《え、社システム全てワンオペしている私を解雇ですか?【書籍化・コミカライズ】》side - 逆恨み
「……なぜだ。なぜ、こんなことが」
社長室。人影はひとつ。
新社長は、頭を抱えていた。
數日前に発表した決算について。
僅かな減収と大幅な減益。
黒字ではあったものの悲慘な結果だった。
株主には「組織改革」「退職金の支払い」等による一時的な支出と説明して、通期では大幅な増収増益になると伝えた。同じ容で取締役達も納得させた。
しかし実態は説明と大きく異なる。
「……この私が、失敗するのか?」
會社の心臓たるオルラビシステム。
これを制できなければ、この會社に未來は無い。
最善策は開発者たる佐藤を連れ戻すこと。
これは失敗に終わった。どうやら彼は會社を逆恨みしているらしい。
彼は解雇されて當然の勤務態度だった。そこに目を瞑って高待遇で再雇用するという神の如き提案。斷る理由など怨恨以外に考えられない。実に愚かだ。
次善の策は外注。
コストは大きい。だが確実に功するはずだった。
まず四人のエンジニアを強制出社させた。これにより外注したエンジニアが派遣されるまでの間、業務効率は落ちたものの崩壊は免れた。
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やがて派遣された十人のエンジニア。
これが、とんでもない欠陥品だった。
データベースの破壊。
作を誤った一人のエンジニアが、重要なデータを破壊した。結果、そのデータを利用していた部署の業務が完全に停止している。
即刻損害賠償を請求した。
しかし向こうの言い分は「マニュアル通りの作をした」の一點張り。こんな理屈通るわけがない。だが、裁判を起こせば苦しいのはこちらだ。一刻も早く業務を再開させる必要がある。爭っている暇は無い。
最終的に、該當業務の代替となるシステムを割安で開発させる形となったのだが……見積額、二十億円。開発期間は最短で十ヶ月という話だった。
「……おのれ、馬鹿にしおって」
許せない。
「……キーボードを叩くことしか出來ない下等な連中が、どこまでもどこまでもどこまでもっっ!」
ドン、と機を叩いた。
その後で、すぅぅと長く息を吸う。
「いかん。的になるな。解決策を考えねば」
冷靜な言葉を発する程度の余裕はある。
しかし、まともな思考を働かせることができない。
しでも何か考えれば「なぜ」と原因を求めてしまう。今必要なのは「解決策」だと理解しているのに、過去から目を逸らすことができない。
「……どうして、こうなった」
ほとんど無意識に呟いた。
「……あいつだ。あのが、ふざけたシステムを殘したことが原因だ」
ヒトは耐え難い苦痛をけた時、敵を探す。それは新社長も例外ではなかった。
「……そうだ。きっと自分の仕事を奪われないために、あえて複雑な作りにしたのだ。そうに違いない」
本來の彼ならば、このような無意味な思考を働かせることはなかったであろう。しかし數ヶ月に及ぶ神的な負荷が彼を疲弊させ、判斷を狂わせている。
「……佐藤、」
敵が決まる。
「……くっ、はは。ただで済むと思うなよ」
負のが思考をクリアにする。
「そうだ。業務の一部は手作業でも回るはずだ。効率は悪いだろうが、そこから従來よりも良い発見があるかもしれない」
醜悪な笑みを浮かべて、ボソボソと呟き続ける。
「手作業を行う部署には、大手から優秀なエンジニアチームを派遣させよう。コストは高いだろうが、今回の一件で無能なエンジニアが害悪だと學んだ。これはリスク回避のコストだ」
彼は、ひとつ見落としていることに気が付かない。
十人のエンジニアが派遣されるまでの間、四人の社員により業務が回っていた。もちろん遅延はあったが重大な問題は発生していなかった。
しかし彼は、十人が配置されるのだから業務を放棄した四人など必要ないと判斷した。
破滅を回避する道はいくつもあった。しかしそれは時間と共に消えていく。人員を數字や記號、そして無意識の偏見で判斷する彼は、シンプルなミスに気が付かない。
「會社は立て直す。佐藤は潰す」
口角を上げて、スマホを手に取る。
「ああ、私だよ。今大丈夫かな」
電話先は彼の側近である書。
「佐藤の再就職先を調査してくれ。大至急だ」
その目には勝利だけが映る。
逆境を乗り越えた自分の姿。
そして自分をコケにしたコスプレが破滅する姿。
「…………」
電話を切った後、彼は長い息を吐いた。
「……く、くく、くはははは」
そして、嗤った。
どこまでも醜悪に、ケラケラと笑い続けていた。
えがおー(๑˃̵ᴗ˂̵)
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