていた黒炎が、ピタリ、と止まった。

「僕だって、守れる」

年が男の側を通り過ぎて、こちらに近づいてくる。

その時、ふっ、と部屋中の黒が消え去った。

かわりに、ボッ、と年の黒が大きく燃えた。

ちょうど、男の黒炎が年に乗り移ったように見えた。年は右半に構える。だらけの顔。真剣な瞳。しく大きな黒い炎。それはより一層、強く燃えていた。

年は口にたまったを吐きながら、言い放つ。

「僕だって、誰かを守れるんだ」

◇

ロクは教わってきた全てをなぞっていた。

布津野が見せる技、稽古でするの流れ、緩急のリズム、一瞬の呼吸。

そして、教えられてきたこと。

師、曰く。

言葉に頼らない、あるがままに、思考を消し、に主導権を返す。

相手と一つに、和合。和合すれば簡単に殺せる。殺さなくても良くなる。

相手の呼吸と一つになる。

師、曰く。

ロクの気をもらって、ロクに返した。

ロクの攻撃するぞっていうじが何となくする。

深呼吸。

深く息を吸うこと。

前には敵がいる。いや、多分、違う。絶対に、違う。そうじゃない。

父さんなら対峙した相手を敵とは思わない。確信。相手を敵と見なせば、和合は出來ない。和合が出來なければ、相手を殺せない。敵は、殺せない。

細く息を吐く。

後ろからも呼吸をじる。父さんの呼吸。ナナの呼吸。首相の呼吸。そして、榊の呼吸。榊のは、痛みで細切れになっている。苦しそうなうめき聲。彼を守れなかった自分。ナナが心配そうな聲で榊を呼びかけている。

息を止める。

今、自分を接點として、前と後ろがある。前には敵がいて、後ろには守りたい人がいる。

和合とは、呼吸を一つにすることだ。

全てを一つにする。接點となって、前も後ろも一つにする。

區別がなくなれば、そもそも対立など存在出來ない。対立するから抵抗される。簡単には殺せない。しかし、和合すれば簡単に殺せる。対立しないなら、抵抗もされない。もしかしたら、殺さなくても良いかもしれない。

目の前の呼吸。

シャンマオと呼ばれる。片目だけが白い、背の高い。そのの呼吸と自分の呼吸を同じにする。

吸って、吐く。

相手の気と合わせ、一つになり、もらって、かえす。

あわせて、もらって、かえす。

和合すれば、こいつを、簡単に、殺せる。

◇

シャンマオは困していた。

の無い男の黒が、年に乗り移ったはずだった。この瞳を焼くほどに、黒が燃えさかっていたはずだ。

それが、年が構えた途端に、だんだんと消えていった。

消えていくのだ。

ついには、跡形もなく、がなくなる。

やがて、まるで誕生日のキャンドルを吹き消すように、年のからがなくなった。

ぬるいもない。小さな黒炎もない。人なら誰しも持っているわずかな悪意すらそのには宿していない。

自分の目の前には、の無くなった年が立っている。

不可解。

危険。

あの男と同じだ。を隠したのか？　そんな事、出來るのか？　悪意もなく戦うのか。

だが。しかし。それでも。

私には、戦い以外に何もない。

奧の手はある。あの男にでもこれなら通じたかも知れない。

——半歩寸勁。

細く息を吐いて、シャンマオは重心を前に置く。

◇

ナナは目を見開いた。

よく目を凝らして、もう一度、ロクを見る。ロクは大きなの人とにらみ合っている。不安定なをしたの人だ。見る度にあいを変わるが、そのはいつも薄い。この人はからっぽだ。でも、問題なのは彼のじゃない。

ロクのだ。

あのロクの純粋な青が、何にも染まらなかった蒼が変わっていた。

真っ黒に染まっていた。

それはよく知っている。何度も思い返してなぞってきた。

お父さんの。

お父さんと初めて出會った日、嫌な人たちに囲まれたあの波止場で、お父さんは、そのマリモみたいな抹茶を深めて黒になった。

優しい。

底のない闇のように、深くて、優しい。

近くに寄り添った榊が「ロク、」とうめく。

「大丈夫だよ。夜絵ちゃん」と言って、その肩をそっとなでる。

「ロクは絶対に、負けないよ」

だって、お父さんのと一緒だから。

◇

ロクは、シャンマオと一つになっていた。

あわせて、もらい、かえす。

まるで呼吸のようなリズム。吸って、止めて、吐く。呼吸をするように一連のきを自然となぞる。まずは、彼の呼吸にあわせることからだ。

彼の呼吸がはねた。

自分の呼吸も共振して、が前に出る。

互いに半歩前へ。

彼の拳が繰り出される直前、その呼吸のおこりに合わせて自分の手が出た。攻撃ではない。攻撃は今、必要ない。彼を迎えるために手を前に差し出しただけ。

彼の拳が攻撃になる前に、互いの手がれて止まる。

あわせた。

目の前の顔が戸っている。打ち出しのはるかに手前、攻めの呼吸と同時の剎那、攻撃の意思が形される直前で、彼と僕は一つになった。

戸いの數瞬、

彼の呼吸が今度は沈む。

互いに一つになっているから、より鮮明に呼吸が伝わってくる。絶対的な攻撃の意思。拒絶の意思。重力に引っ張られるような重心の落下。大地を揺るがす後ろ引き足の震腳。取り合った手が拳を作る。接したこの狀態からの至近撃。

「チャッ！」

イメージしたのは球だ。

相手の力、呼吸、気、その全てもらう形。

今だから気がつくことがある。消えるりとは、もらうことだ。

消えるりは相手の攻撃に合わせて前に踏み込む。相手がする速度は相対速度だ。りの速度に相手の攻撃速度が合わさり、予測以上の速度をする。それが認識可能域を超えたとき、相手の視界から消えるのだ。

相手の速度をもらうこと、それが消えるりならば……。

これは、その単なる応用でしかない。

彼の寸勁の発力が全に伝わる。

イメージは球。水で作られた球。

衝撃はけ止めることなく流して自分は回る。くるり、ふわり、と。彼と同じ速度で、寄り添うように。

寸勁を迎えた自分の腕は、水のように力している。

濡れた布のように吹き飛ばされる腕は、それでは彼の手を離さない。が回転して、そのまま彼の後ろに回り込む。彼の寸勁のエネルギーは腕を通して流し、今、全て自分のの中心に循環される。

これを、彼にかえす。

自分のは、らせんに流している。まるで社ダンスのように、両者は一となって流れをつくる。あわせて、もらった。今度はそれを、かえす。

技の流れは、り投げの形に似ている。

自分を軸として彼（らせん）は下へ沈み、その反で上へと昇る。

ふわり、

と、彼が宙に舞う。宙では反転し、その足は天を向き、頭が地に落ちる。

——どう、かえす？

すでに和合している。十分にもらっている。簡単に殺せる。……殺さなくても良いかもしれない。

このまま頭を叩きつければ、殺せる。

抱きとめてやれば、死なない。

その選択は、僕にある。

すでに、和合した彼の活殺は、中心となった自分に委ねられている。

和合する回転の中で、榊の呼吸をじる。彼の痛みをじる。彼を通して、その人生を滅茶苦茶にされた四十八人の呼吸をじる。四十八人の呼吸の背後には、もっとたくさんの人の呼吸があったはずだ。

——殺す。

燃える殺意の中で、こちらを見ている父さんの呼吸をじる。もし、父さんだったら……。

——もし、父さんだったら？

僕は……。

回転は収束する。

一つになった呼吸は、まだ二つにもどる。

僕の腕の中で、彼の呼吸は僕の呼吸とじり合って脈していた。気がつけば、彼の頭を両手ですくい上げて、僕は抱きしめるように床に座り込んでいた。

……殺せなかった。

「……なぜ」と彼が言う。

なぜ……、彼の疑問と自分の疑問が重なりあった。自分の行の結果に対して、理由を探す。無意味。まるで、父さんのような意味不明の行。でも、答えはすぐに見つかった。

「……父さんなら、」

大丈夫、中國語で言えば、父さんには分からないのだから。

「父さんなら、殺さないと思うから」

シャンマオは全てを諦めて、そのままロクのにもたれかかった。