《【書籍化決定】にTS転生したから大優を目指す!》44――久々の帰省 その3
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まずはなおの家に寄って、家にいたおばさんに帰郷の挨拶をしてからふみかのお見舞いに行く事を告げる。電車で行くつもりである事を告げたら、おばさんはなおに1000円札を1枚渡していた。目的地は隣の駅なので、電車賃で使うのは往復で120円ぐらいだ。多分殘りはお小遣いとして渡したんだろうね、のどが渇いたりするかもだし。
これから仕事だと言うおばさんと一緒になおの家を出て自転車で走り去る後ろ姿を見送ってから、またふたりで駅に向かって歩き始める。
「あら、なおちゃん。お友達とおでかけなの? あんまり見掛けない子だけど」
「おばちゃん何言ってるの? すーちゃんだよ」
「まぁ! すみれちゃん、帰ってきていたのね。よかったわね、戻ってこれる様になって」
小さな町だから、歩いていると顔見知りと何度もすれ違う。その度にこんなやり取りがあって、し引きつり気味の苦笑を浮かべてしまう。去年の夏になおのおばさんが言っていた様に、うちの家庭環境とか事は町の大人達には筒抜けになってるみたいだ。その中で無言の圧もあっただろうに、自分を通した姉ってある意味すごいよね。直接姉に悪く言う大人はいなかったと思うけど、そんな空気の中で親や祖父母に窘められても態度を変えなかったのだから。
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帰郷の話題以外には『綺麗になったわね』とか『垢抜けたわね』と容姿について褒められて、なんだか恥ずかしくて頬が熱くなってしまった。初対面の人とかよく知らない大人達に褒められても素直にけれられるけど、昔から知っている人達に言われるとなんだかもじもじしてしまう。なんとかおばちゃん達をやり過ごして駅まで行き、電車に乗り込んだところでようやく一息つくことができた。
「なお、わたしって東京に行く前と後でそんなに違うかな?」
「すーちゃんは前からかわいいけど、お仕事をはじめてからオシャレになったと思う」
そう言ってにっこり笑うなおの笑顔に、私はせっかく引いた頬の熱がまた上昇するのをじた。でもそうか、確かに髪を切るのも洋子さんに指定されてる容院だし、眉を整えたり顔の産剃りなんかもさんや真帆さんがやってくれてるし。なにより服裝が近所のスーパーで買ってたものから、撮影現場で使われていたお下がりに変わってるもんね。多はオシャレになった様に見えるのかも。
連休初日のお晝過ぎという時間だからなのか、都會方面に向かう電車なのにガラガラに空いていて、私となおはボックス席で対面に座る事にした。とは言っても降りるのは隣駅なので、電車に乗っている時間はわずか5分足らずしかない。あっという間に電車が減速しはじめたので、コケない様に気をつけながら立ち上がってドアの前に移した。
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電車から降りて改札を出ると、すぐになおが手を握ってくる。案してくれようとしているのか、それとも私がはぐれそうだと思っているのか。まぁなおが楽しそうだからいいんだけどね、好きにさせておこう。それよりもお見舞いに行くなら何か買って行った方がいいよね、食事は今日あたりから重湯とか三分粥ぐらいなら食べられると思うけど、もしも今日まで斷食なら食べを買っていくのはかわいそうだよね。お花がいいかな、食べは今日看護師さんに聞いてみて大丈夫だったら明日持ってくればいいし。
「なおはこの連休にどこか出掛ける予定ある? こっちにいる間はふみかのところに通おうかと思うんだけど」
「うん、ふみかの事が心配だしすーちゃんと一緒にいたいから、私も行くよ」
どうやら予定はないらしい、それにしてもなおは優しい子だよ。學校が休みの日には遊びに行きたくなるのが子供心なのに、ふみかや私のためにそれを抑えて付き合ってくれるなんてね。ふみかのところにずっと居座って、病み上がりの子を疲れさせるのも迷だろう。なので丁度いいところで切り上げて、なおと一緒においしいおやつでも食べに行こうかな。今回は仲間はずれになっちゃうけど、ふみかは次回の帰省の時に連れて行ってあげよう。
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駅前のスーパーに花屋さんがっているので、そこで院患者へのお見舞いだと告げておまかせで小さめの花束を作ってもらう。あんまり大きくしてしまうと、ナースステーションに合うサイズの花瓶が用意されていないかもしれない。病院側がレンタルの花瓶で各サイズを逐一取り揃えてる訳がないからね、こればっかりは大は小を兼ねるとはいかないのだ。
私でも余裕を持って抱えられる花束を作ってもらって、今度こそ病院へと向かう。7階建てのビルが丸ごと病院になっていて、確か外來以外に救急対応もやっていたはずだ。
そう言えば部屋番號を聞いてくるのを忘れたなぁ、なおに聞いてもわからないとの事なので付に聞きに行く。個人報にうるさい平末期ならまだしも、まだ平初期の現在ならうるさく言われる事もなく教えてもらえるだろう。そんな事を考えながら付の方に歩いていく。
祝日だから外來もやってなくてガランとしているけど、お見舞い客の対応の為なのか看護師さんがふたりだけカウンターの中にいた。ちなみに今はまだ看護婦さんって呼ぶのが一般的なので、私も口に出して呼ぶ場合はそれに倣っている。
「あの、友達のお見舞いに來たんですけど。部屋番號を聞き忘れちゃって……教えてもらうことってできますか?」
私がおずおずとそう尋ねると、わざわざ看護師さんがカウンターから出てきて私達の前まで來ると、目線を合わせる様にしゃがんでくれた。
「姉妹でお見舞いに來たの? 二人とも可いわねー」
いえ、違います。私となおは同級生なんだけど、多分年子の姉妹って言っても見た目的には通じるんだよね。主に長差のせいで……私も背がもうちょっと年相応にしい。
「お姉さん、違うよ。私とすーちゃんは同級生だよ」
「あら、そうなの? ごめんなさいね、お姉さん勘違いしちゃって」
「いえいえ、大丈夫です。それであの、高橋ふみかの病室はどこでしょうか。盲腸で院しているですけど」
なおの訂正に、お姉さんは私の方を見て謝ってくれた。でも長差(そこ)に関してはあんまり深堀りしてほしくないので、私は當初の目的だったふみかの病室についてもう一度尋ねる。するとお姉さんは何かを思い出した様に一度立ち上がってカウンターの中にると、臺帳の様なに視線を落とした後で私達を再び見つめた。
「二人のお名前を聞いてもいい?」
お姉さんに尋ねられて、私達は自己紹介をした。どうやらふみかのおばさんが『もしかしたらこの子達がお見舞いに來るかも』と、私達の名前を先に病院側に伝えてくれていたらしい。そこからはスムーズでふみかの病室を教えてもらって、エレベーターで6階まで上がった。
科病棟の601號室、ここにふみかがいるらしい。4人部屋なので他の人もいるだろうから、なおに靜かにしようねと伝えてドアをくぐる。大きな窓から太のが降り注ぐ窓際のベッド、ふみかはリクライニングしたベッドに背中を預けて座っていた。
「こんにちはふみか、合はどう?」
「約束通りにすーちゃん連れてきたよー」
私となおが聲を抑え気味にそれでいて明るく聲を掛けると、どこか曇った表で下を向いていたふみかが弾かれた様に顔を上げた。そして私と目が合って數瞬、何故かふみかの大きな瞳が潤み始めてびっくりしてしまった。來たばっかりだし何もしてないはずなのだけど、ふみかのただならぬ様子にどうしたのだろうかとオロオロしてしまう。
「すーちゃん、來てくれた……うれしい」
しゃくりあげるふみかの話を聞いてみると、どうやら私が來ないかもしれないと不安になっていた様だ。多分生まれて初めての手を経験したばかりだし、神的に不安定になっていたのだろう。隣でなおが『ちゃんと連れてくるって言ったでしょー!』とぷんぷんしているのがかわいい。
「ほら、あんまり泣くと手の傷口が開いちゃうから。お見舞いにお花も持ってきたんだよ、花瓶借りてきて飾ろうかな」
「あ、すーちゃん私が行くよ。すーちゃんはふみかのそばにいてあげて」
私が言うと、なおが率先してそう言って病室を出ていった。優しい子だなぁ、い頃から見守ってきた子がこんなに優しい格に育ってなんだか嬉しい。お言葉に甘えて、花束を橫に置いた後で見舞客の為に備え付けてあるパイプ椅子に腰掛ける。
ハンカチでふみかの目許の涙を拭いながら、『調は大丈夫?』とか『手は怖くなかった?』と話題を振る。その度にふみかはポツリポツリ返事を返してくれて、そのにしずつ嗚咽も収まっていつものふみかに戻っていた。話を聞いたところ、おばさんは一旦家に帰っているらしい。洗いも出るし著替えも持ってこないといけないからね、病院なら看護師さん達が何かあったら対処してくれるし短時間なら自分が離れても大丈夫だと思ったのだろう。
後、昨日の夜から食事が食べられる様になったらしいのだが、予想通り重湯だったらしい。朝から段々と五分粥とか七分粥にしていって、明日からは普通の食事が食べられるらしい。それなら明日のお見舞いは食べに決まりだね、地元の駅前にケーキ屋さんがあるので味しいのを買ってこよう。
そうこうしているに花瓶を持ったなおが戻ってきたので、花瓶を預かって買ってきた花束をバランスよく生ける。なおが予め水をれてきてくれたので、手間が省けて助かった。ピンクの淡いバラやスズランなどがふんわりと咲いていて、病室が華やかになった気がする。
なおもちょうど戻ってきたしふみかも落ち著いたので、私はふたりに買ってきたお土産を渡す事にした。リュックから包裝紙に包まれた縦長の箱を2つ取り出して、なおとふみかそれぞれに差し出す。
「これ、ふたりにプレゼント。使ってもらえたら嬉しいな」
私が渡すと、まずなおが『開けてもいい?』と聞いてきたので頷いた。それを見ていたふみかもガサガサと包裝紙を開いて、そっと箱のふたを開けた。出てくるのはネコが橫を向いた形のチャームがついたペンダント。実は私も現在につけているので、服の中から引っ張り出してふたりに見せる。
東京の雑貨屋さんで見つけたのだけど、手頃な価格だったので3つお揃いで購した。小學生が高いアクセサリー持ってるのは不自然だし、危ない事を引き込む事になるかもしれないからね。
なんでお揃いのものにしたのかというと、中は大人のくせにと思われるかもしれないけど、東京で寂しさをじる事が多々あったのでそれを和らげられればいいなと思ったからだ。他にもお揃いのをに著けていれば、ふたりも地元で頑張っているんだから私も頑張ろうとやる気に繋がるかなという打算もちょっとだけあったりもする。
ふたりは箱から出したペンダントを見てすごく喜んでくれて、早速につけようとしている。でも慣れていないからか、首の後ろで留めをうまく留められない様だ。後ろに回って手早く留めてあげると、ふたりはすごく嬉しそうに『ありがとう』とお禮を言ってくれた。ふたりのそんな様子を見ていると、私も嬉しくなって自分が笑顔になっているのがわかる。喜んでもらえてよかった。
ただメッキがしてあるとはいえ金屬製なので、検査があるかもしれないからふみかは院中は外しておこうね。そう言うとふみかは、沈んだ表を浮かべてしょんぼりとしてしまった。でも仕方ないよね、ちゃんとした結果が出ないかもしれないし。後でおばさんが帰ってきたら、念の為に同じことを伝えておこうっと。
その後はなおやふみかの學校生活について話を聞いたり、私の東京での生活を面白おかしく話した。どうやらなおとふみかのクラスに転校生が來たそうなのだけど、名前や容姿を聞いても前世の記憶にまったく引っかからなかった。私の別が違う事に始まって姉の格の違いや私の蕓能活など、前世とのズレはいくつもあるもんね。そりゃあ違うところも出てくるのかも、私が気付いてないだけで前々から差異があったのかもしれない。
でも、例えば前世ではアメリカが核ミサイルの発ボタンを押さずに済んだ事態が、現世では押さざるを得ない狀況になるなんて灑落にならない差異は絶対に免被りたい。小さな違いや良い方向へと変わるのであれば、全然問題がないのでどんどんそういう変化は起こってしいけどね。都合がいい考えかもしれないけど、心底そう思う。
そうこうしているとふみかのおばさんが戻ってきたので挨拶をし、あまり長居をして病み上がりのふみかに無理を掛けるのもよくないのでお暇する事にした。『また明日來るよ』とふみかと約束をして病室を出ようとすると、出口まで見送るとふみかが後を付いてきた。私も前世に盲腸で手した時にを以て知ったけど、手の次の日にはもう歩かされるんだよね。私達が生まれる前は安靜にしておくのが常識だったらしいのだが、かずにいると逆に傷の治りが悪いらしい。
痛みを我慢しながらゆっくり歩くふみかに歩調を合わせて、エレベーターホールへと向かう。到著して昇降ボタンを押そうとすると、ふみかがぎゅっと私のリュックを摑んできた。合が悪くなったのかと慌てて振り返ると、ふみかが何やらモジモジしながら顔を寄せてきて『すーちゃん……ぎゅーってしてもいい?』と聞いてきた。
何がなんだかわからないけど、ふみかの頼みを斷るなんて選択肢はないので両手を広げて『いいよ』と答えを返すと、ゆっくりとふみかが近づいて私の背中にふみかの手が回されて……ってあれ、ふみかもおっきくなってない? 私の目の前にふみかの口許があるんだけど、7cmぐらい差がありそうだ。
「すーちゃん、いいにおい……わたし、お風呂ってないから。くさくない?」
「大丈夫、ふみかもちゃんとの子らしい良い匂いだよ」
エレベーターホールで親友と抱き合いながらお互いの匂いをクンクンと嗅いでるとか、冷靜に考えると『何やってるんだろう、私』って思っちゃうんだけど、ふみかの溫が気持ちいいし何よりふみかがすごく嬉しそうな笑顔を浮かべているからどうでもいいや。ふと視線をじてその方向を見ると、なおが寂しそうに私達を見ていたので私とふみかで代わる代わるぎゅーしてあげた。
エレベーターが止まって他の患者さんや看護師さんが降りてきたので、私達も抱き合うのをやめてエレベーターに乗り込む。出口までふみかが見送ってくれて、私達は手を振りながら病院を後にした。後の経過も順調そうだし、思ったよりも元気そうでホッとしたらなんだかお腹がすいてきたよ。そう言えばお晝ごはん食べてなかったし、地元の駅前で何か食べて帰ろうかとなおをって、喫茶店で昔ながらのホットケーキを一緒に食べた。すごく味しかったです。
ちなみに現在ではお見舞いに生花の持ち込みを止している病院も多いそうです。
染癥やアレルギー・臭いなんかがその原因だそうですが、主人公はその事を知りません。
家族以外にお見舞いに行く知人友人もいなかったでしょうしね、知っていたら多分違うお見舞いの品を選んだのではないかと思われます。
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