《[完結しました!] 僕は、お父さんだから(書籍名:伝子コンプレックス)》[4b-09]技を試す

年よ、気をつけるがいい。右手に怪しむ。こちらの侵に気がつかれたかもしれん。警戒をにじませておる」

「お前は背後を。僕がやる」

ロクは背後のシャンマオにそう言いつけると、右側の壁にを潛めた。広い廊下の曲がり角。自分には見えないが、曲がった先には敵がいるらしい。

耳をすませば、かすかに絨毯を踏む足音がする。視線を床に向けると、角の向こうから影がいていた。確かに、角を曲がれば人がいるようだ。なるほど、人の悪意が見えるというのは便利なものだ。

ロクはウェストポーチから索敵用の球型カメラを取り出した。その大きさはピンボール程度で、その全表面は360度畫像を撮影できるレンズになっている。

GOAの諜報班が好んで使用する索敵用デバイスの一つだ。

それを廊下の反対側に転がして、手元の攜帯端末に視線を落とした。廊下の反対側にいったボールの位置から右手の敵の様子が見える。全面カメラに映る人數は1人。今は窓から外を見て警戒している。チャンスだ。

ロクは足を抜いて、角から飛び出した。

重心を上下させて足音を鳴らすほど未ではない。ましてや床は絨毯だ。

背を向けたままの敵。

父さんのように気絶させるには、手段は二つ。背後から首を絞めての頚か、腹部か首側部に打撃を加えて迷走神経反を引き起こすか。

確実で簡単なのは明らかに前者だ。敵は背をむけたまま。

しかし、

後ろを向いたままの相手の肩を叩く。

振り返った瞬間に、その首に向かって手刀を當てた。

手に殘るはわずか。

しかし、相手は眼球をひっくり返して、そのまま足音に崩れ落ちた。

やった。功だ。

迷走神経反による失神。

理論上は出來ることは知っていたが、実際にやれるかは不安だった。父さんはこれを戦闘狀態の相手に対してやってのける。

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「見事……だが、実戦で技を試すような事はするな」

振り返るとシャンマオが、その白眼でこちらを睨んでいる。

厄介な眼だ。いろいろと見かされてしまう。

「勝算は十分にあった」

「常に最善の勝機を選べ。生死の間際で愉しむな」

「……分かっている」

「お前は分かっているだけだ」

シャンマオは床に転がした球型カメラを拾い上げて、こちらに放り投げた。

それを片手で摑んで、腰のポーチにねじり込む。

「周囲の狀況に変化は」

し待っていろ」

は視線を窓の外に映す。

僕たちが侵したのは、バージニア州ラングレーにある大きな邸宅だ。かつて、この近くにはCIA本部があったが、今は別の場所に移っている。すでに本部の機能がないこの地に、純人會とのつながりが疑われているCIA長が頻繁に足を運んでいることを突きつめたのだ。

「……奇妙だな」

「どうした」

窓を見ていたシャンマオが腰に手を當て、窓の外を指差した

がこちらに向かってきている。しかも、よく訓練された戦意だ」

「侵がばれたか」

「いや。それにしては數がない。発もまとまっていて靜かだ。むしろを潛めているように見える」

「どちらにせよ。急いだほうが良さそうだ」

「ああ」

窓から離れて廊下を進む。

目的はあくまでCIAと純人會の関係を調査にとどめている。可能であれば証拠品を押収しておきたい。

大統領戦は最適化反対派の共保黨が勝利した。

そのため、次善策として用意しておいたカリフォルニア州への工作が功を奏した。選挙を通して最適化の機運は高まった。そして、最適化を実施する手段をカリフォルニアに用意することに功したのだ。

しかし、せっかく合法化した最適化を、連邦法で止される可能はまだある。合衆國政府は依然として純人會の影響下にあるのだから。

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今後、無化計畫は微妙な舵取りになるだろう。その指針となる報は必要不可欠だ。必要なのはアメリカ純人會の報だ。サーバーなどのITシステムの報も回収しておきたい。

「止まれ」

シャンマオが聲を低くして、僕の肩を摑んでとめた。

橫目で彼の顔を窺うと、鼻に皺を寄せている。まるで異臭を嗅いだ貓のような仕草だ。

「不快なが見える」

「どこだ」

「二つ先のドア。その隙間からこぼれている。これほどのをまき散らす輩もめったにいない」

嫌悪を吐き捨てるような聲で、シャンマオは毒づいた。

右手で口を覆い、考えをまとめる。彼の反応は相當のものだ。これまで何人ものを見せてきたが、これほどだった事はない。

純人會の報を求めてここまで侵してきたが、敷地のどこに報があるかは分かっていない。最初から敷地をしらみつぶしにするつもりだった。

どうせ、あの部屋にいる者も無力化しておく必要があるだろう。

「シャンマオ、やるぞ」

「ああ」

足をしのばせてドアの橫に張り付く。

シャンマオはすぐ後ろに待機した。首のすぐ後ろですらりと抜かれる刃の音に、首筋のうぶが逆立つ気がした。彼がナイフを構えたのだろう。

は武を好んで使う。そして僕が無手こだわりすぎている、とよく批判してくる。こだわっているわけではない。どんな強敵を相手にしても、徒手空拳で十分だという実例を知っているだけだ。

ポーチにまた手をばした。右側のポケットにれた音源探知用のマイクだ。聴診のような形狀をしたそれを、そっとドアに取り付けると、また攜帯端末に視線を落とした。

モニタに音の発信源が二つ映る。どうやら會話しているようだ。位置はドアから3時方向に5mと、11時方向に9m。発言が切り替わるたびに、それぞれの地點から同心円狀の音波がモニタ狀に広がっていく。

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端末を作して録音モードに切り替える。耳にれたイヤホンから、盜聴中の會話が流れ込んできた。

「結果的に上手くはいったが、お末ではあったな」

聲の主は、ラルフ・ロス長だ。どうやらこの部屋が當たりだったらしい。

「申し訳ありません」

「ハワードを失ったのは非常に殘念だ。彼は都合の良い大統領だった。まぁ、彼がその命を賭して、我らに勝利をもたらしてくれた、とも考えられる」

「ええ、しかし、カリフォルニアの件ですが」

「おそらく、日本の差し金でしょうね。昨今、あの國の諜報は巧妙になった。大統領就任が終われば、最高裁判にかけて違憲判決を出さなければね。まったく、リベラル共がまた騒ぎたてるでしょう。州の自治権を侵害するな、とね」

「畏まりました。そのように判事たちには通知しておきます」

ちょうど良い。この會話データがもっともしかったのだ。

大統領選での暗殺を畫策したのはラルフ・ロス長のはずだ。暗殺犯は都市をさけて牧歌的な暮らしをしていたカトリック教徒。そんな彼が厳重な検問を突破して拳銃を會場に持ち込んだのだ。警備組織に通がなければ、できるわけがない。

この會話データがあれば、純人會を追い詰めることが出來る。

「ところで、暗殺に失敗した狼の処分は?」

「後日、監獄で自殺に見せかけるよう手配しております」

「また迷える子羊が天に召されようとしている。嘆かわしいことです」

さて、証言は十分だろう。

そろそろ、制圧するか。部屋の中にある証も回収しておきたい。

録音データの保存を確認しながら「シャンマオ」と後ろに呼びかけた。

そのまま肩越しに攜帯のディスプレイを見せる。3時方向の音源を指で示して、「こいつを頼む」と言う。

は耳元まで顔を寄せる。らかいが背中に當たって「わかった」と返事があった。

不思議に思うことがある。稽古や試合の際には、彼は強烈な一撃をくり出す。それとは対照的なほどに優しいが、背をでている。

しかし、今は無関係だ。

背後のシャンマオにむけて、左手を上げて五本の指を開いた。

カウントダウン。

小指から順番に、それを折り曲げていく。

薬指、

中指、

人差し指、

そして、親指で、拳になった。

ドアノブを押し下げて、ドアを當たりして部屋の中に突撃する。

目の前に広がるスペースは、攜帯で確認した音波の伝達合が示したように広かった。右手の男は無視。あれはシャンマオに任せている。

左手の男。距離は9m先。

正面に捉えれば、その薄いに気がつく。見たことがある顔。CIA長ラルフ・ロス。

「ちっ」

と長が舌打ちをして、懐から拳銃を引き抜きざまに、パン、と鳴らした。狙いなどつけていない。単なる橫なぎの流し撃ちだ。

的に、足を蹴って地面に転がった。

しまった。

あんなの當たる確率はほとんどない。単なる威嚇だ。それなのに、突進をとめてしまった。ここは構わず前に出るべきだったのに。

はすでに拳銃を構え直して、こちらに銃口をすえていた。

「お前は、ニィ? いや」

くな!」

シャンマオが背後で鋭い聲を出す。

すでに右手の男を倒して、こちらも拳銃を構えていた。

「白い目の。……なるほど、そういうことか」

薄いがゆがんだ。

「四罪と日本政府は裏でつながっていた。これはやられましたね」

妥當な勘違いだ。

自分に向けられた銃口に、視線と意識が吸い寄せられる。

呼吸を整えろ。

すって、はく。この男と同じタイミングだ。呼吸を、合わせろ。

「銃を下ろせと言っている!」とシャンマオ。

「下ろせ? 優位にいるのは私だ。お前達ではない。人形どもめ」

自分を責める。

父さんなら、こんな不手際など絶対にしない。

銃撃ごときに気をゆるめて、相手に先(せん)を奪われるなどというヘマ、絶対にするわけがない。

奧歯を噛む。歯がきしむ。自分の慢心だ。噛み殺せ。

床に転がった自分の勢は、獣のような四つん這い。

銃口の向こうに、薄いが笑っている。

笑っている。

そう、こいつは笑っている。

剎那の呼吸が死活を分けるこの狀況で、こいつの意識は散漫だ。

こんな間の抜けた呼吸の隙間など。

僕にだって、れることなどたやすい。

すって、はいた。そして、笑った。そして、

奴は息をすうはずだ。

四つん這いを、クラウチングスタートにして駆け出す。

が起きて、加速の風が切り始める。

相手は息をすいきらずに、はくだろう。

その間隙、意識の疎外、無意識の領域に、このれる。

不可視の

銃撃すらさばく、父さんの

銃聲はずいぶん遅れて耳のそばで鳴り、いんいんと鼓をふるわせている。

その線はかつて自分がいた位置のままだった。

「馬鹿な」と男はつぶやいた。

ロクは、その薄いをのせた掌底を叩き込んだ。

シャンマオは悲鳴を上げそうになるのをギリギリで噛み堪えた。

ロクは男の銃撃を躱(かわ)しざまに、その顔面を叩き潰していた。

どう、と男は倒れる。

間をおかずにロクのつま先は、男の頸脈を踏みつけていた。ぐぇ、と蛙のような息をらして暴れたが、男はやがてかなくなる。

足で頸脈を踏み下ろし、脈圧迫で意識斷絶させた。ことに格闘においてこの年は天才だ。

年のが、ふらり、と揺れる。

それを見たシャンマオは駆け寄った。

そのまま崩れ落ちていくロクのを抱きとめると、そのまま厳しく言いつける。

「馬鹿者!」

「やった。やったぞ。シャンマオ。僕にも出來た。やっと出來たんだ。ああ、ようやくだ。……ようやく、分かったぞ」

年はそう言って、顔を上げた。

切れ長の赤い瞳。いつもは冷然と沈んでいるその瞳は、今は爛々と輝いている。

「深い。とても深かった。気持ち悪かったんだ。シャンマオ。あいつと和合した。呼吸を一つにすることが、こんなにも気持ちわるい事だったなんて」

年の長い腕が背中を回り込んで肩を摑んできた。

今度はこちらが抱きしめられてしまう格好だ。伝子的に大型であり、鍛えてもいる私にそんな事ができる男もそういまい。

「きっと、これが父さんの領域だ」

「……馬鹿。あんなものを試すなんて、本當にお前は馬鹿だ」

「あれしかなかった。思いつかなかったんだ。あれしか、稽古してこなかった」

そのまま、年は無遠慮にもを預けてきた。

不意を打たれて、しよろけてしまう。すると背中に壁がついた。年は元に顔を押しつけながら、はぁ、と深くて大きなため息をこぼした。

私は壁と年に挾まれてしまった。

「でも、……まだだ」

年はため息と一緒に笑いをこぼした。「まだ、まだまだ」と繰り返す。

思わずその頭を両腕で抱きしめてしまう。なんて、恐ろしい年なのだろう。

「父さんはもっと深いところにいる。銃撃すら切り落とす。あぁ、どこまでも落ちているんだ。ナナの言ったとおりだ。あの人のはどこまでも深い。全てを取り込む闇だって」

「そう生き急ぐんじゃない」

この年が目指すあの男にはが無い。

(メイスェ)。

私の目では、この年がこれほどに焦がれているものを見ることは出來ない。戦いの場にすら和合を模索する異常。この年はそんな恐ろしいものに魅せられてしまっている。

「もう、十分じゃないか」

年が顔を上げる。

しい顔立ち。それを歪めてこちらを見上げている。

「これ以上、強くなってどうする」

「……」

その白髪をでてみる。

口ではそう諭してみたが、それが無駄だということは分かっていた。年のは鋼鉄のように固い。それは決意のだ。まるで鉄で出來た骨だ。この年はこんなものをけ継いでしまったのだ。

「こいつは珍しい景だ」と背後から日本語が聞こえる。「貞と山貓がいちゃついてやがる」

ロクが、はっ、と振り返ると、そこには彼とよく似たもう一人の年が髪をかき上げて立っている。

結晶のような悪意の。ニィだ。

「やはり、お前だったか」とロクの口調が固くなる。

「こっちは意外だったな。お前はカリフォルニアにいるものだと思っていた」

「あそこでやる事はもうない」

「それで純人會への偵調査、か」

ニィは部屋中を歩き回って、足下に転がるCIA長を見つけるとそこで立ち止まる。

「お前も隨分と行的になったもんだ。後方からのデスクワークが好きだっただろ? 最適解」

「……共保黨が勝利した今、純人會には早急に対処する必要があった。一般投票は終わったが、正式な就任はまだだ。その後、最適化を連邦法で止する可能が高かった」

ニィは、ハッと笑った。

「そこで、長のラルフ・ロスは大統領候補の暗殺を実行した事実を摑む。この事実が公開されれば、新政権は純人會に対する対応を検討せざるを得ない」

なくとも、最適化反対派の急先鋒である純人會が合衆國政府に影響を及ぼしている現狀は好ましくない。お前が余計なことさえしなければこんな事をする必要もなかった。民衆黨を勝たせていれば」

ニィは片方の眉だけを引き上げて、口をゆがめる。

「相変わらず言い訳ばかりを當然のようにしゃべる奴だ。民衆黨員にも純人會は多い。本當に合衆國政府から奴らを駆逐したいなら、政権とは無関係だった自由至上黨を勝たせるべきだ」

「あり得ない。仮に選挙に勝てたとしても政権運用が不可能だ。それに、民衆黨への純人會の影響は比較的ない」

「殘念ながら、お前と議論するつもりはない」

ニィは顎をあげて、ロクを見下ろす。

二人の長はちょうど同じだ。見下ろそうとすれば、そういう格好になってしまう。

「また布津野さんのまねごとか?」

「……」

「自分には何でも出來る、とでも? 稽なほどに勘違いだ」

「うるさい」

ふん、とニィは鼻を鳴らして床に転がっているCIA長を指差した。

「さて、こいつをどうするつもりだ?」

「合衆國の司法の場に立たせる、それだけだ」

「おいおい、日本政府の関係者であるお前がか?」

「関係のある米國組織などいくらでも作っている。証拠を用意して、そこから正規の手続きで裁判を起こせばいい」

「そうやって、日本の米國諜報網をバラすわけか? 裁判どころじゃない。メディアは日本の政干渉のほうを取り上げるだろうよ」

ニィの問いかけに、ロクは黙り込んでしまった。

ニィは息を吐き捨てて、おもむろに攜帯端末を取り出した。「こちらニィ。榊、応答しろ」と問いかけると、そのままつま先で長の顔を踏みつける。

「ターゲットを確保した。後、先に侵していたのは出來の悪い息子と山貓だった……。総員は周囲を警戒しつつ報と証拠を収集しろ」

ロクはニィを睨みつけた。

「おい、ニィ」

「ここは俺にまかせろ。日本政府の立場ではくべきじゃない。そんな事はお前でも分かっているだろう」

「しかし、あいつらは、」

「これが終われば日本に帰す。その後は、テロリストの俺がやったことだ」

ニィは端末を口元に引き上げて、その先の榊に連絡する。

「榊、取りかかれ」

ニィは通信を切って端末をしまい込むと、部屋の中央にあった機に近づいた。引き出しをあさったり、PCを起してみたりしてめぼしいものを探しはじめる。

「ニィ、」

「ほら、お前はもう用済みだ。帰ってしいお父さんを待っていろ」

「……榊はどうする?」

ニィの手が、ピタリと止まる。

「意外、だな。気になるか?」

ニィは顔も上げずに、再び手をかし出した。

「榊だけじゃない。あいつらはみんな」

「俺を慕っている、か?」

「お前のことを、」

「當然、知っている。部外者は口を挾むな」

ニィは引き出しからメモリディスクを見つけると、それをそこら辺のPCに挿する。モニタにデータを出力しながら、キーボードに指を踴らせて検索コマンドを叩いた。

ロクは珍しくわにして、ニィを問い詰めた。

「このままにして、また元に戻るのか」

「言わなかったか。部外者は、口を、挾むな」

「あいつらをずっと見てきた」

ニィはロクを振り返って、睨みつけた。

「あいつらは布津野さんに任せる。今まで通りにだ」

ハッ、と息を吐きつけて、ニィはロクから視線を外してデスクあさりを再開した。

「久しぶりに會って気がついた。あいつらは変わりつつある。俺が知らない良い方向にだ。そして、俺は布津野さんにはなれない。あの人と同じ事なんて、逆立ちしても不可能だ。お前みたいに勘違いもしていない」

ロクは黙り込んだ。

それを見たニィは、ため息をついた。

「まったく、本當にイラつく奴だ。本當は布津野さんに言われるかもしれないとビクビクしていた。覚悟も決めていたんだ。でも、布津野さんはそっとしておいてくれた。……それを、お前が言うなよ」

「……」

「さぁ、お前は用済みだ。さっさと出て行け」

ロクは拳を握りしめてうなだれた。

彼は攜帯端末から保存用のディスクカードを取り出すと、それをテーブルの上に置く。

「ラルフ・ロスの録音データがっている。暗殺計畫の供述容だ」

それだけ言うと、ロクはそこから背を向けて歩き出した。私の側を通りすぎる時に、「行くぞ」と聲をかける。

その背中の後ろにそっと寄り添う。早足だ。

なぜか、この背中がとても頼りなく憐れに見えた。

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