《え、社システム全てワンオペしている私を解雇ですか?【書籍化・コミカライズ】》side - 崩壊の予兆

「――事前に予想された通り戸う聲が多く見られます。特に多いのは、手が足りないという聲でした」

プロジェクタに投影されたパワーポイント。

擔當者がレーザポインタを當てながら説明する。

「続いて問い合わせの返答が無い。権限申請が理されない。問い合わせ先が分からない。それから――」

簡素な円グラフと詳細な表。そして説明を聴きながら、新社長は頭の中で思考を巡らせる。

手が足りない點は時間と共に解決するだろう。

一方で、問い合わせ関連が混しているようだ。

「ありがとう、よく分かったよ」

新社長はまず擔當者を労う。

「さて質問だが、問い合わせが混していることについて、何か心當たりはあるかね」

「はい、こちらの資料をご覧ください」

想定質問。

用意した追加資料を提示して、説明する。

「――最後に、佐藤を連れ戻せ、という回答が複數ありました」

「佐藤……?」

「はい。改革以前、システム関連の業務をしていた社員です。現在は退職済みとのことです」

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「……ふむ」

顎に手を當てて黙考する。

とても不可解だった。システム関連とプレゼンタは表現しているが、改革以前、該當する組織はひとつしかない。

システム管理部。

その下に課などは存在しない小さな組織。

ああ思い出した。

例の、あの戯けたコスプレが居たところだ。

「システム関連というのは、システム管理部の管轄だね。あの部が管理するシステムの重要は私も理解している。だから四人ほど配置したはずだが、手が足りていないということかね」

「…………すみません、後ほど調査して回答します」

「いや、私が直接行こう」

新社長は、これが大きな問題であると認識した。

同時に、心では憤慨している。

奇妙なコスプレが一人で管理できるようなシステムだ。そこに四人も配置したのに、一どうして業務が滯ることになるのだ。

何かある。

その何かを確かめる必要がある。

「おや、二人かね」

會議の後、ちょうど三十分だけ予定が空いていた新社長はシステム管理部に足を運んだ。そこには資料を見ながら忙しなくキーボードを叩く社員が二人。

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「……? ああっ、えっと、何かご用件でも?」

「いや、大した用では無いのだが、風の便りで、とても苦労しているという話を聞いたものでね」

「……ああ、はい。申し訳ありません」

「謝る必要は無いよ。狀況を教えてくれるかね」

これは好機と張り切って説明する社員。

この規模のシステムを二人で、しかも他の業務と兼務する形で管理するのは不可能だと、必死に訴える。

「二人? 四人ではないのかね」

「……転職しました。現在は有給消化中です」

「なに?」

新社長は微かに表を歪めた。

「お願いします。人を増やしてください。このシステムを二人で管理するのは不可能です」

そんなわけないだろうと心で思う。

しかし、それを態度で示すわけにはいかない。

「分かった。何人必要かね」

「十人。最低でも十人は必要です」

アホか、こいつ。

彼は心で社員を見下した。

「それは難しい。だが君の要には応えたい。ああそうだ、この業務に集中できるようにしよう。それなら二人でも十分に管理できるだろう」

「不可能です。その條件でも八人は必要です」

「君の思いは分かった。だが、もともと一人で管理していたシステムだ」

全く嫌になる、と彼は思う。

エンジニアという生きは、いつも一言目に「不可能」と弱音を吐く。しかし、それは仕事から逃れるための噓であり、やれと命じれば「可能」に変わることを私は知っている。

もちろん口には出さない。

本心を隠して、社員に告げる。

「優秀な君ならば、きっとできる。頑張れ」

肩を叩かれた社員はを噛む。

様々なを噛み殺して、絞り出すように言う。

「……分かりました」

「ああ、期待しているよ」

満足した様子で、新社長は踵を返す。

「あの!」

「なにかね」

呼び止めたのはもう一人の社員。

やめとけ、という視線を無視して、主張する。

「佐藤さんを呼び戻してください」

「……分かった。検討するよ」

溜息を堪えて微笑む。

もちろん検討などしない。きっと數秒後には忘れている。

微笑の裏側で、彼は思う。

実に愚かしい。一人で管理できるものが二人で管理できないわけがないのだ。

最低でも八人は必要だと?

あまりにも愚かだ。怠惰なけて見える。

社員達に背中を向けた後、彼は表を歪めた。

そして、振り返ることなく退出したのだった。

「先輩、佐藤さん戻りますかね」

「……無理だろうな。あの人なら引く手數多だろう」

「ですよね……これ一人で管理って、化けすよ」

「そうだな」

多くの場合、大きな會社は複數のシステムを持つ。

それは異なる組織が異なる思想で開発したものであり、連攜することが極めて難しい。

例えるなら、アメリカ人とロシア人、そして大阪のおばちゃんを通訳無しで一緒に働かせるようなもの。

佐藤が開発したオルラビシステム。

それは、あらゆるシステムの連攜を可能にした。

全てのシステムが連攜することにより従來は不可能だった自化も可能になった。

化とは機械が全業務を完遂する魔法ではない。機械をかすには人間による命令が必要なのだ。

もちろん命令が不要な條件もある。ヒトの判斷が必要となるのは、機械的に判斷することが不可能な條件だけである。

この條件が、あまりにも複雑だった。

「佐藤さん、頭の中にパソコンあるんすかね」

「だろうな。きっと128コアくらいだろうな」

あらゆるシステムがオルラビシステムを経由する。

必然的に、これが止まれば全システムが停止する。

これを佐藤は一人で管理していた。

開発者の佐藤だからこそ、一人で管理できた。

しかし新社長は、後任を育てさせることなく佐藤を解雇した。マニュアルがあり、一人で管理できるものならば誰にでも管理できるという判斷だった。

あまりに愚かな判斷。

それが、今まさに大きな打撃となっている。

「……この會社、どうなるんすかね」

「どうなるんだろうな」

「……転職とか、やばいっすかね」

「そうだな。俺達も逃げるべきかもな」

思わぬ同意。

後輩社員は目を丸くする。

「佐藤さん、何度か話したことがあるんだよ」

「マジすか。噂だけ知ってるんすけど、マジでコスプレなんすか」

「ああ、たまにイメクラみたいな格好してたよ。なんでこの人クビにならないんだろうって本気で思った」

「それはやばいっすね」

先輩社員は、どこか懐かしい様子で言う。

「でも、話してみると直ぐに分かる。とても溫かい人だ。優秀なだけじゃない。仲間思いで、周りからも慕われていた」

「……そんな人が、やめさせられたんでしたっけ」

先輩社員は頷いて、

「噂では、彼の同僚は全員転職したそうだ」

「全員すか!?」

「正確には異があったから元同僚だが、同期との繋がりで々聞いてな。ブチ切れてたらしい」

「……それ社長は知ってるんすかね」

「當然、知ってるだろうな」

「ならどうして」

「対面して分かったよ。あの人、エンジニアを何人月みたいな數字で見てるタイプだ」

あー、と後輩社員は納得した様子で聲を出す。

「俺ここ來る前は派遣だったんすよ」

「中途だったのか。初めて聞いたな」

「そうでしたっけ? まあ、その……察しました」

大きな溜息を吐いて、

「俺達をバッサリ切ったり強引に送ったりする連中って、ああいう奴なんだろうなって」

しんみりとした言葉。

「……やっと正社員になれたのにな」

先輩社員は、返す言葉が浮かばず苦笑する。

「腹たってきました。俺達は數字じゃねぇんすよ」

「おお、いいなそれ。その通りだ。數字じゃない」

「マジほんとサーバもれない奴が工數見積もってんじゃねぇって話っすよ。あーあ、きちんとエンジニアを評価してくれる會社、どっかにないんすかね」

「どうだろうな……」

先輩社員は口を閉じる。

後輩社員も、何か思い悩む様子で俯いた。

「……どこがいいかな」

「何がっすか?」

「転職エージェント」

「……」

後輩社員は面食らって、數秒固まる。

「それなら俺、詳しいっすよ」

そして、笑いながら言ったのだった。

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