《[完結しました!] 僕は、お父さんだから(書籍名:伝子コンプレックス)》[4b-02]第一回TV討論會

大統領の候補者同士が直接対決するTV討論會は、投票日の一ヶ月前から2回に分けて行われる。

毎回場所を変えて行われているが、今回の初めのTV討論會はラスベガスだった。

「みなさん、こんばんわ。XYZニュースのクリス・コーパーです」

舞臺の上で長機についた男が、観客席に向かって語りかけている。客は満席で、通路にはTVカメラが立していた。

男は長機の上で両手を組んだ。

「この度、大統領選挙の討論會、その第一回目の司會をさせて頂くことになりました。我々の將來を決める大切な會です。候補者の意見をしっかりと伝えるため、會場の皆さまはお靜かにして頂けますようお願いします。

さて、初めに、この舞臺の上をご覧ください」

司會の男は舞臺を振り返って指し示した。そこには登壇が3つ配置されている。

「席が3つあります。このような事態は1992年以來初めてです。我々合衆國は、長らく2つの政黨からリーダーを選出してきました。この討論會も最後まで殘った2人の候補者が我々の將來について意見を戦わせる場でした。しかし、今回は3名です」

司會は背もたれに重を預ける。

「さっそくですが、登場してもらいましょう」

司會の男の呼びかけに応じて、その三人が舞臺に姿を現す。

で肩幅の広い男は、現大統領であるアダム・ハワード。大で歩きながら、片手を観客に振って左側の壇上に立った。

次に、姿を表したのは民衆黨の候補であるグレース・トンプソン。青いスーツにを包んだ初老のだが、にこやかに手を振る姿は実年齢よりも幾分かは若くみえる。彼はそのまま中央の壇上についた。

最後に登場したのは、イライジャ・スノーだった。すらりと長い足を互にかして、顔には笑顔を咲かしている。

イライジャが登場した瞬間、発言が止されているはずの観客から息をのむ音がさざめいた。年は30を超えたあたり、男としては一番に味が差した頃合いだ。単純に華がある。

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ハリウッドのトップスターである彼を見たいがために、會場まで押しかけた人もなからずいた。

「さて、」と司會は咳払いをして、観客を鎮める。

「これから3人には、大統領候補としていくつかのテーマについて議論してもらいます。容は事前にそれぞれに共有して、了承してもらっています」

司會の男は司會席のテーブルに重をのせて、壇上の三人を見渡す。

「初めに私からテーマを説明します。その後、それぞれ2分間ずつ発言します。最後にディスカッション。早速ですが、準備はよろしいでしょうか」

その問いかけに3人は頷いた。

「では、初めのテーマです。おそらく今回の選挙で最も重要なテーマでしょう。我々は伝子最適化をれるべきかいなか?」

司會の男は手元の資料をぺらり、とめくる。

「このテーマは、先の主要國首脳會議で日本から提案された無化計畫(プロジェクト・カラーレス)をきっかけとしています。多くの國がこれに反対していますが、中國はその場で一部れを表明しました。現時點では、これに続く形でいくつかの発展途上國がこれに賛同する聲明を出している。また、この會議で我が國の代表であるハワード大統領が明確な反対は表明しなかった事も、大きな話題となりました」

司會はそのまま次のページへ。

「國では、倫理的観點から最適化に反対する意見や、様々な問題を解決する手段としてこれに賛する意見があります。おそらく、今回の選挙でもこれが最も大きなテーマとなるでしょう。つまり、我が國で最適化の合法化するべきかどうか。これが最初のテーマです」

司會は資料から目線を上げて、左側に立ったハワード大統領を見た。

「初めはアダム・ハワード大統領から、2分間です。どうぞ」

そう促されたハワードは壇上に両手をついた。

彼は背が高く肩幅もひろい。その姿勢だけで威圧がある。

「まず初めに、このような機會を用意してくれた皆さん、公平な運営に盡力している司會のクリスに謝を」

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ハワードは元のピンマイクをつまんで、位置を調整した。

「まずは結論から、私は伝子最適化の安易なれには反対です。人の伝子に恣意的な変更を加えるあらゆる行為は、連邦法によって厳しく統制されるべきだと考えています」

ハワードはを起こして、TVカメラのほうをまっすぐに見すえる。

「アメリカ大統領とは、伝統として聖書に手を置いて宣誓します。つまり、神に対して誓いを立てるものなのです。私も就任當初はかのリンカーン大統領が使用していた聖書にこの手をあて、合衆國に対する忠誠を誓いました。その宣言は今も変わることなく、私の中にあります。

主は人をつくりたまいました。その人を改変するいかなる行為は、慎むべきです。

しかしながら、同時に認めなければならない事があります。我が國では、最適化よりも以前から、人工中絶の問題が議論されてきました。いわゆる、生命尊重(プロライフ)と生命選択(プロチョイス)の対立です。今日までの多くの議論を経て、母の生命が危険にさらされた場合は、中絶を一つの手段として認める。そのような判斷を最高裁判所が下すようになりました。

同じように、私は最適化についても十分な議論が必要だと考えています。まだ議論が進まないに、人の改変を野放しにしてはならない。連邦政府はこれを十分に統制しなければならないでしょう。

私が大統領に再任されれば、おそらく最適化の多くの部分が統制され、伝子の無秩序な改変は止されるはずです」

ハワード大統領は口も閉じた。

「ありがとう」と司會は視線を民衆黨の候補であるグレースに移す。「次は、グレース・トンプソン。お願いします」

年齢の割には皺のない顔が、にこりと笑う。グレースは視線を左右に振ってカメラを見つけると、その正面を向いた。

「はい、まずは皆さまに最大限の禮を述べさせてください。このような素晴らしい場所で、我が國の將來を議論できる事、大変栄にじています」

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グレースはまばたきを三回した後、観客を見渡す。

「最適化における私の意見は、先ほどハワード大統領よりも積極的で、私の次に話すスノー氏よりも消極的なものでしょう。我々は見極めなければなりません。私は、合衆國にカスタマイズされたまったく新しい最適化の制度が必要だと考えています。

そのために、日本の無化計畫は參考になります。しかし、それに迎合するわけにはいきません。

日本が最適化を合法化して40年が経過しました。その日本がどれだけの経済発展を遂げてきたかはよくご存じでしょう。しかし、その裏で、かの國では兇悪な犯罪が増加しました。もうご存じではない世代の方も多いかもしれません。最適化以前の日本は最も治安の良い國と言われていたのです。世界中が日本の治安システムを賞賛し、目標にしていました。

しかし、それが最適化をけていない人の多くが失業し、治安はれ、町中にはホームレスと自殺者が溢れかえりました。純人會が関わっているとされる人売買は、今や麻薬取引と並ぶ國際的な問題になっています。

我々は最適化を必要だと考えています。最適化合法化がテーマですが、本當に議論すべきことは合法化した後の周辺法案です。最適化後の失業問題や人売買の取り締まり、それを解決するためには連邦政府の強力なリーダーシップが必要になるでしょう。特別な社會保障制度も用意するべきです。

私たちはアメリカにあった最適化の道を模索するつもりです」

グレースは背筋をばして、もう一度まばたきをした。

「……ありがとう」と司會はグレースが発言を終えた事を確認する。「さて、最後の一人です。イライジャ・スノー。どうぞ」

イライジャは背筋をばして、目を細める。

スポットライトが目を刺さないように、をずらして観客たちの顔がよく見えるようにした。

「やぁ、皆さん。お集まってくれてありがとう。また、このような機會を用意してくれたスタッフのみんなにも。最高のスタッフだ。今日はアメリカを代表してここでしゃべらせてもらう。がんばるよ」

にかっ、とイライジャは歯を見せた。三十路の男前が表を崩して笑えば、香り立つような華やぎがある。

観客にいるマダム達は反的に口を覆って、うっとりと目を落とした。その様子を確認したイライジャは手元で握り拳を作る。

自分は、相手の二人に比べて経験だけでなく年齢的にも不利だ。自分は若造の泡沫候補に過ぎない。それはよく分かっている。

しかし、魅力的なテレビの映り方では自分の方が圧倒している。使わない手はない。

「さて、先ほどグレースが言ってくれた通り、俺の意見はより直接的だ」

イライジャは敢えて、対立候補である彼を親しみを込めてファーストネームで呼んだ。だが、別にグレース・トンプソン氏と面識があったわけではない。

これはニィからアドバイスだ。

イライジャは橫目の視線をグレースに送って笑顔を浮かべた。これでTV畫面では、俺が大政治家のグレースと仲が良いように見えるだろう。

「一方で、ハワード大統領とは対照的な意見になる」

イライジャは表を曇らせてTV目線にした。

グレースとは逆に、糞親父はセカンドネームに役職名つきで呼ぶ。これもニィの指示の通りだが、自分の意思でもある。あの野郎の名を口にするなら、どでかい蜘蛛を生きたまま食べたほうがマシだ。

「自分の子供を最適化するかどうか? それは連邦政府が決めることじゃない。他人が決められるような事じゃないんだ。ましてや、教會でもない。それが出來るのはたった一人しかいない」

イライジャは手を自分のお腹にあてて、ぽんぽん、と叩く。

「自分の腹をいためる母親。それだけだ」

わずかな間をイライジャは敢えて置いた。

與えられた時間は2分。イライジャはそれの有効な使い方を知り盡くしていた。

映畫でもそうだ。重要なのはセリフじゃない。間だ。

観客にセリフが染みこむまでの時間を、役者は用意してやらなければならない。

「……俺は、合衆國中の母親たちが自分の子供に対するあらゆる努力を認める。そして、現大統領のようにこれを規制するのは反対だ。我々は自由だ。自由だからアメリカだ。なのに、子供の將來を決定する重要な判斷に連邦政府が口を出す。それっておかしいだろ」

イライジャは手を広げた。

「俺はまだ若造だ。だから偉大だったアメリカを知らない。心ついた時には、日本がナンバーワンでアメリカは二番目だった。そんな俺みたいな世代が、子供を産もうとしている。苦しい時代しか知らない世代が、また苦しいままを次の世代に殘そうとしている。それも、おかしいだろ」

イライジャが広げた手をの前でまとめた。祈りに似たポーズ。

心では、こういった仕草はし臭い気がした。やり過ぎてはいないか?

視線を左右に飛ばして、観客の反応を確認する。まぁ、悪くはなさそうだ。

「先ほど、ハワード大統領が生命尊重(プロライフ)か生命選択(プロチョイス)、と言った。今、我々はこの議論をさらに一歩進めるべきだ。つまり伝選択(プロセレクト)だ。そして、この選択の主は合衆國政府にはない。合衆國に屬する全ての母親であるべきだ。

俺が言いたいのはそれだけだ。聞いてくれてありがとう」

イライジャがそう言い終えると、観客の一人が拍手を數回叩いた。

司會がすぐに後ろを振り向いて、拍手した人を睨みつける。

「拍手は控えてください。これは大統領選を左右する重要な番組です。特定の候補者に優位な印象を與える行為を、當局は止しています」

拍手をしてしまったのは30代くらいのだった。司會に睨まれて下を向く。

アメリカで最適化に賛しているのは20〜30代のに多い。その多くが都市部に住んでいて、宗教観がリベラルで、出産を検討している最中だったりする。彼もそういった一人だったのだろう。

観客がしんと黙ったのを確認すると、司會は舞臺を振り返る。

「……ありがとう。さて、三名の意見が終わりました。これからディスカッションを始めましょう。それぞれの質問があれば挙手を、回答は1分以にしてほしい。さぁ、それでは初めよう」

すっ、と手を上げたのは民衆黨のグレースだった。

「では、グレースから」

「ハワード大統領に質問があります。貴方は主要國首脳會議で、無化計畫に反対を表明しませんでした。しかし、この場では規制を主張されている。この矛盾について説明をして頂けますか?」

ハワード大統領は首だけ曲げてグレースを見た。

それは予想された質問だったのだろう。彼はすぐに口を開く。

「私は、合衆國を代表してあの會議に出席していた。そして、日本のあの計畫は何の事前共有もないものだった。事の重大さを考慮して、計畫の賛否について明言を避けた。最適化はより深く國で議論する必要があると考えたからだ」

「では、どうして今は規制を主張されているのですか」

「この大統領戦こそ、その議論だからだ。合衆國を運営してきた私の仲間と協議した。その結果、我々はこれを厳しく規制するべきだと判斷した。対して、民衆黨はれを主張し、自由至上黨は個々の判斷に委ねると言っている。最終的な判斷は有権者に委ねられている」

「なるほど。続けて質問してもよろしいかしら」

グレースは司會に問いかけた。

「ええ、他に質問がないようですので。どうぞ」

「ありがとう。ハワード大統領、貴方は最適化に反対することにしました。しかし、日本の最適化によって世界の構造は大きく変わっています。特に國の経済は悪化するばかりです。大統領として、中長期的な対策をいかがされるつもりですか」

「まず初めに言っておこう。最適化をれて、それが経済発展に繋がったとしてもその効力が発揮されるのは、子供が人する20年後だ」

「ええ」

「例え最適化をれ、20年経ったとしても経済は回復することはないだろう。なぜなら、今の狀況は日本との相対的な経済力の差によるものだからだ。20年後にこの差が埋まっている保証はない。

先日のニュースで明らかになったばかりだが、無化計畫で公開されているのは第三世代までだ。しかし、彼らは第七世代を匿している。計畫をれてもこの差は埋まらないだろう。日本への従屬を強めるだけだ」

ハワード大統領は眉間に皺をよせた。

「こちらからも質問をしたい」

壇上の上の討論は、そうやって繰り広げられていた。

舞臺を観客席の最前列から眺めている奇妙な三人組がいた。東洋人の男に、白髪のに黒髪の。分かりやすく言えば、布津野とナナと裝したニィだ。

「ニィ君」と布津野は聲をひそめて問いかける。

「ニーナよ。布津野さん」

と、ニィはにっこりと微笑んだ。

「あの、ニーナ、さん」

「ニーナ、よ」

「……ニーナ」

「はい、布津野さん。何かしら?」

布津野は口の端がしわくちゃになった。

さっきからニィ君は裏聲だ。外見こそ完璧なだが、若干無理な裏聲で誤魔化しているのがバレバレだ。しかし、耳にれた翻訳機は騙されずに男音聲で翻訳されるので、違和がもの凄い。

「僕らはどうしてこんな所にいるのかな?」

「イライジャを応援するためよ」

そんなわけないだろう、と布津野は思う。

応援も何も、さっき司會の人が観客は靜かにするように釘を刺していたじゃないか。それにさっきからTV局の人がちょいちょいこっちを見ている気がする。どうしてだろう。

「ねぇ」

と、ニィ君のドレスの裾を引っぱる。それにしても、なんでドレスの布はこんなに薄いのだろうか。もう11月だよ。つまむのが大変だ。

「なにかしら?」

「さっきから、何か見られているような……」

「あら、TVの人のこと?」

ニィ君ことニーナは、おの位置を寄せて顔を近づけてきた。冴子さんによく似た切れ長の目が、急に近くなる。

「あれは、貴方を見ているのよ」

「え」

「私が教えちゃったの。布津野さんがここに座っていること。テレビ局にね。タレコミっていうやつよ」

「はぁ」

「正確には、ウルフガイも素手で倒せる愚か(フール)なニンジャマスターがここに來るから席を用意してしい、ってお願いしたの。そしたら流石ね〜。TVに映しやすい最前列の席を用意してくれた」

そのままニーナが指をしならせて布津野の頬を、つぅ、とでる。

布津野は凍り付いた。

あれ、それって、TVに僕とナナが映っているって事? またロクに怒られるやつじゃない?

「まずいよ。ニィ君」

「ニーナ」

「ニーナ。ナナだっているんだ」

ナナは先日に攫われたばかりだ。それなのに、こんな公(おおやけ)の場所に連れ回して良いわけが無い。

「あらやだ。もしかして布津野さん。ロクに怒られると思って慌ててるの? あんなと付き合ってもロクな事にならないわよ。ロクだけに」

ロクはじゃないし、付き合ってもないし、親父ギャグだし……。

「大丈夫よ。ロクも知ってるわ」

「……」

「やだ、疑ってるのね。本當よ。まぁ、流石にテレビ局にタレコミしたのは知らないけどね。日本政府としては、民衆黨のグレース・トンプソンもナナに見せておきたいのよ。良く見えるところでね」

布津野はナナのほうを振り返る。

ナナはこちらの方を、じとり、と睨みつけていた。多分、ニィ君と顔を近づけてヒソヒソとしていたのを、不審に思っているのだろう。

ふふ、と耳元でニィ君の笑いがこぼれる。

「まぁ、気にしないで。みんな貴方に興味津々なだけ」

「僕に?」

「ええ、あのニンジャがその娘と、しかも謎のと一緒に大統領の討論會に來ている。さて、アメリカのメディアはこれをどう料理するのかしら?」

などと、自分のことをと言ってはばからない男の子。なんかもう滅茶苦茶だな〜。と、布津野は頬を掻いた。

自分が有名人になってしまったことは知っていた。その原因は、隣で笑っている自稱の男の子だ。彼が勝手にアップロードした畫が、巧妙なプロモーション活によりあっという間に世界に拡散されたのだ。

どうやら、この件は日本でも大きく報道されたようだ。先日、ニュースを見た覚石先生からメールがあった。そこには、「寄せ足の踏みまとめの際に、重心をもうし落とした方がよい」とやけに的確なご指摘があった。

そんなやりとりを布津野たちがわしている間に、壇上の討論は佳境にったらしい。今度は、大統領が手を上げている。

「ハワード大統領。質問をどうぞ」

司會から許可を得た大統領は、ネクタイをしだけ整えて咳払いをした。

「イライジャ・スノー氏に質問がある」

イライジャの顔がゆがんで、の向きを変えた。正面から大統領を睨み返す。

「なんでしょう。大統領」

「君は最適化を自由化し、その判斷を有権者に委ねる。つまり日本と同じ制度の導を主張しているようだが、違うかね」

「ええ、そうですね」

「我々がもっとも懸念しているのは、合衆國が日本の影響をけすぎることだ。無化計畫に賛同することで、合衆國の國民が日本人になってしまう危険がある。スノー氏への質問はここからだ。CIAが摑んだ確かな報がある。君たち自由至上黨が日本から強力なバックアップをけている、という報だ。これは確かかね?」

ハワード大統領は壇上に手をついて、そのイライジャを睨みつけた。

「最適化を自由化するために、日本での事例を詳しく調査したのは間違いない」

しかし、イライジャにはその質問にも用意がある。

ニィの想定質問リストには、自分と日本政府の関係についての項目は特に多く用意されていた。

「日本には無化計畫を推進するための政府機関がある。彼らは報をインターネットで公開しているし、ここにいる有権者の皆さまも我々と同じ報にアクセスできる。より詳細な報を調査するために、我々がこの政府機関とコンタクトを取っているのは間違いない。しかし、これは正當な調査だ。政策を検討するための當然の努力に過ぎない。民衆黨や共保黨も同様の調査はしている、と思いますが」

「そういう事ではない。私が主張したいのは、日本政府は信用ならない、と言うことだ。先日、話題になった畫で日本が第七世代を匿していたことが明らかになった。白髪赤目の子供たちだ。日本政府は彼らの存在とその伝子報を公開していない」

ハワード大統領はを橫に向けて、イライジャを正面から見た。

「君の側近に、白髪赤目の年がいる、という目撃報がある。その名はニィ。第七世代の個で、君のアドバイザーで、日本政府のスパイだ」

イライジャの表に影が差した。

「君は、合衆國を裏切っているのではないか?」

「大膽な仮説ですね……。証拠でもあるのですか」

「もちろん。我々はそれを正式に連邦裁判所に提出し、君を國家反逆罪として起訴する用意がある。それに、このスパイは裝して正を隠すことで有名だ。見たところ、彼は今、この會場に來ているようだが」

ハワード大統領は片手で、観客席の最前列を指し示した。

その瞬間、司會は後ろを振り返り、観客たちは総立ちになり、TVカメラは軸を回して、その方向に集中した。

その瞬間、ニィはに指を當てて、にやり、と笑った。

ハワード大統領はそれを見て眉をしかめた。ニィがじていなかったからだ。

彼は共保黨が懇意にしているメディアからリーク報をけ取っていた。この討論會の最前列にイライジャ・スノーの関係者が來ている。イギリスから純人會の活容を盜みだした凄腕のスパイ。白髪赤目のニィ。

そして、案の定、會場には裝しているらしき彼がいた。これは討論會で使える。

しかし、その當の本人はまったくじずに、うすら笑いすら浮かべている。

は隣の男の肩に手を置いて、まるで観衆たちから顔を隠すように、その男の背中に顔をうずめ込んだ。

観客たちの視線も、TVカメラも、自然とその男の方を向くことになる。

その瞬間、「あっ」と全員が短くつぶやいた。

「あのニンジャマスターだ!」

観客の一人が思わずんだ。

靜粛であるべき討論會にもかかわらず、全員がどよめいた。

「本當だ」「なんてこった」

「あのの子もいる」「ああ、あの親子だ」

報道スタッフは寫真のシャッターを切り出し、観衆の幾人かは回り込んできて攜帯端末で撮影を試みだした。

白い閃の連続が、布津野たちを照らした。

「布津野さん、」とニーナが囁いてくる。「私を抱きしめて」

布津野は思った。何を言ってるんだ、この子は。

「はやく!」とニーナの聲が鋭くなる。

布津野は怒られた気がして、反的にニィの肩に手を回して引き寄せた。すると、反対側にいたナナもすり寄ってきたので、彼にも手を回す。

……なに、これ。

どうなってんの。

シャッターので目がくらむ。

ふと、會場の左右に設置された巨大モニタに自分が映っているのが目にった。そこに映っている自分は、右側にいる黒髪のを守るように抱き寄せて、左側の白髪のめるように頭をでている。

……やだ、カッコいい。

「良い絵が取れたわ」と黒髪のがつぶやいた。

「ニィ君、」

「ニーナよ。布津野さん、最後のお願いがあるの」

「……なんだい」

最後のお願い、っていうのは多分、明日にはリセットされるタイプのものに違いない。

「立ち上がって、出來るだけ大きな聲でこう言ってしいの。Please, be quiet. ってね」

布津野は頭を掻いた。

會場はまだどよめいている。シャッターの閃も止む気配はない。確かに、これは不味い。よその國の大切な選挙だというのに、僕のせいで大混だ。……僕のせいだろうか?

とりあえず、布津野は立ち上がった。

それだけで會場は、しん、と靜まり返る。

「プリーズ、ビー、クワイエット」

母音がやけに強い、典型的なジャパニーズイングリッシュ。しかし、彼が言いたいことを伝えるには十分だった。

布津野は振り返る。

全員がこちらを見ていた。そのまま頭を下げる。

振り返って舞臺正面を向く。こちらは司會の人と三人の候補者がこちらを見ていた。

今日の主役は貴方たちなのに……。

本當に申し訳なくなって、深々と頭を下げて、そのまま席に腰を下ろした。

ああ、僕は貝になりたい。

「……これはとんだサプライズでしたね。伝説のウルフハンターにインタビューをしたいところですが、今は討論會の最中です。皆さん、続けてもよろしいでしょうか」

司會が會場の空気を元に戻す。

彼は壇上の三人を見渡すと、機の上に重をのせた。

「さて、ハワード大統領の質問でしたね。その、つまり、スノー氏が日本のスパイと関係している、ということです。ハワード大統領にはこれを連邦裁判所に提出用意があるようですが……。イライジャ、どうですか」

「ありがとう、クリス。それと私の友人であるニーナとフツノのご一家も」

イライジャが布津野たちのほうに挨拶をした瞬間、會場はまたざわついた。しかし、それをイライジャは手を上げて鎮める。

「さて、ハワード大統領から私の大切な友人たちへの侮辱がありました。申し訳ありませんが、多的になってしまうことをお許しください」

イライジャは目を閉じて、眉間に手を押し込んだ。そのまま大きく息を吸って、吐く。手を壇上の上に戻したとき、イライジャの目には赤みが差していた。

「先日、有名になった畫で第七世代の存在が明らかになりました。そこに座っている白髪の彼がそれです。純人會が彼拐したのです。あのオークションには多くの政治家が関與していました。共保黨も民衆黨もです。

父親は彼を助けだそうと必死でした。そう皆さんもご存じのニンジャ・マスター。そこに座っているタダヒトです。最適化されていても我が子を思う親の気持ちは変わりません。変わるわけがないのです。

そんな彼に、私は協力することにしました。なぜなら、私にはとても他人事には思えなかった」

イライジャは、鼻をすすった。

悲しみの涙を我慢しているように観衆には見えただろう。しかし、実際は腸(はらわた)をねじ切らんばかりの怒りに耐えているだけだ。

「私の母も白髪赤目でした。30年前に私の母も純人會によって拐され、あのような許されざる競売にかけられ、ある男に犯されたのです。……そして、私が生まれました」

ドン、とイライジャが壇上を拳で叩いた。

「ハワード大統領は純人會であり。……私の伝上の父親に相當します。この男のレイプによって生まれたのが、私です」

イライジャの目がハワード大統領を貫いた。イライジャは指を差してんだ。

「貴様こそ、地獄に落ちろ!」

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