《【書籍化決定】にTS転生したから大優を目指す!》17――姉とすみれ

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「すー、起きなさい。おうちに著いたわよ」

母のそんな言葉が聞こえてきて、眠りに落ちていた意識が徐々に浮上する。いつの間にか後部座席にうつ伏せで眠っていた俺は、また沈みそうになる意識をなんとか保ちながらゆっくりとを起こした。

おぼつかない足取りで車から降りて自宅の方へと移する。今日は晩ごはん食べずに寢ちゃおうかな、なんて考えていたら俺が開ける前に玄関ドアがゆっくりと開いた。

「おかえりなさーい!」

明るい聲と共に目に飛び込んできたのは、現世では見たことがない姉の満面の笑み。びっくりして夢現だった意識が覚醒して、一気に目が覚めたわ。それでもその衝撃が大きくて、警戒心も手伝って直がなかなか解けない。

「今日帰ってくるってお父さんから聞いたから、ちゃんと準備しておいたよ。ざ・ん・ね・ん・か・い」

なかなかこうとしない隣の母と俺に焦れたのか、嬉しそうに言いながらぐいぐいと俺達を家の中に押し込もうとする姉。一音ずつ區切りながら殘念會という言葉を楽しそうに言う姉を見て、『こいつマジで格悪いな』としみじみと思う。すぐさま東京行きの事を話してその顔を曇らせてやろうか、と一瞬だけ意地悪な思考が頭をよぎるがそれではダメなのだ。まだ姉に向き合って本當の気持ちを聞いていない、何故姉はそれほどまでに俺を嫌っているのか。その理由を聞いた上で俺が姉と距離を取るなり、仲を修復する様に努めるなり方針を決めるべきだろう。

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そんな事を考えながら家の中にると、ポテトチップスなどのお菓子が皿にれられて並べられていて、傍らにはビンのオレンジジュースがあった。普段母の手伝いなどしない姉にとっては、なかなか手間が掛かっただろう。そう考えると機はともあれ、俺と母を労ろうという想いは本なのかもしれない。

「もう晩ごはんの時間なのにこんなにお菓子用意して……お弁當買ってきたのに」

母はため息をつきながらそう言いつつも、妹を労いたいと自主的に準備した心意気を尊重してあげたかったのか、特に姉を叱ったりはしなかった。父は『飯は飯、おやつはおやつ』というタイプなのであまりいい顔はしなかったが、それでも余計な小言は言わずに手洗いなどを済ませて席につく。もちろん俺や母もちゃんと手洗いうがいを済ませた。

「こほん……えー、それでは。妹の無謀な挑戦に敬意を評して」

「おい、月子」

多分に毒の含まれた乾杯の言葉に、父が思わずといった様子で聲をあげる。確かにそんな言葉で乾杯できるかとツッコみたくなるが、凹ませるつもりはなくても東京行きの話を聞いたら絶対に姉は凹むだろう。それとも荒れるだろうか……ともかく、最初からそんな狀態になってしまったら、話をするどころではない。なので俺は、父に目線で気にしないように合図を送っておく。ついでに首もふるふると振っておいたから多分意図は伝わっただろう。

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両親と俺が音頭にのらずにお弁當をもそもそと食べ始めたからか、姉はつまらなそうに口を尖らせて自分も弁當を食べ始めた。近所にあるお弁當屋さんの食べ慣れた味に、なんだかホッとして地元に帰ってきたんだなぁと実する。寢てたのでお店に寄った事すら知らなかったのだが、母はちゃんと俺がいつも食べている野菜炒め弁當を買ってくれていた。ここの野菜炒めおいしいんだよね、ちゃんと炒められてるのにシャキシャキした歯ごたえが気持ちいい。

姉はからあげ弁當で、両親は幕の弁當だ。これもいつも買うものなので目新しさはない。4人で靜かに食事をしていると、不意に母が部屋を見回して小さくため息をついた。

「約3日いなかっただけでここまで汚れるなんて、明日は気合れて掃除しなきゃね」

確かに埃っぽいしぎ散らかした洗濯とか、出したまま放置してある腳立とかが部屋のあちらこちらにある。これは結構大変そうだ、俺も明日學校から帰ってきたら手伝った方がいいだろうか。

そう思ってちらりと母を見ると、母は首を橫に振って優しく微笑んだ。

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「すーはなおちゃん達におみやげ持っていかなきゃいけないでしょ。大丈夫よ、お姉ちゃんに手伝ってもらうから」

「ええ~、なんで私がやらなきゃいけないの~?」

母の言葉に不満をあらわにした姉に、母の表が菩薩から夜叉へと変わっていく。『散らかしたのはアンタでしょうが』『私だけじゃないもん、お父さんもだもん』『お父さんは毎日家族のために働いてくれてるんだからいいの!』と母と姉の言い合いを聞き流しながら、目が合った父と顔を見合わせて苦笑を浮かべる。

そして全員が食事を終えて一息ついた後、いいタイミングだと思った俺は姉と腰を據えて話す事にした。

「お姉ちゃん、聞きたい事があるんだけど」

「……なに?」

ポリポリとポテトチップスを齧っていた姉が、不機嫌そうな表で言った。いつもなら完全無視だろうから、今日の機嫌はいい方なのだろう。

「なんで勝手に私の名前でオーディションに応募したの?」

「何よ、一丁前に怒ってるの? そのおかげで東京に行けたんだから、謝されても怒られる覚えはないわよ」

挑発じみた事を言う姉だったが、それには乗らずじっと自分を見つめ続ける俺に気圧されたのか、ふいっと視線を逸して気まずそうに言った。

「調子に乗ってるアンタの鼻っ柱をへし折ってやりたかったからよ、これで自分が田舎じゃ可いって言われてても都會じゃただのブスだってわかったでしょ」

「……あのさ。お姉ちゃんはすぐわたしに調子に乗ってとか言うけど、わたしは自分が可いだなんて調子に乗った覚えなんかないよ」

もしかしたら自覚がなくてそういう態度をしていたのかもしれないと、両親にも『わたし調子に乗ってる?』と確認する。するとすぐに両親は首を橫に振って、それを否定してくれた。

それを見て旗が悪いと判斷したのか、姉はさらに言葉を重ねる。

「おじいちゃんやおばあちゃんも、アンタが生まれてからアンタにばっかり構うしチヤホヤしてるじゃない。近所の人たちもそうだし、私の同級生達だってそう。比べられて貶される慘めな私の気持ちがアンタにわかる!?」

前世で俺も経験したが、『お姉ちゃんは◯◯なのにあなたはあんまりねぇ』とか余計な一言をぶつけてくる人は実際にいる。確かに勉強とか運などすぐにはどうこうできない事を揶揄されれば腹も立つが、容姿や生活態度の事なら努力すれば改善して他人にゴチャゴチャ言われる事もなくなるだろうに、何故そうしないのか。

「例えがおかしいかもしれないけど、お姉ちゃんは接客がよくて自分がしいものがちゃんと置いてあるお店と、接客態度も悪ければ品揃えもダメでお願いしても全然変わらないお店。どっちのお店の常連さんになりたいと思う?」

「……何の話? そんなの最初のお店に決まってるでしょうよ、誰がそんなダメダメなお店を使いたいって思うのよ」

バカにした様に言う姉に、そりゃそうだよねと頷く俺。

「私とお姉ちゃん、さっきのお店の話と似てると思うんだよね。私はちゃんと周りの人に禮儀正しくしようと常に心掛けてるし、誰かに注意されたら二度と同じ事はしない様にしてる。お手伝いも自分から言われる前にしてるし、指示されたらすぐにくよ。お姉ちゃんはどう? 近所の人に挨拶してる? おじいちゃんやおばあちゃんにんな事を何度も注意されてたけど直した?」

『お手伝いや行はどう?』と畳み掛けるように尋ねる。ちなみに祖父母は注意しても姉が一向に変わろうとしないので、すでに匙を投げて距離をとっている。そもそも孫に甘い祖父母が自分達から注意をするという時點で姉の行は結構ヤバかったのだが、最近ではついに見放されてしまった。これは姉だけではなく、それまでにちゃんと言い含める事ができなかった両親にも責任はあると思うがそこは今は置いておこう。

「わ、私はちゃんと……」

「ちゃんとやってる? それなのになんにも変わってないよね。気に障ったらごめんだけど、お姉ちゃんがそこまでの努力をしてるようにわたしには見えない。それなのにわたしの事は『あいつはみんなにチヤホヤされて調子に乗ってる』とかレッテルをって貶して、その上恥をかかせてやろうって嫌がらせまでされるのはすごい迷だよ」

東京に行って神崎さんと出會って、大島さんのところまで縁が出來たのは喜ばしい事だが結果論でしかない。更に今回の事はだからよかったが、もしも姉に將來気にらない人間が出來たとして、今回と同じ様な手段で貶める様な事をしでかしたら法的責任を問われる可能すらある。きつい言葉を使ってでも、ここで姉が変わるきっかけを作っておきたい。

「わたしを貶めてもお姉ちゃんの評価があがる訳じゃないよ、わたしとお姉ちゃんは別の人間なんだから。お姉ちゃんが他の人からチヤホヤしてほしかったら、お姉ちゃん自がもっと努力して変わらないとダメだよ。努力してるって言うなら、多分努力のやり方や方向が間違ってるんだと思う」

俺がそう言うと、姉は怒りからか顔を真っ赤にしてこっちを睨みつける。そしてわなわなと震え出したかと思うと、ダンッと足を踏み鳴らして立ち上がった。

「アンタがいなかったら、私だってもっとマシな人間になってたわよ! 全部アンタが悪い、アンタさえいなかったら……っ!!」

「……わたしがいなかったら、お姉ちゃんはお母さんのお手伝いも文句言わずにちゃんとする? 自分ができない事を他の人のせいにしないで、反省したりできるように努力したりできるようになる?」

「知らないわよ、なるんじゃないの!? なんなのよ、アンタは……カチンとくる事ばっかり言いやがって」

曖昧だが、これは言質を取った事になるのだろうか。いいや、どうせ現狀じゃ俺の言う事なんか素直に聞かないだろうし、このまま話を進めてしまおう。しかしなんというか、現世ではいくら関わりが薄かったとはいえ、家族に自分がいなかった方がよかったと言われるのはやっぱりキツイな。前世で両親に似たような事を々と言われたけど、あの時と同じぐらいにしんどい。でもここで中途半端に話を終わらせる訳にはいかないし、もうし頑張らないと。

「だったらちょうどよかったね。わたしは夏休みが終わる頃までにはいなくなるから、その言葉が噓じゃないって事を証明してね。ちゃんとお父さんとお母さんに、お姉ちゃんの事を確認するから」

「……はぁ? アンタ何言ってんの?」

「オーディションで面接してくれた人の中に映畫監督さんがいて、その人からの紹介で大島あずささんって優さんの下で演技の勉強をする事になったの。だから1學期が終わったら転校して、東京に引っ越すから」

まさに呆然という言葉がピッタリ似合う表を浮かべながら、姉は母へと視線を向ける。そして母は俺の言葉が正しいと太鼓判を押す様に、しっかりと頷いた。

さっきまでオーディションに落ちたとバカにしていた妹が、実は関係者の目に留まっていたという衝撃。さらに貴重なチャンスをしっかりモノにして、東京という都會に引っ越す事への嫉妬。想像でしかないが姉にとっては結構なショックがあったのだろう。ヘロヘロとへたり込みそうになったが、すんでのところで踏ん張り、そのままフラフラした足取りでリビングを出て行った。おそらく自分の部屋へ戻ったのだろう。

まさか迷った事はしないとは思うが、相部屋の自分としては危害を加えられたりしないか、そういう可能を危懼してしまう。両親もその可能に行き著いたのか、今夜から自分達と一緒に寢る様に言ってくれたので、お言葉に甘える事にした。

「ごめんね、お母さん。勝手に夏休みが終わる頃に、とか言っちゃった。まだ全然予定も決まってないのにね」

「いいのよ、これから大島さんと々細かい話は詰めるけど、多分そういうスケジュールになると思うから」

母はそう言うと、立ち上がって俺の方に近づくとそっと抱き寄せた。

「ごめんね、本當はお母さん達が言わなきゃいけない事なのに、すーに嫌な事言わせちゃったね」

「……ううん、そんな事よりもわたしがいなくなったら、お姉ちゃんとしっかり向き合ってあげてほしい。多分さっき言ってたみたいに、お姉ちゃんにとってわたしは本當にジャマだったんだと思うから。わたしがいない事で、お姉ちゃんも冷靜になれると思う」

両親はこれまでもずっと姉を窘めていた。それでも変化が見られなかったのだから、きっと両親の言葉ではこれまでの姉の心には屆かなかったのだ。でも今日、々な意味で強く意識している俺の言葉で良くも悪くも固く閉ざされた姉の心の扉をしは開く事ができたと思う。俺にできる事は本當にここまでだ、後は両親に任せようと思う。

「ありがとうな、すみれ。お父さんたち、すみれが東京で頑張ってる間にちゃんとするから。月子の事はお父さん達にまかせて、すみれは自分のために一生懸命頑張りなさい」

俺のそんな気持ちが伝わったのか、父は真面目な表でそう言って応援の言葉をくれた。正直なところ、こちらは何もしてないのに逆恨みみたいなじでずっと悪意を向けられているのも辛い。俺のためにも姉のためにも、そして両親自のためにも頑張ってほしいと思う。

姉とのお話でしたが、何故か別れに終わってしまいました。

あれー、予定では仲直りとまではいかずともちょっとだけでも和解するはずだったのに(汗)

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