《え、社システム全てワンオペしている私を解雇ですか?【書籍化・コミカライズ】》【WEB版】大人の夢 3
上野駅。
日本が有するダンジョンのひとつ。
東京は恐ろしい場所で、いくつかの駅は、私のような田舎者からダンジョンと評されている。様々な路線が繋がったり千切れたりして今日に至る駅構は、まるで短い納期で改修が繰り返されたソースコードのように複雑なのだ。
きっと迷う。
だからし早めに家を出ることにした。
神崎さんについては昨夜のうちにググった。予想通りウィキがあって、なんかもう凄かった。そんな人を相手に遅刻したら大変だ。
私は家を出る直前にスマホで地図を開いて、ふと気がついた。これ、ダンジョン回避できるのでは?
不忍(しのばず)口。
銅像と最も近い出口は、地図を見る限りでは駅を通らずに到達できるっぽい。
果たして、あっさり到著。
私は想定より早く目的地に著いた。
……正午って十二時ちょうどだよね?
まだ三十分以上も余裕がある。
せっかくなので、銅像の寫真を撮ってケンちゃんに送る。そのあと眼でじっくり眺めた。
犬を連れたダンディなおじさま。
想終わり。あんまり興味ない。
銅像の周囲をクルクル歩くと、説明文みたいなものがあった。
読みにくい。もっと近付きたいけれど、柵があって無理。仕方ないので腰を曲げて顔を近付けた。
「はえー」
言葉遣いに時代をじる文章だった。
そして、最後の部分ですごいなと思った。
西郷隆盛は、犯罪者扱いされていた。だが、死後に天皇が「実は良い人だったぜ」と彼を認めた。これにした友人が「銅像作ろうぜプロジェクト」を始めた。このプロジェクトに、なんと二萬五千人の有志がお金を出したらしい。
現代におけるクラウドファンディングみたいなものだろうか。
ちょっと気になったからスマホでググる。
一番上に出てきたサイトを開く。アニメ・漫畫のカテゴリを支援者數順でソートする。一位は私も知っている大人気漫畫で、支援者は約五千人だった。
現代で、大人気漫畫で、五千人。
ネットが無い時代に二萬五千人の支援者が集まった彼は、どれだけ尊敬されていたのだろう。
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あらためて銅像を見上げる。
最初よりも神々しく見えた。
「ははー」
とりあえず手を合わせて拝む。
この間、五分。まだまだ時間がある。
周囲を見る。観地だからか人が多いけれど、神崎さんっぽい姿は見當たらない。
暇なので、あちこちに目を向けながら歩く。
ひとまず目についたデカい巖に向かう。どうやら、お墓らしい。ここにも説明文みたいなものがないかと探したけれど、暗號みたいな文章が記された石碑しかなかった。
また周囲に目を向けると、お寺があった。その手前にはし広い道があって、犬を連れた人がちらほら。お散歩コースなのだろうか。
わんこ、かわいいな。
ちょっと幸せな気持ちで広い道を歩く。
上野公園。
都會なのに木がいっぱいある綺麗な場所。
今は十二月で、ちょうど紅葉の季節らしい。
カラフルで、とても綺麗。見上げていると、ここが東京であることを忘れそうになる。
ふと我に返って前を見る。
歩きスマホならぬ歩き紅葉。ぶつかったら大変だ。
そして──目を奪われた。
視線の先。
一人の男が、立ち止まって木を見上げている。
周囲には他にも沢山の人がいる。彼の服裝や外見に目立つ要素なんか無い。だけど、その存在は圧倒的だった。
「……神崎さん?」
ぽつりと呟いた。
彼は儚げな表で私に目を向けた。
「おおっ、佐藤さん!」
パッと目を開いて、キラキラした表で駆け寄ってくる。
「また會えて栄です。しかも予定より三十分も早い。今日は素晴らしい日になりそうだ」
尾を揺らす犬のように上機嫌だった。私は直前にじた雰囲気とのギャップにし戸いながら、挨拶をする。
「こちらこそ、今日はありがとうございます。し早く著いちゃったので、お散歩してました」
「なら俺と同じだ。気が合いますね。佐藤さんと思考回路が近いなんて嬉しいな」
うん、すごく思い出した。
なんかメッチャ褒めてくるチャラい人。
しかし、その正は謎多きエリート!
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五年前、シリコンバレーに彗星の如く現れる以前の経歴は一切不明。だが彼の起こした會社は瞬く間に長して、上場を果たしたらしい。
私には上場がどれくらい凄いのか分からないけど、ウィキには「一兆円以上の資金を調達」と記されていた。なんかもう桁違いだった。
その他にも沢山の報が記されていたけれど、私は途中で読むのをやめた。なんとなく、他人の日記を読んでいるような気分になったからだ。
「佐藤さん、お晝は食べましたか」
「いえ、まだです」
「それは良い! 実は食事を用意しました。まだし早いですが、時間になったらご馳走させてください」
「いえいえ、悪いですよ。お話を聞かせて頂くだけでもありがたいのに。むしろ私がご馳走します」
早口で返事をすると、彼はぽかんとした表を浮かべた。私は何か変なことを言っただろうかと考えて、すぐに気がついた。
神崎央橙(えいと)。推定資産、一兆円以上。
そんな相手に対して何をご馳走するというのか。
「いやあのっ、冗談です。お言葉に甘えてムシャムシャ食べます」
慌てて訂正すると、彼はハハハと豪快に笑った。
「本當に愉快な人だ。ええ、ムシャムシャ食べてください」
カーッと顔が熱くなる。恥ずかしくて俯きながらを噛むと、またハハハと笑い聲が聞こえた。
くっそぉ、ケンちゃんだったら腹ペチするのに~!
「ところで佐藤さん、イベントに集まったのは何人でした?」
「えっと、五千人ちょっとです」
「五千……西郷さんの二割か」
何の話だろう?
気になって顔を上げる。
神崎さんは、どこか別の場所を見ていた。その方角には、木に隠れて見えないけれど、西郷隆盛の銅像がある。
「教科書に載るのは、まだまだ難しそうだ」
そして彼は、最初に見た時と同じ儚げな表を浮かべて呟いた。
教科書に載る。まるで小學生が口にするような言葉だ。仮にケンちゃんが同じことを言ったなら、私は大笑いしただろう。しかし彼には、相応の実績がある。
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「神崎さん、教科書に載りたいんですか?」
「ええ。神崎央橙の名を歴史に刻むこと。それが俺の夢です」
彼は微笑みを浮かべ、堂々とした聲で言った。
その夢は、まさに私が探している類のものだった。
大人が夢を語る時、まるで子供のようにキラキラと瞳を輝かせて、普通ならば気遅れするような言葉を、臆面もなく口にする。だけどそこには、子供とは違う何かがある。
あの日、イベントを終えて、知りたいと思った。
私は、このキラキラした何かの正を知りたいと思ったのだ。
……えっと、何を話そうかな。
悩んでいると、神崎さんが急にパンッと手を叩いた。
「教科書といえばオルラビシステム! あれは間違いなく歴史に殘りますよ! いや何度思い出しても興するな。特に、未知の言語もアルゴリズムも全て解析して共通化する発想! 俺の部下が同じことを言ったら鼻で笑いますよ。それをたった一人で形にするなんてありえない! ──っと、いけない。今日は俺の話をする日でしたね」
……愉快な人だなあ。
「イベントでも言いましたけど、私が関わったのは半分くらいですよ」
「それ、謙遜になってませんよ。あれは世界中の専門家を集めて、なくとも十年は研究が必要な代だ。その五割を一人! しかも五年弱で! 天才なんて言葉では足りない。心から尊敬します」
「……ど、どうも。あざます」
なんか最近めっちゃ褒められる。
実は私、すごいのでは? ……なんちゃって。
「さて佐藤さん。食事までし時間があるので、しだけ観に付き合ってくれませんか? 上野公園には何度か來ているのですが、ゆっくりしたことはないもので」
「ああ、はい。いいですよ」
「ありがとうございます! じゃあ行きましょうか」
彼は上機嫌でお寺に向かって歩き始めた。その背中を追いかけて、お寺の間にある狹い道を通る。
ほんの數メートル歩くと、景が変わった。
足元には下りの石階段。その先にはし広い道があり、數え切れない程の人が歩いている。そして、鮮やかな赤と黃で彩られた幻想的な世界。
わぁ、と聲が出そうだった。
とりあえず寫真を撮ってケンちゃんに送る。
「池の方に行きましょう」
神崎さんの言葉に頷いて、下の方に目を向けた。
綺麗な紅葉の向こう側、太のを反して輝く池が見える。
ここは本當に東京なのだろうか。
自然をじる景にうっとりした直後、し視線を上げたところで巨大なタワマンが目にった。
……あ、うん。東京だ。
を奪われた気分だ。おのれ金持ち許すまじ。なーんてことを思いながら、あのタワマンを購できそうな金持ちの背中を追いかける。
「想像以上に人が多い。逸れてしまいそうですね」
「そうですね」
「それから次の石階段。隨分と角度が急ですね。下が見えない」
「あー、たしかに」
雑に相槌を打っていると、神崎さんは足を止めて、私に手をばした。
「レディ、お手は如何ですか?」
……この人なに言ってんだろう。
「いや、結構です」
「ハハハ、フラれてしまいました。では注意して歩きましょう」
ちょっと失禮な斷り方だったかなと思ったけど、神崎さんは気にした様子もなく、また歩き始めた。
……ケンちゃんが同じことしたら片腹大激痛かな。
想像して、咄嗟に息を止める。本當に面白かった。
一方で神崎さんは、私の好みとは全く違うけれど、かなりのイケメンである。顔が良いと今みたいな臺詞でも様になるのだなと、なんだか心してしまった。
さて、ふたつの石階段を降りると、正面には立派なお寺。その裏には無數のタワマン。なんだか不思議な気分になる組み合わせだった。
はえー、と思いながらお寺へ向かう神崎さんの背中を追いかける。彼は途中で足を止めると、何か見つけた様子で右側に移した。
「佐藤さん、見てください。めがね之碑ですって」
言われて目を向ける。
線で繋がったふたつの丸と、めがね之碑という主張の激しい文字。
……眼鏡がおっぱいにしか見えない。
「へぇ、徳川家康って眼鏡使ってたのか」
「べんきょうになりますねー」
ちょっと棒読みで相槌を打つ。隣に純粋な人が立っているせいで、なんだか自分が邪な人間に思えた。
「よし、次行きましょう」
神崎さんは満足した様子で砂利道を歩く。
私も後に続いて、ジャリジャリ地面を踏みながら歩いた。この覚、なんとちょっと好き。
「これ踏むの楽しいですよね」
「そうですね」
今度は意見が一致した。ちょっと安心。
「お、ボートに乗れるみたいですね」
お寺の橫を通り抜けて、今度こそ池のあるエリアに到達した。神崎さんが言ったボートは、見たところ二人か三人で乗るタイプの小さなものだ。
……力は人力かな? 疲れそうだなあ。
「疲れそうだからスルーかな。んで、右側は獣臭いと思ったら園か。よし佐藤さん、左のコースを歩きましょうか」
上機嫌な神崎さんを追いかける。
なんだか子供と一緒にいるような気分だった。
「佐藤さん、カルガモですよ!」
はいはい、カルガモさんですね。
お母さんな気分で池に目を向ける。もふもふしてそうなカルガモが二羽、のんびり泳いでいた。
……あれ、水の中どうなってるのかな。
「あれ水の中どうなってるんでしょうね。足はあるだろうから、移中は必死にバタ足……?」
「疲れそうですね」
「ハハハ、そうですね」
見える部分は優雅なのに、見えない部分は必死。その姿が、なんだかプログラマと似ているなと思ったところで、私は考えるのをやめた。
「見える部分は優雅なのに──」
「ストップ。神崎さん、そこから先は闇ですよ」
そんなこんなで、私と神崎さんは、普通の観客みたいな會話をしながら池の外周にある道を歩いた。
「おっと、もう終わりか。意外と短いな」
池ゾーンを抜けて、タワマンに見下ろされる都會ゾーンに到著した。神崎さんが言った通り短い道だったけれど、私は普段あまり運しないから、しだけ足が痛いなと思った。
「まだし早いですが、食事、どうですか?」
「はい、お願いします」
「では行きましょう。すぐそこです」
神崎さんの視線を追いかける。そこには東なんちゃらと書かれたビルがあった。東の漢字が不思議な形だから、おそらく中華料理だろう。
……高そう。
ちょっとだけ張しながら歩く。
神崎さんは東なんちゃらのビルを素通りして、隣にあるタワマンにった。
……えっ、そっち!?
* * *
ごきげんよう、庶民の皆様。
今わたくし、高みにおりますの。
あっ、痛いっ、やめて!
石はダメっ、投げないで!
なーんて茶番を演じてしまう程度に、私は混していた。
ケンちゃんの事務所よりも広いリビング。窓際には趣深い木製の機があって、私と神崎さんは向かい合う形で座っている。
右手にある窓を見れば、先ほど歩いた上野公園が一できる。左手にはシェフ。そして正面には、味しそうな音を鳴らすステーキ。
「──お食事が終わりましたらご連絡ください」
シェフ!
渋いおじさまは、丁寧に頭を下げてから退出した。
シェフの姿が見えなくなった後で、あらためてステーキに目を向ける。なんだか涎が出そうだった。
……グラム一萬円くらいしそう。隣にあるライスもキラキラして見える。なんかもう、やばい。
「どうぞ、ムシャムシャ食べてください」
「あはは……そですね」
お無理でございます。こんなにお高そうなおムシャムシャ食べられないでございます。
「……ええと、神崎さん、ここにお住みなのです?」
「いえ、今日のために借りました」
スケールがおかしい!!
こんなレンタル知らない!!
「……えと、おいくらくらいするのです?」
「遠慮はいりませんよ。俺の時給より安いので」
……神崎さんの時給、私の年収より多そう。
「……」
えっと、どうやって食べればいいのかな。
あわあわしていると、神崎さんがフォークとナイフを手に持って、手本を示すように食事を始めた。
私も真似してステーキを切る──らか!?
軽くナイフを引いただけで切れたステーキ。そして斷面からジュワァッと味しそうなが溢れ出る。
ごくりとを鳴らす。
もう一度ステーキを一口サイズにしてからパクり。
──ンンンン! 料理漫畫なら全になるやつ!
私の知ってるおと違う!
ちょっぴり歯応えのあるプリンみたいにらかくて、嚙んだ瞬間にがブワッ! でも脂っこいじは皆無で、とにかくもう服が弾け飛びそう。
……ライスをインしたらどうなっちゃうのかな?
私は再びステーキを一口サイズにカットして、ライスと一緒にスプーンに乗せた。ゆっくりと口に近づけて、パクり。
──ンンンンン!!
思わず仰反る。あ、やだこれ。涙出そう。
「ハハハ、味しそうで何よりです」
「……あざます!」
學生みたいなノリで謝を伝える。
最初の張はどこへやら。私はスッカリ食事に夢中だった。
「さて佐藤さん。夢を探しているという話でしたね」
ステーキを味わいながら頷く。
「率直に言えば、新規事業の検討ってことですよね。んで俺に聞くってことは、AI関連なのかな?」
私は水を飲み、口の中を空にしてから返事をした。
「ええっと、まだ事業とかそういうレベルのことは考えてないです。ただその……々な人に、話を聞いています」
「はーん、なるほどね」
その笑みを見て、ピリリと背筋が痺れる。不思議な張を覚えた直後、彼は低い聲で言った。
「つまり俺は有象無象と同じ扱いってわけだ。それは悲しいなあ」
皮めいた言葉。その意味は私にも分かる。一瞬、何か弁明しようと考えたけれど、やめた。
「私、社會人になってからは會社と家を往復するだけでした。だから、々な話が聞きたいです。神崎さんにメールしたのは、ケンちゃ──信頼する馴染の提案です」
正直に伝えると、神崎さんはらかい笑みを浮かべた。しかし目だけは笑っていない。威圧で涙が出そうだけど、とりあえずニコニコしながら言葉を待つ。
「佐藤さん、勉強はお好きですか?」
パチパチと瞬き。予想外の問いだった。
「ええと、ジャンル次第ですかね」
「學校のテスト勉強はどうでしょう。特に暗記科目」
「それは苦手です」
「気が合いますね。だから俺は下の世代が羨ましい。なぜなら、もうすぐチップで記憶を獲得できるようになる」
頭の中に沢山の疑問符。突然ファンタジーなことを大真面目に言われて、理解が追いつかない。しかし、神崎さんは説明することなく次の話を始めた。
「ヒトが病気になる理由、知ってますか?」
「えっと……ウイルスとかですか?」
「正解」
パチッと指を鳴らした神崎さん。
「しかし本質的ではない。病気とは、変異だ。さて何が変異するのか。いくつかの病気は、伝子の変異が原因だと分かっている。だから未來の醫療では、伝子を治療するようになる。この技がすれば、これまで原因不明とされていた難病も治ると俺は信じている」
またまた専門的な話。
私はちょっぴり頭痛をじ始めた。
「さて佐藤さん。記憶と伝子を作できるようになった未來では、何ができるようになると思いますか」
「…………」
どうしよう何も思い浮かばない。
沈黙すること數秒。また神崎さんが指を鳴らした。
「ずばり、人間をプログラミングできます」
「……人間を、プログラミング?」
「空想だと思いますか?」
「……ええと、はい。正直そうですね」
苦笑しながら言うと、神崎さんはハハハと笑った。
「AIに詳しくなれば、全て現実に起こり得る話だと分かりますよ」
はえー、と心の中で聲を出す。
私のAIに対する理解は「なんかすごいらしい」程度だった。でも今の話を聞いて「めっちゃファンタジー」に変化した。……あまり変わってないかも?
「神崎さんは、AIでどんなことしてるんですか?」
「信號機を作ろうとしてます」
「……道路の?」
「正解」
……な、なんか急にスケールダウン?
「例えば仮想空間に道路を作る。ランダムに車が通る道路だ。ここにAIを配置して渡らせる。最初は何度も轢かれるが、やがて學習して渡れるようになる」
がんばって説明に耳を傾ける。
この話はちょっとだけ理解できそうな気がした。
「しかし今のAIは、効率良く渡るために信號機を作ることはできない。要するに、ゼロをイチにする能力が無い」
ふむふむ。まだ大丈夫。なんとなく理解できる。
「技的特異點(シンギュラリティ)という言葉はご存知ですか?」
「……シンギュ、ラリティ」
知らない!
でもかっこいいので復唱してみた!
「俺は、AIがゼロをイチにした瞬間がシンギュラリティだと思っています」
くそぅ、説明してくれなかった。
しかも今さら聞けない雰囲気……後でググろう。
「さて佐藤さん。どうだろう。AIに興味を持って頂けましたか?」
「そうですね。面白そうだなと思いました」
「それは良かった。俺は是非とも、佐藤さんにAIの研究をして頂きたい」
……研究かあ。
あんまりいい思い出が無い言葉だ。
「その気があるなら招待しますよ」
「……招待、ですか?」
ほんの數秒だけ間があって、
「俺と一緒に働きませんか?」
……わーお。
え、え、スカウトされちゃった?
「俺なら、あらゆる環境と報酬を用意できる」
「すみませんちょっと今は転職とか考えてないです」
かつてない張に耐え切れなくて、思わず早口でお斷りすると、神崎さんは目を丸くした。
「ハハハ、またフラれてしまった。過去最短だ。佐藤さんは本當に手強いな」
「……すみません」
「いえ、気にしてませんよ。ただ、せめてAIに興味を持って頂きたい。そこでどうだろう。これから始まるKVG──神崎・ベンチャー・グランプリを見學しませんか?」
* * *
神崎・ベンチャー・グランプリ。
起業を志す挑戦者が、神崎さんにプレゼンするイベント。賞金は五百萬円。條件は神崎さんが「いいね」と思うこと。
食事が終わった後、神崎さんはカーテンを閉めた。そして、部屋の隅に置かれていた鞄からノートパソコンとプロジェクターを取り出した。
それらが設置された後、壁に映像が投影された。
映像の中にはスクリーンがひとつあるだけ。
神崎さんはプロジェクターの後ろに椅子を置き、腳を組んで座った。私はし離れた位置に座って見學。
「マイケル、こっちの聲は聞こえるか?」
『オーケー、エイト。そっちはどう?』
「問題ない。始めてくれ」
神崎さんが音聲だけでマイケルさんとやりとりをすると、壁に映された白い部屋に、若い男が現れた。
服裝はスーツ。荷は右手に持ったレーザーポインターだけ。もともとあったスクリーンには、パワポの表紙が現れた。
タイトルは、AIによる旅行者と撮影者のマッチングサービス。
なんだか學會発表みたいだなと思いながら、私は背筋をばした。
こっそり神崎さんに目を向けて──怖っ、めっちゃニコニコしてる!
『それではプレゼンを始めます。僕のプランは、AIによる旅行者と撮影者のマッチングサービスです』
そこから先は、専門用語の嵐だった。
発表自は五分程度の短いものだったのに、タムとかサムとかペルソナとか、とにかくカタカナが多くて頭が痛かった。
多分だけど、サービスの容は「寫真を撮られたい人」と「寫真を撮りたい人」をマッチングすること。
彼は「旅行先で寫真を撮りたい。でも知らない人に聲をかけるのは怖い。そんな時、気軽に使えるアプリがあったらどうでしょう」と言っていた。
なるほど需要はありそうだと思った。
でも、お金を払ってまでやることなのかな?
々な想をに、神崎さんに目を向ける。
プレゼンの評価は即座に伝えるらしいけど……なんか、困ってる?
神崎さんは左手で顔を覆って、右手で肘掛けをトントンしている。お悩みの様子だ。
やがて「はぁ」と溜息を吐くと、私をチラッと一瞥してから、男に向かって言った。
「ゼロ點。論外だ」
『なっ、なぜでしょう!?』
私も一緒に驚いた。めっちゃ厳しい。
「頼む。今日はあまり厳しいことは言いたくない。黙って帰ってくれないか」
『いいえ納得できません! このプランは、まだ誰も実現していないブルーオーシャンだ! 必ず功する自信があります!』
神崎さんは、にっこりした。そして申し訳なさそうな様子で私を見た後、溜息じりに言った。
「そのプラン、過去に試した奴がいる。しかも儲からなくて撤退してる。知らなかったのか?」
男は絶的な表を浮かべた。
私は神崎さんがチラチラ見ていた理由を理解した。おそらく、普段このような発表を見た時は、かなり厳しいことを言っているのだろう。
「全てのビジネスを知る必要は無い。だが類似のビジネスに関する報すら知らねぇのは論外だ。そもそもそれ、セミナーなんかで頻繁に聞く失敗例だぞ。全く勉強してねぇだろおまえ。よくそれで顔出せたな」
……怖い。まるで別人だ。口調まで違う。
しかもこれ、私に遠慮してるんだよね? ……普段どれだけ辛口なんだろう。
『……出直します』
「待て」
男はビクリとした。私もビクリとした。まさか、さらに追い討ちをかけるつもりなのだろうか。
「悔しいか」
『……はい』
「ならいい。次は脳が千切れるほど考えろ。以上だ」
……おお。
『はい!』
男はキラキラした目で顔を上げて、映像外に移した。私も張から解放されてホッと一息。
「すみません最悪のトップバッターでした」
「いえいえ……なんかその、新鮮でした」
──その後も次々とプレゼンが行われた。
百兆円以上の市場がある航空機産業。
毎年約一億トンの服が破棄されるアパレル業界。
ほとんどのプレゼンは、なんかもう數字の桁が意味不明な世界に対して、AIの力でアプローチしようというものだった。
挑戦者達は誰もが自信に満ちた表をしていた。
キラキラと目を輝かせて──だけど、何かが違う。
何が違うのだろうと考え続けて、答えが出ないまま最後のプレゼンが終わった。
神崎さんはプロジェクターの電源を切った後、とても疲れた様子で背もたれに頭を乗せ、天井を見上げた。
「……どうでしたか」
掠れた聲で私に向けられた質問。
「そうですね……えっと、ビジネスってじでした」
直前の疑問について考えながら返事をして、ビジネスという言葉が引っかかった。
「お金って、そんなに大事ですかね」
「ほう」
し鮮明な聲。
神崎さんは興味津々といった様子で私を見ていた。
「えっとその、お金はあれば嬉しいですし、ビジネスだから利益が出なきゃダメなんでしょうけど……目的がお金っていうのは、なんかちょっと、違うなって」
パチッと指を鳴らした神崎さん。
急に上機嫌で怖い。この人なんか緒不安定かも。
「佐藤さん、この後まだ時間ありますか」
「はい、今日は一日大丈夫です」
「面白い子を紹介したい。どうでしょう?」
「そうですね。是非お願いします」
斷る理由も無いので頷いた。
神崎さんはスマホで誰かに電話をかけた。
そしてまたビックリするようなスピードで、次の予定が決まった。
【書籍化】Fランク冒険者の成り上がり、俺だけができる『ステータス操作』で最強へと至る【コミカライズ】
5/19【書籍化・コミカライズ】決定 Fランク冒険者のティムはある日、目の前に見知らぬ畫面が見えるようになる。 自分の強さが數字となって表示されており、さらにスキルポイントやステータスポイントなどを割り振ることができるようになる 試しに取得経験値のスキルを取得すると経験値が2倍に、魔法のスキルを手にすると魔法が使えるようになった。 これまで馬鹿にされてきた主人公の快進撃が今はじまる。 4/24日間ハイファンタジーランキング1位達成 4/25日間総合ランキング4位達成 4/27週間ハイファンタジーランキング1位達成 4/30週間総合ランキング2位達成 5/14月間ハイファンタジーランキング1位達成 5/14月間総合ランキング3位達成 5/17四半期ハイファンタジーランキング5位達成
8 161継続は魔力なり《無能魔法が便利魔法に》
☆TOブックス様にて書籍版が発売されてます☆ ☆ニコニコ靜畫にて漫畫版が公開されています☆ ☆四巻12/10発売☆ 「この世界には魔法がある。しかし、魔法を使うためには何かしらの適性魔法と魔法が使えるだけの魔力が必要だ」 これを俺は、転生して數ヶ月で知った。しかし、まだ赤ん坊の俺は適性魔法を知ることは出來ない.... 「なら、知ることが出來るまで魔力を鍛えればいいじゃん」 それから毎日、魔力を黙々と鍛え続けた。そして時が経ち、適性魔法が『創造魔法』である事を知る。俺は、創造魔法と知ると「これは當たりだ」と思い、喜んだ。しかし、周りの大人は創造魔法と知ると喜ぶどころか悲しんでいた...「創造魔法は珍しいが、簡単な物も作ることの出來ない無能魔法なんだよ」これが、悲しむ理由だった。その後、実際に創造魔法を使ってみるが、本當に何も造ることは出來なかった。「これは無能魔法と言われても仕方ないか...」しかし、俺はある創造魔法の秘密を見つけた。そして、今まで鍛えてきた魔力のおかげで無能魔法が便利魔法に変わっていく.... ※小説家になろうで投稿してから修正が終わった話を載せています。
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「このクラスはおかしい」 鮮明なスクールカーストが存在するクラスから、一人また一人と生徒が死んでいく。 他人に迷惑行為を犯した人物は『罪人』に選ばれ、そして奇怪な放送が『審判』の時を告げる。 クラスに巻き起こる『呪い』とは。 そして、呪いの元兇とはいったい『誰』なのか。 ※現在ほぼ毎日更新中。 ※この作品はフィクションです。多少グロテスクな表現があります。苦手な方はご注意ください。
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