《【書籍化決定】にTS転生したから大優を目指す!》56――これからを考える話し合い
いつもブックマークと評価・誤字報告ありがとうございます。
前話と同じく閑話の設定や今後の話の展開の落とし込み回です。
結局車の振が眠気をって、事務所に著くまでの短い間だったけれど居眠りをする羽目になった。おかげで洋子さんから『かわいい寢顔だったわよ』なんてからかわれてしまい、心では恥ずかしさに悶絶しながらもなんとか平靜を裝って事務所の中にる。
顔見知りの社員の人達に聲をかけられて、その度にぺこりと頭を下げて通過する。一番最初に事務所に來た時はほとんどの人に『誰だ、この子?』みたいなじの視線を向けられていた事を考えると、私の知名度も上がったなぁと慨深いものがある。
洋子さんの後ろについていくと、事務所の心臓部であるデスクさんとマネージャーさんの機が並んでいるフロアに到著した。デスクさんとはクライアントさんからの電話をマネージャーさんに取り次いだり、來客対応をしたり。マネージャーさんのサポートや経理や総務部署の仕事を一手に引きける人達だ。
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私もたまに事務所に電話をかける事があるんだけど、その時に用件が終わってもデスクさんから話を振られて他のないお喋りを長々としたりするので、お姉さん達の人となりはよく知っている。今も話片手に電話をしながら、私に向かって手を振ってくれているので小さく笑って手を振り返しておいた。
洋子さんは自分の機に近寄ると分厚いクリアファイルを小脇に抱えて、パーテーションで仕切られた個別の面談スペースへと歩いていく。機の上にファイルをドサリと置いて、奧の席を勧められたのでよいしょと椅子に腰掛ける。洋子さんも対面に座ると、カバンから手帳とボールペンを取り出した。
「さて、改めて。疲れているところワザワザ來てもらってごめんなさいね、今後の仕事についてすみれと々相談しなきゃいけなくてね」
「もしかして、このクリアファイルの中って……」
「そうよ、全部すみれ宛のオファー。一応簡単に容を見てよっぽどおかしいのとか怪しいクライアントからの仕事は弾いてるけど、多岐に渡っててね」
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そう言いながら洋子さんは大きなため息をついて、私の方からよく見える様にファイルを開いた。パラパラとページを捲ってサッと見てみたけど、様々なジャンルの依頼が來ていた。CMやドラマ・舞臺はもちろん、バラエティへの出演依頼も目立つ。変わり種だと番組の企畫でガールズバンドを結するので、キーボード擔當として參加してしいというオファーがあってびっくりする。とてもじゃないけど私のピアノの実力だと荷が勝ちすぎているし、初心者にが生えた程度の私に依頼する話じゃないと思うんだけど。
でも映畫が公開されてから2日しか経っていないのに、こんなにたくさんのオファーが來るものなのだろうか。不思議に思って洋子さんに尋ねると、苦笑しながら教えてくれた。
「関係者向けの試寫會はもうちょっと前にあったでしょ、あの時に參加してた広告代理店の人達とか、橫の繋がりでこれまですみれの事を知らなかった人達にもワーッと広がったのかもね」
洋子さんの話だとこれまで々な現場でピンチヒッターをやってきたからか、私の事は一部で『困った時のすみれちゃん』と名を知られていたらしい。私としては全力で仕事をこなしているだけなんだけど、他の子役だと愚図ったりディレクションがうまく伝わらなかったりで浪費する無駄な時間も殆どないという事で、高い評価をもらって次の仕事に繋がった事もこれまでいくつかあるらしい。
今回の映畫で私の演技に興味を持った人達が知り合いに探りをれる→ピンチヒッターをお願いした事がある人達が私をベタ褒め→じゃあオファーしなきゃ←イマココとなったそうだ。
お仕事を頂けるのは嬉しいけど、あずささんの意向もあるしね。前回は映畫の宣伝だからという事で演技以外の仕事も許してもらえたけど、今回はそういう抜け道もないしけるのは難しい気がする。いや、別にガールズバンドに參加したい訳ではない……部活みたいで楽しそうではあるけども。
ただあずささんが言う様に架空の人を現実に存在させる為のけ皿である役者の私達は、必要以上に自分らしさを観客にみせない方がいいという考えも理解できるので難しいところだ。
役者のカテゴリーに含まれる仕事だけけるべきか、それとも自分の幅を広げるためにんなオファーに挑戦してみるべきなのか。前に話をもらっているあの映畫の話も、結局は棚上げにして返事を待ってもらっているし、問題が山積みで目眩がしそうになる。
「ちなみに前にされたあずささんからの指示は、今は無しになってるから。すみれが興味のある仕事があれば、遠慮なく教えてもらえるとありがたいかな」
「なんでですか? あずささんは別に間違った事は言ってなかったと思うんですけど」
「恩田さんと飲んだ時に話を聞いて、まだまだ子供でこれから長していくすみれには々な事を経験させた方が、後々プラスになるんじゃないかって思い直したらしいわよ。恩田さんとどんな事を話したのかは教えてもらえなかったけど、私としてはすみれとんな現場に行きたいからこの方向転換には大賛」
嬉しそうに言う洋子さんに苦笑を返しながら、あずささんは大丈夫なのかなとし心配に思う。多分あれはあずささんの中にある確固としたポリシーだったはず、だからこそ弟子の私を心配して強めにトップダウンであの指示を出したはずだ。それを撤回したくなるぐらいの何かが恩田のおじいちゃんとの話であったのだとしたら、私が心配になるのもおかしくないはず。
私の長を考えてくれた上での結論と言われれば嬉しいけど、あずささんの役者としてのポリシーとかそういうものを否定したい訳ではない。今度そういう話ができそうな機會があれば、私の考えは伝えておきたいと思う。私としてはあずささんの考えには共している事、ただ前世も含めて様々な事について経験不足である事は否めないので、そういう部分は積極的に埋めていきたい。
さっきは流し読みしたファイルの中を今度はしっかりと読み進めながら、洋子さんとオファーの選別をしていく。途中でデスクのお姉さんが飲みを2回ぐらい持ってきてくれていて、二度目の時に聲を掛けられて初めて既に日が暮れている事に気づいたぐらいにはふたりで集中して相談した。
その結果、これまで通りCMやドラマは演じる役がいかがわしくないについては積極的にける方向になった。ただオファーの量が増えるとチェックが甘くなるので、事務所側としてもダブルチェックなどの対策を講じてくれるとの事。
同じ役者の仕事というカテゴリにる舞臺については拘束される期間が長くなりがちなので、スケジュールに余裕がある時には優先的にける事になった。舞臺ならではの演技や作法などを勉強できる機會なのでできれば參加したいが、今後の學費や生活費を考えるとどうしてもギャラ優先で仕事を選ばざるを得ない。金銭的な余裕ができた時には、是非參加させてもらいたいと思っている。
バラエティについてはジャンルによっては応相談だけど、事務所が守るべき『松田すみれ』という役者のイメージを著しく損なう仕事はNG。この間出演したクイズ番組が評判よかったらしいので、そういう系が中心になるんじゃないかな?
旅番組は拘束時間長めで學校を休みがちになるからNGで、ガールズバンドとかそういうチャレンジ系も結局練習での時間的拘束が長くなるから基本的にはダメという事になった。ただ私の活にプラスになる様なおいしい話が舞い込んできた場合は例外なんだとか、『おいしいってどういう意味で?』って聞いても洋子さんは笑みを浮かべるだけで教えてくれなかったから裏取引(バーター)みたいな事なのかな……よくわかんないや。
いくつかの仕事についてはその場でファックスにて出演快諾の返事を送って、他のは洋子さんが條件について渉してからけるかどうか決めてくれるらしいので、私はもう全面的に任せる事にした。いくら前世で社會人をやっていたからと言って、畑違いの事まで全部理解できる訳がないからね。餅は餅屋、専門家に任せてしまおう。
洋子さんに寮まで送ってもらって、車から降りる時にこれからまた忙しくなる事へのお詫びと、これからもよろしくお願いしますという旨を伝える。ただでさえ忙しい洋子さんに負擔を掛けるのは心苦しいなと思っていたら、運転席から降りてきた洋子さんに頭をポンポンとでられた。
「私が忙しくなるっていう事は、擔當しているすみれに仕事がどんどんってきてチャンスが舞い込んできているって事なんだから、むしろどんどん忙しくなってほしいわ。私の夢はたくさんの人にすみれの役者としての才能を認めてもらって、その人達に『私のすみれはすごいでしょ!』って自慢する事なのよ。だからすみれ、そんな風に申し訳なさそうな顔しなくていいの」
いたずらっぽく笑いながらそんな風に言う洋子さんに、釣られるように私も笑みを浮かべた。私に気を遣わせない様にそんな風に言ってくれているのはわかっていたが、きっと何割かは本心なんだと思う。だったら將來洋子さんが自慢できる様に、誇りに思ってもらえる様な役者にならなきゃいけない。それを新しい目標にして頑張るぐらいしか、私には洋子さんの大変さに報いる方法が思い浮かばなかったから。
私なんかにできるかはわからないけど、自信もあんまりないけど。でも洋子さんに自慢に思ってもらえる様な役者になれる様に、ひとつひとつ頑張っていこう。改めてそう決意した夜だった。
短いですが、次のシーンを続けて書くとかなり長くなりそうだったので一旦ここまでで切りました。
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