《【書籍化決定】にTS転生したから大優を目指す!》36――母との再會と姉の進路

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今回は久々に姉の話題です。

私がピアノと水泳を學び始めてから、そろそろ5ヵ月が経とうとしている。

現在は3月、そろそろ二度目の小學4年生が終わろうとしていた。前世とは違って東京のど真ん中にある小學校に通っているけど、特に困っている事はない。地元の學校みたいにガッツリ農作業もしなくていいしね、遠足も水族館とかに連れて行ってもらえたし。

ちなみに今回の年越しも、殘念ながら地元に帰る事は葉わなかった。でも去年私が寮でひとり留守番していた事をみんなが気にしてくれていたのか、12月の頭ぐらいにさんが私と一緒に殘るって宣言してくれた。そしたら真帆さんと菜月さんも実家と話をしてくれて、4人で年を越した。ユミさんも殘ってくれようとしたんだけど、やっぱりまだ中學生だからね。親さんから心配だから帰ってくる様にって強く言われたみたい。それでも、できるだけ帰省する日を遅らせて、大晦日のお晝ごろまで一緒にいてくれた。

大島さんは大晦日から年明け7日ぐらいまで仕事がっていて、殘念ながら今年も忙しい年末年始を送っていた。私の事をすごく心配してくれていたんだけど、気持ちだけけ取っておいた。でも毎年なんの仕事をしているんだろう、蕓能界は年末年始はお休みになる様にスケジュール管理されているはずなんだけど。だから蕓能人の人達はハワイに挙って行き、それが話題になるのだし。

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不思議に思って聞いてみたんだけど、さんも知らなかったんだよね。何にしてもを大事に無理せず頑張ってください、大島さん。

そして年が明けてからの私の仕事は、相変わらず単発の仕事をいくつかこなしつつ、雑誌のモデルをレギュラーでこなすじで安定していた。そしてそこにピアノが週2と水泳が週1で加わって、隙間の時間はピアノの練習に費やす。もちろん學校にも通っているから、小學生にしてはキツキツに詰め込んだスケジュールかもしれない。

さらに洋子さんが新たにレギュラーを増やそうとオーディションをれてくるから、一時は本當にクタクタだった。でもバラエティばかりだったからか、全部落ちちゃったんだよね。せっかく洋子さんが話を持ってきてくれたのに、不甲斐なくて申し訳ないなと思った。

そうこうしているにもうすぐ3月になるなぁって思っていた2月下旬、突然母から電話がった。1ヵ月に一度は母から必ず電話があるので珍しい事ではないんだけど、今回はなんと母がひとりで東京まで會いに來るというのだ。これは何かあったかなと不安に思いつつ、東京駅で待ち合わせする事にした。

そして約束の日、私は場券を買って改札の中にって新幹線のホームへと向かう。母は東京に慣れていないので、下手に改札の外で待ち合わせをしたら迷子になりかねないもんね。私がしっかり案しないと。

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昨日のうちに乗る予定の新幹線と指定席の番號は聞いているので、降りてくるであろう場所に向かう。前後に出口があるけど、注意して見てればわかるかな。終點なので降りる人が多いだろうから、見落とさない様にしないと。

10分程待っていると、けたたましいベルの音と共に大きな音を立ててホームに新幹線がってきた。未來の新幹線を知っているからこそ、余計に音の大きさにびっくりしてしまう。ゆっくりと停車して、出口の自ドアが開いて到著アナウンスが響き渡る。

さて、うちの母はどこかなと前後の出口を注視していると、人の流れに乗って疲れた様子の母が降りてきた。今回は1泊だし荷もひとり分なので手荷は小さめのボストンバッグひとつと、ショルダーバッグをたすき掛けにしている。

「お母さん、こっちだよ!」

手をブンブンと振って存在をアピールすると、顔を上げてキョロキョロと周りを見回した母が私を発見した。しだけ疲れた表がほころび、笑顔が浮かぶ。

「すみれ、久しぶりー!」

しだけ早足で私の方に歩み寄ると、母はそう言って私を自分の腕の中にギュッと抱え込んだ。実際に顔を合わせるのは、東京に引っ越す為に付き添ってくれた母をホームで見送って以來だ。1年半ぐらいぶりだから私を抱きしめる腕に力がるのもわかるんだけど、ちょっと強すぎ……中が出そう。

しばらく苦しいのを我慢していたら、満足したのか母が力を緩めて私を解放する。そしてし瞳を潤ませて、私の頬に手を當てる。

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「ずっと會えなくてごめんね、お母さん達が不甲斐なかったからだね……大分背がびて、それにすごく垢抜けたわ」

「背は確かにちょっとずつびてるけど、周りの同級生にくらべると全然なんだよ。だって私、集會とかで列を作る時はいつも先頭なんだから」

前へ倣えの時に、腰に手を當てるのはもう飽きてしまった。私だってみんなと同じ様に手を前に出す側に回りたい、前世では列の後ろが定位置だったのでそれが當たり前だったのに。

私が頬を膨らませながら言うと、母はクスクスと笑いながら私の背中をでた。今日は黒いキャスケット帽みたいなのを被っているので、頭をでるのは避けてくれたのだろう。

地元から持ってきた服がちょっと素樸過ぎて東京では浮く事があり、雑誌モデルの撮影で仲良くなった裝さんに相談したところ、処分する前の服で私が著られるものを譲ってもらえる様になった。処分前とは言えテレビや雑誌に出る人達に著せる服なので、傷みは殆どない。処分される理由も汚れているとかではなく、流行り廃りの問題が大きいらしい。

アパレル會社から直接提供される服もあるらしくそちらは私の方には回ってこなかったのだが、最近は私の名前と顔がしだけ売れてきたからかモニターみたいなじで提供してもらえる事も増えた。

そんな訳でちょっとした裝持ちになっている私のクローゼットからさんがセレクトした本日のコーディネートは、さっき挙げた黒いキャスケット帽に白いモコモコのニットセーター。ブラックジーンズに薄手のタイツにスニーカー、まだちょっと寒いので薄手の黒いコートを羽織っている。

髪型もさんに整えてもらって、今日はツーサイドアップにしてもらっている。帽子を被っているから見えないけれど高い位置で結んだツインテールには、白い糸のポンポンの付いた髪ゴムが結ばれていて可らしく仕上げてもらった。

「すっかり都會に馴染んでいるのね、私の娘とは思えないくらい可らしいわ」

母がしみじみとそう零したが、私としては肯定する事もできずに苦笑するしかない。母はまぁ、田舎のおばちゃんだからね。特に著飾る事もしないし、前世(むかし)からだけど化粧も最低限な人だから、余計にそう思うのかもしれない。

いくら定期的に連絡を取り合っていても、積もる話はたくさんある。はぐれない様に手をつないで、近況などを話しながら電車に乗って寮に向かう。途中でお晝ごはんを食べた後、ついでにおやつに回転焼きを買ってから、やっとの事で寮へと帰り著いた。東京は人が多いので、おしくらまんじゅうの如き狀態でここまで頑張ってくれた母は、東京到著時よりもさらにくたびれた表になっていた。

今日は寮生のみんなは仕事だったり遊びだったりで全員外出しているので、寮は靜まり返っていた。お疲れの母を私の自室に押し込んで、私は手早くお茶の準備をする。あんまりストレートの紅茶って好きじゃなかったんだけど、こちらに來てからトヨさんに正しい紅茶の淹れ方を教えてもらったら全然味が違って味しく飲める様になっていた。

母は紅茶が大好きなので、二人分を淹れて溢さない様にお盆に載せて運びつつ自室に向かう。座ってのんびりしていたらいいのに、部屋にると母が手持ち無沙汰な様子で電子ピアノの鍵盤を押していた。私に気づくとお盆をけ取ってくれて、私の勉強機の上に置いてくれた。

「キレイに掃除しているみたいでよかったわ、月子の部屋はもうすごい散らかり放題だから。同じ姉妹でどうしてこうも違うのかしらね」

「……お姉ちゃん、相変わらずなんだね」

母の愚癡にそう相槌を打って、私は自分で淹れた紅茶に口をつけた。うん、味しく淹れられてよかった。母も私に倣ってひと口飲むと、渋かった表が綻んで『味しいわね、この紅茶』と喜んでくれた。

カチャリ、とカップをソーサーの上に戻すと、母は改まった表で私を見つめる。その雰囲気に私も姿勢を正して、母の言葉が続くのを待っていた。

「お母さんが今日來たのは、もちろんすみれに會いたかったからというのがひとつ。そしてもうひとつは、これからの事を話すために來たのよ」

なんだかその言葉に不穏なものをじて、もしかしたら連れ戻されるとかそういう話なのかと思わずを固くする。というか、そんな事を言われても素直に従うつもりはないけどね。『嫌な事は嫌だ』とはっきり伝えるのがすごく大事だという事は、前世の経験からにしみてわかっている。それができていれば、私は病まずにもうちょっとマトモな人生を生きていたと思うから。

「すみれが東京に來てから、お母さんとお父さんはお姉ちゃんと頑張って向き合ったと思う。時には街のおじいちゃんおばあちゃんと島のおばあちゃんを呼んで、6人で話し合ったりもしたのよ。でもお姉ちゃんは全然変わらなくてね、むしろドンドン悪化していったわ。すみれに帰ってこない様に言ったのもあの子のすみれに対する悪い気持ちが、どんどん膨らんでいくのが見ててわかったから」

悪い気持ちって母はボカしてくれたけど、憎悪とか殺意とかそういうなんだろうね。そもそも私としては姉に何かをした覚えはないし、そんな風に理不盡なをぶつけられる謂れはないと思っている。なので萬が一、実際に姉が私やその周囲に対して危害を加えてきた場合は、両親には申し訳ないけどやれる事は全部やって対抗しようと思っている。もちろん加害者になるつもりはないので、被害者に許される範疇での話だけどね。

沈痛な面持ちで母が語った話をまとめると、母が言ったこれからという言葉は私ではなく姉に対してのだったようだ。両親は何度か姉と膝を突き合わせて話したが進展がなく、助けを求める様に父方の祖父母と母方の祖母に話し合いへの參加を求めた。しかし一向に態度や考え方を改めないどころか悪化させている姉を、父方の祖父母は早々に見限っていない者の様に扱い始めたそうだ。

昔から自分達の世間が一番で、言う事を聞かなかったり思い通りにかない人間を切り捨てて來た人達だからね。今回のこれもまぁ予想通りというか。そして母方の祖母は厳しい人だけどに厚い人なので、粘り強く姉と話をしてくれていたらしい。両親はそれをありがたく思いつつ付き添っていたのだが、姉が祖母を怒らせてしまったそうだ。

詳細な事は教えてもらえなかったけれど、どうやら東京で寮暮らしをしている私をバカにする様な事を言ったらしい。そして『私だってそれくらいは簡単にできるのに、あいつばっかりチヤホヤしてバカみたい』みたいな捨て臺詞を吐いて、祖母を激怒させたそうだ。

祖母はロクでなしの亭主を見限って離婚して手ひとつで5人の子供を育てた人なので、ひとりで何かを為す事がどれだけ大変なのかをもって知っている。小學生で親元を離れて寮生活をしている私を心配して気にかけてくれているそうなので、余計にその言い様にカチンと來たのだろうとは母の弁。

『簡単だと言うのならやってみろ』と姉を突き放し、厳しいと有名な私立の中高一貫校に姉を放り込む事を両親に宣言した祖母。娘可さと経済的な厳しさからその提案をなかなかれられなかった両親だったが、『今この子を矯正しなかったら大変な事になるぞ』と祖母に脅しみたいな説得されてようやく首を縦に振ったんだとか。

しかし姉よ、キジも鳴かずば撃たれまいに。なんでそこでそういう事を言っちゃうかなぁと、話を聞いて思わずため息をついた。本音ではどう思っているかはどうあれ、もうちょっとうまく建前を使える様になればいいのに。

「それで、お姉ちゃんはその一貫校にる事になったの?」

「……うん、お婆ちゃんのコネとか々使ってね。あの子には可哀想な事をするけど、これをきっかけにして変わってしいと思ってる」

『親なんだから、他所に更生を任せる前にもっと頑張れよ』と言うのは簡単だけど、憔悴しながら経緯を話す母を見ていると両親達なりに一生懸命姉に寄り添ったんだろうなというのは想像できる。両親にとっても姉にとっても、別々の環境にを置いて距離をおくというのもひとつの方法ではあるだろう。

「その學校でお姉ちゃんが私の事なんてどうでもよく思えるぐらい、好きな事や大事な友達に出會えたらいいね」

「すみれ……ありがとうね」

だから私は、両親の大きな決斷を支持することにした。もちろん環境を変えるというのはひとつの有効な方法だとは思うが、その環境によって人間というのは良い方向にも悪い方向にも変わるだろうことは容易に想像できる。

私だって大島さんがすごく優しく迎えれてくれて、寮の人達も実の姉の様に甘やかしてくれるからこうして東京でも一人で頑張っていられるけど、これが真逆の環境だったらすぐに地元に逃げ帰っていたかもしれない。學校でもすぐに友達ができたから楽しく通えてるけど、もしもぼっちだったら不登校になってたかもしれない。環境というのはそれくらい人生を左右するものなのだ。

どうなるかはすごく心配だけど、姉には中學校と高校の6年間を楽しく過ごしてほしい。そうしたら仲良し姉妹は無理だろうけど、普通に話せる間柄ぐらいにはなれるかもしれないから。

あと姉が地元を発つ事によって、私の帰省止令は解除される運びになった。姉が帰省する場合はその予定を母に教えてもらって、その日を避けて私が戻る事が決められる。地元に戻ったら會いたい人もたくさんいるけど、今年は映畫の撮影もあるから帰れるかどうかは微妙なんだけどね。でも気兼ねせずに帰省できるのはすごく嬉しい、とりあえず洋子さんに相談しようっと。

その後はお互いの近況報告とかの他もない話をして、練習しているピアノを聴いてもらったり、ふたりでのんびりと過ごした。夕食は私がいつもお世話になっているお禮として、母が寮生のみんなに腕を揮った。普段から私の料理を食べ慣れているので、関西の味付けでも特に問題なくみんなに好評でホッとした。

お風呂にってそろそろ就寢という頃に、母は大島さんに呼ばれて1時間程戻ってこなかった。日頃の私の様子とか、役者としての私の評価とか、そういう事を話していたのかなと予想しているけど、母がまったくその事について喋らなかったので真相はわからない。

まさか前に言ってた養子の件とか話してないよね? ちょっと不安だけど、実際に話題に出るまで放置しておこうっと。君子危うきに近寄らずだ、ちょっと意味が違うかもしれないけど。

部屋のベッドは大人用のシングルベッドなので、私と母ならなんとか一緒に眠ることができる。この寮に來てから他の寮生全員と一緒に寢た事があるけど、やはり母というのは特別なのか一番ぐっすり安眠できた様な気がする。

そして朝ごはんを食べてから、早々に地元に帰ると言う母を見送りにまた東京駅へ。走り去る新幹線を見えなくなるまで見送って、私はくるりと踵を返した。ちょっとだけ寂しい気がしないでもないけど、そんな傷に浸ってる時間はない。まずは帰って昨日の分もピアノの練習をして、遅れを取り返さなきゃ。

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