《【書籍化】學園無雙の勝利中毒者 ─世界最強の『勝ち観』で學園の天才たちを─分からせる─【コミカライズ決定!】》第4話 Sランクだと思ったらGランク

木々の生い茂る小山を囲うように広がるアダマス學園帝國の敷地では、魔の研鑽に必要な設備の整った區畫を『魔區』、武の研鑽に必要な設備の整った區畫を『武區』、娯楽施設やストア、寮などがある區畫を『中央區』などと、シンプルな區畫分けがされている。

正午になって、フロントでリューナと合流した霧生が向かったのは、魔區と武區の境目にある闘技場だ。それに隣接している醫療センターが適検査の會場となっているのだが、案の定混んでおり、待機の列は闘技場のエントランスホールまで波及していた。

「しかし生徒をランク付けってよく考えるとすげーよな」

ゆったりと進む列の流れに乗りながら霧生は言った。

適正ランクは最高SからGまで存在し、魔と武で分けられている。けられる講義が在學年數などではなく適正ランクによって決まるこの學園は、まさに実力主義と言っていい。定期的に行われる適検査や、おさめた績によってランクが上がっていく仕組みだ。

「學園側がカーストを率先して作ってるようなもんだ」

それ故に張した面持ちの生徒も多い。適正ランクの高低によって、學園生活の質は大きく左右されるだろう。

だが例え適正が低くても、技能は千差萬別であり、たった一點に秀でた才能も當然存在する。弱強食のが強すぎると、そう言った突出者の芽を摘んでしまう恐れがあるはずだ。

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とは言え、元來技能というものは爭いの中でこそ発展してきたもの。現代において技能の心得のある者は、誰しもがそれを理解している。學園の在り方を非難する者は、ここを去るしかない。

なくとも爭いや面倒事を大いに好む霧生にとっては願ってもない環境である。

「まあ、これで格差が生まれるのは確実でしょうね」

そう言ったリューナは存外余裕のある表である。

「自信があるのか?」

「正直、魔に関しては自信があるわよ。武は研鑽するつもりがないからアレだけど」

それもそうだろう。霧生からすれば、リューナに魔の才能があるのは一目瞭然。

《魔力》にしても《気》にしても、その流れは心臓を起點とし、流に従っている。人はおおよその構造は同じでも、指紋のように、細部に至っては十人十。しかしその細部が重要で、構造によっては還元率が雲泥の差だ。

手などの出した素から見てみると、リューナの流回路は高純度の魔力が効率良く循環している。アダマス學園帝國の高い水準でも、リューナの高ランクは確実だろう。

「そう言う霧生も自信あり気じゃない」

「まあな」

霧生も霧生で、検査をければ魔共に最高ランクの「S」は確実だと自負している。何せ積み重ねてきたものが違う。

「じゃあどっちの適正の方が高いか勝負ね」

「勝負!?」

「あー……今のはそういう意味じゃなくて……」

引きつった笑みを浮かべるリューナ。

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「撤回するなら俺の勝ちになるが?」

「めんどくさっ! はいはい、私の負けでいいから」

「よし! 俺の勝ち!」

「霧生あなた……友達いないでしょ」

そうこうしているに列は進み、霧生達は闘技場のエントランスを出て醫療センターにった。

そこには列に並ぶ新生の他に、制服を著た上級生らしき者もちらほらと見けられる。彼らは列から外れ、壁際で談笑しながら新生達を値踏みするような目で見回していた。

彼らの中にはバインダーを手に持ち、せっせと新生をプロファイリングしている者や、學長室にいた講師達のように《寫し》で姿を隠して見している者もいる。

その景に、霧生はアダマス學園帝國の熾烈な勢力爭いを垣間見た。

生、という一大勢力の加。一般學校であっても、學時には部活勧やグループなどの勢力拡大に余念がない。

それによって空気は一層張り詰め、もはや無駄口を叩く新生はいない。霧生達もまた、周囲に合わせて黙って待機した。

そうしていると、すぐに順番がやってきた。霧生はリューナと別れ、係員に案された部屋に進む。

部屋にると、真っ先に目にったのは中央に配置されたctスキャン機を縦にしたようなリング狀の裝置である。機の前に佇む白を著たが、「こちらへ」と霧生を促す。

促されるままリングの中へ踏み込むと、霧生は白にタブレットを手渡された。

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「これに記をお願いします」

手渡されたタブレットには、名前、生年月日、型、出地などの基本的なステータスを書き込む畫面が表示されている。それらをささっと埋め、霧生はにタブレットを返卻した。

「それでは検査を始めます──」

検査の容は想像以上に科學的な分析が主であった。

スキャンによる斷層撮影、検査、短い映像をただ見るだけの視覚検査、軽い刺激に対する神経反応の確認、あとは全の軽い診だ。

がそれらを手慣れた手付きで作業的に済ませてし待つと、部屋の隅でパソコンと向かい合っていた別の白が立ち上がり、いつの間にか印刷していた適検査の結果用紙をクリアファイルにれて霧生に手渡した。

(まあ「S」だろうな)

霧生は次の生徒とれ替わりで部屋を出る。

そしておもむろに結果用紙に目を通すとそこには──

適正判定……「G」

適正判定……「G」

総合適正判定……「G」

無殘な適結果が記されていた。

「ハァ!?」

依然順番待ちの生徒が多い醫療センターのフロントで、霧生は人目もはばからず素っ頓狂な聲をあげた。當然張り詰めた空気の中であったため、ほとんどの視線が霧生に集まる。だが、霧生はそれどころではない。

Gといえば、最低ランクのGだ。何かの間違いではないのだろうか。もしかすると、最高ランクがGで、最低ランクがSなのかも。

様々な思考を張り巡らせるも、埒があかない。

霧生はフロントの付まで急ぎ、忙しそうに書類整理している係員のに尋ねた。

「ランクっていくつからいくつでしたっけ?」

「最高ランクのSから、最低ランクのGになります」

係員はにこやかに答える。

「へぇ? それで……」

霧生は結果用紙を見下ろし、もう一度容を読み返してみる。しかし各項目は「G」表記のまま変わっていない。変わるはずもない。

その事実をようやく飲み込むと、

「この俺が……G!?」

またしても霧生の間の抜けた聲がフロアに響き渡った。

「それってま、まさか俺がま、まままま、ま……」

その先の言葉は口元が震えてうまく紡げない。係員のは首を傾げる。

「ま?」

「ま、負け犬……ってことですか……?」

最底辺。それは人知れず他人に優越や「あいつには勝っている」と心の余裕を與える都合の良い常敗の家畜である。

周囲の有象無象に一方的に敗北を押し付けられる自分の姿を想像し、霧生は気絶しそうになった。

「それはまあ……捉えようによるかと……」

のオブラートに包んだ言いが霧生に突き刺さる。

「あああああああああああ!?」

「今度は一何を騒いでるの」

丁度そこで、別の部屋で検査を済ませたリューナが霧生の隣までやってきた。

「リュ、リューナ……、こ、これを見てくれ……。お、俺の適正ランクはいくつだ……?」

結果用紙をリューナに差し出すと、彼はそれを覗き込む。

「……Gね。最低ランクの」

「おわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

霧生は両手で頭を抱え、天井に向けて悲鳴をあげる。

「靜かにしてよ……!」

悪い結果が出て喚き散らす霧生には、當然憐れみと蔑みの視線が集まっていた。

霧生は虛ろな目でリューナが手に持つ結果用紙を奪い取り、その容を流し見する。

「……魔適正、S。武適正、B。総合適正、S……」

「普通にプライバシーの侵害だけど」

などと言いつつも、リューナはどこか誇らしげな顔をしている。霧生は無言でリューナに結果用紙を返し、自分のけ取った。そしてそれをそのまま付カウンターの上にバンと叩きつける。

「こんなの検査ミスだろ!」

「ちょっと!」

霧生の裾を摑み、リューナはいい加減恥ずかしそうに辺りを気にし始める。

「やめなさいよみっともない……!」

「ハハハ、そうだ。みっともないぞ」

その聲は背後から発せられたものだった。振り返ると、上級生の集団がいつのまにか霧生達に詰め寄っていた。

中央にリーダー格であろう長の青年を構え、數人の取り巻きが彼を囲うように立っている。

「毎年必ずいるんだよなぁ。自分の適正を認められずに騒ぐ輩が」

青年の言葉に取り巻きがケラケラと笑う。

「天才だ天才だって、ずっともてはやされて生きてきたんだろ? 周りに自分より強い奴はいなくて。でもな、ここにはそんな奴ばかりが集まってきてる。"天才"程度、當たり前なんだよ」

そこで霧生はハッとなった。青年の強気な態度は、それが彼の格であること以上に、霧生がGランクという底辺であるから、という理由が含まれている。

それをマイナスな事だとばかり考えていた霧生であったが、そのおかげで彼らが霧生をげるべく群がってきている。否、彼らだけではなく、Gランクの生徒として學園に在學するならこういった手合いの者に絡まれるのは必然だろう。

今霧生のの中にあるのは、見下されたことによる怒りなどではなく、ときめきであった。霧生の大好きな面倒事が、向こうから自ずとやって來るのだ。それならこの待遇も、甘んじてれる価値がある。

(そもそも冷靜に考えたら俺がGなのはいくらなんでもおかしい。學長が仕向けたな)

面倒事の頻度が増えると、學園の質上、當然技能を使役しなければならない場面も増える。そうすることで、一族の技を盜む算段なのだろう。

なんて粋な計らいなんだ!

その事実を悟った霧生は先程の怒りを忘れ、心の安寧を取り戻した。

そういうことであったならこの適正ランクは正當なものではないし、「敗北」にカウントはらない。危ないところであった。

急に穏やかな雰囲気を取り戻した霧生に、青年は一瞬訝しげな表をする。しかし大して気に止めず、霧生の肩にポンと手を乗せてきた。

「まあ悲観することはないさ。実はGランクの生徒はSランクの生徒よりも比率的にない」

「ちょっとニース、それってみんな辭めちゃうからでしょー!」

「ああ、そうだった!」

「「「ハハハ」」」

彼らの中でドッと笑いが起こる。それに混じって霧生も笑った。

「おいおい、お前は笑ってる場合じゃないだろ。Gランクの生徒をカモにしようとする奴は多いんだ。そうだ、お前のような落ちこぼれが生き殘る方法を教えてやろう」

取り巻きにニースと呼ばれた青年が、霧生の眉間を指差しながら語る。

「人の下に付く。それが弱者の基本的な立ち回りさ。ってことで、俺のパシリにしてやろうか?」

「いいや、いい」

「何言ってんだ! お前なんぞこっちから願い下げだ、Gランクじゃパシリを任せるのも不安だからな! ハハハ!」

ニースに合わせ、取り巻き達が嫌味な笑い聲を響かせる中、リューナが霧生の袖を小さく引いた。

「もう行きましょ、霧生」

「なんで?」

「いやなんでって……」

霧生のいきいきとした表に、リューナは面食らった様子だ。

「そっちの君は総合Sランクなんだって? 凄いな」

次いでニースはリューナに視線を向けた。リューナは人當たりの良い笑みを浮かべ、彼に軽く會釈を返す。

「良かったら俺のグループにらないか? そいつといても良いことなんかないし、君にとっても悪い話じゃないぜ」

「アハハ……、考えておきます」

「そうか、頼むよ」

「あーニース振られてやんのー」

グイッと裾を引く力を強くするリューナ。一刻も早くここから立ち去りたいという思いが伝わってくる。

しかしなぜ一人で去らないのか。

霧生はそれがし疑問に思えた。

ニースの言うとおり、Gランクの霧生といても良いことはない。それどころかこう言った厄介事に度々巻き込まれることになる。早々に見切りをつけて関わらないようにするのが得策のはずだ。

であるのにすぐに霧生との関係を切らないのは、リューナがただ単に出來た人間だからか、それとも霧生の本質を見抜いているからか。どちらにしても、彼に対する好度は上がる。

それはさておき、ニースの視線は霧生に戻った。

けなくその子に守ってもらえ」

「そうだな。そうする」

「ハハ。さっきは散々喚いてたのに、完全に萎してしまってるじゃないか。でも、その心構えは大事だ」

霧生は直接的な煽りや罵倒なら歓迎している。相手に対するが高ぶれば高ぶる程、勝利の質も比例して高くなるからだ。

だがニースからは今のところ霧生の燃料タンクに油を注ぐような言葉は出て來ていなかった。ただ絡んで來ただけでは"勝負"に至らないし、霧生も挑む気にはなれない。

酒やタバコの種類に好みがあるように、霧生にも好みの"勝利"がある。自分のことを舐め切った相手を砕して得る勝利は霧生の大好だが、どうもニースの振る舞いが霧生の琴線に屆き切らないのだ。多鼻に付く程度。

おそらくニースには、憂さ晴らしで霧生をからかう以上の目的がないのだろう。これではエンジンもかからないというもの。

「あと、上級生には正しい言葉遣いをした方が良い。そんなんだと酷い目に合うぜ、マジで」

「ニースったらやさしー!」

(この"勝負"はまだ寢かせて置いた方がいいのかもな)

ニースの不足をじ、霧生は多の勝利を抑えながらも靜かに踵を返した。

「まあ頑張れよ、負け犬」

しかし背後からそんな言葉を投げられ、り口に向かっていた霧生の足がピタリと止まる。

「行こうってば!」

リューナがロングコートの裾をリードのように両手で引っ張ってくるも、霧生はビクともしない。

「今、負け犬って言ったか……?」

振り返りもせずに霧生は尋ねる。その手はわなわなと震えていた。

ニースは霧生に対するNGワードを口にしてしまったのだ。

「ああ。言ったが、なんだ?」

肯定をけた霧生はすぐさまロングコートのポケットに右手を突っ込むと、そこから常備している白手袋を取り出す。

「お前に決闘を申し込む!」

そして振り返りざま、メンコでも打ち付けるかのような勢いでそれをニースの足元へビターンと叩きつけた。

「うそでしょ!?」

リューナは握っていたロングコートの裾を手離す。

霧生の行為の意味。西洋ではあまりに有名な、決闘の申し込みの合図である。

まるで時が止まったように靜寂が辺りを支配していたが、

「……プハッ! マジか、お前! ハハハ! これもこれで恒例の流れだな!」

ニースが笑い出したのと同時に、取り巻き達もゲラゲラと騒ぎ出す。醫療センターにいた他の上級生や、列に並んでいるはずの新生も霧生とニースを取り囲むように集まってきた。

そしてその決闘は。

「いいぜ、遊んでやる」

相手がその手袋を拾い上げた時、立する。

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