《【書籍化決定】にTS転生したから大優を目指す!》65――東京観(なお視點)
新年あけましておめでとうございます、舊年中は大変お世話になりました。
本年もよろしくお願いします。
すーちゃんに連れられて原宿駅を降りると、連休中だからなのかたくさんの人達がいた。私達と同じ様に細い道に吸い込まれる様にっていく人達と、それとは逆に駅に向かって歩いてくる人達が橫斷歩道を挾んで向かい合う。
歩く人用の信號が青に変わって、すーちゃんと手を繋ぎながら足を踏み出す。さっき電車から降りた時に『多分ものすごくたくさんの人達がいるだろうから、はぐれない様に手を繋ごうね』ってすーちゃんが言った時に、私とふみかの間に火花が散った。久しぶりだしすーちゃんと手を繋ぎたいのはお互い同じ、稚園時代からすーちゃんを取り合っていた私達はここでケンカなんてしたらすーちゃんに叱られる事を理解(わか)っている。だから即座にじゃんけんをして、行きは私がすーちゃんとの手繋ぎ権を手にれた。
「ん? どうしたの、なお」
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「う、ううん! すーちゃんの手は相変わらずやわらかくてすべすべしてるなって思ったの」
「ちゃんと毎日お手れしてるからね、でもなおの手もおんなじでやわらかくての子の手ってじだよ」
そう言ってすーちゃんは私の手を指でコシコシとでる。お世辭とかじゃなくて本気でそう言ってるのがわかるあたり、すーちゃんはちっちゃい頃から変わらないなと呆れるやら安心するやら複雑な気持ちになる。
こうして並んでいても、自然とすれ違う人達の視線がすーちゃんに向かうのがわかる。帽子もかぶってるし度のってないメガネで目立たない様に変裝しているのに、それが余計にちぐはぐですーちゃんのふんいきが逆に目立っちゃうんだよね。地元でも可い子として有名だったすーちゃんだけど、東京に來てもっとずっと可くなった。私達同い年の子とくらべると背が低いのは相変わらずだけど、そこがまたすーちゃんの魅力というか。私はいつの間にか背がニョキニョキびてクラスでも列の後ろの方になっちゃったから、すーちゃんと同じで背がちっちゃい子を特に羨ましく思ってしまっているのかもしれないけど。
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「ちょっといいかな、みんな可いねー。アイドルとかに興味ないかな?」
蕓能人のグッズが売っているお店とかおしゃれな服屋さんが並んでいる通りを歩いていると、見知らぬスーツのおじさんがちょっと気持ち悪い笑顔を浮かべながらこちらに近寄ってきた。みんな可いとか言ってるけど、おじさんの目はすーちゃんしか見ていなくておべっかとかお世辭だということがすぐにわかる。
私はこんな経験をしたのがはじめてなので立ち止まろうとしてしまったのだけど、グイッとすーちゃんに引っ張られて止まりかけた足を踏み出した。そしておじさんの方を一瞥もせずに『興味ないです』と冷たい聲で言うすーちゃんに続いて、おじさんの前を全員無事に通り過ぎる。
チラッと後ろを見るとふみかもはるかちゃんに連れられて後ろをしっかりとついてきていたので、ちょっとホッとした。ふみかはたまにものすごく鈍くさい事をするから、ずっと一緒にいるなじみとしては心配になる。田舎育ちの私達にとっては、あんな風に知らないおじさんに聲を掛けられるなんて、おまわりさんを呼ばなきゃいけないぐらいの大事件だからね。
「すーちゃん、今のおじさんって知ってる人?」
念の為に確認すると、すーちゃんはなんだか困ったように笑ってから首をふるふると橫に振った。そしておじさんの姿が充分に見えなくなってから、他の人の邪魔にならない様に道の隅っこに集まる。
「スカウトでしょ、すみれといるとたまに聲を掛けられるわよね」
トーカちゃんが呆れた様に言うと、すーちゃんがちょっとだけしょんぼりした表になる。すーちゃんが変なおじさんを呼んでる訳じゃないし、そう言われても困るよね。
「わたしアイドル志じゃないし、聲掛けされても困るんだけどね。たまに『お芝居に興味ない?』って言われる事もあるけど、もう事務所にってるから」
「おじさん達もアイドルになりたい子に聲を掛ければいいのにね」
私がそう言うと、トーカちゃんに『初対面で見分けがつく訳ないでしょ』ってツッコまれた。この子はノリがよくて面白い、こういう子がすーちゃんの新しい友達になってくれてよかったなとすごく思う。ただすーちゃんと一緒の學校に通ってるのは、うらやましくてねたましいけどね。
「……すーちゃんは、お歌とか歌わないの?」
「お仕事でそういう話が來たら考えるけど、今のところはしないかな……前にややこしい事になりかけたし」
おずおずとふみかがした質問に、すーちゃんはよどみなく答える。最後の方に何かぼしょぼしょって呟いてたけど、何を言ってるのかわからなかった。たまにこうやって聞こえない様に話すんだよね、すーちゃん。
何かを誤魔化す様なすーちゃんに促されて、私達はまたクレープ屋さんに向かって歩き始める。そしたらすぐにお目當てのクレープ屋さんについたみたいで、すーちゃんが足を止めた。
「わ、並んでるよすーちゃん」
「普段原宿にり浸ってる先輩から聞いたんだけど、このお店って人気らしいからね」
すーちゃんの先輩? 前に寮で一緒に暮らしてたっていう人達かな。今は大學生になって寮を出たらしいけど、その後も會ってお話したりしてるんだね。
私達より年上のお姉さん達が列を作っている後ろに、私達も並ぶ。クレープは生地を焼く時間もあるから30分ぐらい待ってたんだけど、その間にトーカちゃんやはるかちゃんとも々と話せてし仲良くなれた気がする。話のきっかけを作ってくれたり意見を聞いてくれたのはすーちゃんなんだけどね、相変わらず気遣い屋さんだなと心した。でもこうやって他の人に気を遣ってばっかりだと、疲れちゃうんじゃないかなとちょっと心配になる。
私はチョコレートとバナナのクレープ、すーちゃんはいちごとカスタード、ふみかはりんごと生クリームのクレープと3人それぞれ違うものを頼んだので、ひと口ずつ味見させてもらう。すーちゃんのはいちごの酸っぱさとカスタードの甘さが合ってておいしくて、ふみかのはりんごがアップルパイみたいに甘く煮られてて、それを生クリームのほんのりした甘みがやわらかくしていてちょうどいい甘さになっている。もちろん私のも二人に食べてもらって、おいしいって喜んでくれた。
「アンタ達、いちゃいちゃしてないでさっさと食べちゃいなさいよ」
トーカちゃんが食べさせ合ってる私達を、何故か呆れた様に見ながらそう言った。トーカちゃんも食べたかったのかな、と思って『ひと口食べる?』と私のクレープを差し出してみる。すると何かゴニョゴニョと言った後で、トーカちゃんは私のクレープをひと口かじった。それを見たすーちゃんとふみかも、トーカちゃんに自分の分を差し出す。
「ちょっとすみれ達まで……これじゃ私が食いしん坊みたいじゃないのよ」
ちょっとだけ照れたみたいに笑うトーカちゃんを見て、私達は思わず吹き出してしまった。だって最初は気の強いの子ってイメージだったのに、急に素直で気弱なの子みたいな一面を見せるから。今まで周りにいないタイプの子だから、地元と東京で離れてしまった後も仲良くできたらいいな。できれば私も東京に住めたらいいんだけど、それはママにダメって言われたし。
クレープを食べ終わった後はおしゃれな服屋さんをみんなで見て回ったり、おしゃれな雑貨のお店とかを々と案してもらった。やっぱり東京と私の家の近所にあるお店とでは、服のおしゃれ度が全然違う。目を白黒させながら服を見て回る私とふみかに、すーちゃんが『東京に來た思い出に上下一著ずつプレゼントしようか?』と言ってくれた。でも誕生日でもないのにプレゼントをもらうのもおかしな話だし、同い年のすーちゃんに高い服を買ってもらうのはとても気が引けるので遠慮する事にした。ふみかも同じ気持ちだったのか、隣で一生懸命に首をぷるぷると橫に振っていた。
なんだかすーちゃんは殘念そうだったけど、これは間違ってなかったと思う。すーちゃんは昔から年上のお姉さんみたいに々と私達に優しくしてくれたけど、できれば私達もすーちゃんに頼ってもらいたいし対等の友達でいたいと思うから。だから『次に東京に來るまでにお小遣い貯めておくから、また可い服が売っているお店を教えてしい』とお願いすると、すーちゃんはにっこり笑って頷いてくれた。
その後はすーちゃんよりもトーカちゃんの方が東京に詳しいという事で、彼の案で東京タワーとか淺草寺とかに連れて行ってもらった。すーちゃんは仕事で移する時は大抵の場合マネージャーさんの車らしくて、そこまで詳しくないんだって。はるかちゃんもまだ最近こっちに來たばかりだから、私達と同じで右も左もわからないそうだ。ちょっと親近がわくよね、東京って地元に比べるとゴチャゴチャしてるし人が多いしで頭がクラクラするし。
ちなみにはるかちゃんの地元は、私達の住んでいるところよりは都會らしい。じゃあ今度はすーちゃんが戻ってくる時に一緒に私達の地元に來てよとうと、はるかちゃんも行ってみたいと乗り気な返事をしてくれた。なんにもない田舎だけど、すーちゃんと遊んだ公園とか通ってる學校とか案してあげたい。
途中でお晝ごはんを食べて、上野公園っていう広い公園をのんびり散歩する。この近くには國立の館もあるんだって、んな話をしながら當てもなく歩いてくたびれたら休憩する。まだすーちゃんが地元にいた頃に學校の帰りに遊んでいた時みたいで、なつかしい気持ちと違う場所で別の學校に通っている今はもう、こんなにのんびりと楽しい時間をすーちゃんと一緒に過ごせないんだなと思うと寂しくてきゅうっとが締め付けられる様な気がする。
「……なお、どうかした? 疲れちゃった?」
そして私のちょっとした様子からすぐに気付いてくれるすーちゃんの事が、本當に好きだなと思う。もっと一緒にいたいなって思うけど、パパとママがいないと一人でなんて生活できない子供な私ではなんにもできないのが悲しいなって思う。何でも自分で選ぶ事ができる大人に早くなりたいな、きっとふみかも同じ気持ちだと思う。
大人と言えば上野公園を出て喫茶店で休憩した時に、みんなの飲みとケーキ代をさり気なく支払ったすーちゃんは大人っぽくてカッコよかった。ただ喫茶店の店長さんがレジですーちゃんを心配して『大丈夫? あの子達にイジメられてて無理やり奢らされてるんじゃないかい?』って言ってて、わたわたと慌てながら必死に否定しているすーちゃんに私達四人が必死に笑いを堪えなきゃいけなくてすごく大変だった。私達の中ですーちゃんが一番小柄だから、もしかしたらそんな風に見えちゃったのかもね。店を出た後のすーちゃんはちょっぴり頬を膨らませて拗ねていたけど、そういうところが他の人達に守ってあげたいって思わせる原因なのかもしれない。
そんなすーちゃんを宥めながらも、東京は冷たい人が多いってママたちとは言ってたけど、店長さんみたいに優しい人もいるんだなぁと思うとなんだか心がぽかぽか暖かくなった。おうちに帰ったらママたちにも話してあげようっと。
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