いつもブックマークと評価、誤字報告ありがとうございます。

喪中につき新年の挨拶は控えさせて頂きます。本年もどうぞよろしくお願い致します。

無事に歌も志していた中學に合格したと聞いた頃には、もうすぐそこに３月が迫ってきていた。教室の空気は浮足立っていて、クラスメイトの皆が卒業と春休み、そしてその後に続く中學校生活を楽しみにしているのがよくわかる。

「すみれちゃん、サイン帳書いて！」

昨年も同じクラスだったの子に、かわいらしいキャラクターが描かれたデザインの用紙を手渡された。そこには名前や住所・電話番號をはじめとして、趣味や好きな人みたいな高學年子らしい項目が並んでいる。クラスどころか學年の子が全員換しているので、私も參加しないとは言えずに付き合いでサイン帳を買ってクラスメイトに配っているのだ。

前世でも卒業前になじみのの子達に書いてしいと渡されて書いた記憶があるのだけど、まさか私が配る側になるなんて想像もしていなかった。ちなみに私が買ったサイン帳はデフォルメされた貓の絵が描かれたものだったのだけど、その１冊も多分余るぐらいしか配らないんじゃないかなという私の楽観的な予想は裏切られて、後から追加で２冊も買い足す羽目になってしまった。だって子の皆は『自分の用紙と換してしい』って他のクラスの子までやってくるし、男子も『書いてあげてもいいけど』みたいなじで強請ってくるから斷りにくくて。

好きな人欄は最初の方は空欄にしていたのだけど、書き上げて返した際にブーイングされる事が続出したので、とりあえずはるかと歌の名前を書く事にした。最初は『ちゃんと書いて！』と怒られる事がしばしばあったがきょとんとした表で小首を傾げると、一転して何やら微笑ましそうな視線を向けられて仕方がないなぁと引き下がってくれる事が増えた。おそらく初もまだのお子ちゃま扱いされたんじゃないかと予想しているのだけど、実際に的な意味で好きになった人が前世現世を通じていないのだから、そういう風に思われても仕方がないなと諦めてけれている。

しかし今考えるとサイン帳も卒業アルバムの最後の數ページに記載される名前とか住所も個人報が垂れ流し過ぎて、平末期の倫理観を持っている私としてはとんでもなく恐怖を覚える。一応サイン帳を書いた子達にはあずささんや他の寮生に迷が掛かるから、他の小學校から進學してきた人達には教えないでねと口頭でお願いして、念の為にサイン帳の空きスペースにも同じ文言を記載しておいた。

私やはるかが今よりも蕓能人として有名になった時に、住所を知った全く関わりのない人が面白半分で寮まで覗きに來たりしたら大変だもんね。寮には今のところしかいないし、男が敷地に勝手にって來たら怖いもん。一応はるかにもこの懸念を伝えて、私と同じ様にしてもらっている。神妙な表で頷いていたところを見ると、私が話したもしもの事態に対する恐怖がちゃんと伝わったのだと思う。この時代はまだが襲われたとしてもの方がったんじゃないかとか短いスカートを履いている方が悪いと、責任転嫁される程度には男尊卑の傾向が強かった。つまりは自分達でしっかりと事が起こらない様に自衛するしかないのだ、自意識過剰だと思われてもすべき事をせずに自分や寮の誰かが襲われたりなんかしたら、後悔どころの騒ぎじゃないし。

ちなみにこの事は先に歌にも相談して、歌からも學年の子全員に注意喚起してもらう様にダメ押しでお願いした。私みたいに限られた數の人とばかり付き合っているとこういう學年全へのお願いっていうのは難しいけど、他のクラスにも顔がきく歌なら簡単らしい。私がはるかにした様な例え話をしてくれたみたいで、大抵の子なら知らない人に自分の報を預かり知らないところで勝手にやりとりされる気持ち悪さとその後に起こる事件への恐怖は解るのだろう。ほとんどの子達が約束してくれたと歌が教えてくれて、とりあえずはひと安心できた。

そんなある日、私に學校に來る様にと進學先の私立中學から電話が掛かってきた。なんだろう、もしかしたら一度は合格を出したものの不合格になってしまったのだろうか。

漠然とした不安を抱えながら、これまた何故か一緒に呼び出されたあずささんと一緒にあずささん専用車に乗って中學校へと向かう。保護者代わりのあずささんまで呼び出すとなると、これはいよいよ合格取り消しかもしれない。どんどん悪い方向へと向かう考えを止められずにいると、隣に座るあずささんがクスクスと笑った。

「そんなに心配しなくても大丈夫よ。合格通知はちゃんともらったのだし、制服の採寸もしたじゃない。今更すみれを不合格にするなんて、そんなリスクの高い事はしないわよ」

なるほど、言われてみればその通りだ。合格だよって正式な學手続きの書類まで送付した後に、やっぱり駄目って不合格にするなんて學校としての信用に関わる。だとすると、何で私が呼ばれたんだろう。あずささんに聞いてもわからないらしいし、學校までの道のりは本當に悶々とし続けていた。

到著するとすぐに學園長室に通されて、部屋で待っていた年配の男とあずささんよりし年上のと挨拶をわす。男は學園長で、は理事のひとりらしい。多分あずささんが前に話していた知人というのが、この理事さんなんじゃないかな？

勧められて高そうな応接用ソファーに腰を下ろすと、何がそんなに楽しいのかニコニコと笑顔の學園長さんが私に聲を掛けてきた。

「松田さんの様な將來有な方が我が校に學する事になって、我々教師陣もとても嬉しく思っています。是非とも松田さんにはこのまま研鑽を積んで頂いて、役者みたいな水の仕事ではなく地に足がついた分野で名のある人に長してしいですね」

告げられた言葉に突然だったからか、それとも脳が理解する事を拒否したのかはわからないけれど、何を言われたのかがまったくわからなかった。とりあえず私が演技の仕事を生業にしている事について否定された事だけはわかったので、この人は味方ではなさそうだなとなんとなく察する。

ふつふつと湧いてくる怒りに思わず衝的に聲を発しようとしたその時に、隣にいたあずささんが小さく居住まいを正して口を開いた。

「あら學園長先生、その水の仕事で生活をしている私を前にしてよくその様な事をおっしゃりますね」

「いやいや、蕓能界で大功を収めていらっしゃる大島さんについてはまた論じる點が違うでしょう。私もまた教育者として蕓能界を夢見て、その夢が破れて傷つく多くの若者達を見て參りました。その中には非常に明晰な頭脳を持った者もいて、もったいないと心から思ったものです。ナレッジワーカーとなりこの國を導いてくれていたら、そう考えるとその損失は非常に惜しいと。ですがご気分を害されたというなら、謝罪は致しましょう」

そう言って彼は頭を下げたが、慇懃なじがあずささんを見下している様な雰囲気で非常に気分が悪い。私の表にも不快が浮かんだのを察したのか、理事だと自己紹介したが冷ややかな表で學園長を見據えた。

「城田學園長、この場は私が対応するので退席を。學前の生徒を前にその態度は褒められたものではないでしょう、大島さんにも失禮です」

「それは失禮を致しました。松田さん、これからどうぞよろしくお願いしますね」

學園長はそう言うとソファーから立ち上がり、大島さんには挨拶もなく部屋を退室していった。『なんだあいつ』と心では憤りつつも、とりあえず軽く會釈してその背中を見送る。私はあのおじさんと違って中はちゃんとした大人だからね、ああいう凝り固まった人にいちいち怒っても仕方ない事は解っているから。できれば學後もよろしくしたくないし、接は最低限にしたいものだと思う。

彼が出ていった後し間を開けて、それからペコリと理事さんが頭を下げた。

「當校のものが大変失禮をしました……ごめんなさいね、彼も昔は熱心な教育者だったのだけど。いつからか學歴至上主義の様な事を言うようになって、最近はそれが顕著でね」

理事さんの表に苦いものが浮かぶけれど、深りはできる事ならしたくないから素直に謝罪をけ取った。あずささんも同じ気持ちなのか、先を促す。

「改めまして、理事の深山と申します。理事の中では若い方だからこの學校関係の雑用ばっかりやらされてるので、松田さんになにか困った事があって教員が対応してくれなかった場合は、私に相談してもらえたら力になれると思います」

「よ、よろしくお願いします」

差し出された名刺をけ取ってから、私は深山と名乗った理事さんに頭を下げた。どうやら學園長と違って、深山さんはフレンドリーなじに接してくれるみたい。部屋の中のピリついた空気が軽くなって、ホッと一息つく。

「個人の考えは々とあると思うけれど、ああやって自分の考えを押し付ける様に話す方が學園長というのも問題ではないかしら。出資者としては、生徒達への影響が心配だと懸念を伝えさせてもらうわ」

「もちろん大島さんの意見は出資者としても、関わりのある子供を預ける大人としても正しいものだと思います。ご意見については理事で共有して、理事會での議題に上げる事を約束させて頂きます」

真っ直ぐにあずささんを見つめながらそう約束した深山さんに、あずささんは頷いてからこの話はこれでおしまいとばかりに『パン』と両手を一度打ち鳴らした。それは深山さんにも伝わったのか、雰囲気がらかくなった様な気がする。

「まずは松田さん、試の結果あなたが首席と決まったので學式で新生代表挨拶をしてください。參考に昨年と一昨年の新生代表挨拶の原稿を渡すので、容を考えてみてね」

そう言えば試で一番を取ると総代とか首席とか呼ばれて、みんなの前で挨拶させられたりするって前世でも聞いた事があった。もちろんまったく縁のない事だったので、そんな経験はまったくないのだけど。マンガとか小説だと高嶺の花のの子がその役割を任されてるよね、私でガッカリされないかちょっとだけ不安。

でもテンプレートはもらえるみたいだし、カメラの前で演技する事に比べれば壇上で原稿を読み上げるだけならそんなに張しないかもしれない。気楽にやろうっと、予行練習もあるだろうしね。

「次はこれね、我が校には試績の首席から３位までの生徒に特別奨學金の権利を渡してるの。制服や教科書代みたいな雑多なお金は出してもらうけど、學金と授業料などの諸経費は全額免除されるの。もちろん維持には厳しい條件をクリアしてもらわないといけない。でも、松田さんなら多分大丈夫だと思うわ」

特別奨學金、そんなに良い制度があるんだ。中學の授業料や學料を節約できるなら、高校や大學に回せるお金が増えるもんね。定期テストの平均點や平常點・出席率などを高い基準でクリアするっていう條件は、仕事で欠席する可能がある私にはすごく不利な気がするんだけど、どうなんだろう？

気になって質問すると、私が學してテレビに出る事によって學校の宣伝にもなるので、仕事で欠席する場合に限り公休にしてもらえるんだって。それならテストを頑張って、授業態度や提出なんかの當たり前にやる事をしっかりやればいいだけだから、多分條件はクリアできそう。

是非申し込みたい旨を告げると、深山さんはそんな私を微笑ましそうに見て申請用紙を渡してくれた。あずささんの同意や通帳・印鑑も念の為に持ってきていたので、その場で用紙に記して理してもらう事ができた。さすが私立の中高一貫校は太っ腹だなと思うのと、この學校を紹介してくれたあずささんへの謝の気持ちでいっぱいになった。

高等部にも部進學の際に上位３位には同じ特典が與えられるらしいので、そこにれる様に目指そうかな。新しい目標ができるとやる気もこれまで以上に溢れてくる、これまで以上に役者業もしっかりとやって勉強も績を落とさない様に頑張らないとね！

ちょっと考えている事があって、２月の更新はお休みするかもです。

もしかしたら１ヵ月ズレ込んで３月の更新がお休みになるかもしれませんが、決まり次第活報告やTwitterにてお知らせさせて頂きます。