《[完結しました!] 僕は、お父さんだから(書籍名:伝子コンプレックス)》[特別短編]冴子の子貓トラップ
書籍版『伝子コンプレックス』の発売記念短編です。
冴子の獻立は、完璧に計畫されていた。
冴子にとって料理とは、買いによる供給、冷蔵庫の在庫、調理加工、食事による消費が循環する供給連鎖(サプライチェーン)だ。原料から加工し、味しさを付加価値として生産する。彼のマネジメント手腕により、日々その工程は改善され続けている。
そろそろ、正式に仕事を辭めようか……。
冴子は洗い場でカチャカチャと、平皿の底ふちに殘った油汚れを溫水で流していた。そんな単純作業は、彼にとって良い思索の時間でもある。指先のきが思考をはじいて波紋になる。
閣代行役を引き継いだロクは、問題なくやっているようだ。首相から頼まれる仕事も減ってきている。そろそろ、給與を頂くことが心苦しくなってきた頃合いだ。
家計に不安があるわけでもない。
貯蓄も十分であるし、それを資産として運用すれば生活費程度は捻出することができるだろう。昨年から初めてみた株式投資は、25%の運用益だった。四千萬円程度の額運用だったが、それでも一千萬円になる。そのお金は北海道にあるマリモ保全対策協議會に寄付をしてしまったが、忠人さんの年収とそれ合わせたら生活に困ることはないだろう。
目につく油汚れがなくなった皿たちを、食洗浄機に並べ終えた。洗剤を機械に補充して、ボタンを押す。ピッ、と電子音が応答して、靜音化された作音と熱水の洗浄音が聞こえてくる。洗剤と熱水による食の消毒洗浄。使えるものは使い、効率化を徹底し、余った手間暇は味しさに費やす。
足りないのはお金じゃない。鰹だしを取ったり、鶏の脂を抜いたり、料理本をじっくり読む時間なのだ。もっと試したいことが頭の中にあるのだ。
そうだ、ロクとナナの學費も考えて、中長期的な財務計畫を立てみよう。計畫に余裕があれば、私は仕事を辭めても問題はないはずだ。あの二人にも十分な収がある。しかし、家族というものは親が子どもを養うものらしい。
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おかしい。
と、口の端が笑ってしまう。
忠人さんがロクとナナを養うイメージは、ちょっとおかしい。ロクはだれかに養ってもらう必要がない。そして、忠人さんが誰かの上に立つのも想像できない。あの人は、いつだって誰かと同じ目線でいる人だ。
そのおかしさは、ふふん、と鼻歌まじりになってしまった。
リビングのほうを振り返る。
そこには誰もいない。水槽で飼育しているマリモがいるだけ。土曜日のお晝過ぎは、いつもこんなじだ。ロクは朝から政務で、お晝は覚石先生の稽古。忠人さんも孤児院での稽古の後に、GOAでの技指導がある。ナナは、いつも忠人さんについて行っていなくなる。
三人が帰ってくるのは、18時くらい。
今は、晝食を忠人さんとナナに食べさせて、送り出した後。
時刻は14時。
そろそろ、買いに出かけなくてはならない。
冴子のサプライチェーンは、止まらない。
◇
冴子は買いで悩むことはない。
近場の食料品店に足を踏みれる前から、すでに買うは決まっていた。
彼の獻立計畫では、二週間後まで決定されている。完璧な生産計畫に従って、食材の流管理(ロジスティックス)も徹底されていた。重い飲料品や常溫保存ができる香辛料や野菜や米は、定期購買プログラムで在庫に応じて自配送される。
こうやって買い出しをするのは週に二回程度だ。や魚、鮮度が重要な果や野菜を調達するのが主な目的だが、それに加えてもう一つの目的があった。
それは、インスピレーションを得るためだ。
固定化された計畫は効率的ではあるが、革新(イノベーション)に乏しいことを冴子は課題にじていた。
味しさ、という付加価値の探求をゆるめてはならない。
買いとは、発見のためのフィールドワークだ。自分が知らなかった食べや香辛料、調理を探すためのインプットの場でもある。
前に忠人さんと一緒に行ったデパートでは、石窯スチーム炊飯なるものを発見した。そのパッケージを手にとって、なぜ石窯でスチームであればお米が味しく炊けるのか……。価格は十萬円ほど。科學的な拠があるのであれば、十分に検討の余地がある投資額だ。
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「気になりますか?」
と、忠人さんが聲をかけてきた。
石窯スチームの説明書に目を通しながら、それに応じる。
「ええ、石窯スチーム。確かに石窯をキッチンに置くのは困難ですから、それで主食のお米が味しくなるなら、良いと思いますが……」
「これ以上、味しくなったら大変ですね」
「大変ですか?」
「ええ、大変ですよ」と、忠人さんが笑う。
そして、私は石窯スチーム炊飯を買うことにした。
殘念ながら、今日の買いには新しい発見はなかった。
なので予定していたものだけを買う。ほうれん草と空豆と竹の子、それに、サクランボ。魚は鱈(たら)にした。大きな魚なので切りになったものを買う。これなら食べやすいのでナナも喜ぶだろう。忠人さんは何でも喜んでくれる。
本當は一匹まるごと解するような魚料理に挑戦したい。しかし、余らせてしまうのも殘念だ。取り組むには獻立計畫を見直さなければならない。次の計畫の時には、大型の魚類を丸々と使ったラインナップを組み込んでおこう。
◇
會計を済ませて、ビニール袋を片手にぶら下げながらの帰り道。
みゃあ
と、鳴く聲がして足が止まった。細くか細いその鳴き聲の正は、子貓かと検討をつけて視線を落とせば、やはり、そこにいるのは子貓だった。
汚れた布を丸めたような、その子貓は段ボールの隅に無造作に置かれていた。それはすり切れていた。弱々しく、ぴくぴく、と、どうやらいている。
瀕死ね。
そう判斷したのが不味かったのかもしれない。いつの間にか、かがみ込んで観察していた。かろうじて手の平にのりそうな大きさ。指をのばして、子貓にふれる。みゃあ、と力ない抗議。溫は冷たく、の反応は弱い。
どこかの飼い主が育てかねて放棄したのだろうか?
こうやって死んでいく子貓は東京に何匹いるのか?
この狀態から生き延びる確率は何%くらいなのか?
捨て貓についての統計的知識は持ち合わせていない。
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そのボロぞうきんを丸めたようなを、手の平にのせて観察をつづける。ぷるぷる、と手の上で震える小さな、微弱な心臓。この子貓は、なくとも、生きようとしている。こんな、どうしようもない狀況で、無駄に足掻いている。
まるで、忠人さんみたい……。
◇
帰宅して、第一に取りかかったのはミルクの用意だ。
子貓を抱えながら、帰路の途中で子貓のケアについての報をインターネットで目を通す。本來であれば、貓専用のミルクを與えるべきらしい。しかし、今は急事態だ。市販の牛でも、問題になるのは下痢程度らしい。で、あれば、まずは何か栄養を與えることを優先すべきだ。
玄関の脇にビニール袋を置きっぱなしにして、冷蔵庫を開ける。牛パックを取り出して、皿に注ぎ電子レンジにいれて適當につまみを回す。
ブーンと低い音、回る皿。
貓用のほ瓶などない。吸い付けるものであれば代用できるだろう。さっ、と部屋中に視線を走らせる。ティッシュでも問題はあるまい。三枚ほど引き取って、手の中で丸めてしまう。
電子レンジを開けて、回転を止める。皿をつかみとれば、ちょうど人程度に溫かい。こんなものだろう。それを流しに持って、溫水を加えて薄める。牛は貓にとっては濃すぎるので水を混ぜるとべきだ、とネットに書いてあった。その真否を確かめる時間はない。
指で皿の底をなぞり、溫水と牛を混ぜる。濡れた小指を子貓の口にれる。ちゅ、と吸い付く反応がある。思った以上に力強い。すぐに、丸めたティッシュに牛を染みこませて、今度はそれを子貓の口に含ませる。
死にかけの子貓の口が、必死にき出した。
この対処法は間違っているのかもしれない。しかし、十分に検討する時間はなかった。これが私にできる最大限で、後はこの個がもつ可能の問題だ。この子貓が、忠人さんだったら生き長らえるだろう。
腕の中の子貓は、必死に口をかしている。
ティッシュを口から取り出して、一度休ませる。みゃあ、みゃあ、とより多くを求めて鳴いている。しかし、この頃の子貓が一度に飲める量には限界がある。ネットの報では一回に10ccが目安とあった。急に飲ませても問題になるだろう。何にせよ、久しぶりに胃に栄養を送れたのだ。しは休ませたほうが良いだろう。
冴子は、ミルクをねだる子貓を抱えながら風呂場へと歩いた。清潔なタオルを一枚取り出す。それで子貓を包んでに抱えるようにして抱く。栄養に保溫。後、出來ることは衛生面だろう。様子を見て風呂にれてやるべきかもしれない。
みゃあ!
と、一鳴き。何度か聞いたなかで一番大きな鳴き聲。多は回復しているような気がする。どうやら、この子貓は忠人さんだったらしい。
そのままに抱いて溫めてやりながら、リビングに戻る。ソファにゆっくりと腰を下ろして、攜帯端末を取り出す。子貓のケアについて再確認する必要がある。検索キーワードは「子貓 世話」。検索結果を上から五つ同時に展開して、さっと目を通す。
三つ目が比較的信用できそうだ。子貓の重と生後日數のグラフや貓の母と市販の牛の分比較表が興味深い。特に、兄弟貓の數の違いによる発育曲線の差異が示唆に富んでいる。兄弟貓が多い場合、一人あたりの摂取母量が減し、発育が遅れる。多産と産の生がもつ生存戦略の違いが読み取れて面白い。
一度の出産で生まれる個が多い場合は、確率的に生存個を殘すことが出來る。しかし、親個が供給できる栄養は一定である場合、子個が得られる栄養は分散する。そうすると個の生育は悪化し、死亡率は上昇するだろう。子個間の母の取り合いによって、得られる栄養格差があることにも留意しなければならない。
一方で、人間のように産の生の場合は、子個は親個から供給される栄養を獨占することになる。個はその発育の可能を最大限に発揮することができる一方で、その數の子個が死ねば子孫を殘すことが出來ない。
そういったリスクヘッジの戦略から判斷すれば、人間こそ多産になるべきなのかもしれない。
なぜなら、人類は母以外の手段で子個に栄養を供給できるようになったからだ。つまり、ミルクなどの機能食品を扱えるのだ。これにより、親から供給できる栄養は子個の數に限らず最大化される。そうであれば、多産のほうが合理的だ。
もちろん、それは栄養面だけの問題だ。文化的なである人間には、學費などは子個の數に応じて、有限な親の資金から分散されることになる。しかし、その課題も社會制度を整えることで……、
みゃー。
……さて、次に必要なのは、排泄補助か。
ティッシュ箱を手元に引き寄せて、五枚ほど抜き取る。子貓を包んでいたタオルを膝の上に広げて、抜き取った子貓を右手の中に丸め込んでお腹をわにする。うっすらと管がけた腹はピンクだ。手の中にギリギリ収まった子貓のは暖かい。溫が戻ってきたのだろう。進捗は悪くない。
ふみゃ!
この鳴き聲は抗議なのだろうか。しかし、これは必要なことだ。構わずティッシュをおに當てて指でゆっくりとこすってやる。しばらく、するとティッシュがりだした。黃い。新しいティッシュを抜き変えて、またおをこする。
「全部出したら、次のミルクをあげる」
みゃ。
まるで會話が立したような偶然の鳴き聲に、思わず笑ってしまう。
取りあえず、しばらくはこのローテーションだろう。暖かくて衛生的な環境、定期的なミルク、効率的な排泄。それほど難しいオペレーションではなさそうだ。自分の家事サイクルに組み込むことは難しくはない。
子貓がを、ぷるぷる、と震わせて、おからはもう何も出なくなった。胃の中が空っぽになったのなら、またれなければならない。それは人間と変わらない。
子貓を抱き上げて、臺所に向かう。皿にれたミルクを溫め直しながら、ちらりと時計を確認した。
時刻は17時30分。
その時だった。ガラスでできたボールを二階から投げ落とされたような、ぎくり、とした覚に襲われた。
——困った。どうしよう。
的に何に困っているのか。それが自分にも分からなかった。言葉に出來ない何かが、私を怯えさせていた。恐怖ではないが不安だった。それは恥ずかしさにも似ている気がした。もうししたら、忠人さんが帰ってくるのに……。
子貓にミルクを含ませたティッシュをあてがう。
思いは沈む。過去の自分の言と自分が今していること。その二つがまったく噛み合っていない。私はそんな人間じゃなかった気がした。まるで幽離のように、本來の自分がを抜け出して、が勝手にかしてしまったような……。
子貓は、ちゅぱ、ちゅぱ、と吸い付いている。
忠人さんにこの姿を見られたら……。
何と言われるだろう。
どうして、笑い、かわいい、珍しい、優しい、やっぱり、意外、貓は好き? いいえ、だったら嫌い? いいえ、ならどうして? なぜ、冴子さんは……。
——私は?
ダメだ。
これは駄目だ。このままじゃ全然、駄目だ。きっと私は駄目なんだ。そうだ、私だったらダメなんだ。
その時、ふと作戦を思いついた。
それは稚拙な作戦だったけれども、問題はないと確信する。忠人さんは騙される。騙されてくれるだろう。
本來あるべき形はハッキリしていて、今はぐちゃぐちゃになってしまっている。それは、もう私の手では元に戻らない。それを忠人さんに押しつける。そして、あの人はけ取ってしまうだろう。彼の手がったその瞬間に、全てが整然として、しっかりと噛み合って、ゆっくりと回り始めるはずだ。
まずは、そこからやり直さなければならない。
全てがちゃんとした組合せで、もう一度はじめからスタートする。
し飲ませすぎたミルクを引き上げて、子貓の抗議を無視する。
急いで廊下に出て、置になっている部屋から折りたたまれた段ボールを取り出す。それを箱の形に組み立て、洗い場に持って行く。そして、段ボールの底にタオルを數枚敷き詰めた。もっと小汚いタオルのほうが良かったのかもしれない。これでは清潔すぎて不自然に思われるかもしれない。でも、大丈夫だ。そういう不自然さに気がつくような人ではない。
段ボールに敷き詰めたタオルは々だ。白とかベージュとかブラウンとか、清潔なモザイク。
その真ん中に、子貓をそっと置く。
まるで、寶を扱うように丁寧に。
あるいは、弾を設置するように慎重に。
それだけでトラップは完した。たったこれだけで、あの人は騙されてしまう。たったこれだけで、あるべき形に戻すことができる。
時刻は17時40分、忠人さんが帰ってくるまで後20分しかない。あの人は時間に不規則だから、もっと早く帰ってくる可能もある。急いで設置しなければならない。
段ボールを抱えて外に出る。
日が落ちて寒くなっている。子貓には申し訳ないがしの辛抱だ。忠人さんの帰り道の、玄関からなるべく近い、街燈のが良く當たる場所。そこに子貓を仕込んだ段ボールを、アスファルトの道路上に設置する。
みゃあ!
不安そうな鳴き聲が、置いた段ボールから上がる。
「そうです。そうやって、大きな聲で鳴きなさい」
こちらを見上げる子貓の頭に、指を這わせる。十分に開かない子貓の瞳がさらに細くなって、不安そうに両腕をから回りさせていた。
「そうすれば、きっと、貴方も……私たちみたいに」
◇
參ったな、と布津野は段ボールの前にかがみ込んでいた。
その中には、とりどりのタオルが敷き詰められていて、真ん中には子貓がこちらを見上げている。
みゃあ! みゃあ!
「參ったな」
そう言いながらも、布津野は子貓を両手で包み込むようにして抱き上げてしまった。その小さなは熱をもって暖かい。でも、こんな寒い夜にタオルだけだ。もしかしたら、凍えて死んでしまうかもしれない。
やれやれ、いけない。どうにもいけないな。
捨て貓だろう。かわいそうだし、かわいくもある。
でも、拾ったなんて言ったら、冴子さんは何と言うだろう。ナナは喜んでくれるかも知れないが、ロクは無責任だと非難するかもしれない。生きを飼うのは大変だ。みんなの協力がなければ、きっと難しいだろう。
そうは思いながらも、布津野は子貓を抱き抱えたまま歩き出した。
取りあえず相談しよう。ナナと一緒にお願いしたら、もしかしたら許してくれるかもしれない。許してくれなくても、他の解決法を教えてくれるかもしれない。せめて、今日の一晩だけでも、と頼んでみよう。だって、今夜はこんなにも寒いのだ。
玄関にたどり著くと、チャイムを鳴らして待ちける。
ドアの向こうから、とっとっとっ、と冴子さんの足音が迫ってきて、扉が押し開けられた。
「忠人さん!」
冴子さんが姿を現した。
「はい、あの、」
「それ」
と、冴子さんが懐に抱えたものを指差した。
「すみません。実は、」
「貓ですね」
「えっ……はい。そうです」
どうして分かったのだろう。彼はまるで予言者みたいに何でもお見通しなのだ。
「拾ったのですか?」
「ええ、ほら、今夜はとても冷えそうだったので」
「見せてください」
冴子さんが近づいてきて、腕の中をのぞき込んだ。子貓は、みゃあ、とまるで挨拶をするように冴子さんを見る。
冴子さんは、息をついてし笑った。良かった機嫌は悪くないみたいだ。これはチャンスかもしれない。
「あの、」
「忠人さん。お気持ちは理解しますが、考えなしに拾っては困ります」
「……すみません」
「子貓のケアは慎重にしなければいけません。ミルクも貓用のものが必要ですし、その後の排便補助もあります。それを三時間おきに繰り返し、三週間後にやっと自分で排泄が出來るようになるのです。他にも度や保溫環境を整える必要もあります。そういった事をちゃんと調べてからにして頂かないといけません」
「すみません」
本當に冴子さんは何でも知っている。
その時、冴子さんが、ふっ、と笑った気がした。
「しょうがありませんね」
冴子さんが大きなため息をついて、子貓を指でなでた。
「私は夕食の準備があります。どうやらこの捨て貓はわりと元気なようですね。忠人さんは、ティッシュでこの子のおをでてあげてください。お腹にたまっていれば尿が出てくるはずです。出なくなったら、しばらくすれば寢てしまうでしょう。なるべく暖かい環境を作ってやってください。使わなくなった布が寢室にあったはずです」
「はい!」
「子貓用にいくつか必要ながありますが、それは、私からロクに電話して、帰り道で買ってくるように頼んでおきます」
「いいんですか? 助かります」
正直、ロクから々と言われることを恐れていたから、冴子さんが代わってくれるのは本當にありがたい。
「今回だけです」
「はい」
「ほら、早く上がってください。ここは寒いですから。まずは良く手を洗って。タオルは洗面臺にあります。なるべく清潔なのを選んで使ってください」
「はい」
布津野は喜んで家の中にる。
冴子は玄関から布津野の背中を眺める。その背中ごしに、みゃあ! と元気な鳴き聲がした。
「……お帰りなさい」
冴子はそうつぶやいて、開けっ放しのままだった玄関をそっと閉じた。
今回の短編は皆さまからのアイデアを拝借して書いたものです。短編アンケートの中でモフモフ分がしい、貓をひろう話がいい、と頂いて、割と率直にそのまま書いてしまったのが今回の短編ですね。
書かせて頂いた想は「この話、大好き」。
本作には大きなプロットの流れが存在しているため、今回のようにじっくりとキャラの心を描寫する機會がなかなかありませんでした。中でも冴子は一番描寫が難しいキャラです。だからこそ描寫にやりがいがある。このような短編だからこそ、じっくりと文章を書くこと楽しめたと思います。
今回はキャラやプロットさえも読者の方に依存した話でした。その反面、書くこと自の楽しさを満喫できた短編です。自分一人では発揮できなかった面白さを出せたのでは、と心驚いております。
本作のヒロインは沢山いるのですが、冴子が一番大人しいキャラクターです。
的なヒロインは、ニィや百合華です。二人とも人気キャラですね。
ロクや紅葉は、靜的なヒロインです。目立った人気はありませんが、この二人がいないと語の形が崩壊してしまいます。
その中で、冴子は停止的なヒロインです。実は、彼がいなくても語は立してしまいます。彼自が語のメインプロットに関わってくることはほとんどありません。そう思うと不思議なキャラですね。刺のツマみたいなもので、存在意義は説明出來ないけど、なんかいるよね〜、って思われているキャラです。
そんな冴子さんが、今回の特別短編希キャラクターとして、圧倒的一位を獲得したことは、妙に嬉しく思っています。彼がこうやって布津野とイチャイチャしているのが妙に微笑ましい。35歳のおっさんと25歳のイチャイチャなのに、中高生のみたいな距離がある。
そんなじですね。
引き続きよろしくお願いします。
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