《【書籍化決定】にTS転生したから大優を目指す!》73――料理と験と暴走と
いつもブックマークと評価、誤字報告ありがとうございます。
活報告にも書きましたが、HJ小説大賞2021前期の賞作に選ばれました。
2022年以降書籍化予定ですので、また詳細がわかりましたらお知らせします。
結局、車を事務所に譲った際に得たお金から捻出する事にして、圧力鍋は自分で購する事になった。使い方の確認と試食を兼ねて作ったじゃがは、寮のみんなやトヨさんと大島さんにも評判がよかったのでホッとひと安心。
ただ、関東と関西では使うの種類が違うのが難點。私は関西出だから牛を使うのだけど、みんなが食べ慣れているのは豚を使ったじゃが。それぞれの土地の歴史的背景みたいなのがあってそうなったみたいなんだけど、今更それをどうこう出來る訳でもないので、気にせず関西風を振る舞うことにした。
最初は違和があったみたいなんだけど、食べ進めるうちに味しいって褒めてくれたのが嬉しかった。それぞれにこだわりはあるだろうけれど、味しさはそれすらも溶かしちゃうんだなぁ。
これから冬本番でどんどん寒くなるし、々な煮やシチューを作って食卓に並べるのもいいかもしれない。これまでは時間的な余裕がなくて、食べたくても諦めてたんだよね。
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映畫の撮影も終わったし、年末の公開に向けて宣伝の為にVTRで1コーナーにスポット出演したりっていうのはあるけれど、撮影中の時みたいに長時間の拘束はないから料理するぐらいの空き時間は確保できる。
もちろん前から続いているレギュラーの仕事もあるから、毎日とはいかないんだけど。ギャラからいくらかを稅金として納めなきゃいけないとはいえ、こうして定期的に収があるっていうのはありがたい事だと思う、本當に。実際にどれくらいの稅金を納めているかっていうのは、あずささんに処理をお任せしているのでよくわかっていなかったりするんだけどね。
それはさておき、12月の下旬には験する私立中學の願書提出が始まって、來年の1月下旬に試が行われる。9月いっぱい學校を休んでいた私を心配して、比較的時間の余裕がある日の放課後に先生が學力テストをしてくれたんだけど、その時に過去問を元にした験対策のテストも一緒に作ってくれていた。
既に大學験のレベルまで勉強は終えているので、どのテストでも満點を取ることが出來た。先生もその結果に安心してくれたんだけど、ひとつだけ苦言を呈された。それは算數の問題を解く時に、解答用紙に途中式を書いていない事だった。でも小學校の算數って答えは一緒なのに、方程式使っちゃダメだとかなんとか算しか使っちゃいけないとか、答えを導き出すのに無駄な遠回りをさせられている気がする。多分學習要項にっていないからだとか、そういう杓子定規な理由なのだろうとは思うけど。
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だから私は頭の中で方程式を使って解いてしまうのだ、問題のどこにも方程式を使っちゃいけないとは書いていないからね。つるかめ算、植木算、過不足算なんて大人になって使った事ないし。一応、他の子に教える時の為に計算方法は覚えているけれど、今後も使う機會は多分なさそうな気がする。
私は合格をもらったんだけど、同じ學校を験するのだしついでだからと、一緒にテストをけさせられたはるかの方が大変だった。
元々學校の勉強は必要十分はできていたのだけど、験というのは學校で習っていない問題が普通に出てくるので、そこで躓いてしまったらしい。一度自信を無くすと、間違えてはまた自信を無くすという負のスパイラルに陥ってしまう。そうなると勉強する意は無くなり、普段の勉強の績まで下がってしまうのだ。
私が映畫の撮影にるまでは、一緒に勉強をしながら教えていた事もあってなんとか學力は維持できていたのだけれど、どうやら2ヵ月ちょっと離れていた間に、はるかは勉強から逃げ出していた様だ。前までなら解けていた問題をいくつも間違えている、これでは合格なんて夢のまた夢だろう。
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目をぐるぐるとさせながら間違った問題を先生と復習するはるかを心の中で応援しつつ、私は邪魔にならない様に靜かに教室を出た。
今日は久々の完全オフの日なのだ。この間から誤魔化す様にしずつしかできなかった自室の掃除もしたいし、溜まっている洗濯も一気に片付けてしまいたい。
寮に帰り著いてからの予定を頭の中で組み立てながら、いつもの帰り道を早足で進むのだった。
はるかの験勉強を見ながら私の中で曖昧だった部分を補強しつつ普段の仕事をこなしていると、あっという間に12月にっていた。
私も映畫の公開日が迫っているという事で、大阪や知にプロモーションに行かなくちゃいけなくて、泊りがけで東京を離れる事もしばしばあった。一度サボりの前科があるはるかを置いていくのは心配だったけれど、さすがにこの時期になるとおに火がついたのか、仕事を終えて戻ってきた私の前には出していた課題の他にも自主的に自習を続けるはるかの姿があった。
多分ユミさんに地元の公立中學校の話を聞いたんだろうね、それも今のはるかのモチベーションにもなっているのだろう。落ちたらそこに通わないといけなくなるからね、そりゃあ必死にもなるでしょう。
別に學校が荒れているとかイジメが起こっているとかそういう事ではなく、優先すべきは勉強と部活という確固たる學校の方針があるらしいのだ。仕事があるから部活には所屬できないと言うユミさんに絶対に部活にる様に強要したり、仕事の日に學校を休むと問答無用で欠席にされてしまったり。あずささんと一緒に何度も學校と話し合いをしてしだけ融通を聞かせてもらえる様にはなったそうだが、はるかが學したら多分また最初から話し合いをしなければならなくなるだろうと當事者のユミさんは言っていた。
ちなみに何故ユミさんには中學験を勧められなかったのか聞いてみたところ、どうやら學力が足りていなかったらしい。私とはるかの様に同級生でフォローできる相手がいれば話は変わったのかもしれないけれど、ユミさんはひとりだったしね。近い年齢で真帆さんと菜月さんがいたけれど、當時のふたりはあんまり勉強が出來なかったみたいで、八方塞がりだったみたい。
ユミさん本人は辛かった事もあったけれど、その経験も自分の演技に活かせているから大丈夫と笑っていた。彼なりの強がりかもしれないけれど、私もそれくらい貪に日常の々を演技の糧にしたいと思う。
冬休みになると勉強して息抜きしてまた勉強するっていう、普通の小學生からすれば苦行でしかない生活を送っていたのだけれど、はるかはよく頑張っていた。息抜きの容は糖分補充のついでにお茶を飲みながらおしゃべりしたり、風邪をひかないように厚著をして寮の周囲を散歩したり。庭でラジオをしたりもしたけど、同じ姿勢でずっと勉強しているからか、固まったがほぐれていいじだった。
さすがにこの頃になると過去問が載っている問題集もくたびれるぐらいに解いていて、私は自分のしたい勉強をしていた。英會話はキャシー先生のおかげで8割程度は問題なく外國の人に伝わる様にはなったけれど、文法は全然なので英文を正確には読めない。もしかしたら海外からのオファーも來るかもなんて洋子さんが冗談で言い出したのがきっかけだったけれど、勉強してみると読める本も増えて意外とお得だった。時折出てくる知らない語を、英和辭典片手に読み解いていく。前世ではアルファベットを見るだけで嫌悪が溢れそうになるくらいの英語アレルギーだったのに、変われば変わるものだと一人ひっそりと笑った。
「よくそんな日本語が全然書かれてない本、スラスラって読めるよね。すみれってやっぱり、年ごまかしてるでしょ?」
「誤魔化してないってば。それに春に中學校へと進學したら、はるかだって英語を習うんだからね」
「ええー、日本に住んでるんだから日本語だけでいいのに。外國の人と話す機會だって、普通そんなにないでしょ」
ほほを膨らませて言うはるかを見ながら、あと20年もすれば今の3倍は訪日外國人が増えるよと心の中で呟く。日本からも海外留學とか旅行で、たくさんの人が外國に行く様になるしね。世界の公用語とまで言われていた英語はにつけておいて損はない、読み書き會話をに著けておけば、食いっぱぐれる心配もなさそうだし。
それはそうと、こうして質問以外で話しかけてきたという事は、そろそろはるかの集中力も切れてきたのだろう。彼もたくさん問題を解いて出題傾向を理解したのか、最近は変わった問題が出てもいいように他校の試問題も解かせている。私立の試験問題って自由度が高いから、変わった文章問題とか自分の考えを書く記述問題とかもあったりするからね。
そういうのが出ないとも限らないので、その時に慌てない様にね。正解率よりも平常心をに著けている段階といえば、わかってもらえるんじゃないかな。
休憩にしようとそれぞれ飲みたいをれて、寮のリビングに戻ってくる。手持ち無沙汰だったのか、はるかがテレビのスイッチをONにすると、ちょうど蕓能ニュースのコーナーが流れていた。
「あ、すみれの映畫の事やってるよ。もうすぐ公開日だもんね、いっぱい宣伝してもらわないと困るよね」
「洋子さん曰く、スポンサーさん達が満足する程度の集客は既に見込めてるみたいなんだけどね。こればっかりは蓋を開けてみないとわからないし」
前売り券の捌け合とか、そういうデータから予測をつけるらしい。前世なら公開日の夜には想ツイートがどっさりで好評か不評かなんてすぐにわかったけど、この時代はそうじゃない。映畫評論家が試寫會に行ってテレビや雑誌で持論をえつつ褒めたりこき下ろしたり、後は圧倒的に狹い範囲での口コミで評価される事が多かったりする。
私としては全力で演技して、やれるだけの事は全部やった後だから、あまんじて観た人達の評価はけるつもりなんだけど。でも映畫を作ってそれでお金儲けだったり企業の評判を上げようとしている人達にとっては、これからが勝負なんだもんね。私も好き好んで観客に嫌悪を持たれたいなんて変わった趣味はないので、できる事なら人気作になってほしいなと思っている。
「……ねぇ、すみれ?」
そんな事を考えていると、正面に座っているはるかが『ズズッ』とホットミルクをを潤すぐらいの量を飲んだ後、そう私の名前をぽつりと呼んだ。小首を傾げながら続きを待っていると、ちょっとだけ照れた様に笑って続きを口にする。
「ありがとうね、すみれも大変な時期だったのに。2學期の間、ほとんど私の勉強に付きっきりだったでしょ。私とは違ってすみれにはレギュラーの仕事もあって、その上で勉強とかご飯とか、その他にも々してもらって……申し訳ないなっていっつも思ってたの」
真摯に見つめられながらそう言われ、私は思わず苦笑を浮かべてしまう。確かにスケジュール的に大変だったり、逃げ出そうとするはるかを捕まえたり、ここまで來るまでに々と大変な事はあった。でもそれは100%善意かと言われるとそうでもなくて、例えば學後に同じ學校だったら休みの日にあった連絡事項を聞けたり、ノートを見せてもらったり。私にも々と得があるから、むしろ合格してもらわないと割と本気で困るのだ。
それを素直に伝えると、はるかは私が謙遜してそう答えたと思ったのか、ますます極まった様に瞳を潤ませる。まぁいいや、今はどれだけ言葉を重ねてもおそらく同じ様に捉えられてしまうだろう。だからまた試験も終わって心ともに落ち著いた時に話してみようっと。
その後も『すみれは私の憧れなんだよ!』とか『いつかすみれと共演できる優になれる様に頑張るからね!』とか暴走したはるかを、落ち著かせて再度勉強させるのにものすごく苦労した。恩にじてくれてるなら、その暴走癖は今後表に出さないでもらえるとすごく助かる、かな。
勉強回でした、はるかにとっては地獄の日々だったのではないかと(笑)
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