《[完結しました!] 僕は、お父さんだから(書籍名:伝子コンプレックス)》[5-01] くたくたに煮込んだカレー

カレーを作っていると、なぜか將來のことを考えてしまう。

冴子は不思議に思いながら、ヨーグルトと一緒に漬けておいた手羽元の鶏を鍋にれた。

塗ったバターがまろやかに、まぶした香辛料が鼻孔を刺す。そのを漬けたヨーグルトと一緒に煮込むのだ。他にも、タマネギやショウガ、したトマトに市販のカレールゥをしだけ。本當にんなものが溶け合ってカレーになっていく。

料理は下ごしらえが大切でそれをおろそかにしてはならない。しかし、カレーはし特別だ。多暴に作ってしまっても、最後の煮込みを辛抱すれば、くたくたと味しく出來上がってしまう。そんな安心がある。

それは、今の私達の狀況にし似ているのかもしれない。

冴子はコンロの火加減を調整して、タマネギの皮やルゥの空箱などゴミに仕分け、布巾(ふきん)を絞って臺所の辺りに飛び散った水気を拭き取った。

つまり、今の私達はカレーの鍋みたいなもので、んなものがごった煮になっている。

Advertisement

その時の忙しさや大変さにかまけて暴に詰め込まれてしまったけれども、忠人さんは焦らずゆっくりと煮込んでしまうから、どうにかなってしまっている。

冴子は、水気を吸った布巾を絞って脇につるし干した。

ニィを家族に迎えて、二年くらいがたった。

忠人さんから「ニィ君を息子にしても良いですか」と聞かれた時はもちろん驚きはしたが、その數秒後には納得してしまっていた。この人ならそういう事もあるのだろう。

「私は構いませんよ」

「ああ、良かった」

と、忠人さんはまずは喜んでいた。

それよりもどうしてニィを養子に迎えることになったのか、その経緯や理由を教えてくれると期待していたのだが、そんなことよりも忠人さんはまずは喜んでいた。それが落ち著くのを待って、いよいよ説明があるだろう、と待ち構えていたら。

「大丈夫、ニィ君には貓アレルギーはないから」

「……ええ、良かったです」

「それと、ですね」

「はい、なんでしょう」

「ロクは許してくれるかな?」

忠人さんが懸念するように、ロクは反対した。

そこで、ニィを養子に迎えるかを家族四人で相談することになったのだ。忠人さんからすればロクと二人きりで打ち明けるよりも、四人のほうが心安いと思ったらしい。あまり関係ないと思ったが、食事のついでに同席することになった。

あの時もカレーだった。もう二年前になる。ロクはとても不機嫌だった。

「ですから。勝手に、決めてないでください、と何度も、何度も、ずっと言ってるのに!」

「はい、すみません」

ロクは聲を荒げて手を振り回していた。それとは対照的に忠人さんは小さく小さくなっていく。

ここ最近になって、ロクの表現がかになった、と関係者に言われるようになった。宇津々首相や宮本などがその筆頭で、どうやらあの孤児院の生徒たちとも上手くやっているらしい。

そういえば、忠人さんが喜んで教えてくれた事がある。カナちゃんというがロクに際の申し出たそうだ。

ロクもナナも、もう長期の終盤だ。パートナーを持っても不思議ではない。私が二人と同じ年齢のときにはそのような相手などいなかったが、忠人さんと一緒になってその素晴らしさに気がつけた。

ロクにも良いパートナーが見つかるといいと思う。

しかし、何気なくロクに際相手のことを聞いてみたことがあったが、特にそのような反応はなかった。もしかしたら、また忠人さんの勘違いなのかもしれない。

忠人さんはおっちょこちょいだ。今回のニィを養子に迎える件についても、同じことが言えるのかも知れない。

……かになったロクは、忠人さんをまだ叱りつけていた。

ガミガミ。すみません。まったくドン。ごめん。いつもいっつもです。本當に申し訳ありません……。

「……もう、いいです」

これもいつも通りで、結局はロクが疲れてしまって認めてしまう。

やっぱりカレーと一緒だ。暴につめこまれても、じっくりことこと、煮込まれてまろやかに。角(かど)がなくなってしまう。

「……いいの?」

「良くありません! ……が、よく考えたらメリットがないわけではありません」

「あるんだ」

よく火を通せば、どんなに苦い玉ねぎだって甘くなるのだ。

「無理矢理、考えついたんです」

「……どんな」

「今まで、どこで何をしていたか分からなかったニィを監視できます。あれでもあいつは第七世代です。本當なら意思決定顧問として政府を運営する義務があるんです。それを放り出して、あいつは」

また、ガミガミ、ごめんなさい、が始まる。ニィの分も忠人さんが謝っている。

私はみんなが食べ終わったカレーを片付けることにした。

……それが二年前だ。

かくして、ニィを加えたカレーはじっくり煮込まれて今にいたる。

ロクとニィは、蜂と唐辛子のように取り合わせが難しいけれど、まぁ同じカレールゥの中でなんとかやっているように見える。カレー以外では取り合わせが悪いのは相変わらずだが……。

ニャア。

と、足下の鳴き聲がした。

臺所の匂いから、そろそろ料理が終わる頃合いを計ったのだろう。飼い貓のアエリンはとても頭の良い貓だ。料理の殘りをねだって、額を足首にこすりつけて、甘えた聲を出している。

かがみ込んでをなでてやると、ごろごろとを鳴らす。

細めたその目は、しかし鋭い。あくまでも狙いはおだ。分けておいた手羽の切れ端はあるが、もうでてじらしてからだ。

ニィは貓に似ている。

ふと思いついた想に、笑いがこみ上がる。

一つ屋の下に住むようになって2年がたつが、ニィはロクが家にいる時は帰ってこないように工夫している。ロクは政府の重職にあるせいで、帰ってこれない事も多いため不可能ではない。

ロクがいるときは孤児院やいつの間にか作った知人のところで食事や寢泊まりをしているらしい。ロクが夜勤の時を見計らったように、ひょっこりと帰ってきて食卓を一緒に囲んだ後は、忠人さんとおしゃべりをしていたりする。

ロクとニィの関係は、ずっと家にいた飼い犬と後から來た半野良の貓のようだ。まだ互いに警戒し、隙をみつけて餌をくすね取っていく。

「ずいぶんと重くなってきたわね」

ふぅ、と息をついて腹に手をあてる。

そして今、またもう一人、新しい子が加わろうとしている。

の切れ端を茹でただけの片を手の平で転がして溫度を確かめる。エプロンをぎながら臺所を出て、リビングのソファに「よいしょ」と腰を下ろす。

すぐさま、アエリンが膝の上に飛び乗って手にあるおを、じっと見ている。

「アエリン」呼びかけると、アエリンは貓背をピンとばして犬みたいにお座りをした。

ふふ、と笑いがこぼれて手を差し出すと、アエリンがそれにがっついて、ぺろぺろと綺麗になめ取ってしまった。

その手でアエリンの額をでると、アエリンは私のお腹をその四つ足で登って頬をちろちろとなめた。

「お腹を踏み臺にしないで」

そうアエリンに言いながら、頬をすり寄せる。もう片方の空いた手で、ずいぶんと大きくなった自分のお腹に手を添える。

思い描いていた夢が的な形を作って、隨分と大きく膨らんできた。検査の結果も良好だ。

もう數ヶ月したら、ねぇ。

「ここには赤ちゃんがいるのよ」

皆さま、お久しぶりです。

舛本つたな です。

さて、とうとう最終章が始まりましたね。

三年以上も書き続けた本作もとうとうラストスパートです。

最後まで、お付き合い頂けますとうれしいです。

何卒よろしくお願いします。

    人が読んでいる<[完結しました!] 僕は、お父さんだから(書籍名:遺伝子コンプレックス)>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください