《え、社システム全てワンオペしている私を解雇ですか?【書籍化・コミカライズ】》【WEB版】side - 前代未聞の記者會見

にあるマンションの一室。學校の教室程度の空間に規則正しくパイプ椅子が並べられ、スーツ姿の記者達が肩を寄せ合っている。

パイプ椅子が無い部分には無數のカメラ。息苦しい程に集した人々が、主役の登場を今か今かと待ち続けている。

數分後、記者會見が始まる。

テーマはふたつ。ひとつはSNSにおける炎上の事実確認。もうひとつは、今後の対応について。

會場に足を運んだ者、テレビの向こうから見守る者。それぞれ仕事だったり興味本位だったり目的は異なるけれど、誰もが主役の発言に注目していた。

「あっ、現れました! RaWi株式會社の新(あらた)社長です!」

一斉に鳴り響くシャッター音。

そして、シャッター音を掻き消す程のどよめき。

新社長──アラタ社長の姿は、會場に衝撃を與えた。その姿を目にして、現実を疑って目をる者、あんぐりと口を開く者、さらには思わずカメラから目を外して眼で確認する者まで現れた。

「あー、あー」

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青いティーシャツの上にオレンジの道著。帯のも青。道著の袖は短く肘にさえ屆いていない。手首には青のリストバンドがある。そして左の辺りには円形の名札のような部分があり、悟という文字が刻まれている。

「おっす、オラはアラタです」

會場は靜まり返った。南極隊員も凍えるような冷たい空気の中、アラタ社長はコホンと咳払いをして言う。

「えー、今回、世間をお騒がせしております出來事は、全て事実であります。全て、わたくしの責任です。誠に、申し訳ありません」

會場の記者達は、ぽかんとしていた。やがて何処かでシャッター音が鳴り、思い出したかのようにアラタ社長の頭部がパシャパシャとり始める。

彼はゆっくりと頭を上げ、説明を始めた。

「わたくしはコスプレ姿で働く社員を目にしました。なんとふざけた勤務態度なのか。憤りを覚えました。ちょうど、今の皆様と同じような気持ちです」

それは嫌に説得力のある言葉だった。そして、彼のことを知る人ほど、今の発言と態度に驚いていた。

彼は、いつも自信に満ちた表を浮かべていた。仮に失敗をして株主や世間から叩かれた場合でも、彼の表から余裕が消えることはなかった。

しかし、今はどうだろう。

まるで抜け殻のようだと、彼を知る記者は思った。

「その社員は、重要なシステムを管理している人でした。しかし、わたくしは多くの反対を押し切り、その社員を解雇いたしました。以後については、SNSに記されている通りであります」

俯きがちに発せられる言葉。

それは強い後悔と反省がじられるものだった。

彼がコスプレ姿で現れ、ふざけた挨拶をした瞬間には、怒りを覚えた者が大半だった。しかし、二言目以降の発言や態度は誠実そのもの。それは見る者のを混させた。

「わたくしは、責任を取る必要があります」

彼は顔を上げる。

その瞳は虛空を見つめていた。

數日前、彼は格下だと思っていた存在に打ちのめされた。そして食事もを通らない程に意気消沈した。だから然るべき賠償をした後に隠居しようと考えていた。しかし、そんな彼に「逃げるな」と言った人がいた。

書である。

アラタ社長の暴走を止められなかった書は、強い責任をじていた。果たして彼は、最も過酷な道へと進むことを強制されたのである。

「必ず、責任を持って、會社を立て直します。この服は、わたくしの覚悟を現したものであります。もう二度と同じ過ちを繰り返さぬよう、あの社員の気持ちを理解するために、著用いたしました」

ヒトを傷付けるのは常に自分自である。

失敗を認め、過去の自分に足を引っ張られながら、それでも前に進む人生は、失敗を否定して破滅へ向かうよりも遙かに過酷で辛く厳しいものだ。

それでも彼は茨の道へ進むことを選んだ。あるいは選ばされた。彼が進む道の果てにあるのは、希か、絶か。それは誰にも分からない。

「それでは、質疑応答に移ります。質問のある方は、挙手を──」

──なんだこれ。

佐藤は、テレビの前でポカンと口を開けていた。

三日間のイベントを終えた翌朝。

のんびりテレビでも見ながら朝食を食べようかなとリモコンを作して、たまたま映ったのが今の映像だった。

なんとなくスマホを作して、SNSを開く。

「コスプレ謝罪會見トレンド一位で草」

真顔で言って、考える。

たっぷり十秒ほど悩んだあと、彼は謝罪會見という単語をミュートに設定して、チャンネルを変えた。

は知らないのである。SNSで起きた大炎上も、鈴木とアラタ社長の間にあったやりとりも、何も知らない。気が付いたら悪者が勝手に倒れていたと、そのような認識である。

想は、特に無い。

佐藤は謝罪會見の當事者である。アラタ社長の発言にあった「コスプレ姿で働く社員」とは彼のことであり、もちろん本人も理解していた。しかし今の彼は、この會見を數分で忘れ去ってしまうくらいに、ひとつのことに夢中だった。

それはファミレスで鈴木と再會して、様々な経験をして、初めて芽生えた強い

は今、夢について考えている。い子供がベッドの中で見るものではなく、大人が目を開いて見る夢について、考えている。

えがおー(๑˃̵ᴗ˂̵)

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